誘い
私は今黄昏にいる
後ろを振り向けば仲間と過ごした日々や言葉、匂いなどの記憶が太陽のように光り輝いて見え
前は新月の夜のような暗闇が広がっている
そしてそれを乗り越えることができたものが暁を望むことができるのだろうだが俺ことユロイ=ヘードは沈みかけの太陽を呆然と見つめ暗夜を見ないようにしその先の暁を見られないでいる
そこの少年と少女に俺と同じものを感じた、なぜだか放っておけなかったのだ、そのようなことを言っても本音を言えば二人が立ち直れれば俺も前を向ける勇気が出るかもしれないという期待を抱いているのかもしれない
理由はどうであれ俺は二人の怪我が治って立ち直るまでは家に泊めてあげることにした
最初は遠慮をしていたが骨折をしていたり魔力を超過して生命力まで使っていたりとボロボロだった二人は俺の提案に乗ることにしたようだ
そこから俺たちは農作業や釣りなどをしてのんびり過ごした、三人で過ごすということが久々であったためすごく楽しい日々だった
そして5ヶ月たったある日、カイトという片手剣使いの少年の骨折も治りハティという魔法使いの少女も最初の頃のようなぎこちない笑顔は消え自然な笑顔になった
その二人と昼ごはんを一緒に食べているときに話は切り出された
「急で申し訳ないんですが僕たちは3日後にはもう街に戻ろうと思います。今まで本当にありがとうございました。それで恩返しと言ってはなんですがなにか僕にできることがあれば何でも手伝います」
律儀な少年だ、本音を言えばここにまだとどまってほしい、このまま暮らしていたい。この五ヶ月間は自分が逃げたことも忘れられるくらい楽しかったのだ。だがこの子達は暁を望むことができたらしい、暗夜にいる自分とは違う、結局この5ヶ月で変わることもできなかった
そう思うと脱力感や自分に対する怒りがこみ上げるがぶつける相手もいない
そんな中俺は理性を振り絞り返答する
「........そうか、それじゃあ後3日ゆっくり過ご「それでなんですが、僕たちと」
「私達はこれから仲間たちの遺書を届けに旅に出ます。ユロイさんあなたも一緒に行きませんか?あなたが託された遺書も届けに」
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その封筒を見つけたのは偶然だった、ユロイさんに頼まれて引き出しからものを取るとき、ふと見覚えのある名前が書かれた封筒があった
【親愛なる家族へ リター=グラべッドより】
リター=グラべッドといえば反乱の騎士として有名な男だ
このリターという男はかつて魔人と人間が手を取り合うことを嫌い王国に引いては魔人族にも反乱を起こした男である、ここまで聞くと悪漢のような人だと思うかもしれないが、その実慈悲深く、責任感が強い男だったとも伝えられている、ただ実際のところはわからない
そしてこの男の家族は反乱を起こす前夜にはいなくなっており行方が掴めていない
そんな男の家族へ当てた遺書と思わしきものがなぜこんなところに、そもそもどうしてユロイさんがこんなものを?
疑問は増えていくばかりだそれでもはっきりと分かることがある
誰かに当てて書いた遺書ならばどんな人であれ届けなければならい、だってそのほうが.......
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私が勧誘の言葉をいった後はしばらくの静寂が訪れた、その後ユロイさんは力なく口を開き始めた
「........人はなぜ遺書を書くと思う?死ねば人は骨しか残らない、異端者かと思われるかもしれないが死後の世界なんて誰も見たことがないないからわからない
底しれない虚無かもしれない
思考すらもできない暗闇の中に止まっているかもしれない
あるいは誰か違う人に転生しているかもしれない
それでも、どの世界に行ったとしても俺たちの世界に干渉できないし、ならば見ているかわからない、そんな中なんで遺書を書いて他の人に思いを残すのだろうか?」
「.......確かに私達には死後の世界を知りません、それでも遺書を残すということは伝えたい思い残したい思いがあるということです。他人に勝手に生き様や思いを想像されるより自分はこう生きたんだと胸を張って残すことができるんです。それってすごく素敵なことなんじゃないか.....って私は思います」
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「じゃあみんなの同意も取れたということで、これからよろしくねハティ!それと僕たちのパーティーに入るときの通過儀礼って言ったら大げさだけどやってほしいことがあって」
「な、なんですか危ないことならできませんよ」
「違う違うそんなことじゃないよ、ただもし自分が死んでしまったときのことを考えて遺書を書いてほしいんだ」
「遺書を?なんで?」
「もちろんその遺書を使うことがない方がいいんだけど、そのほうが............伝えたい思いを然るべき人に残すことができて自分はこう生きたんだぞ!って他人から哀れみや生き様を想像されずに胸を張って残すことができるそれってすごく素敵なことだと僕は思うよ」
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.......言ってしまった
元々カイトと一緒に誘ってみようっていう計画はあったけど本来はただ誘ってみて断られたら引き返す予定だったのに....そう思いながらユロイさんの顔を顔を伏せながらチラッと見た
「...............」
今のユロイさんの顔はアルトにこの言葉を言われたときの私の顔に重なっているのだろう
しばらくその表情のまま固まっていたユロイさんが口を開いた
「.........本当にいいのか、...俺は逃げたせいでやり残したことやわだかまりもたくさんある、それでも君たちと一緒に旅をしていいのか?」
私とカイトは目を合わせていたずらっぽく微笑み同時に言う
「「....はい!」」