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夢の卵

 トウマがこの世界に来てから約三日が経った。

 この三日間、ティファの船は依頼ゆえにどこかへ飛んでいくということはなくドックに停泊したまま。

 どこへも行かないのでトウマは一人、生活必需品などをお使いに行き、結果的にはつい先日、トウマの私室が出来上がった。

 このそして三日の内に変わったことと言えば、トウマの私服がこの時代に則った物に変わったのと、携帯みたいな端末を買ってもらったこと。

 そして。


「んー……トウマ、そこのレンチ取って」

「これか?」

「あんがと。んーと……やっぱ左手にエネルギーが行き過ぎなのが問題なのよね……リミッター嚙ませるか。トウマ、そっちのパーツ、箱ごと持ってきて」

「あいよ」

「ん。こいつを噛ませて全体的なエネルギー供給を抑えて、全体へ送るエネルギーを左手の限界未満にしてやれば……」


 ティファの作業を手伝うようになったこと、だろうか。

 まだトウマにはネメシスや船を弄るような知識や腕はない。なので、そこら辺はティファが行うのだが、トウマはそれを手伝う助手のような立場になった。

 彼女のネメシスは、何度か彼女が言っていたが、言うならばジャンクパーツの集まりだ。

 腕や足のパーツが片腕ずつ違ったりしているのは、破壊されたジャンクのネメシス等から使えるパーツや装甲をとりあえず持ってきてくっ付けたかららしく、まだ完成もしていない。

 だが、トウマを拾った日に大分有用なパーツを拾えたようで、この三日間、彼女はほとんどネメシス作りに没頭している。

 そうなるとトウマは時々彼女からの指示に従うだけでかなり暇になる……のだが。

 トウマもこの三日間、時折パーツや工具を渡すだけの助手をしていたわけじゃない。


「……よし、こんなもんかしら。トウマ、ちょっと動かしてみて」

「分かった」


 トウマはこのネメシスのコクピットブロックとしてパーツを拝借されたネメシスの仕様書を読み、ある程度独学でネメシスの動かし方を理解した。

 いや、ある程度ではない。ほんの少しだけ、が正しい。

 ならばなぜそれでネメシスの動かし方を理解できたのかと言えば、それは彼がこの世界に来るまでに培った経験にある。


「しっかし、まさかネメシスの動かし方が殆どゲームと同じとはな……俺にとっては本当に僥倖だった」


 そう、VRMMOゲームでしかなかったネメシスオンラインでのネメシスの操縦方法とこの世界のネメシスの操縦方法はほとんどが同じだったのだ。

 それこそネメシスのOSを起動する際の操作が多少違ったくらいで、手の動かし方や足の動かし方はほとんど同じ。つまり、トウマの知るネメシスの動き方や動かし方、更には戦術などがこの世界でも通用することが判明したのである。

 これにはトウマもガッツポーズで喜んだ。トウマが三年近く培った腕は、この世界で生きるための糧となるのだから。


「よし、起動っと……あー、駄目だ。ティファ、このエラーは?」

「見せなさい。んっと……あぁ、ごめんなさい。一か所だけ出力搾るの忘れたみたい。ちょっと電源落として待ってて」


 モニターに表示されるエラー。コクピットブロックの奥にあるネメシスの心臓とも言える動力炉、核融合炉を弄っていた彼女はちょっと顔を出し、エラーを確認するとトウマに指示を出し、再び顔を引っ込ませた。

 そして暫く。


「もっかい動かして」

「あいよ」


 もう一度ネメシスを起動させる。

 すると、今度はモニターにエラーが表示されることなく、機体が音を立てて起動していく。

 そして。


「システムオールグリーン。起動成功だ!」

「よっし!! やった!! やっと動いたぁ!!」


 モニターにはエラーが発生することなく、機体が起動完了した。

 まだ操縦桿を握っていないので動くことはないが、ここで操縦桿を少し動かしてやればこのネメシスは動くことだろう。

 ジャンクパーツでできた継ぎ接ぎの巨人が、ようやく命を吹き込まれて動き出したのだ。それに対してティファはトウマの何倍も喜んだ。


「あー……ははは。どんなもんよ! わたしだってやろうと思えば一人でネメシスくらい作れるのよ!!」

「いや、ほんと凄いな……こんな精密機械の塊、よく一人で組めたな」

「でしょ? でしょー!? ほら、わたしはこのままこの子を動かして粗探すから、あんたはロールんとこ行ってなさい!」

「えっ、ここでお預け!?」

「うるさいわね、わたしが一から組んだんだから最初に動かす権利はわたしにあるに決まってるでしょ! それに視力回復の手術を受けるって言ったのあんたじゃない! とっとと行った行った!!」

「うっす……じゃあ帰ってきたら乗らせてくれよ!」

「安全が確保できたらねー」

「……くそっ、なんか信用できねぇ」


 やけに上機嫌な彼女にこれ以上苦言を申すのもなんだか申し訳ないので、大人しくネメシスから降りて一人船から降りる。降りる間にティファの上機嫌な笑い声が聞こえてきたのは、きっと勘違いじゃないだろう。

 しかし、一機のネメシスができたからと言ってここまで喜ぶほどだろうか。

 確かに自分だけの機体ができた時はトウマも喜んだ。だが、あそこまで狂喜乱舞と言わんばかりにテンション上げて上機嫌になることは少なかった。

 そこが不思議だったが、とりあえずそこら辺は帰ってきたときに聞くことにして、船から降り役所に向かう。

 これからトウマは役所で視力回復手術を漂流者特権で行うための書類を受け取りに行く手筈になっている。

 というのも、トウマは現在コンタクトレンズを入れて生活しているのだが、この世界にはコンタクトレンズなんて物は存在していなかったのだ。いや、既に存在が抹消されたと言った方が正しいか。

 何故なら視力回復手術のノウハウが広がり、更に視力低下を抑えるナノマシンまで開発されたのだから、コンタクトレンズなんて必要なくなったのだ。

 そして、漂流者はその恩恵を国の金で受けることができる。

 あぁ、なんと幸せな世界か。ビバ科学。ビバ技術。

 という事でトウマはコンタクトレンズから卒業するため、役所に向かったのだった。

後書きになります。

今回も軽く設定をば。


・ネメシス

重機代わりから兵器まで、様々な役割を果たす人型ロボットの総称。動力は核融合炉。

当初は『ズヴェーリ』駆除の為に作られた重機という扱いだったが、時と共にスペックアップする事で兵器として扱われるようになっていった。

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