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浪漫

 ロボオタにとって言語はあまり必要ない。

 いいよね。いい。その2言があればそこに何を感じ、なにを良しとしたのかが伝わるのだ。

 トウマもレイトもロボオタ。故に、その2言があれば十分だったのだ。

 量産機のロマン。もしも己の中のすべてを言語化すれば日が暮れる。

 故にロボオタは言葉少なに言うのだ。

 いいよね。いい。と。


「ん? そこにいるのはレイトか?」

「あっ、ランドマンさん」

「おう。なんだ、燕尾服も徐々に似合い始めてきたな」


 そんな理由があって語彙力が死んでいたレイトに話しかけてきたのは、ランドマンという男だった。

 軍人らしい筋骨隆々の男だ。


「紹介します。この人はハインリッヒ機兵団の団長、ランドマンさんです。それと、ランドマンさん。こちらはサラお嬢様の仲間のティファさんとトウマさんです」

「ティファニアです。傭兵やってます」

「トウマです。同じく傭兵してます」


 軽く頭を下げながらの自己紹介にランドマンはよろしくな、と気前のいい挨拶を返してくれた。


「しかし、話には聞いていたが、サラお嬢様が帰ってきたのは本当だったんだな。あの方は昔からヤンチャだったが……まさか傭兵をしてたなんてな」


 どうやらランドマンはサラの事をよく知っているらしく、困ったような笑顔を浮かべていた。

 よっぽど昔からヤンチャしてたのだろう。その光景がなんとなく目に浮かぶ。


「所で、今日は何するんですか?」

「あー……今日は新兵の慣熟訓練だ。前の戦役で何人かは精神的にやられちまったからな……新しく補充できた隊員のための訓練だ」


 前の戦役。

 ティファとトウマには思い当たる節があった。


「それってもしかして、ガベージ・コロニーの……」

「あぁ。あの忌々しい赤いネメシスに何人かやられちまってな……幸いにもヤバくなった瞬間に機体を捨てて逃げれたんだが、機体の爆発に巻き込まれて宇宙を何時間も吹っ飛ばされちまってな。その時の恐怖で機兵団としてはやれなくなっちまったんだ」


 赤いネメシス。

 あの男はどうやら様々な所に嫌な爪痕を残したらしい。

 それに、その恐怖は何となくトウマも理解できる。

 いつ死ぬかも分からない状況で、自身の命とも言える熱が奪われていく感覚。宇宙遊泳まではしなかったが、それでもあの時の感覚は未だにトラウマだ。乗り越えはしたが、それでも思い出せば手が震えてしまう。


「……分かります。俺もアイツにやられちまったんで」

「何? ……まさか、私達が援軍に行く前の軍と傭兵の混合部隊に居たのか?」

「はい……そこであの赤いネメシスに手酷くやられてしまいまして……サラもですけど」

「何だと!? サラお嬢様が!!?」

「情けない事に、俺じゃ守りきれなくて……」


 サラの事が出た瞬間、ランドマンが声を荒げ、トウマに掴みかからんとした。

 が、寸前でグッと堪えた。

 家出したサラが己の身分を偽るのなんて容易に想像できる。そんなサラを貴族の娘だから守れ、なんて言うのは流石に酷だと寸前で思い直したからだ。


「奴は地獄に送ってやりましたけど、まだ思い返すと手が振るえちゃって……」

「それは……だろうな………………ん? いや、待て。奴を地獄に送っただと?」

「あ、はい。俺とティファと、それからサラで力を合わせて」

「そう言えば、奴は傭兵にやられたと聞いたが……俄には信じられんな……」


 マリガンの強さは、ランドマンも身に沁みて理解している。

 既存のネメシスの戦術を超えた、単機による圧倒的な暴力を用いた制圧。軍で囲んでもやすやすと包囲網を食い破り全てを破壊する力を。


「もしも本当に奴を倒したのであれば、その力を見せてもらいたい物だな。奴には我等も……大分煮え湯を飲まされたのでな。次に奴みたいな規格外が来た時に同じ轍は踏みたくない」


 煽りではなく、今後の戦い方の参考として、ランドマンはマリガンを倒した腕を見たいと言った。

 それはトウマも理解しているので、特に突っかかったりはしない。

 それに。


「別に俺は、構いませんけど。ただ、俺達一応サラにくっついて来ただけなんで、勝手に暴れちゃっていいのか……」

「大丈夫だ。それなら俺の方からミハイル様に話を通しておく。寧ろ、傭兵なのであれば、依頼として受けてほしいくらいだ。金で奴を倒したパイロットの動きを見れるのならば、惜しくはない」

「それならこっちも問題ないです。ティファ、構わないよな?」

「えぇ、わたしは別に。ただ、そうね……わたしはメカニックだから、ブレイクイーグルの整備の様子とかを見せてほしいわ。大体我流だから、プロの腕は是非とも見せてもらいたいの」

「あぁ、それは構わないさ。客人に見せて困るものでもないしな。寧ろ、君みたいな子が見てて楽しいのか、というのが一番の懸念だな」


 という事で、トウマは一度機兵団の前でネメシスを乗り、ティファはネメシスの整備を見せてもらうことになった。


「なんか勝手に決まっちゃった……」

「あ、すまんレイト。忘れてた」

「いえ、別に大丈夫ですよ。時々あるので……」


 なお、レイトは完全に忘れ去られていたのであった。

 この男、ちょっと空気が薄い所があるのが玉に瑕なのである。

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