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未熟を愛して慰めて

 翌日、ミサキは珍しく部屋から一歩も出なかった。

 一旦冷静になったほうがいいと諭され、それに頷いて。そうして自分の部屋に帰ってからは何もする気が起きず、ただホロウィンドウに映った動画を何も思わずに眺めていたり、ただ不貞寝したり。

 頭の中も心の中も全部ぐちゃぐちゃになって、不貞腐れていた。


「……おなかすいた」


 そんな時でも腹は減る。

 適当に棚の中に余っていたフードカートリッジを機械に叩き込んで食事を作り、あんまり美味しくもないそれを食べてから、また不貞寝する。

 いつもなら部屋着もちゃんと着るのに、この日は下着だけ。着替える気すら起きなかった。

 明後日からまた仕事できるのかな、なんてぼんやりと考える程度には、心は全然元に戻っていなかった。

 使った皿も食洗機に入れる気力すらなく、ただ怠惰な時を過ごして、丸一日。

 翌日の連休最終日もミサキはボーッとしたままだった。


「お邪魔するわよー? ……ってうわっ、洗濯物とか放りっぱなし。ミサキー? 起きてるんでしょー?」


 そうやって何もすることなくボーッとしていると、誰かが玄関から入ってきた。

 いや、誰かではない。

 この声はサラだ。一応は自身が仕える人間の一人。そんな彼女がアポもなく入ってきた。

 鍵はどうしたんだと思ったが、権力の前にそんな物は無意味だと言うことを思い出した。


「あーもう、団員が言ってた通りの状態……ミサキー? 起きてるわよねー?」

「…………おきてるって」

「ならいいけど……ってあんた、寝間着すら着てないじゃない。下着だけだと風邪ひくわよ?」


 謎に甲斐甲斐しくしてくれる主の一人を尻目に、ボーッと動画を垂れ流す。

 サラはその様子に何も言わず、一人で家事を始めた。

 洗濯物をまとめて洗濯機に入れ、洗濯。使ったままの皿も片付け、ついでに掃除機もかける。


「よし、こんなもんか。で、ミサキ。あんた、聞いてた以上に荒れてるわね?」


 そうして家事を一通り終わらせた彼女は、ミサキが寝転がるベッドに腰掛けた。

 荒れている、か。

 確かにその通りだ。


「…………悪い?」

「悪かないけど。ただ、珍しいなと思っただけ。あんた、こっち来てから荒れてる事なかったじゃない?」

「猫被ってただけだから……」

「そうなの? でも、今はもう猫被る余裕も無いってわけ?」


 言い返せなかった。


「聞いたわよ。あんたの親父、賊になって捕まったって」

「…………」

「あんたがあのコロニーを出てから1年も経たない内に酒を盗んで現行犯で逮捕。それから半年で娑婆に出たけど、その後は借金塗れ。闇金にまで手を出してヤバかった所で飛ぶ事を決意。で、飛んだ先で賊の連中とつるみ始めて賊稼業に手を染めたようね」


 一応血の繋がっているあの男はどうやら真面目に働くとか、そういう思考は無かったらしい。

 ざまぁない。思わず小さく笑ってしまう。


「今はウチの尋問担当に必要以上の尋問を自由にさせてるけど、まぁ出てくる情報はこんなもんね。これ以上情報が出ないのはわかってるけど、機兵団の気が済むまで尋問はやらせるつもり」

「…………ざまぁないや、ほんと」

「そうね。人道に反した事をするやつってのは、いつか痛い目をみるものよ」


 その末に死んでくれて精々する。

 それがミサキの本心であることには変わらない。


「…………で、ミサキ。あんたはどうすれば満足する?」


 言われて、思考が止まった。


「親父の事、その手で殺したい? 本当に殺したいならあたしの権力でやらせてあげる。好きな方法を選ばせてあげるわよ。撲殺、絞殺、銃殺、なんでもね」


 あの男を殺したかったか?

 あの時、あのオンボロネメシスに乗っているとき、笑いながら殺したかったか?

 いや、違う。少なくともあの瞬間、不機嫌にこそなったが、殺そうなんて考えてはいなかった。

 殺意しか感じていなかったのなら、あの時間違いなく全力で殺していたから。


「……そうじゃない?」

「ん……」

「じゃあ、どうしたい?」

「…………んーん」

「わかんない?」

「ん」

「そ。でも、何となくモヤモヤは晴れた? 少なくとも、アレを殺せなかったからこうしてグズってるんじゃないって」

「…………ん」


 サラの言うとおり、ただアレに殺意を抱いていて、その殺意を晴らせなかったからモヤモヤしていたのではない。

 それを自覚できると、少しだけ気が晴れた気がした。

 アレが天罰で地獄を見ている、という現実も多少なりとも気分を前向きにさせてくれた。

 下着姿のまま枕を抱きしめて体を起こす。


「その…………ありがと。おかげで少しはやる気出た」

「ならよかった。こう見えても人のメンタルをどうにかするのは上手いのよ」

「なんで……?」

「さぁ。でも、実績はあるのよ? ユーキとニアの折れたメンタルを叩き直したりしたしね」


 それももう5年以上は前の話だ。

 懐かしいなぁ、と口にした懐から端末を出してホロウィンドウを出すと、それを向かい側の壁に投げつけた。


「んじゃ、あたし今日は泊まるから」

「えー? ベッドこれしかないのに。帰ったほうがよくない?」

「いいじゃない。こういうお泊りもたまには」

「お兄さん達とよくしてるんじゃないの?」

「ユーキ達とはしてないわよ。近くに家あるし。あいつらだって夫婦だし、夫婦の時間も必要でしょ?」


 たしかに、と頷く。

 サラが投げつけたホロウィンドウは勝手に大きくなり、大迫力で映画を流し始めた。

 確か、最近配信が開始された、とある貴族の家が凄腕の傭兵を雇ってキングズヴェーリを討伐する話だった気が。


「…………ねぇ、これもしかして」

「元ネタあたし達ね。適当に選んだんだけど…………そう言えば兄様、プロパガンダ映画作ってみたとか言ってたなぁ。めっちゃくちゃ苦い笑顔浮かべながら」

「あー、言ってた。寧ろ映画の方がまだ現実らしくて笑ったって」

「スプライシングもライトニングビルスターもいないしね」


 あの時はあんな事があったなぁ、なんて言いながら2人で映画を眺める夕方。

 ちなみに、映画の方は最終的にネメシスをレールガンに詰めてぶっ放すネメシスレールガンなるトンチキな武装でキングズヴェーリを倒していた。

 多分ニアにやってみてよと言ったらンな人命軽視な事誰がするかと中指を立てることだろう。でもユーキならノリノリで弾丸役をやる気がする不思議。

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