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バカンスの終わり

 アイゼン公国残党軍との戦いはリゾートコロニー防衛軍、ではなく。素性不明2人、現役傭兵1人、使用人2人、専業主婦1人、一般人1人の謎の面子に寄り無事撃破された。

 その後はリゾートコロニーの幹部からお礼を言われたり、リゾートコロニー内で使えるサービス券を貰ったり、防衛軍への勧誘を断ったり。

 ちょっと気を揉む事を繰り返しながら、1日だけ滞在期間を延長したり。


「はー、なんやかんや疲れたわねぇ」

「全く持って。偉い人との話は気ぃ使うからヤなのよ……」

「それな。ほんと疲れるわ」


 ニアとサラは話が終わったあと、リゾートコロニー内のバーで溜め息を吐いていた。

 2人で同じような甘めのカクテルを飲みながら、疲れた表情。

 プライベートでもあまり酒を飲まない3人が態々バーで飲んでいる辺り、どれだけ疲れたのかが知れる。

 ちなみにユーキ、レイト、ミサキの他のパイロット組はユーキ達以上に疲弊したため現在ホテルで撃沈。カタリナとロールは偉い人との話には巻き込まれなかったため、部屋に戻ってゆっくりしている。


「にしても、驚いたわねぇ。まさかカジノでスッた全財産の5割が戻ってくるなんて」

「ダメ元で言ったら通ったのは笑えたわね」

「ったく……もう二度と全財産をギャンブルに使うんじゃないわよ、マジで」

「うっす」


 実はサラがスッた70億の内、35億は今回の報酬として返ってきた。

 あちらからしたら、1日で70億も消し飛ぶカジノというとんでもないレッテルを回避できる提案であったため、渡りに船のような感じだったのかもしれない。

 ただ、流石にそれだとマッチポンプが過ぎるとでも思ったのか、ホテルの滞在日数を増やしたりサービス券くれたりと色々してくれたが。

 ちなみに今回の戦闘でミサキが派手にばら撒いたミサイル代だったり整備費はこの35億から持っていかれる上、ミサキへの休出手当で2千万程飛んでいく予定である。

 多分手元に残るのは33億程だ。

 十分すぎるな?


「はぁ、こーいう日のお酒ってなんだか染みるわねぇ。マスター、同じのもう一個」

「あたしは次苦めのやつ。おすすめで」


 それぞれ好きな酒を飲みながら、溜め息を吐きつつ1日の余韻を噛みしめる。

 それから、それぞれ酔いが回ってきたなと自覚してきたところで。


「…………ねぇ、サラ?」

「ん?」

「ユーキの事、どう思ってんの?」

「……そりゃ、仲間よ。傭兵仲間」

「そうじゃなくて。異性として」


 ニアが、とうとうサラに問いかけた。

 その問いにサラは答えられず、ただ目の前の酒を煽るだけ。


「──それで、異性として好きです。愛してます。そう言った所でなんだってのよ。認めません、愛しの《《トウマ》》から離れろって? そう言いたいの、《《ティファ》》」


 呼び方が戻ってしまっている理由は、何故か。

 いつもの雰囲気が保てないのは、酒のせいか。

 ただ、その雰囲気を感じて、《《ティファ》》は俯いて、少し黙って。

 そして、顔を上げた。


「分かんない。わたし自身も、何でこんな事聞いて何したいのか、分かんない」

「なら掘り返さないでよ。あたし達は今の関係でいい。違う?」

「違わない。違わないけど……」

「けど、何?」

「…………それじゃあ、サラ。あんたの本心はどうするのよ。隠したまま、それで──」


 サラの持つグラスが、テーブルに叩き付けられた。

 グラスの中の氷が、甲高い音を立てる。


「ハッキリ言うけど、あたしがトウマの事を好きか、愛してるかなんて、あたし自身分かんないわ。考えないようにしてたってのが正しい」


 ──貴族から傭兵になって。

 第一印象は最悪で。

 でも、それから同じ日常を過ごして。


「兄様に揶揄われた時だってそう。考えてないから、トウマに惚れてるのかなんて言葉に心の底から否定の言葉を返せた。考える前にそんなわけ無いって思考に蓋できたから」


 でも。


「──分かんないわよ。分かるわけないじゃない。貴族の子女ってのは、色恋なんて憧れるだけで考える事はできやしないのよ。ただ、家のために充てがわれた婚約者を愛する努力をする。そういう事しかできないのよ」

「…………それは、違うんじゃない?」

「……黙ってよ」


 その理屈なら、カタリナは。彼女の事は何と言うんだ。彼女の恋は、どう説明するんだ。

 だから、否定の言葉には拒絶の言葉を返すしかなかった。


「恋だの何だの、分かんないのよ。そんなのは」

「…………でも、サラ。あんた、この先、生涯を共にする人を見つける事なんてできるの?」

「知らないわよ。未来の事なんて。それとも、何? 母親面してあたしの生涯設計に不安でも抱いてるわけ?」

「そうじゃ、ないけど…………でも、もしも好きなら、愛してるなら、伝えないと。わたしは、手遅れになりかけたから」


 あの日、トウマを失いそうになって。恋なんてしなければよかったとすら思ったティファだからこそ、言える。

 恋しているのなら。愛しているのなら、伝えるべきだと。

 その想いが手遅れになる前に。

 世界は時に恐ろしいまでに残酷なのだから。


「……仮に、トウマの事が好きだとして。それを伝えたとして、どうにもなんないでしょ」

「そう、だけど」

「メロスじゃ二股厳禁。トウマの故郷でも、浮気はアウト。なら話はこれでおしまい」

「…………そう、ね。けど、もしトウマの事が好きなら、教えてほしい、かな」

「なんで」

「分かんないけど。でも…………サラの気持ちを無碍にもしたくないから。仲間、なんだし」

「……………………まぁ、考えとくわ」


 果たしてサラがトウマの事をどう思っているのか。それは本人にも分からない。

 だが、もしも彼のことを愛しているとするのなら。

 ティファ自身、それを彼女から伝えられて、トウマもそれを受け入れていいと考えているのなら。

 その時は、どうするだろうか。

 それは多分、その時にならないと分からないのだろう。


「……でもまぁ、アレね。あたしが結婚するんだとしたら、そこら辺のパンピー相手じゃ物足りないだろうし、あたしに付いてこれる奴を選ぶでしょうね。あんたの夫のせいで、そこら辺の理想は変に上がっちゃったし」

「──そっか」


 ──男女の傭兵コンビが、背中を預け合ううちに自然と惹かれていくのは、珍しいことではない。

 彼女がそのパターンに当て嵌まっているかは。

 きっと、彼女自身がゆっくり時間をかけて答えを出していくことだろう。


「…………さっ、とっとと残ったモン飲んで帰るわよ、《《ニア》》。あんま仲間内でこんな湿っぽいこと言うのもアレだしね」

「ん、そーね。《《ユーキ》》も待ってるし」

「はー、これだから新婚はやだやだ」

「結婚して年単位の時間過ぎてても、まだ新婚なのかしらね?」

「新婚でいいわよ、あんたらは。ほら、とっとと行くわよ」


 サラの言葉に頷き、ニアはグラスの中の酒を一気に飲み干した。

 あとは帰って寝るだけ、だが。


「…………なんか時間もアレだし、2軒目行く?」

「それはありね」


 なんか興が乗って2軒目に行って。

 しこたま酒を飲んで。

 その結果。


「…………なーんであたしとニアが同じベッドで寝てんのかしらね」


 翌朝、サラとニアは同じベッドの上で目覚めた。しかも昨日の服装のまま、互いに抱きついて。

 風呂にすら入ってないんかい、と酔った自分にツッコミを入れながら、嫁がいない事に気付いて部屋の中で焦っているユーキの元にニアをクーリングオフするサラなのであった。

 ちなみに、運ばれている間、ニアは結構深く酔っていたが故にぐっすり寝たままだったそう。

 ──余談だが、その後ユーキはニアの額に水性ペンで肉と書いてやーいキン肉マンした結果、全力のキン肉バスターを朝っぱらから御見舞されていた。



****



 盛大に散財してのバカンスはそれはもう楽しかった。

 襲撃があったばかりだと言うのに、この後予約している客のために、と営業を続けたリゾートコロニーは一部復興のため立入禁止区域ができたものの、大いに楽しめた。

 海に入って遊んだり、美味しいものを食べたり、遊園地でダブルデートしてる中、独身組が虚無の笑いを浮かべたり。


「なんか、あっちゅーまに帰る日になったな」

「楽しい時間ってあっという間よねぇ。普段はゆったーりしてるから時間の進みが凄く遅く感じるのに」

「わかるわー」


 そうやって遊んでいるとあっという間に帰る日になった。

 荷物に関しては元々着替え程度しか持ち込んでいなかった上にお土産は金に物を言わせて全部船の中に積んでもらったので忘れ物の心配は殆ど無い。

 ついでに船の中に積む前にコンテナの中にお土産はぶち込んだが、もちろん中に人が居ないのは確認済みだ。

 その件を何度か繰り返して言ったらミサキちゃんが顔を真っ赤にしておられました。

 若気の至りって凄いね。


「で、結局どんだけ散財できたん?」

「えっと……わたしとユーキは3億程度。サラは半分。サラの口座に入れておいた例の金も半分程度」

「…………なんかサラだけ異次元な溶かし方してるな?」

「そうね」


 こう見るとやっぱりギャンブルって恐ろしい。

 しかし、なんやかんやで溶かすべき金はまだ残っている。

 弾代やら整備代やらを差っ引いても、だ。

 ユーキはその事実に溜め息を吐くと、最終手段だ、と口を開いた。


「もう慈善団体とか孤児院に匿名で寄付するか。背景洗い出して真っ当な所選んで」

「そうね。っていうか、ハナから数億だけ残してそうすりゃよかったわね」

「それもそう」


 後日、一部の真っ当な慈善団体や孤児院などの施設にナオト・ダテという名の人物からの謎の高額寄付がされ、世間を賑わせたとかなんとか。

 ちなみに、当然だがこの時代にタイガーマスクが分かる者は居ない。


「さて、そんじゃ帰りますか。退屈な毎日に」

「そーね。やっぱもう戦闘は暫く懲り懲りだわ」


 そうして、暫しのリゾートと少しの戦闘を満喫した一同は再び元の日常へと戻っていくのであった。

あとがきになります。

 今回で後日譚は終了です。そのため、また次回作をご期待ください……

 に、なる予定でしたが、これだけ更新してまたお待ちくださいをするのも味気ないと思ったので、まだ投稿します。

 次回からはミサキが主人公となる話を投稿します。

 多分10話以上はあります。お楽しみに。

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