イグナイトファイター
端末を専用モードに切り替え、各々の愛機の名を叫ぶ。
その声を聞き、ニアの小型船、サラの小型船、ハインリッヒ家の中型船の格納庫が自動で開き、そこからネメシスが無人で出撃する。
無人で出撃した4機のネメシスはパイロットの元へと駆けつける。
勿論敵はそれに気付いて弾を撃って来るが、ライトニングビルスター・イグナイト──スペースイグナイターと合体したライトニングビルスター──が展開した2つのウィング、ディフェンダーウィング弐式がエネルギーシールドを展開する事で全て防いだ。
「ニアは俺と来い!」
「カタリナは僕と! ロールさんはサラお嬢様と一緒に!」
「え、えぇ!? な、なにこれぇ!?」
「ニアお得意のトンデモ発明よ!! ほら早く!!」
ディフェンダーウィング弐式が弾を防ぐ中でユーキ達はパートナーを連れてやってきた愛機たちに乗り込む。
「いやー、万が一のために搭載しておいてよかったわね。遠隔起動装置」
「全く持って。あんま使いたくはなかったけどな」
この遠隔起動装置はかつてアブファルに捕まった際の反省を活かして作られた機能だ。
体内に打ち込んだナノマシンから発する信号を基に、機体が自動で起動してそこまで移動するという物。
一応端末を使った方が高精度な上、起動時に多少の融通が効くため今回は端末を使ったが、使わなくても機体を呼び出す事が可能な画期的なシステムである。
ちなみにナノマシンはニアさんお手製のものである。
「にしては呼び出しの時の合図は『コール』がいいって我儘言ってなかった?」
「そこはほら。譲れなかった。って、それはいいんだよ。とっとと馬鹿共を仕留めるぞ! F-V.O.O.S.T、展開!!」
膝を付いたファイナルスプライシングが光の翼を展開し、ディフェンダーウィング弐式の負担を肩代わりする。
それを確認してからレイトはディフェンダーウィング弐式を一度戻し、空へと舞い上がる。
『コロニーへの負荷を考えれば、弾は外しちゃ駄目だ! 勿論、敵の弾も防がないと! だから、ユーマさんと僕で流れ弾を止めるから、サラお嬢様とミサキちゃんで奴等を!』
『任せなさい! L-V.O.O.S.T!! イグナイトシステム、アクティブ!!』
『責任重大だなぁ……! イグナイトシステム、イグニッション!!』
『という事でユーマさん、申し訳ないけど専守防衛をよろしく!! イグナイトシステム、フレイムオン!!』
「しゃーねぇか! イグナイトシステム、ブーストアップ!!」
宙域でなら被害は気にする必要はないが、ここはコロニー。戦闘をするような場所ではない。
それに、ユーキとレイトはアニメの中で何度も見てきた。戦争に巻き込まれたコロニーで起こった悲劇を。
故に、2人は専守防衛に回る。
『行くわよ、ラーマナ!!』
それを尻目に、サラが突貫する。
飛んでくる弾はイグナイトのエネルギーとアーマードブラストで防ぎながら、右手に持ったシヴァカノンを構える。
が、その引き金を引こうとした直前、ここがどこかを思い出す。
『くっ、シヴァカノンは加減が効かない……!!』
シヴァカノンを撃とうものなら、確実にコロニーにもダメージが行ってしまう。それだけは避けねばならない。
故に舌打ちをしながらシヴァカノンを下ろし、代わりにセイバーを持つ。
『なら近接戦よ! ついでに、フェンサー達も!!』
更にフェンサーウィング改とフェンサーウィング弐式。無線で動く合計4つのウィングが放たれる。
フェンサーウィングならば弾を撃つことはないし、相手の弾を弾きながらコクピットだけを貫くことができる。
『なんだあのネメシスは! 情報にないぞ!』
『傭兵でも潜り込んでいたのか!? いや、どうでもいい! あのネメシスはコクピットだけを潰せ! 持ち帰って我等の戦力にする!』
『やれるもんならやってみなさい!! このラーマナに対して!!』
相手はお構いなしに射撃をしてくる中、サラは己の技量だけで近接戦を仕掛け、まずは射撃武器から無力化していく。
そして、ミサキは。
『狭い所は苦手なんだけどなぁ……!!』
なるべく相手の照準に入らないように飛び、隙を伺っていた。
ミサキの乗る機体は、新たにミサキ用に作られた第4のイグナイター。その名は、イグナイトファイター。
巡航形態はオマケだった既存のイグナイターとは違い、巡航形態を主軸に考えられたイグナイターだ。
最高速度はF-V.O.O.S.T+イグナイトシステムを切ったファイナルスプライシングにも及ぶ、航宙戦闘機としてのポテンシャルに割り切った異端のネメシス。
そのネメシスをミサキは使いこなす。
『まぁ、やるしかないよね!』
逃げ続けていては始まらない。故に、ミサキも攻勢に出る。
イグナイトファイターの射撃武装は、ミサイルと、既存のエネルギーマシンガンの強化型、エネルギーハイマシンガン。この場で撃てる物ではない。
しかし、それでも前に出る。
『時代遅れの戦闘機風情が!!』
真正面から突っ込んでくるイグナイトファイターへ向けて敵ネメシスはエネルギーマシンガンを放つ。
それをバレルロールを交えた動きで回避し、後ろに流れた弾はディフェンダーウィング弐式が受け止めていることを確認してから、一気に加速して突っ込む。
そして、イグナイトファイターと敵ネメシスがすれ違うその寸前。
『エネルギーウイング展開!』
『なっ!? 戦闘機がインファイトだと!?』
イグナイトファイター唯一の近接武装が起動する。
イグナイトファイターの翼の全面にビームセイバーと同種のエネルギーが展開され、イグナイトファイターの翼に触れた敵ネメシスが真っ二つに切り裂かれた。
『貴様、よくも同士を!!』
その光景を見ていた敵機は即座にイグナイトファイターに照準を合わせる。
しかし、ミサキはその程度で落とせる程度の存在ではない。
『やっば、撃ってきそう……お兄さん、避けた弾のカバーできる!?』
「任せろ! セパレートでカバーする!」
『ありがと!』
空を舞うイグナイトファイターに向けてエネルギーマシンガンが。コロニーの内壁に当たれば確実に甚大な被害をもたらす弾丸が放たれる。
それを防ぐのはファイナルスプライシングのセパレートウィング。イグナイトファイターが避けた弾をセパレートウィングは全て受け止め、消し飛ばす。
『後ろを気にしなくていいのなら!』
それを尻目に、イグナイトファイターが転身。一直線に敵機に向かって突っ込む。
しかし、ミサキ自身は弾を撃たない。いや、撃てない。故に、もう一度エネルギーウイングによる斬撃を試みるが。
『馬鹿め、種が割れた特攻など!』
やはり、それは相手も分かっている。
故に、敵機は大きく距離を取ってエネルギーウィングによる格闘戦を拒否する。
『だと思った!』
だが、攻撃する側からしてみれば関係ない。
種の割れた攻撃をするしかないのなら、それを囮にする。
攻撃が空振った直後、イグナイトファイターが変形する。
戦闘機の状態から、戦闘機に手足を生やしたような奇妙な形態。
『ハーフウェイモード!! からのぉ!!』
その形態は、ネメシスではなく戦闘機の才能があるミサキ専用に作られた新たなる形態、ハーフウェイ。
戦闘機ではできない咄嗟のホバリングと格闘戦を行うための形態。
『エネルギーバイパス、ライフルから右腕部へ移行! エネルギー臨界突破!! ブチ抜け、ピンポイントエネルギーナッコォ!!』
『なっ、戦闘機が拳!!?』
そうなればやる事は一つ。
右腕にエネルギーを集中。拳の火力と防御力を底上げし、それを相手のコクピットに叩き込む。
その一撃にネメシスのコクピットが耐えられるわけもなく、敵機はコクピットから背中をイグナイトファイターの手にブチ抜かれ、機能停止した。
『完璧なピンポイントバリアパンチだ』
「ナッコォ! の言い方も完璧だな」
「『どこを評価してんの???』」
そして野郎2人の謎の採点。思わずニアとカタリナが突っ込んだが、ミサキにロボットネタを叩き込んだ2人は満足気だ。
「しっかし、やっぱガウォークって神デザインだよな。実際に動いてるの見るとマジでそう思うわ」
『いやほんと。バトロイドもいいんだけど、バルキリーって言ったらやっぱガウォークだよね』
「なんの話してる???」
「ニアの作った機体ってやっぱ最高すぎ」
「絶対そういう意味で話してた訳じゃないでしょうが……」
ちなみにハーフウェイ形態は、ガチの航宙戦闘機としてイグナイトファイターを仕上げようとしていたニアに対し、ユーキが提案する形で生まれた形態だ。
まさかそんな戦闘機ともネメシスとも言えない形態に実用性なんて……と最初は思っていたのだが、ミサキを乗せればあら不思議。戦果を出すわ出すわ。
ミサキ曰く、ハーフウェイ形態は巡航形態と同じような感覚で動かせるらしく、流石に化け物三人には劣るものの、並のパイロットでは落とせない程度の化け物に仕上がった。
「さて、そんじゃ、ミサキ。そのネメシスはこっちに渡してくれ。処分しとくから」
『あ、うん。じゃあお願い』
そう言ってミサキは手を敵機から引っこ抜いて再度変形。そのまま飛んでいった。
「よし、これなら何とかなりそうだな」
「そうね。あとは、コロニー外部に敵がいるかだけど……」
援軍が居なければいいけれど、とユーキとニアが零した直後だった。
再び轟音が響き渡る。
「だぁクソっ!! 藪蛇だったか!!」
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あとがきになります。
今回はイグナイトファイターの紹介です。
・イグナイトファイター
ニアがミサキ用に作成した新たなるイグナイター。
大きさは通常の戦闘機よりも少し大きい程度であり、イグナイトの名を冠する通り、イグナイトシステム及びハイパードライブを標準装備している。
変形はあくまでもネメシス形態に付属した機能であった従来のイグナイター達とは違い、巡航形態に重きを置いて作られている。そのため、ネメシスというよりも最新鋭の航宙戦闘機と呼ぶ方が正しい。
戦闘機としての機能にリソースを振った結果、イグナイトシステムを使えばF-V.O.O.S.T+イグナイトのファイナルスプライシング並みの速度でかっ飛ぶ事が可能。
また、多少の利便性を持たせるため、戦闘機に両手足を生やしたような形態、ハーフウェイ形態へと変形が可能。これによりホバリングや真横へのスライド移動なども可能になっている。ぶっちゃけて言えばガウォーク形態である。
武装は従来のエネルギーマシンガンを更に高威力化&エネルギー供給を本体から行うようにしたエネルギーハイマシンガン、マイクロミサイル。それに加えて両翼に備えられた、ビームセイバーと同等のエネルギーを纏う機能であるエネルギーウィング、両腕部にエネルギーを纏って盾代わりにするピンポイントエネルギー集中機能を搭載している。
また、本機には更なる拡張性があるようで……?




