カジノで金を溶かす才能
忘れてはならない。
このリゾートコロニーに来た理由。
それは即ち。
「ひっさしぶりに来たわねぇ、カジノ!! テンション上がるわぁ!!」
「コイツがこんなテンション上げてんのマジで珍しいな」
「ね」
少なくとも傭兵時代にここまで目ぇキラキラさせてた記憶はない。
「そんじゃ、あたし早速1億くらいコインにして儲けてくるから!! 今日は勝つわよぉ!!」
生暖かい目をしているユーキとニアに気付かず、サラはそのまま一人カジノの奥に消えていった。
その光景をハインリッヒ家関係者達は苦笑いで見送り、ロールは庶民故にカジノのレートを調べて白目を剥きかけている。
「何時間持つと思う? あたし30分」
「俺40分」
「この信頼の無さ凄いよね。僕20分」
そして始まるサラ破産トトカルチョ。
いや、例え負けまくっても破産はしないが。ここから借金できたらそれはそれでとんでもない才能だ。
「まぁ、トトカルチョは置いておくとして。ロール、ミサキ。二人にも一千万分はコインあげるから遊んできなさい。勝った分はあげるし、負けても補充したげるから」
「い、一千万……!?」
「む、無理だよ!? 受け取れないよあたし!!」
「うっさい受け取りなさい。今日は散財しに来たんだから、人手は多いほうがいいの。レイトとカタリナはいる?」
「流石に僕達は数万程度でぼちぼち遊んでるよ」
「うん。流石に博打は怖いから」
という事で、ロールとミサキには問答無用で一千万分のコインが突き付けられ、ユーキとニアは互いに1億ずつをコインに変えた。
レイトとカタリナは数万程度。流石に人様の家庭には手を出せないので、ここに一千万分突きつける事はしない。
「さーて。んじゃ、こっからそれぞれ好きな所行くって事で。わたしはスロットやってくる」
「俺麻雀やってくる」
「そろそろ混ぜろよ。って事で僕も」
「俺の燕返しが火を吹くぜ」
「イカサマすんな。ってかできるの?」
「なわけ」
「ですよねー」
「麻雀……? えっと、どんなゲームか気になるからレイトについてくね」
「え、えぇ……? えっと、私は……み、ミサキちゃん、どうする?」
「そ、そうですね…………ブラックジャックが堅実に増やせるって聞きましたけど」
「そ、それじゃあそこ行こっか」
そんな事を言ってそれぞれ好き勝手移動していく。果たして麻雀ってカジノらしいのか、とかは誰も言わない。それ雀荘でいいじゃんと言えるツッコミ担当は生憎本日不在なのである。
ニアは適当な台に座ってメダルジャラジャラ。金は気にせずスロットをやり始めた。
ユーキ&レイト&カタリナは明らかに一角だけ雰囲気が違う麻雀卓だらけの場所に向かい、適当に座った。
なんか別の卓で血を抜いたり入れたりしながら麻雀してるやべーのを見て引きながらも、楽しみながらプロ相手に負けていた。
そしてロールとミサキは。
「えっ、えっと……じゃあ私はこれで勝負します」
「あ、あたしも」
こんな感じでオドオドしながら勝負して。
『あ、こっちはブラックジャックです』
サラッとブラックジャックを出しまくって周りの人間&ディーラーを驚かせていた。
このカジノはディーラーこそいるが、カード配りは機械による全自動。不正のしようなんてない。
明らかなビギナーズラックに周りは失笑するしかなかった。
そんなこんなで皆それぞれ遊び合って。
「はい結果発表。わたしは全部無くなったわ」
「同じく」
「僕とカタリナは普通に勝ったよ。まぁ大体カタリナのビギナーズラックのおかげだけど」
「レイトは結構凄い負け方してたよね。ちーほー、だっけ? それされてたし」
「私はなんか換金したら1億になってた……」
「あたしもです……」
ユーキ、ニア、レイトはボロ負け。カタリナ、ロール、ミサキの博打なんて人生の中で全く経験してこなかった組が大勝ちすることとなった。
しかしディッパー夫妻的には1億負けようと、今回の減らさなきゃならない金の50分の1がようやく消化できただけなので、痛くも痒くもない。
レイトも嫁のカタリナが勝ってくれたので収支的にはプラスだ。
ロールとミサキは。
まぁ、後日自身の口座を見て現実をようやく見ることができるだろう。一気に大金持ちの仲間入りである。
「に、ニアちゃん、勝った分も貰った分も流石に返すよ……」
「いらないわよ。受け取っときなさい」
「お金の問題って怖いんだよ!?」
「問題にすらならない額だから……」
「なるんだよ普通は!!」
「レイトさん、このお金どうしましょう……」
「ん? 普通に持っておけば? 億あればそこそこ気が楽になるよ? ね、カタリナ」
「ミサキちゃん。この人金銭感覚壊れてるの、ごめんね?」
「おっと嫁からのディスが」
ロールとミサキが一生かけて稼ぐレベルの臨時収入に顔を青くしているが、そんなのは歯牙にかけず、一行はサラの様子を見に行くことに。
今回の泡銭消費はサラの博打の弱さを期待してのことだったが、果たして。
「サラー、調子どう?」
「…………あー、うん。そこそこ」
サラはルーレットの遊戯台の近くにいた。
なんで座ってないのかは、果たして。
「で、いくら負けた?」
「勝ったじゃないんだ……」
「サラのことだし。で、いくら?」
サラはそっと右手をパーにして、左手はチョキ。
「…………7億?」
なんか嫌な予感がしてきた。
ニアの言葉にサラは冷や汗をかきながら、首を横に振った。
まさかこいつ、この短時間で。
「……………………70億ちょっと」
空気が、死んだ。
「──え、えっと、貯金は?」
「…………すっからかん」
ちなみに、今回サラが不動産転がしで得た泡銭は50億ちょっと。そしてサラ自身の貯金は20億。
つまりこのロリっ子。
この短期間で自分の全財産すら溶かしやがった。
「…………あの、ニアさん」
まさかここまでとは思っていなかった。まさかここまで散財の才能があるとは。
全員がドン引きしていると、サラは物凄く申し訳なさそうな顔でニアに声をかけた。
「な、なに?」
「その、ここから帰ったらズヴェーリでも何でも狩ってお金作るんで…………その、滞在中のお金貸してください……!!」
サラ・ハインリッヒ、カジノで人生初の借金を作るの巻。




