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ヘラった嫁と慰める夫

 スイートルームへの案内やらチップやらは全部サラとカタリナが対応して。

 ユーキとニアはスイートルームのソファに座って窓から外の光景を眺めていた。


「こうやってるとセレブになった気分ね。ほら、ユーキ。人がゴミのようよ」

「ここにいる時点で既にセレブだよ俺等は。あとオメーはどこの天空城の大佐だ。なんでこのネタ分かるんだよ」

「アンタがどっかのタイミングで言ってた」

「オーケー俺が全面的に悪かった」


 他愛もない事を話しながら、ずっと外の光景。と言うよりも窓から見える下の方の光景を見ると、2人の居るホテルに近い安めのホテルから家族連れが笑顔で出てくるのが見えた。


「やばい、わたし今自分の事がゴミに思えて仕方ない」

「落ち着け」


 金のゴリ押しでスイートルームに泊まって下々の者をゴミと言う者と、必死に働いて得た金で贅沢して家族みんなで楽しむ者達。

 傍から見てどっちがゴミだろうか。

 ニアってたまにヘラる時あるよなぁ、と思いながらも、軽く面倒くさい嫁を抱きしめて慰めるユーキ。


「うーい、起きたー? …………って何してんのアンタ等」


 そんな事をしていると、エントランスのドアが開き、サラがノックも何もなく入ってきた。

 朝っぱらから熱い抱擁を交わす馬鹿共を見て何とも言えない顔をしているが、勝手に入ってきたのはそっちである。


「ヘラった嫁を慰めてる」

「ヘラったから夫に慰めてもらってる」

「多分だけどメンヘラってそういうもんじゃないと思うわよ。所で朝飯は食べた?」

「いんにゃ。これから」

「りょーかい。あたしとミサキとロールは食べちゃったから、外行く準備できたら部屋まで来てもらえる? あと、レイトにも連絡よろしく」

「その足で行けよ」

「いや、それで情事の場に出くわしたら最悪じゃない?」

「その気遣いをこっちにも寄越せや」


 うるせーしらねー、と言いながらサラはそのまま退散。自分の部屋に戻っていった。

 別に傭兵時代に下着しか身に着けてない中でばったり遭遇したり、遭遇されてしまったりはしていたので、そんな気遣いは今更っちゃあ今更なのでサラの反応の方が正しくはあるのだが。


「しっかし、アレねぇ」

「アレとは?」

「サラってあんたと時折いい雰囲気だったじゃない? 今じゃその欠片もないなって」

「そうだったか?」

「案外? ほら、最初のリゾートコロニーの時とか、あんたサラとベランダでいい雰囲気だったじゃない。それに、あんたの手作り料理もサラは食べたんでしょ?」

「そりゃそーだが……俺はニア一筋だから、過去の話だとしか言えねぇよ」

「ん。それはそれでいいけど。浮気したらちょん切るし」

「こえぇ」

「けど、ティウスって重婚可能なのよね。だから、サラ視線だと、今の関係ってどう見えるのかなって」


 ユーキ的には、サラは仲間。戦友のような悪友のようなポジションだ。

 だが、そんな彼女といい雰囲気にならなかったか、と言われれば嘘だ。

 ニアの言ったように、リゾートコロニーでの一件。それから、闇市に突撃したニアを放置してのデート。

 異性として一切認識しない時が続いたかと言われれば、そんな事はない。

 何度も彼女を異性として見ることはあった。


「……一応ね。ユーキは知らないかもだけど、メロスでも稀にあるのよ。重婚というか、公認浮気というか」

「なんじゃそら」

「書類上は嫁、夫は一人だけど、事実婚をしてる人が数人いるとか。アイゼンやティウスからメロスに越してきた人とかはそういうの、よくあるみたい」

「本妻が嫁、それ以外は書類上は何もなしって事か」

「ん」


 ニアからの短い肯定。

 その事実婚の相手の中にはメロスの人間も居て、そういう文化だからとその関係を受け入れる人も、少なからず存在する。

 そして、なんでそれを今ここで言ったか、と言えば。


「……多分ね。サラ、いつか改めて考えると思うの。わたし達との関係を」


 スリーマンセルで駆け抜けた仲間だから。

 その内の2人がゴールインして。そして、取り残されたたった1人は。


「サラ、素直じゃない所も多いから。見栄とか、あとは……その時は考えたくないから、ユーキとの事は何ともないって言い張ってるだけかもしれないの」

「…………俺にどうしてほしいんだ?」

「わかんない。わかんないけど……何かあったら、相談してほしいかな」


 会話を続けていく毎にしおらしくなっていく彼女を抱きしめる力をちょっとだけ強くしてから、サラが去ったあとを見つめる。

 己は、サラがもしも決断したとき、どんな言葉を返すのだろうか。

 決断するようなことすら彼女の心の中には無いのかもしれない。もしかしたら今も決断する時を待つ何かがあるのかもしれない。

 それがもしも明かされたとき。自分は正解の答えを返せるのか。


「……そうするよ。俺、もう20後半なのにガキだからさ。多分、一人じゃ決めらんない」

「今の時代、20代なんてガキのままよ。だから、仕方ないと思う」


 そう言って、ヘラった嫁を抱きしめたまま。


「…………ところで、気ぃ済んだ?」

「も、ちょい」

「へーへー」


 とりあえずもう暫く抱きしめることにした。

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