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火種

作者: ちゃや
掲載日:2023/08/27

寒い。灰谷ほむらは早朝5時、ただ1人冷たい部屋の中にいた。

と、格好をつけて状況を解説しようかと頭の中では考えているが、実際は寒さに脳のほぼ全てを支配され考える余地がない。

いかんせん、寒いのだ。

もう一度布団へ入ろうか迷ったものの、心身を温めるためお湯を沸かした。

ガスの元栓を開き、戸棚からコーヒーポットやコップ、やかんを取り出す。

戸棚に小指をぶつけもがくが眠気はまだ覚めない。

ガスコンロにやかんを置き、水を沸騰させ、慣れた手つきでコーヒーフィルターをセットする。

コーヒーを淹れ、一気に飲み干す。

無論、火傷し、眠気が一気に消えていく。

これが私の目覚ましの仕方だ。

昨日は残暑だとか数年ぶりに最高気温を更新しただとかをニュースで大々的に言っていたくせに今日の寒さは一体なんだ。

2杯目のコーヒーを注ぎながらぐちぐちつぶやく。

9月に入ったからか、はたまた昨夜の雨のせいなのか。今朝は一段と冷える。

昨日まで半袖だったのに今日は薄手のカーディガンを羽織る。

身震いをしながらも徐々に暖かくなっていく……訳でもなくただほとんど変わらない気温と舞っているのか知らないスギかブタクサの花粉にくしゃみをする。

何故日本の政府はスギを全て伐採しないのか。家の庭にあるまだ青々とした紅葉を見ながら考える。まだ秋らしい秋は見かけていない。

そこら中にシロツメクサが根を張り、秋らしさと言うものは空模様ぐらいだった。

灰色のどんよりとした──と言うよりかは鉛色に近いが──空は私の不安を煽っているようにも感じた。

そんな鬱々とした気分ではいけないと思い、何かしら秋らしいものを連想していった。

秋といえば──といっても年中、相変わらない、旬や季節行事にも興味のない現代の若者にとってはあまりに単純な思考だが──食欲の秋だろう。

デパートに行かねばだったからちょうどよかった。そこで食材も調達しよう。そう思いつつ買いたかった本を目当てにデパートへ出かけようと思う。

時計を見ると午前8時。自転車で行けばちょうど開店する頃だろう。

外へ出ると突風が吹き荒れる。急いで中に入り少し厚手をしてまた外に出る。

寒い。その一言で事足りる。もっと厚手をしてもよかったなと思い自転車で街を目指す。

走るたび顔が冷たい風に晒されて冷たい。表情筋さえも凍ってしまうのではないかとも感じてしまう。

唯一失敗したことはマスクをしなかったことだ。

くしゃみが止まらない。

もしかしたら誰かが噂をしているのかもしれない……そんな噂をするような顔見知りはいないが。

と、くだらないことを考えるもただ虚しくなっていくだけだった。

デパートへ着くや否や書店に向かい、今日発売の推し作家の本を購入する。

ショーウィンドウに立ち並ぶ、ファッションに疎い私には関係のないマネキンを横目に食品売り場へ向かう。

最近、物価がバカにならないくらい高い。

旬だとか言って秋刀魚を買おうものなら家計が火の車になる。

何を作ろうか。ウィンドウショッピングではないが全く手をつけられないまま、結局季節感のないオムライスを作ることにした。

足りてなかった卵を買うともう用は済んだ。

デパートを出てその足で本屋を梯子しようとする、その時だった。

鳴り響く轟音と揺れる大地にこの世の終わりかと錯覚する。

振り返るとさっきまでいた場所から煙が出ている。

──崩れる。

私の脳は直感的にそう思った。

自転車の鍵を開けるのに手間どうが、解錠し自転車を漕ぐ。

刹那、爆音が後方で鳴り響く。

瓦礫が飛び、頭に当たる。血は出るものの立っていられる。意識が少し飛びそうになるが足には当たってないみたいだ。

声が聞こえる。助けなきゃ。

火の手が上がる。

暑い。厚手の服を着てきたせいか暑くてたまらない。服を脱ぎ腕をまくる。

輝く周りを見るとため息が出るほど綺麗だった。

意識が朦朧としているのか、冷静にいられていない。

手に取りたかった。しかし、瓦礫に阻まれて触れない。

もう一度声が聞こえる。我に帰りその声の元へ向かう。

足が瓦礫に挟まって動けない……女性だろうか。助けてと声がする……声の主はこの人だ。

瓦礫をどかし抱える。軽い体を持ち上げるのは容易かった。全速力で今、視界に見える消防車の方へ向かう。私にこんな力が残っていたなんて……火事場の馬鹿力というものだろうか。

「大丈夫ですか」

消防士の声が聞こえる。

「私は大丈夫です。」

咳き込む。煙を吸ってしまった。

「でも頭から血が」

「私は大丈夫ですから、この人を」

消防士はキョトンとしている。

私の腕には苦しそうな表情の女性が。

「この人を助けてください!」

「とりあえず、あなたも重症なので“この人”は我々に任せて、あなたは救急車に乗ってください。」

その女性を預けるとホッとしたか意識が遠のいていった。


目を覚ますとそこは病院だった。

頭には包帯が巻かれ、腕には点滴が刺さっていた。体を動かそうものなら激痛が全身を走り、思わずいっ、と叫んでしまう。

看護師の方だろうか。目の前にきて「お目覚めですか」と優しい口調で話しかけてくる。

「私、何日寝てました?」

「1日も経ってませんよ。安静にしておいてくださいね」

「はい……火事はどうなりましたか?」

「ああ、無事に鎮火されたらしいですね」

「あ、あとあの女性は大丈夫でしたか?」

「それなんですけどね……」


私が見たのは灰化したマネキンだった。


頭に血を流しながらそれを持ってきたものだから危ないと判断したそうだ。

検査の結果、脳に障害はなく、単純にパニックに陥り勘違いをした……と言われた。

すぐに退院できるそうだ。

何事かは起きているが、無事に普通の生活に戻れる。


退院明け、友人が迎えにきてくれた。

災難だったねぇと車の中で談笑して優しいことに中まで補助してくれた。


「タバコ吸ってもいい?」

「外でなら」

「外寒いじゃん」

「我慢しなさいよ」

「お願い!」

「一本だけね」

「なんでよ笑ケチだなぁ」

「人ん家の中でタバコ吸わせてあげてるんだから文句を言うなよ笑」


ライターの火をつけた。








次のニュースです。


──町の住宅地で火災──原因はガス──の模様──中です


かすかに繋ぎ合わせた音だけが響く

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