香水!?
せっかく褒めてもらってるけど、断腸の思いで話を戻します。
実は、こんなに有能なプレートアーマーなんだけど、二つほど残念な欠点が、あったりもする。これは、女性兵士に限定される事かもしれないけど。
ひとつ目の欠点。
実はこのプレートアーマーは、頭部が男性用と女性用では、少々違う造りとなっている。男性の物は顔の見える"兜"になっていて、女性の方は顔の見えない"仮面"となっていた。
ちなみに、この鎧はコスドーリア王国の鉱山で豊富に取れる、魔法鉱石から出来ている。それを、王都東地区の製鉄所で鋼材にし、生産されたらしい。
その利点としては、魔法鉱石に含まれる魔力が"魔法障壁"となって、鎧全体を覆っている。効果としては、前にも言った通り、ある程度の物理攻撃や魔法は、障壁に阻まれて鎧まで届かない。
そしてここからが欠点で。同じ鋼材で造られたプレートアーマーを着ていれば、魔法障壁の共鳴により、普通に会話ができる。
対して共鳴のできない防具、もしくは何も付けていない状態では、声がかなり篭ってしまうのだ。
支給されたその日に試してみたけど、低音でくぐもった男性の様な声は、ちょっぴり面白かった。暫く楽しんでしまったのは、言うまでもない。
毎年のあるあるだと、研修指導の先輩も言っていたし、微笑ましく見守ってくれていた。
もし敵に囚われてしまっても、個人を特定できないから良いという意見もあるみたい。ただ、この機能が私を戸惑わせる事になるのは、後のお話し。
そしてもうひとつの欠点。これがなかなかに、切実な問題だったりもするのだ。
「それにしてもさぁ、この鎧って軽くて動きやすいけど、通気性が悪過ぎだよねぇ」
「それな! そんなに汗かいた感じがしなかったのだが、鎧を脱いだら中着がとてつもなく臭かったな」
「だなぁ。あれはなぁ、辛いぞぉ」
「たぶん、中着に問題があるよね。汗を吸い込みやすくする、特殊な素材って言ってたから」
「うむ、確かにそう言われていたな。しかし、どうにかならないものか? あの臭さは」
「うぅむぅ……慣れるしかぁ、ないのかぁ……」
プレートアーマーが物凄く優秀なのは、とっても分かる。だけど、年頃の女の子のデリケートな部分に直撃するもので、思わず深いため息を吐く新兵なのだった。
◇◆◇クサイヨネ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ナントカナラナイ?◇◆◇
そんな中で、私達は持参した小物入れを取り上げ、小瓶と綿を抜き取った。蓋を開けて、中の液体を染み込ませ、鎧の肩や背中部分に擦り付け始める。
――ふえっ? それは何故かって?
王宮から支給されるプレートアーマーが、とっても優秀なのは分かるけど、決定的に可愛くない。
とにかく防御に特化させ、一般兵ひとりひとりに支給するものだから、全てがお揃いだし、オシャレ要素が皆無だし。
違うとしたら、胸部の突き出し具合くらいくらいなもので。
――うん! 視界の端に映る、カーニャのしたり顔がとってもウザい。
お年頃真っ只中が集う、女性兵士職。そこで、任務中に唯一認められたオシャレが、この香水なのだ。
兵士採用の通知がきた時、持参物の中に”香水”って書かれていたのは、とっても不思議ではあった。戦闘に役に立つとも思えなかったし。
でも、実際にプレートアーマーを支給され、説明を受けた時には納得の声が、あちこちで上がっていた。もちろん私も頷いた。
「しかしだ、ヒヨリの香水はとても香りがいいな。なんかこう……適度にフルーツの、甘酸っぱい香りが鼻に心地いいと言うか」
「うぅむぅ、同感だぁ。どこでぇ、買ったのだぁ? 王都のどこかにぃ、売っているのかぁ?」
「ふえっ? そぉ? これはね、私が自分で作ったものだよ。私の家は、果樹園をやってるから」
「ほぉ、ヒヨリの自作かなのか。それは素晴らしいな。確かにこんな香りは嗅いだことない。これならば、鎧を着ていても直ぐに、ヒヨリだと分かるな」
「だなぁ。なかなかぁ、無い香りだからなぁ。直ぐにぃ、ヒヨリを見つけられるなぁ。それはそれでぇ、羨ましいぞぉ」
「そうかなぁ。えへへへっ」
マリマリとカーニャの言葉に、ちょっぴり上機嫌な私。それに、もっと言ってくれてもいいんだよ?
――賛辞の言葉、ウェルカム! ウェルカム!
ただ、この時の私は香水のせいで、自分自信があんなにも、あたふたすることになるなんて思いもしなかったのだった。
※ちょこっとトーク※
「プレートアーマーってさ、もう少し可愛くできなかったのかなぁ」
「ん? 私は気に入ってるぞ。強そうでいいじゃないか」
「まぁなぁ。防具だからなぁ、仕方ないもんなぁ」
「えぇぇっ! 毎日着るものだから、もっと可愛い方が良くない?」
「いや、我々は遊びに来たんじゃないんだぞ」
「だなぁ。ちなみになぁ、ヒヨリはどんな形だったらぁ、良かったのだぁ?」
「えっとね、ツヤツヤでフワフワでヒラヒラな鎧かなぁ」
「「おぉぅ……花嫁衣装……」」
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