3.声
不審がるレテ。はっと現実へ戻されたように、微かに動く女性。フォリアとリネは首をかしげているがネヴィは、何かに気づく。そして、フォリアとリネが見ていない間にそっとレテに耳打ちした。
「殺したのに、両親は……。少女はそれを見てどう思った……?」
レテが目を細めた。
「っ……何でしょうか」
喉から言葉が出てこない女性。
「……何でもない。続けてくれ」
「そう……ですか」
明らかに警戒されている。そのことは両者、感じていた。フォリアとリネだけ、不思議そうに顔を見合わせた。ただ、フォリアもフォリアで、気づかなくていい問題だと察していた。リネの方は恐らく……何も気付いていない。
「理由とか聞いてもいいですか?」
どうにかして話題を変えようとネヴィが身を乗り出した。迫真の演技といっていいだろう。
「わ、私の故郷に伝わっているんです。私が初めて覚えた物語なので、皆さんにも覚えていてほしいな~って」
ネヴィは肩をすくめた。明らかに違う。目が泳いでいる。手に力が入っている。汗を少しばかりかいている。
「そうなんですね。故郷はどちらですか?」
「正式名称はないんです。ただ、母からは、”白い村”と……」
フォリアが”白い村”という単語にだけ、反応した。
「”白い村”……!?」
「どうしたの?」
リネが尋ねた。
「”白い村”っていうのはね――」
フォリアが得意げに笑った。
「あ、もうこんな時間。そろそろお暇します」
数時間後、女性は急いで立ち上がった。
「本当だ。もうこんな時間」
外はもう黒い幕がかかり始めている。
「では、もう行きますね。さようなら」
女性がドアノブに手をかけた時。レテが立ち上がった。
「待って。……最後に。名前を、聞きたい。」
珍しくはっきりとした口調だった。
「……レナ、とお呼びください。」
レナは息をする間もなく、扉の前から姿を消した。
「嵐みたい……」
部屋にはレナのほんの微かな汗のにおいが残った。
「……ネヴィ、ちょっと来て。」
レナが去って間もなく、レテがネヴィを手招きした。
「……ちょっと散歩しない?」
わざと声を高めて、しかし真面目にレテが言った。