1.香り
パンの香りが漂う市街。ネヴィはフォリアとリネと共に歩いている。手の中にある紙袋からはパンの香りがふんわりとする。匂いにつられてフォリアが袋に手を伸ばすがリネに手をはたかれた。
その様子を微笑みながら見ているネヴィ。ふと、目線を歩く先に向けた。数十mほど前にレテを見つけ、大きく手を振る。
「レテちゃん、買い終えたよ」
レテは、小さく手を振り返した。それに応えるようにフォリアとリネも手を振った。
「……今行く」
風に吹かれ、口にした言葉は消えていく。
風に押し出されるように足を動かすレテ。その際、レテが先程まで見ていたポスターがふわりと吹かれる。レテの指先は微かにポスターに触れた。
レンガで造られた家が並ぶ住宅街。中には店や宿もある。
「飽きないねぇ」
この街ではパンが人気だ。数多くある店の中でも、パン屋が多く目立つ。4人は1週間程街に滞在しているが、パンを見なかった日はない。
「そろそろ白米も食べたいかも……」
食べなかった日もない。
「すみません。もしかして、もしかしなくても冒険者の方々ですか?」
レテは剣と盾、弓。フォリアは弓と短剣。ネヴィは杖2本を。リネは巨大な盾を。持っていたもので判断したのだろう、何よりの証拠に、レテの背中――、剣を見ていた。
「…そうだけど。何か?」
レテが訝りながら尋ねる。
「あの、お願いがあります。」
絡ませた指が震えている。フォリアが目を細めた。
「……室内で聞きます。ついてきてください」
口を速めて言った。