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第十三話 連れ去られてしまったので困っている

 暗い路地を歩いてゆく。テアのあとを付いて、奥へ奥へと入っていく。一度は止めるべきとも思ったが、好奇心が足を動かしていた。

 あのときのテアの何かに気づいたという反応。いつもより早く歩く彼女に興味をそそられた。ケモミミもいつも以上に細かく動いている。


「一体何処に行く気なんだ……」


 呟きは静寂に吸い込まれていく。テアも反応してくれない。ややあって、目の前で彼女が角を曲がって見えなくなると、なんだか悪い予感がした。だが、もはや付いていく以外に選択肢がない。彼女に続いて、角を曲がった瞬間、こめかみに何かが当たった。


「おっと、こんな簡単に引っかかるとはな」


 視線だけ横に向ける。まず理解出来たのは自分は銃を突きつけられているということだった。そして、銃を突きつけている男は黒のスーツ姿で、頭髪は茶髪のセンター分け、左目の上から深い切り傷の痕が残っている。娑婆の男ではない、それが最初の印象だった。男は目を見開いて、ニカッと柔らかい笑みを浮かべる。状況と合わないその表情には恐怖感を覚えた。

 しかし、そんなことよりも気になることがあった。


「……テアは何処に行った?」

「テア。ああ、異世界人か。それなら、ウチで預かってるよ」

「何だって」


 悪い予感は当たるものだと思った。よく見ると視線の先でテアは二人のガラの悪そうな男に両肩を掴まれながら、こちらを不安そうに見つめていた。


「テア……!」

「ユウ、エル アス(……しない) イルラ レンウィル(これ?)!」


 何か必死に伝えようとテアは訴えるも、その内容は伝わってこない。男は残念そうに首を振って先を続ける。


「いやはや、君たちも馬鹿だねえ。もっと用心しなきゃ」

「お前たちも国土安全保障省の人間なのか?」

「はっ、国土安全保障省ぉ?」


 男は嘲るような顔で俺を見る。


「俺たちは、そんな行儀の良い奴らじゃねえからよ。期待してくれて悪いが」

「じゃあ、何者なんだ。テアに何の用がある」

「用というか、君たちを消すことが仕事なんだよな」

「消す? な、なんで」

「害獣駆除みたいなもんだ。ま、今更、君に説明しても意味ないんだけどね。殺すから」


 男はトリガーに指を掛ける。絶体絶命、そんな言葉が似合うような状況だった。冷や汗が背中を流れていくのを感じた。


「恨むんだったら、自分のアホさを恨むんだな」


 乾いた銃声に思わず目をつむる。てっきり自分は死んだものだと思っていた。しかし、意識ははっきりとしている。目を開けると、男は銃を持っていたはずの手を押さえながら、忌々しげに歯の間から息を吐いていた。


「黒龍集団日本支部若頭、李清霄(リー・チンシャオ)! 未成年者略取と殺人未遂の現行犯で逮捕する!」

「これが最後の警告だ! 両手を上げて、首の後に回せ!」


 刑事と思わしき二人が、拳銃を李と呼ばれた目の前の男に向けて拳銃を向けていた。その二人の後ろに胸を張って立つのは見覚えのある男だった。白髪、ターコイズのような水色の瞳。鋭く身を貫くような視線が李を貫いていた。


「ギブソンさん……」


 睨みつけられた李の方は忌々しげな表情を覗かせていた。後ろの男に視線を向けた。


「ちっ、少し遊びすぎたか。おい、お前ら先にいけ、俺は後から行く!」

「おい、待て!」


 テアを掴んで奥へと消えていく。未だに銃口は俺に向いていて、動くことが出来ないのが悔しかった。動けるはずの刑事たちも李に銃を向けたまま、動こうとはしない。李は銃を落とし、ゆっくりと手を挙げて、首の後に回した。


「そうだよなあ、香港マフィアの若頭を捕まえられるなら、多少の犠牲は仕方ないかもなあ」

「くっ……」

「いいから、捕らえろ!」


 一人の刑事が拳銃を下げ、ホルスターに戻して手錠を取り出して李に近づこうとする。しかしその瞬間、李は首の後に回した手を勢いよく振った。筒状の何かが空に飛び出し、地面に転がった。どうやら、何かを首元に忍ばせていたようだ。

 刑事たちの背後に居たギブソンはそれを見て、驚きの表情を浮かべる。


「離れろ、グレネードだ――」


 BANG! 視界を埋め尽くす閃光、耳を劈く衝撃音。目が眩んで前が見えない。衝撃音のせいで耳の奥からキーンという音も聞こえる。潤んで霞む視界のなか、手探りで李を見つけようとした。拳銃に素手では対抗できないだろう。しかし、テアが連れ去られてしまうのを黙ってみているわけにはいかない。だが、視界が回復した頃には、その場からは李は完全に居なくなっていた。


「逃げられたか」


 仏頂面ながらもその言葉に悔しさが滲んでいた。ギブソンはコートを翻して、俺と刑事に背を向ける。ため息をついて、気だるそうな顔で去ろうとする彼に多少なりとも苛立ちを感じた。そんな視線を背中で感じたのか、ギブソンは立ち止まって振り返らずに言った。


「来るか」


 俺の気持ちを察しているような声色だった。その背中はこれから始まる対立が、容易には終わらないことを感じさせる。二人の刑事は俺の回答を待つかのようにこちらを流し目で見ながら、静かにたたずんでいた。

 俺は――

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