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第十一話 変人店員に捕まえられたので困っている

「うっ……眩しい……」


 初夏の日差しというものはなかなか強く、家から出た俺は思わず腕でひさしを作るほどだった。まあ、これから太陽の下に来た者を日光で焼き尽くすような夏がくるわけだが、それに比べればまだマシな天候だった。

 俺はいつものラフな格好で、テアには半パンとパーカーを合わせた格好でパンクな少女という感じになっていた。最初の彼女のイメージとはうって変わって俗なファッションだ。綺麗な素足が日光を反射して白く輝いていた。


「エナルリフウデラレニス?」

「はあ……迷った……」


 俺とテアは一緒に近くの繁華街に向かっていた。いつまでも俺の服を着せているわけにはいかないから、近場の女の子の服を扱っている店を探してここまで出てきたのである。繁華街にはそれらしい店が大量にあり、完全に迷っていた。これまで彼女も居なかった俺がこんなところに出てくること自体が珍しいのであり、まあ当然の結果だった。

 かぶりを振って、再度スマホを確認しようとしたところでテアがついて来ていないことに気づいた。振り返るとじっと何かを見つめている。その視線の先にあるのはショーウィンドウだった。


「ん? なんか気になるものでもあったか?」


 見上げていたのはロリータファッションの店のショーウィンドウだった。所狭しとフリルが施され、甘ロリっぽいものとゴスロリっぽいものが一着ずつマネキンに着せられて、置かれていた。確かにテアに着せれば可愛らしいかもしれないが、俺はもっと日常的に着ることが出来るような服を探しているのだ。

 テアの手を引っ張って、目的の店探しに戻ろうとしたところ、店の入口であろうところにあった妖艶なカーテンが開かれた。その中から、一人の少女が出てくる。頭の上にはフリルカチューシャを付け、左目には薔薇の眼帯、全体的にフリルの施されたファッションはふんわりとした印象を与えるがモノクロのカラーリングが可愛さに引き締めを加えている。ロングの黒髪の先を弄りながら、少女は右目をこちらに向けてきた。

 そして、顔いっぱいに悦びをたたえた。


「眷属よ!」

「うわっ」


 一瞬で“ヤバい”たぐいの人だということが直感でわかった。テアを引き連れて、その場を去ろうとするも袖を掴まれて擦り寄られる。彼女は息を荒げながら、腕に絡みついてきた。これが這い寄る混沌というものなのだろうか。


「待てぇぃ! お主はベルゼブブ城主たる我魔王ヤヤの眷属であろう! 店に寄ってけよぉ、ハアハァ……!」

「何言ってんだ、お前……いきなり掴んでんじゃねえよ、馬鹿……!」

「あぁん、罵倒されるのもイイ!」

「気持ち悪っ……中二病に構ってる暇なんか無いんだ。というか、魔王なら魔法で生活しろ!」

「魔法は資本主義には効かない」

「いきなり真顔になるな、怖っ!?」


 そんなやり取りをしていると、テアはひとりでにカーテンの奥の方へと進んでいった。呼び止める間もなく、店の奥へと消えてゆく。


「ほれ、お前の彼女もウチが気に入ったみたいじゃぞ」

「彼女じゃないが……」

「そうテレるな。男がテレてもキモいだけじゃぞ」

「お前にだけはキモいって言われたくないんだが」

「まあまあ、入れ入れ」

「はあ……」


 完全に不可抗力だった。

 店内に入ると妖艶な雰囲気は更に強まる。薄暗い照明、所狭しと並べられたロリータファッションの数々はこれまでに全く縁のないものだった。テアはそれらを興味深そうに眺めていた。

 俺は大きなため息を付きながら、少女に向き合った。


「なんて名前だっけ」

「我の名前は魔王ヤヤじゃ! ここの店主をしておる!!」

「名刺をくれないか」

「おお、それならここに……」


 少女が手渡してきた名刺には「本厚木弥弥(ほんあつぎ やや)」と名前が書いてあった。左側には小さく「魔王 M.Phil.」とも書いてある。魔王って役職名だったのか……。


「弥弥って呼べば良いのか?」

「ああ、今日はどんな服を探しに来たんだ?」

「普通の服だ……」


 そういうと弥弥はむっとしながら、腕を組んだ。


「普通の服とはなんじゃ! お主、ロリータファッションを舐めておろう」

「いや、そんなことは……」

「ロリータファッションは1990年代から続くチョー可愛くて、文化的なファッションなんじゃぞ」

「なんか、魔王とか言う割にはそういうとこしっかり説明するんだな……」

「大学院で現代服飾史を研究しているからな、これでもプロなんじゃ」

「ええっ、このガキみたいな容姿で院生……」

「なんか言ったか?」

「いえ、なんでも……」


 震えた。人間は容姿では分からないものとはよく言うが、ここまでとは思っていなかった。

 逆に考えれば、彼女に任せればそれなりの服をテアに用意してもらえるということなのかもしれない。一々、ガーリーなショップの店員さんを会話で煩わせる必要もない。弥弥はヤバそうな人ではあるが、それなりに話しやすい人物だった。


「弥弥、彼女はテアっていうんだ。異世……別の国からやってきたんだが、うちには服がなくて困ってる」

「なるほどな、それで我に彼女の服を見繕えと」

「そういうことになる。お願いできるか」

「まあ、任せろ。じゃが、彼氏の要望は聞いておきたいところじゃな」


 弥弥はニシシと笑う。テアが日本語を解さないと思って、言いたい放題とでも思っているようだ。

 反論したいところだが、ここが要望を出せるチャンスと言ったところだろう。外もおちおち歩けないような服を見繕われても困る。さて、どうしたものか。

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