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SECOND WORLD 〜受験ガチ勢によるVR生活〜  作者: 久方優那
受験ガチ勢がVRMMOに手を出したワケ
6/6

06.〈始まり〉の英雄

三人称。

運営陣と他プレイヤーとおまけのマナブくんです。

「見てください、もうすぐで〈始まりの森〉が攻略されそうなんです」


 研究職の男が興奮した様子でウィンドウを広げると、そこに出たのは〈始まりの森〉の広大すぎるマッピングデータとプレイヤーたちの位置情報、そしてプレイヤーがボスに対して果敢にとっしんする姿だった。


「なんだ、ソロがたどり着いたのか。意外だな」

「ええ。しかも、それだけじゃないんですよ。彼、実はまだチュートリアルをクリアせずにここまでたどり着いてるんです」

「はぁ!? んなのあるわけ……まさか誰かから情報が漏れたか!?」

「それこそまさかですよ。不正防止措置は問題なく稼働してますし、ほら、これを見てください」


 研究職の男がマッピングデータのウィンドウを操作して、一つの道筋ができる。

 〈始まりの森〉の入り口からボスまでの、最短コースの動きだ。


「な!?」

「これが彼の動きです。いや、まさか信じられませんでしたよ。これを見たときなんか目を疑いました。まるで、彼のために道を作るように、コース上のモンスターを前のパーティが排除しては、道を譲っているように見えるんです」


 〈始まりの森〉は巨大な迷路といって過言ではなかった。

 事実、サービスが開始されてから、未だに踏破者が存在していない。ログイン数が一万人に達することはなくても、ほぼ全員がログインして、これまでこの世界を戦いながら、森の出口を探している。


 一旦引き返すことがロスに繋がると理解したプレイヤーたちは顔を見知らない相手とパーティを組み、協力して、絆を知り、一丸となってクリアを目指しているのだ。


 そうだと言うのに。

 この、『マナブ』と言うプレイヤーは!



「ログイン時間20分でたどり着いたのか……っ」

「ええ、しかもそれだけじゃありません。ソロ討伐での推奨LV05の敵を相手に、LV01で挑んでるんです」

「スキルが……なるほど、ヒールと瞑想なら、このボス相手ならやれない事はないが、まさか3つ目に採掘用のスキルを選ぶとは」

「ええ。無駄です。どうせなら遠距離の魔法を選択すれば簡単に勝てたんでしょうが、おそらく魔法無効を恐れたんでしょうね」

「〈始まりの森〉のボスに不遇職が出るような真似はしない」

「そこまで見切れなかったんでしょうね」



『ディッグディッグディッグディッグディッグディッグディッグディッグ―――――ッ」



 今もスライムをかき分けるネコミミメガネの少年をウィンドウ越しに観測しながら、ゲームマスターである私は、彼が何かを為すだろう期待に胸を躍らせた。


「さぁて、この子は勝てますかね」

「分からんさ。そういうゲームだからな」


 言えることはひとつ。

 不可能はありえない。






 £






「ったく、さすがにもうくたくたなんだが!」

「いやーまさか〈始まりの森〉がこんな大きな迷路になるなんて予想もしてなかった」



 二人組の男、ティックとトックはベータテスターとして、サービス開始前からこの世界を旅したことがあった。

 アバターはその時から引き継がれ、LVはどちらも10を容易に超えている。エンカウントするスライムなどは話にならず、サービス開始から現在まで、もうすぐで4時間――ゲーム内時間にして8時間もの間〈始まりの森〉を彷徨い続けていることになる。


 どちらも戦闘職ゆえ回復スキルがないためアイテム頼りで回復して、これまで延々とマッピングを重ね、行き止まりに直面してはルートを変える作業を延々とやってきた。


「でも」

「ああ、もうすぐで終わりだ」


 そのくまなき努力と『外れ』の道全てを通ってきたことによって、ゴールがすぐ側までやってきていることに気がついている。森は正しく迷宮が如く、初心者プレイヤーたちにとって初めての冒険となるように無数の仕掛けが施されていた。ギリギリ死ぬことはない鬼畜仕様だが、パーティを組むことによってその困難は一気に改善されらようになる。


 ようは、この世界はそういうコンセプトだと運営側は知らしめたいわけだ。そう結論を導くくらいには、二人はこの〈始まりの森〉で彷徨ったのだ。


「それにしてもソロプレイは諦めろなんて、ふつうのVRゲームじゃないよな」


 なにもなかったところから出現――ポップされたスライムを手持ちの小刀で薙ぎ払い、何事もなかったようにティックは『地図』スキルによって出したマッピングウィンドウを眺め言った。


「前の〈アナザー・ワールド〉だって、一人でも余裕なステージばっかだし。ていうか、それがふつうだろ」

「そうだね。でももしかしたら、このステージ全体こそがチュートリアルとして用意されたものかもしれないね」

「どういうことだ?」

「パーティプレイってやつの取っ掛かりって言えばいいのかな? ほら、こんなステージならみんな嫌でもパーティを組みたくなるんじゃないかな」



 トックの予想は的を得ているように思えた。

 ストンと言葉を受け入れたティックはマッピングウィンドウの位置を確認して、正規ルートへたどり着いたことをトックに伝える。

 休憩のために近くの木のオブジェクトに身を寄せた二人のもとへ二つの影が現れた。


「あら、先客がいたみたいね」

「どうも」


 神官服を着た妙齢の女プレイヤーと、まだ幼さを残した少女プレイヤーのパーティだった。

 頭を下げる少女とそばで微笑む女神官を見てティックとトックは顔を見合わせ、交流を図ることにした。


「こんにちわ」

「さては君、学校サボったな?」

「サボりじゃないですよ。たまたま創立記念日が被っただけです」


 突然の物言いに少女はぷいと顔を背け、頬を膨らませた。

 可愛い子に弱い社会人二人は慌てて謝り、それを許すやり取りまで見守っていた女プレイヤーが少女と小声で何かを相談する。


 気になる男二人はそば耳を立てようとしたが、聞く間も無く道端会議は終わったようで、「いいと思います」の言葉で締め括られた。


「おい、まさか可愛い顔してPKはないよな」

「違うわよ。あなたたちベータテスターよね?」

「そういう君たちもだろう?」


 恐ろしく難解な迷宮の森ではある程度の慣れとスキルが必要になってくる。手数は多い方が有利なので、二人組でここへ辿り着ける時点でほぼほぼテストプレイヤーあがりであることはティックとトックの両名とも認識していた。


「そ。ボスがどんなのか分からないし、私たちじゃあまり火力がないから臨時でパーティを組まない?」

「もちろん。回復役がいるのは大歓迎だ」

「えー、私はいらないんですか?」

「そんなこと言ってないだろ」


 女神官がウィンドウを操作して、ティックとトックの前にメッセージが転送されてきた。


【シロップからパーティ申請が届きました】


【承認しますか?】


 二人は揃ってYESを押し、臨時で四人のパーティが結成されることになった。


「私はもう分かったと思うけど、シロップで」

「私はハピーです」

「僕はトック、こっちがティックでリアルでは兄弟です」

「へー、兄弟でテスターだったなんておじさんたちついてますね」

「お兄さんと呼びなさい」


 ティックの言葉に一度会話は止まり、一度間が空いて四人揃って笑い合った。


「そんじゃまぁ、今日はよろしく」

「ええ、こちらこそよろしく」

「ベータの時は途中でパーティを組むなんてなかったから新鮮だな」

「そうそう。ひたすらレベリングして固定パーティを組んでって空気だった」

「私はソロプレイでしたよ?」

「じゃあ二人は今日知り合ったのか?」

「そんなとこです」


 四人は会話しながら、正規ルートを真っ直ぐに進んだ。

 マッピング情報が正しければ、このステージ〈始まりの森〉は外形が円になって囲まれている。

 入り口から真反対側、つまりこの辺りが残された出口近くであり、おそらくはもうすぐミッションの指す〈始まりの森〉のボスが出る頃合いだと気を引き締める。


「おっ、ついに出口だ」


 進む先に見えた開けた場所を見つけて、ティックが小刀を構えた。トックたちも戦闘準備は入り、すぐにでも対処できるようにティックに倣った。


 だが、それも先行したティックが足を止めたことで、全員、体制を解くことになる。


 ティックが縫い付けられるようにして見入る視線のその先。追うようにして見たトックたちは目撃した。




「はぁああああああああああッ!!!!」



 繰り出されたのは、二振りの神々しい剣。

 年季を帯びたマントを靡かせて、少年は前へと止まることを覚えない。


 迎え撃つのは、常軌を逸した巨躯のスライムだ。

 まるで大砲のようにその身で少年を穿とうとし、ちょうど接触する瀬戸際の場面だった。


 交差した直後、片方は光のポリゴンとなって消滅した。

 残ったのは一つの影だ。

 ネコミミがやけに目立つ。

 メガネが反射した光で白く染まり、煌めいた。

 両手のでかい肉球で瓜二つの神秘的な銀剣を握る姿は、あまりにも衝撃的だった。




「……先、越されましたね」


 少女、ハピーが口を開いたのは、しばらくしてのことだった。

 少年の頭上に【stage clear】の表記が出された後、近くに出た魔法陣に乗り込むと姿を消し居なくなった。

 その後、ステージ外から巨大スライムが飛び跳ねながらフィールド中央にやってきて、その場で果たす役割のため鎮座した。


 システムメッセージが送られてくる。


【〈始まりの森〉が『マナブ』によりクリアされました】


【グラン平原が12時間後に解放されます】


「だぁ! マジか! 後もう少しで俺たちが最初にクリアできたのに!」

「しかもソロでファーストクリアって、なんのスキル構成なんだ?」

「あの子もベータテスターかもね」


 ハピーは直前で最初期攻略の栄誉を取られたことに悔しそうにする大人たちを他所に、どこか熱を浴びた吐息を孕んで口ずさんだ。


「『マナブ』くん……マナブか……」


 繰り返し名前を呼び、頭に刻みつける。



「うん、あとで会いにいこっと」




 £





「おいおい、信じられないな。まさかとは思ったが、現れやがった」



 始めは、クリアされてしばらく呆然としていた。

 だが、それが現実であることを知り。

 叶わないと思いながら尚も願った望みが成就したことは対する興奮が、一人の男の身を焦がした。



「俺たちのゲームに、英雄が生まれたんだ!」








 £






「は? ステージクリア? えっ、これ乗らないとダメ? まだチュートリアルの途中なんだけど……」





一人称も現在検討中。

この話書いてて思ったけど、流石に主人公ヨイショが強かった。

でも続きますけどね、はい。

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