04.ガチャ爆死の奇跡
大きな伏線をはりました。
バレバレです。探してみてください。
とあるベータテスターは無謀にもガチャの排出率を割り出そうとしたことがあった。
キャラクターメイクの時点で運性にポイント極振り。ステイタスポイントもすべて運性に捧げて、その数値とガチャ排出率との関係性を見出そうとしたのだ。
結果は――無駄であった。徒労に終わった。
そもそも、運性はガチャに関係なかったのである。考えれば当たり前だ。もし、ステイタスの運性が関係するのなら、運性10であるプレイヤーたちはガチャをする行為を愚かとして課金など絶対にしないだろう。
そんな金蔓をみすみす逃す行為――運営側が意図するわけがなかった。結局、そのベータテスターの努力は報われる事なく、サービス開始と同時にガチャ排出率も開示されることになったのだった。
UR…1%
SR…9%
R …30%
N …60%
のちのプレイヤーたち――シングルタイトルからの系譜者たちも口を揃えて言った。
やっぱクソじゃねーか、と。
£
「いでよ! ウルトラレア!」
ガチャに大々的に宣伝されてある「UR:勇者の剣」を願い、僕は1000ベリカを消費して11連ガチャを回した。
ウィンドウが開き、ガチャ演出によって11個のカプセルが排出して、ひとつひとつが豪華な演出で開けられていった。
N:スキルオーブのかけら
R:投げナイフ
N:綺麗な石
N:同情ポイント100
R:偽剣エクスカルバー
N:ネコミミカチューシャ
N:スキルオーブのかけら
N:お洒落なメガネ
R:赤色マント
R:しんじゅ
「……うがぁああああああ!!!!」
これが噂に聞くガチャ爆死か!
クソだくそ! 1000ベリカも支払ってほぼノーマル。しかも大半がコスプレセットじゃないか! 同情ポイントってなんだよ! 友情ポイントとして使うことができる? ぼっちプレイヤーを煽るなよ運営!
「残り1000ベリカか……もはやドブに捨てる行為に思えてくるから不思議だ」
とりあえず装備できるものは全部装備しよう。
頭 :N:ネコミミカチューシャ
N:お洒落なメガネ
背中:R:赤色マント
武器:R:投げナイフ×2
R:偽剣エクスカルバー
アクセサリー:R:友情の指輪
「……胡散臭い」
というか、この「R:偽剣エクスカルバー」が見た目だけ「UR:勇者の剣」とそっくりなくせして性能は鉄の剣と同等って説明が書かれてて詐欺っぽいんだが。
ダメージ時に力+5の性能が鉄の剣ってことは理解したけど、投げナイフも同等の性能なのでリーチが長いくらいしか特筆する事はない。
他の装備にしてもステイタス補正は一切ないからコスプレセットと言っても過言ではなかった。
「とにかく次だ次。次がラストチャンス。見てろよ雑魚スライム。ここからが僕の本当の実力だ」
遠くで鎮座して動かない雑魚スライムを傍目に、僕は震える指でもう一度11連ガチャを回した。
所持金が0と無一文になり、これが本当のラストチャンスだ。信じるものは救われる。そんなものはまやかしだと常々思っていたが、ここはシステムによって成り立っている、運営という名の神が実在する世界なのだ。
藁にもすがる思いでURを願った。
そして、本当に藁にすがっていた事実が突きつけられた。
N:木の盾
N:スキルオーブのかけら
N:同情ポイント100
R:偽剣エクスカルバー
N:スキルオーブのかけら
R:ウサギの人形
N:同情ポイント100
N:木刀
N:肉球手ぶくろ
N:木の杖
「大爆死、だと……?」
しかもさっきよりRが少ない。
同情ポイントなんて2倍で惨めだ。
偽剣なんて二つ目だし、いっそのこと二刀流の偽勇者にでもなってやろうか。
装備を新しく変更する。
頭 :N:ネコミミカチューシャ
N:お洒落なメガネ
背中:N:古びたマント
手 :N:肉球手ぶくろ
武器:R:投げナイフ×2
R:偽剣エクスカルバー×2
アクセサリー:R:友情の指輪
出来上がったのはパチモンネコミミ勇者だった。
古びたマントで歴戦の勇者の貫禄があるけど、性能クソ雑魚だ。武器全てがスライムの体内に埋まる心配が無くなっただけで勝てる見込みが出来たわけではなかった。
仕方なくさっきから気になっていた「スキルオーブのかけら」とやらを確認してみるが、五個集めると初期スキルをひとつ獲得することができるみたいだったが、一つ足りない。
「くっそ……ここで僕は終わるのかっ」
偽剣を突き立て、僕は大きな壁にぶつかった勇者みたいに膝をついた。ロールプレイングである。スライムを魔王に見立てているあたり見た目同様ただの道化だ。
仕方なく何かないかとログを漁るが、ログインボーナスはまだ現れないし、プレゼントもなし。課金ガチャはクレジットをヘッドギアの設定に登録していないので使えず、もはや諦めるしかないように思えた。
だが、アイテム欄を開いた時――そこにはガチャ爆死の奇跡があった。
同情ポイント300
「うおおおおおおおっ!? きた! 奇跡だ!」
友情ガチャ一回回すために必要なポイントに代替することができる!
首の皮が一枚繋がった。
九死に一勝を得た。
深淵に一筋の光が差し込む思いだった。
同情ポイントをタッチ。
【同情します】
うるさい。
【友情ポイントに変えますか?】
YES。
慌ててガチャのタスクを開けば、そこには友情ガチャ一回引くためのボタンが復活していた。
「すぅ……はぁ……」
まて、僕よ、まずはおちちゅけ。
深呼吸をして覚悟を定めて、渾身の力を込めて僕は最後の希望を求めた。
「こいっ!」
出てこい!
あの貫禄ある雑魚スライムを倒せるような、そんな秘密兵器よ!
神は死んだ。今度は藁にすがらず、最後の可能性に僕はこのゲーム人生を賭けた。
雑魚スライムを倒せない僕なんて、この世界で強くなれないだろう。
そんな思いで引いたガチャは――。
ウィンドウにガチャが回される演出が出る。
ウルトラレアの排出はない。最高でSR。果たして出てくるのは一体なんなのか。
全集中を向けた視線の先で、カプセルが今、開かれた。