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第四話:覇王の戦い

ここから本格バトル


 春夜が始まりの覇王。

 その事実にアキとカオスヘッド達は試合が再開されても動けずにいると、村正が背後の推進器を吹かし、火銃『日暮』で前方のEA(エレメント・アーマー)部隊を次々と撃ち抜いた。


『頭部が撃たれた!? 前が見えねぇ!?』


『迎撃だ!? 迎撃しろよ!?』


『ダメだ足が撃たれた!? 誰か援護しやがれ!?』


 四ツ目の無属性EA『ネムレス』――性能はそこまで高くはないが、それを補う拡張性・汎用性により武装を多く持ち、場所を選ばないのが特徴の機体。

 

『またやられた!?』


 棒立ちなのだから当たり前だ。狙わない理由がどこにあると、春夜は次々と無防備なEAをロックオンし、更に撃ち抜いた。


『マズイ! 早く反撃だ!』


 頭部や足を撃ち抜かれて援護を要請する『双炎の魔王軍』の者達だが、その間に隙が出来た事で村正は加速し、部隊の中央に回転しながら滑り込んだ。


『えっ、速――』


 反射的に銃口を向けたが、村正の両手には銃ではなく腰の二本の太刀――『望月(もちづき)』と『盈月(えいげつ)』が握られていた。

 それを回転斬りの要領で滑り込むと、村正の半径にいたEAは斬られ、そのまま5機が沈む。

 すると余程のパニックになっているのか、オープン回線で叫び声が木霊する。


『やべぇぞ!! 5機のEAがあんな速攻で!?』


『う、撃て! 相手は1機だ、弾幕を張れ!!』


 3つの小隊――計15機の内の一人が自棄気味に叫ぶと、それを皮切りに一斉に武器を村正に向けて来た。


『弾幕重視で狙いが酷いな……』


 大型のマシンガンを両手で、標準のマシンガンを二丁、更には改造した3口もある巨大バズーカすらも投入して弾幕を張るEA。

 だが春夜は無意味な弾幕に怯む事はせず、接近の為にペダルを踏み込んだ。


『射撃に自信がないならロックオンはするべきだ……』


『うおっ!? こっちに来たぞ!』


 再び『日暮』に持ち替えて突撃を行い、村正は弾幕を掻い潜って構えた。


『駄目だ当たらねぇ!?』


 村正を左右に高速移動させているので敵は照準が間に合わず、適当に撃つバズーカの爆煙も利用した事で命中率は更に下がっている様だ。

 そして一定の間合いに入ると、村正は敵の大型バズーカに照準を合わせ、それを撃ち抜いた。


『ぐあぁッ!!? や、やりやがったな……!』


 バズーカが誘爆して大きな爆発を生み、そのゲアーノスは右腕を肩ごと失う。

 だが戦意は失っておらず、左手で腰に収納していた出刃包丁の様なブレードを抜いていた。 


『オレが接近戦をするから誰か一緒に来い! 残りは援護射撃だ!!』


 その言葉にもう1機のゲアーノスが青い斧『アクア・アックス』を持って後ろに並び、2機は事前に無理矢理取り付けた両足のホバーを起動させる。


『一気に行くぜ!』


『後方部隊も撃ち続けろ!』


 突然スピードを上げた事で不意を突いたつもりの2機に、後方からは3機が援護射撃。

 そして他の小隊も距離を詰めながら射撃を開始。


『これで負けるかぁ! オレ等は『双炎の魔王軍』だ!!』


『――俺だって覇王だよ』


 総力戦は知らなかったが、それでも集団戦は世界大会の予選で経験済みだ。

 しかも形だけの連携で、数の優位だけで保っているメンタルは脆い。


『数の利も活かせてないよ?』


 春夜は冷静に操作し、接近する2体と自分を重ねた。

 すると後方のEAは引き金を止めてしまい、これで堂々と村正は2機との接近戦へ挑める。


『これで正々堂々だ』


 再び太刀二本に持ち替え、そのまま村正を加速させた。

 2機のゲアーノスも受けて立つと言わんばかりに加速し、最初の1機がブレードを正面に向けながら突っ込んでくる。


『貰った!!』


『フェイント無し……流石に嘗めたな?』


 加速を利用しただけの突きに対し、村正は僅かに身体をズラして刀をだけを構えた。

 それにより向こうの攻撃は回避、だがゲアーノスは己の加速が仇となって回避出来ずに真っ二つとなり、上半身は大きく転がって動きを止めた。


『貰ったぁぁぁ!』


 そこにもう1機が迫る。

 そのゲアーノスも『アクアアックス』を振り上げながら突撃してくると、持ち手が長い分、振り上げる時の隙は大きい。

 そこを突き、村正は一瞬だけ加速させて横切ると、振り下ろした時には村正は背後を取る。


『そんな後ろ――!』


『対応が遅い』


 望月を振り下ろして左腕を斬り落とし、ゲアーノスの振り向き様に右腕も落とすが、村正は望月だけを鞘へと戻してゲアーノスを掴み上げた。


『さぁて一気に行こうか……!』


 集団戦で突破するならこれに限る。

 村正は両腕の無いゲアーノスを盾にし、後方の3機のネムレスへと加速した。

 だが3機は仲間のEAでも容赦なく撃ってくる。


『敗北者に価値はねぇ!』


 まるで根競べの様で、そして直進している事もあって敵も狙い易いらしい。

 先程とは違い、的確に当てて行るので、装甲の厚いゲアーノスも徐々に破損個所が増えてゆく。


『仲間なのに容赦なし……まるでCPUと戦ってるみたいだ』


 少しは戸惑いを見せてくれると思ったが、そんな事もない。

 そこまでして自分に鬱憤を晴らし、アキと自分のEAが欲しいのかと、春夜は彼等の()()()()()()()に同情しそうになった。


『……まぁでも、楽しんでいる誰かを陥れる。プレイヤーとして許す事はできないな』


 アキ達は純粋に楽しんでいた。リヴァイアサンを当てた子もそうだ。

 このEAWスタジアムに最初は来ても対戦するつもりもなかったが、士郎やアキ達の姿を見て気が変わった。

 純粋に楽しむ姿を見れたからこそ、久し振りに自分もプレイしたくなった。


『……だからこそ、まずはこの誰も望まない理不尽な試合を終わらせる』


 春夜はブーストの容量を設定しペダルを一気に踏み抜くと、ゲアーノスという質量の体当たりが生まれる。

 そして村正のスピードに付いていけない1機のネムレスはそのまま衝突され、マシンガンはヘシ折れ、装甲は本体ごと破損して停止する。


『――次』


 残りの2機へもゲアーノスを盾として向けると、ハンドガンを構えたネムレスのプレイヤーが苛立ちで叫んできた。 


『ち、畜生! ふざけやが――』


 けれどその叫びは最後まで言うことが叶わず、機体はLOST判定を受ける。

 盾にされたゲアーノス。その背後から十文字槍『霜夜(しもよ)』を突き刺し、ネムレスごと貫いて勢いのまま横薙ぎし、もう1機も斬り裂いたからだ。



♦♦♦♦



『す、凄い……』


 参戦して僅か数分で、もう14機も一人で撃破。

 そんな村正の動きを見て、アキは驚きのあまり操縦をする事を忘れてしまう。

 まるで自分がプレイしている事すら忘れさせる強さ。


『被弾も全くしないなんて……』


 自分は奮戦した方だが村正は被弾もしておらず、操縦技術の粗が見当たらない事でアキは認めるしかなかった。


『本当にあの人が……始まりの覇王』


 本当に7年近く公式から姿を消していた始まりの覇王がEAWスタジアムを訪れ、しかも自分達が一番近くにいたなんて。

 しかもあろう事か、最近のルールや追加要素を偉そうに教えてしまって逆に罪悪感すらある。


『アハハ……なんか不思議』


 気付けば涙は消え、始まりの覇王に抱いていたギャップもあって笑顔が零れるが、正反対に顔を真っ青にしている者もいた。


――それは勿論カオスヘッド。


♦♦♦♦

 

 カオスヘッドは青ざめていた。

 モニターに映る部下が次々とLOST認定されている事もそうだが、同時に村正の装備も()()()()()()()()()


――四季シリーズ。それは 世界大会の優勝賞品で唯一無二のシリーズだった。


 春と夏の太刀『雷火・春塵』・大弓『海霧(かいむ)

 秋・火銃『日暮・秋蝉』

 冬の十文字槍『霜夜』

 そして甲冑を中心とした追加装甲『四常天現(しじょうてんげん)


 スマホの()()()()()()を見て確信し、歯がガチガチと鳴りながら震えてしまう。

 そもそも分かる筈がない。。始まりの覇王は優勝してすぐに行方を暗まし、公式戦には一切出ておらず、四季シリーズも日の目を見た事がないからだ。


 だが、それよりも()()と思わせるパーツが更にあった。


 覇王だけが持てる()()()()()()()がある。


――『光属性』と言われ、春夜のは二刀流太刀『望月(もちづき)』と『盈月(えいげつ)


 無属性を除き火・水・風・地・雷と言った相性の関係があるが『光』にそれは適応されない。

 世界に7人しか所持していない伝説の属性武器だが、カオスヘッドはそれがレアパーツでも頭がいつもの様には動かなかった。


『ほ、本物だ……今のEAWの礎を築いた伝説のプレイヤーじゃねえか……!』

 

 まずい。とんでもない人物を敵にしてしまった。外の様子からして事態は大騒ぎなっている筈。

 冷や汗を流しながら息を吞み、自分達の()()()からの言葉も思い出してしまう。


『また問題を起こしたのかいカオスヘッド? 流石にこれ以上は無能の罪を庇うつもりはない。――もう余計な事をすれば()()()()()?』


――()()()()()()()()


 丁寧な口調の中に混じる冷たい感情。

 それを思い出すだけで怖く生きた心地はなく、最近は転売対策も強化されてレアパーツや金も献上できていない。

 

『たしか雇い主は……始まりの覇王を含め、他の覇王に手を出すなと言っていた。だがこうなっちまったらどうすれば――』


『リーダー!! 指示をくれ!?』


 突如入った通信にカオスヘッドは我に返って見ると、モニターには更に5機が尋常ない速度でLOSTになっており、その異常さが逆に冷静させてくれる。


『そうだ……やるっきゃねえ。始まりの覇王のEAを持っていけばチャンスはある……!』


 逆境こそ本質が問われる。ここで終わりたくはない。

 必ず生き残り、結果をだしてやる。

 始まりの覇王といえど、確実に数の利を活かせば何とかなると判断し、カオスヘッドは指揮を取った。


『残存部隊は一回下がれ! つうか狙撃部隊と後方部隊は何やってやがった!?』


『覇王が速過ぎてスナイパーは撃てず、後方部隊も友軍と重なって撃てないと――』


『カカシじゃなきゃ撃てねぇのか!! 数の利と状況を見ろ! 覇王は足止めで良い……まずは()()の方から仕留めろ!!』


 カオスヘッドの怒号により『双炎の魔王軍』の標的が再びアキへと向けられ、ヘルイフリートの傍にいた予備の2部隊がアキの方へと向かって行く。


♦♦♦♦

 

『また来た……!』


 再度の来襲にアキは気付き、紅葉をゆっくりと立ち上がらせて構えた。


『あの人が味方になってるんだから……私だって無様な所ばかり見せたくない!』


 紅葉の各種チェックを行うが、やはりダメージは大きく多少の修理が必要だ。

 修理が出来る支援EAがいればとも思ったが、それでも右腕と右サブアームで刀と薙刀を持って応戦しようとした時、春夜がアキの様子に気付いてくれた。


『狙いを再び変えたか……前に出過ぎたが、すぐには戻れないかな?』


 すぐにでも戻りたかったが、村正の視界には残存部隊もいて背中を見せる訳にはいかない。

 しかし、だからといってアキを見捨てる気もないようだ。


『EYE!――サブEAを紅葉の傍に呼んでくれ』


『了解しました。登録サブEAユニット『桜雲(おううん)』を投入します』


 EYEの言葉と共に、紅葉の傍に新たに1機がフィールドダイブしてくる。

 それは人型ではなく『黒馬型』のサブEAユニットだが、鬣は桜の様に綺麗な桃色をしていた。


『ブルル……!』 

 

 それは本物の馬の動きをしながら紅葉の傍に近付くと、アキのモニターに詳細が表示される。


『サポート用のEA『桜雲』……って、これって『先駆(さきがけ)』シリーズ!? 第一回世界大会の予選突破の上位4名に与えられた補助専用EAじゃない!』


 もうアキは胸が一杯だった。

 動物の形をした補助型EAは販売されているが、希少価値と価格も高い為、まだ一般にまで浸透できていない。


「先駆シリーズか……思い出すな」 


 そんな桜雲の登場に会場の熱も一気に上がり、士郎も直に見た決勝を思いだしていた。

 また春夜を始まりの覇王と疑う者は誰もおらず、3階にいるティアの表情も変わる。


「桜雲……間違いないわ。本当にあの人だわ……!」


 見間違う筈がない。嘗て決勝で激闘を繰り広げたのは自身なのだから。

 感情のない表情で、氷の様だったティアだが春夜が出て事で表情が変わった。

 嬉しそうに笑っているのに、何故か涙が溢れてしまう。


「……お嬢様、大丈夫でございますか?」


 心配したセバスがハンカチと共に声を掛けると、ティアも受け取りながら静かに頷いた。


「えぇ……ありがとう。――でも、ちゃんと見届けなきゃ。7年も待ったんだもの」


 力強く頷くティアだけではない。士郎も、ムラサキも、時雨達だってそうだ。

 当時、15才程の少年が魅せられてEAWを始めた者も多い。


――始まりの覇王――その意味は多くの意味を現しているのだ。


 そんな待望の戦いをモニターで見守る中。

 桜雲の肩からサブアームを現れると、近くに落ちている紅葉の腕を拾い、紅葉本機の修理を行い始めていた。


『凄い……修理も出来るんだ』


 アキは7年前の機体なのに修理機能がある事に驚くが、驚くのはまだ早かった。


『目標発見! 修理してる間に撃破するぞ!』


『高機動型ケアーノス部隊が前にでる! ノーマルのケアーノスとネムレスは援護してろ!!』


 修理している紅葉へ追加の部隊が接近、その数は12機。

 その内の4機はホバーが付いているケアーノスで、残りはバズーカやミサイルポッド等の重撃装備のケアーノスとネムレス。

 先行する4機を援護する様にミサイルポッドを上空へと一斉に発射し、ミサイルはそのまま紅葉達の下へと降り注ごうとした時だ。


『ブルル……!』


 桜雲の鬣が発光した直後、紅葉と桜雲を包む様に桃色のシールドが展開。

 ミサイルはシールドに直撃するが、爆煙が晴れても紅葉と桜雲には傷一つなかった。

 

『シールドまであるの!? さすがにこれはカスタマイズしたからよねぇ? そうじゃなかったら不公平すぎる……』


 サポート用EAの筈なのに何故か自分の紅葉と比べて敗北感を抱いてしまうが、そんな事を呟いた頃には左腕、そして各部分の修理が完了していた。

 流石に一部は装甲が剥がれていたが、開けた着物の様なデザインとなって色気があるので良しとしよう。


『これはこれで良いかもね……とりあえず、ありがとうね桜雲!』


 紅葉を立ち上がらせながらアキは桜雲にお礼を言うが、桜雲は無反応のまま左右の股部分から属性付与ビームキャノンを出し、迫る部隊へと砲撃を開始。

 どうやらプライドの高い性格の様だ。


『お安くないのね? でも、これじゃ私の仕事がなくなっちゃうわよ』

 

 アキは砲撃されている敵を見て、どこか同情する様に呟いた。

 太く、そして弾速も速い事もあって直撃したネムレス5機は一瞬で撃破されており、装甲が厚い地属性のケアーノスだけが耐えている。


『ば、馬鹿な……! サポート用EAにどんなカスタマイズしてんだ奴は!?』


『風属性だったらケアーノスでもヤバかったぞ……! 現に今もダメージが40%を超えちまった!?』


『良いから突っ込め! 俺等の高機動型は無傷だ! 俺等が一気に翻弄し、そこを狙い撃て!』


 ホバーを駆使した高機動。

 それで回避した4機は一気に加速し、残りの中破した3機は足を止めてミサイルポッドとマシンガンを構えていた。


『馬へは牽制! あくまでも目的は女だ!! 隊列を揃えて一気に接近戦で決めるぞ!!』


 先頭を走るケアーノスの命令に従い、他のケアーノス達も持ち手が長いアックス、カトラスの様に刃が広い武器等を持って紅葉へ接近する。


『良し! レアパーツ貰――』


 瞬間、先頭を走っていたケアーノスの頭部に薙刀が突き刺さる。

 その直後に紅葉が飛んで来ると、強引に引き抜いた事でケアーノスは大破。制御不能となった速さによって岩にぶつかって停止する。


『うるさいわよ……! 誰かから何かを奪う事しかしないあんた達なんかに……もう負けない』


 紅葉は薙刀を収容すると、今度は刀を二本抜く。

 片方は加具土命であり、その刀身からは徐々に炎が発生して刃を包み込んでいた。


『まずい止まれ!』

  

 1機がやられた事で急停止する3機のケアーノスだが、その直後に後方から爆音が発生。

 アキもレーダーで確認すると、残りの3機がLOST判定を受けていた。


『ブルル!』


 犯人は勿論、桜雲。

 銃身から煙を出しながら佇んでおり、これで残りは自分達を含めた3機だけになった事で思考が停止するが、それを見逃すアキではない。


『棒立ちしてんじゃないわよ!!』


 紅葉は推進器を吹かし、1機のケアーノスを加具土命で胴体を斬り裂いた。

 すると2機も我に返った様に動き出して紅葉に突っ込んでくるが、衝動的な動きを見切り、頭部に刀を突き刺されて最後は加具土命で斬り捨てた。


『ありえねぇ……! 火と地属性はほぼ中立の関係なのに、なんで属性相性が違うのにケアーノスが……!』


『あんた達の場合は属性相性以前の問題よ。機体を大事に使ってないから、パーツやフレームにガタが来てケアーノスの性能を活かせないよ』


 連中のEAはあまりに脆い。無理な改造や扱いで、EAを全く大事に扱っていないからだとアキは確信していた。

 だから属性相性関係なく簡単に撃破できるのだ。


『そうだ……春夜さんは?』


 アキは村正を探すが心配は不要だった。

 遠くにいた村正の動きは凄まじく、大きな弓で狙撃型のネムレスを仕留めていた。

 周辺にもケアーノスの残骸が散らばっており、その姿をアキは学ぶ様に焼き付けた。


『やっぱり……射撃も上手くないとダメなのかなぁ』


 アキ自身はそこまで射撃の腕は良いと思っていない。

 目の前の連中相手には通用するが、上級者との戦いで接近戦を封じられた時には優勝を逃す事もあった。

 だが春夜は弓でスナイパーを撃破しいて、覇王と呼ばれるならばオールラウンダーを求められるのかと思った時だ。

 

『そこだ! やれ!!』


 オープン回線から響くカオスヘッドの怒号。

 その声に気付くと、スナイパーを撃破して棒立ちの村正に2体のケアーノスが岩陰から飛び出し、奇襲を仕掛けていた。

 しかも、その手にはスタン武器『サーペント』が握られている。


『!――あぶない!?』


 アキが叫んだと同じタイミングでサーペントが放たれるが、村正が動いた。

 機体を最低限に動かし、推進器も微調整の様にして素早く相手の懐に潜り込む。

 その際に肩の甲冑に掠りはしても普通に動き、そのまま両腕の刀を抜いて斬り捨てた。


『……うそ、どうやってサーペントを?』


『スタン武器は相性もあるけど、掠った程度では基本的にはスタンしない。一定時間、相手に接触させないと効果はないんだ』


『ヒャイ!?』


 独り言のつもりで言ったアキだったが、それは春夜に聞こえていたようだ。

 優しい口調で春夜は教えてくれて、思わずビックリして変な声が出てしまった。

 

『いやぁ、やっぱり自分で蒔いた種は自分で始末しないとね。無事で良かったよアキちゃん……でも、ヒャイか。――可愛い声だね』


『~~ッ!? わ、忘れてください!』


 恥ずかしさで悶絶しそうになりながらも、通信しながら桜雲と村正の所まで来て合流を果たす。

 そして目の前の貫録があるEAを見て実感してしまった。


『……春夜さんが始まりの覇王だったんですよね?』


『周りはそう呼んでいるね……でも、その話は後にしよう。――もう随分と倒したけど、この総力戦ってどうすれば終わるの?』


『えっ?……あっえっと色々と変わる時もあるんだけど、今回はリーダーのプレイヤーを撃破するのが勝利条件みたいです』


『そんな感じか……』


 その説明を聞いて春夜はレーダーを見たので、アキも同じ様にレーダーを確認。

 すると、少し離れた所に6機程の集団を見付けた。

 周りの反応もなく、先程から騒いでいた事もあってすぐにヘルイフリートだと分かった。


『成程、じゃあ行こうか』


 桜雲に跨る村正は紅葉に手を差し伸べた。


『えっ!? そ、その……良いんですか?』


 なんか気恥ずかしく、アキはコアの中で顔を赤くしてしまう。

 白馬でもなければ王子でもなく、真逆の黒馬と覇王だがそれでもなんか照れくさい。

 すると、春夜も通信越しで見ていたのか笑っていた。


『ハハ……そんな気にしなくても良いよ。――それに、やっぱりアキちゃんも自分で仕留めなきゃ気が晴れないだろ?』


『!……もちろん!』


 インターハイ優勝は伊達ではない。今回の借りを返さなければ納得できず、紅葉は村正の手を取ると桜雲へ一緒に跨すと走り出した。



♦♦♦♦


その頃、当のカオスヘッドの精神は限界寸前だった。 


『ど、どうなってんだよ……! なんでたった2人に『双炎の魔王軍』の部隊が……40機以上はいたんだぞ……!』


 最早、何とかなるで済む話じゃない。根本的な力の差だ。

 しかもチームのEAやパーツは“組織”から貰った物が多く、謂わば支給品。

 多少は破壊されても文句は言われないが、たった2機に相手にやられ、しかも何の成果も得られなかったでは済まない。


『マズイ!? やられてる!!』


『リーダー指示をくれよ!!』


『テメェが仕掛けた戦いだろうが! とっとと指揮しろや!!』


 己の内心を知ってか知らずか、感情のまま好き勝手に叫ぶ無能な部下達。

 ハッキリ言ってどうでもよく、返答する前にはLOSTしているので都合が良い。

 けれど、()()()なのは変わりなかった。


『おいリーダー! なんか言え――』


『だあぁぁぁぁぁぁッ!!! 少しはテメェで考える頭はねぇのかゴミ共が!!』


 心の限界を迎え、とうとうカオスヘッドは咆えた。

 元々、彼は手駒が欲しいだけで仲間意識は微塵もない。

 そして咆哮に部下は静まり、会場も同じく静寂に包まれると、その臨界点に達した事でカオスヘッドの()()が外れる。


『……おい、組織からテストする様に言われてた()()持ってこい』


 怖いぐらいに低い声でコアの後ろに待機させている部下に指示を出すが、部下は顔を青くしながら拒否してくる。 


「ア、アレは駄目だリーダー! まだセッティングが中途半端で、しかもフィールドに正常に読み込ませる細工もまだ――」


『いいから投入しろや! 本当の意味で死にてぇのかよ!!』


 雑魚は生き残る可能性があるが、率いる者には必ず責任が取らされてしまう。

 だから気迫が混じった声で部下を脅すと、もう自棄だと言わんばかりに部下も大き目のアタッシュケース並みのEAボックスを開けた。


『どうなっても知らねぇぞ……!』


 その中には一つのEAが収まれていた。

 通常のEAは25㎝前後だが、そのEAは横幅だけでも数倍以上あり、その異質な大きさに士郎が気付く。


「……あの大きさ、まさか()()()()()か!?」


 白金の装甲に守られたそれは、下半身は戦車の様にキャタピラと砲台が。

 上半身は両手に巨大な砲身が幾つもあり、背中に巨大なミサイルポッドを担いだゼネラル級と呼ばれる大型EAだった。 


『コイツはクールじゃねえか……!』


 部下から受け取ったカオスヘッドは歪んだ笑みを浮かんでしまう。

 EAにしては確かに感じる重量感。まさに圧巻だ。

 それをセッティングしていると、EYE04がカオスヘッドに警告を促した。


『現在、アンタのチームは追加で増援・多数の脱落者。その発生から一定時間以上経過しているから、これ以上の戦力の投入は認められませ~ん。この警告を無視した場合、アンタを含めたチーム全員にペナルティが発生するけど――』


『黙れ……死よりも上のペナルティなんてある訳ねぇだろうが!』


 甘い汁の代金を払いたくはない。

 これから楽に、そして自分だけ満足に生きる為にカオスヘッドはパンドラの箱を開けた。

 EYEの警告を無視して大型EAを投入、その詳細がモニターにも表示される。


『EG-P02ベヒーモス……迎撃用の機銃だけでも20挺以上、そこに属性付与型マシンガン・レーザー砲・ブラスト弾・ミサイル多数。――最強じゃねえか!!』


 過度なストレスにより壊れ始めていたカオスヘッドは、目の前の移動要塞とも言える『ベヒーモス』のスペックを見て歓喜する様に天を仰いだ。

 これが本当に最後の切り札となる機体。

 奪うのは無理でも『覇王』クラスとの戦闘データならば許してもらえる可能性もある。


『希望が出て来たぜ……! ククッ……じゃあ行くか!――P名:カオスヘッド!――ベヒーモス! 殲滅するぜ!』


 魔獣の檻は外された。



♦♦♦♦


 そして放たれた魔獣投入の影響により、フィールドやモニターにノイズが走った事で春夜も桜雲の足を止めさせていた。


『ノイズ? 様子がおかしい、新型フィールドの動作不良か?』


『でも、ここの設備はEAWの生みの親『天童コーポレーション』が作っているんですよ? 世界的にも影響を及ぼす技術なのに、大事なスタジアムのオープンに雑な仕事をするとは思えない』


『……だからこそ、だと思うけどね俺は』


 アキの言葉に表情が無意味に険しくなる。

 モニター越しでアキが心配そうに見て来るが、天童ならば平然とやるだろうという確信が春夜にはあった。

 自分がここに()()()()()()だと春夜が思っていると、EYEから通信が入る。


『システムに登録されていない違法性EAのフィールドダイブを感知しました。試合を中断し、ただ――だち――ただちに――排除――いた――し――』


『ん?……どうしたEYE?』


 EYEの異常に春夜は問い掛けるが、代わりに答えをくれたのは別のものだった。

 フィールドの空間に歪みが現れ、そこから裂くように出てきたのは巨大な戦車の様なEAだった。

 それはキャタピラを起動し進み始めると、岩や残った『双炎の魔王軍』のEAを引き潰して行く。


『蹂躙だ……覇王だろうが何だろうが全てを壊せ!』


 ヘルイフリートはベヒーモスの下半身――その空母の様に平らな車体に乗り、上半身部の真ん中にあるEA1機分のスペースへ乗り込んでいた。

 その結果、カオスヘッドのモニターにはベヒーモスの操縦詳細も表示され、EAで大型EAを操縦する事を可能にした事で本格的に起動する。


『スゲェぜ……なんてスペックだ! これだったら始まりどころか、どの覇王にだって負ける気はしねぇ! このベヒーモスならな!』


『ベヒーモス……?』


 通常のEAよりも巨大であり、それに比例する様な破格の性能にカオスヘッドは王の様な気分と共に優越感を抱く。

 そんな中、春夜とアキはEA越しでベヒーモスを見上げていた。


『驚いた……これってゼネラル級EA? なんて大きさだ、昔はレイドイベントで1回だけ実装されたけど、不具合があって結局中止になったんだよ。最近は実装してたのか……』


 巨大な敵と戦うのは浪漫。

 それが実装されているなら1回ぐらい戻れば良かったと、春夜は呑気に思っていた。


『イヤイヤ! まだ実装してません! でも現実問題、目の前にいるしEYEも応えてくれない。――ちょっと外に聞いてくる!』


 そう言って詳細を聞こうとコアから出ようとした瞬間、その手に衝撃が走る。


『っつう!――えっ……これって防犯装置?』


 幻とはいえ個室を作るコアで犯罪を防ぐ為にあった防犯装置。

 それはちょっとした衝撃を与えるものだったが、過剰ゆえに使用された事はない機能だった。

 

『どれどれ……?』


 アキに続いて春夜はポケットの小銭を一枚取り出し、外へと放り投げると小銭もコアの膜部分で弾かれてしまう。

 これで二人が閉じ込められた事が確定する。


『いやぁ~人生で初めて閉じ込められちゃった』


『なんでそんな呑気なんですか!? ちょっと! 誰かいないの!! ムラサキ~! 時雨~! 警備員でも良いから誰かいる!?』


『叔父さんがいるぞ?』


『きゃあっ!?』


 アキの叫びに突然モニターに割って入って来た叔父――士郎の顔を見て悲鳴をあげてしまった。


『えっ叔父さん!? どうやってモニターに入って来たの!? そして今、どうなってんの!?』


『まぁ詳しく教えてやるから落ち着け。――それともなんだ? 憧れの覇王とイチャついてたのを邪魔されて怒ってんのか?』


『~ッ!? イチャ付いてなんかいないわよ! 良いから教えて!』


 こんな時でも姪をからかう叔父に怒りをぶつけるアキだったが、その顔は羞恥で赤くなっていた。

 それを見た士郎の表情はニヤニヤしていたが、その影響は意外な所にも出ている。


「イチャ……ついて?」


 1階に降りてバトルエリアに来ていたティアは、今の士郎の何気ない言葉に反応し、手に持っていたコーヒーの空ボトルを握り潰した。

 無表情故に行動とのギャップが妙に怖く、その様子にセバスは静かに近付いて耳打ちする。


「お嬢様……あれは所謂、()()()()()()()()()というものです。本気に為さらぬ様に……」


「!……そう」


 セバスの言葉に再びビクッと震わすティアは何事もない様に返すが、周囲の視線は彼女の握るコーヒーボトルへと注がれていた。

 ティアもその視線に気付くと、プルプルと身体を震わせながら真っ赤に染まる顔を隠す様に俯き、後はセバスが無言でコーヒーボトルを回収する。


「今は作業員のパソコンを借りて、直接フィールドに繋げて話してんだ。どうやら警備員や作業員でもお手上げらしいからな」


 ケーブルでフィールドと繋がるパソコンを片手で持つ士郎の後ろには、警備員と作業員が肩を落としており、彼等が失敗した事は明らかだった。


『現状は分かったけど、じゃあどうすれば良いの? そもそも何で閉じ込められたのよ!』


「原因は間違いなく連中が投入したゼネラル級EAだろうな。まだ公式ですら発表していないゼネラル級……つまりは『違法EA』――ちょっと調べて見たが、そいつから特殊なプラグラムが起動し、それが悪さをして防犯装置を誤作動させたんだろ」


『つまり……どうすれば?』


 落ち着いている士郎へ、同じく落ち着いている春夜が解決策を問いかけた。

 すると士郎はその余裕に貫録でも感じたのか、小さく笑いながら答えた。


「ふっ……まぁ簡単だ。そのゼネラル級は所謂ルーターみたいなもんだ、だからフィールドにいる間はプログラムを起動し続ける。――つまり、ゼネラル級を倒しちまえば良い」


『普通に倒せば良いのよね? でも私達だけで戦っていいものなの?』


「どの道、外から参戦も出来なくなってる。だからお前達しかいないんだよ、出来るのが……」


 既に時雨達が再び参戦しようとしたが、EYEからの警告も起動も出来ず、後は檻の中の者達に任せる他ない。


「ただ気を付けろ。このデカ物……ベヒーモスって言うらしいがEC(エレメントコア)が複数ある。だから普通のEAと違って相当しぶといぞ?」


 EAにはECと呼ばれる内蔵された核がある。

 文字通り心臓部であって破壊されれば問答無用で戦闘不能となり、メンテナンスをしなければ復帰は出来ない。

 そして基本的に一つだが、ベヒーモスは大型故に複数のECで動いているのがパソコンの画面に表示されており、上半身に一つ、下半身に複数ある事が分かった。


『つまり……完全に破壊するにはECも全部壊すしかないって事か。やれやれ、まさか復帰初めての試合がこんな大物なんてね』


――これが()()()()()()


『?……春夜さん、今なんか言いました?』


『……いいや、何でもないよ』


 モニターから微かな声が聞こえた気がしたアキだったが、春夜は静かに首を振って否定した時だ。

 不意にEYEのモニターが復帰し、音声が発せられる。


『EYE、復帰致しました。今回の違法EAの投入は最も危険及び、悪質と天童コーポレーションのメインコンピューター『アリストテレス』も判断致しました。――以上の事より、私EYEが御二人をサポートさせて頂きます』


『それはありがたい……が、アリストテレスか。つまりこの件は天童コーポレーションも知ってるんだな?』


『当然です』


 EYEが即答すると春夜は小さく溜息を吐き、その様子にアキは春夜から天童コーポレーションへの()()()()の様なものを感じた。

 だが、それについて聞こうとするよりも先にベヒーモスが村正と紅葉をロックオンをする。


『見付けたぜテメェ等!!』


『――行くぞ!』


『!――は、はい!』


 カオスヘッドの声に春夜の雰囲気が代わり、呑まれた様にアキも集中させたと同時に桜雲が走り出す。  

 そこにベヒーモスの両腕――多重撃火器搭載両腕『デンダイン』が向けられる。


『くたばれ!!』


 指からは太い属性レーザーが放たれ、腕部分と下半身から機銃とブラスト弾の雨が迫る中、春夜は桜雲へ指示を出した。


『桜雲! 速度を上げろ!』


『!――ブルル!』 

 

 その指示に桜雲の速度は急激に速まり、リアルに伝わる振動やダメージ状況でもアキは必死にレバーを放さなかった。

 そして桜雲は2機を乗せたまま、巨大レーザーや機銃等の嵐の中を颯爽と駆け抜け、ベヒーモスの傍へと辿り着いた。


『させるか! 轢き殺されるかミサイルで死ぬか選びな!!』


 キャタピラが高速で動き出し、背部の巨大ミサイルポッド『ヨルダン』から何十~何百発の小型ミサイルが一気に発射。

 すると村正は手綱から左手を放し、その手に収納スペースから取り出した『日暮』の兄弟銃『秋蝉』を出現させて撃ち始める。


『桜雲、速さを維持したまま一定の距離を保て!』


 轢かれぬ様に一定の距離を取り、村正は上空に迫るミサイルへ散弾を撃つことができる秋蝉を放ち、多数の赤い弾丸がミサイルを撃ち抜いて大きな爆発を生む。


『EYE! ベヒーモスの属性を教えろ!』


『不明――スキャンした結果、装甲のEM(エレメントメタル)にも違法改良された痕跡があります。割合は低いですが、それでも光属性を除いた全属性へ一定の耐性を持っているようです』


『なにそのチート!? 制限パーツとかに指定しなさいよ!』


『だから違法なんだけどね……』


 アキへ軽くツッコミを入れる春夜だったが、EYEの話を聞いた以上はいつまでも下を走っている訳にはいかないと判断。

 属性相性は確かに大事だが、だからといって絶対的な勝利の約束はされておらず、大きな大会でも不利な属性で勝った者も多い。 


『属性耐性如きでビビっちゃ……覇王は名乗れないか。――EYE! 奴のECの場所をモニターに表示してくれ!』


『かしこまりました、モニターに表示いたします』


 モニターにベヒーモスの全体図が表示され、左右のキャタピラ・下半身上部・上半身にマーキングされた画像が表示される。


『左右キャタピラ部に各2基、下半身上部に1基の計5基。そして上半身の中央部にも大型のECを1基確認。上半身の物が心臓部と思われ、他のECは他のエネルギーを補うために外付けされたと思われます』


『外付けって……もしかしてあれ?』


 村正の後ろからミサイルを撃ち落としていたアキも、ベヒーモスの左右にあるECに気付いた。

 紅葉でロックオンして見ると、確かに大きく無骨な()()が輝いている。

 だが、それは装甲に守られてすらいなかった。

 コードや鉄板で無理矢理にくっ付け、本当に補助の為の外付けだ。


『剥き出しじゃない!?』


『普通に雑だ……案外、あれでも試作機か?』


 試作機なのは正解だが、これは『双炎の魔王軍』が組織から各ECへ装甲を張る様に言われていた命令をサボり、そこに無理矢理投入したのが原因だった。

 けれど、今はそれが都合が良い。


『なら話は簡単だ……一気に接近してくれ桜雲!』


『!――キュイーン!!』


 桜雲は大きく嘶き、命令通り一気に間合いを詰めて側面へと合わせる。

 その結果、大型故に旋回が若干遅く、ベヒーモスは動きに対処できないで機銃とミサイルで対処しようとする。


『旋回は遅いが、リロードは早いぜ!!』


 再びヨルダンから多数のミサイルを発射し、村正と紅葉はそれを撃ち落としながらアキへ通信を送る。


『アキちゃんは左右のECを頼むよ。俺は下半身に上がって上の2基を破壊する』


『えっ! 大丈夫なんですか!?』


 心配した様にアキは言うが、春夜からすれば自分の事を考えて欲しいと思っており、アキの心配は伝わっておらず、能天気な声で返した。


『大丈夫大丈夫! 君は世界で最高のEAを持っているんだ! それに桜雲を貸すし、自立型AIが搭載されてるから利口だぞ。――でも雑に使うと振り落とされるから注意してくれ』


 そう通信し終えると村正は背後の推進器を起動し、弾幕を変則軌道で回避しながら一気に上空へと飛翔する。

 これで桜雲に残されたのは紅葉だけになり、アキは敵も味方も好き勝手する現状に嘆いてしまう。

 

『そうじゃなくて!? っていうか振り落とされる!? もう勝手すぎよ! 人の心配や気持ちも考えなさいよね!』


 自棄になった様に叫ぶアキだが、外では叔父の士郎が彼女を見て頷いていたのを知らず、そのまま覚悟を決めた。  


『どの道やるしかないんでしょ! だったらやってやるわよ!! 移動はあんたに任せるからね!』


『……』


 アキの言葉に桜雲はまた無視するが、速度も動きも安定している事から分かってはいる模様。

 これで紅葉の操縦に集中でき、ECへと銃口を向けた。


『これが下半部? まるで空母だ……!』


 春夜もまた、弾幕を潜り抜けてベヒーモスの下半身の上へと着陸する。

 その上は空母の様に安定しており、周囲には機銃が、中央部には薄い装甲に覆われたECがあった。


『馬鹿な……空戦専用のEAじゃない筈なのに、なんでこのレベルの弾幕を突破できたんだ……!』


 風属性を中心としている訳でもなく、空戦型可変機でもない。

 そんな戦護村正の性能と春夜の操縦技術を目の当たりにし、カオスヘッドの興奮は嫌でも収まってしまう。    

 だが春夜自身は逆に楽しそうにベヒーモスを見上げていた。


『凄いな……違法EAでも巨大な敵との戦闘。やっぱり浪漫だ、胸が熱くなるよ』


 初めてEAWをした時の様に、大会で自分よりも格上の相手と戦った時の様に、春夜は待ち侘びていた新作ゲームを買って貰った子供みたいに楽しみで仕方ない。

 そして望月と盈月を抜くと、各推進器にも火を入れた。


『……でも違法は違法だ。今はまだ、EAWには早すぎるよそれは』


 そう呟き、村正もデュアルアイの眼光を輝かせながらベヒーモスを捉えると、カオスヘッドも気付いて思わず息を呑んだ。


『気圧されてんのか俺様が? このベヒーモスを使ってもなお!――いや、惑わされるな。所詮は始まりの覇王……ただの古いだけのプレイヤーが現役の俺とベヒーモスに勝てる訳ねぇんだ!!』


 全てにおいて通常のEAの倍以上の性能を持つゼネラル級EA。

 その大きさが長所と短所だが、ハッキリ言って他のスペックでも補える。


『負けねぇ! 負ける理由がねぇんだよ!』


 覚悟を決めてカオスヘッドはベヒーモスの武装を全て解放した。

 肩の中からは大量のガトリング砲が現れ、大きく機体を動かした事でフレームの動く音が巨大な魔獣の鳴き声にも聞こえる。


『魔獣の縄張りに入っちゃったな村正……!』


 春夜と村正、カオスヘッドとベヒーモス。

 双方の準備を完了し、唐突に戦いの火蓋は切って落とされる。


『くたばれや覇王ぉぉぉ!!』


 覇王VS魔獣――開戦。



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