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第三話:覇王再臨


 バトルエリアは現在、軽い騒動が起こっていた。

 『双炎の魔王軍』がバトルエリアを占拠し、周囲のプレイヤーを押し退けて設定を行い始めたのだ。

 理由もカオスヘッドが同じランクのプレイヤーと戦うという噂だったが、本人が現れた事で真実だと周囲が悟った中、マックスやランロ、そしてティア達も見下ろしていた。


「……『銀』同士の戦いか。これは楽しみだ」


「所詮は『銀』ですよ団長? 俺達にとっては雑魚ですって……」


 楽しみに待つマックスとは正反対で、ランロは興味なさそうに缶ジュースを飲んだ。

 そして3階のティアも同じ意見だった。


「お嬢様……どうやら『銀の騎士』クラス同士の戦いが始まるそうです」


「そう……でも興味ないわ。あの人は『銀』じゃないもの」


 買ってきて貰ったカフェオレを飲み、ティアは再び会場へと目を向けて覇王を探し始めた。

 高ランク故に余裕とも言える彼女達だが、他のプレイヤーにすれば『銀』同士の戦いは眉唾者であり、まだかまだかと興奮していた時だ。


♦♦♦♦



「待たせたわね……」


 アキ達はバトルエリアに到着した。

 春夜達を後ろに待機させてフィールドにはアキだけが向かい、それに合わせてカオスヘッドの部下達も退散し始めた。


「待ってたぜ……嬢ちゃんよぉ」


 一対一以外も可能な巨大な円上のフィールド。

 その対極の位置に佇む二人は、目の前の機械にプレイヤーカードをスライドさせ、両者の目の前に『棺』みたいな小さな箱が現れた。


「行くよ紅葉……!」


 その棺にそれぞれのEAを入れた事で準備を完了させる。

 そして専用の椅子に腰を下ろすと、アキとカオスヘッドはそれぞれ『光の繭』に包まれた。


「あれが光の繭――通称『コア』か。個室じゃなく、リアルビジョンを使って生成するバーチャルコックピット……」


「そうっす! あれだと閉鎖感も暑さや寒さも関係なく、色々と応用が効く画期的なコックピットっす!」


 時雨の説明を聞きながら春夜が新型コアを見ている頃、コア内でアキはレバー等を掴み、細工がないかチェックしていた。

 けれど細工どころか感度は良好。流石は新型のバトルフィールドだと感心した。


『凄く動かしやすい……これなら大丈夫ね。――『EYE(アイ)』!』


 アキはEAWのサポートAIを呼び出すと、コア内に形成された小さなモニターから女性の音声が流れる。


『おはようございます アキ。どの様な要件ですか?』


『向こうにモニター繋いで』


『かしこまりました』


 EYEがそう言った数秒後、コール音と共に新たなモニターが表示され、映っているのはカオスヘッドだ。


『逃げずに来た事を褒めてやるよ! それで再度条件を纏めるが、勝負は今の設定・戦場はランダムでのバトル。勝者と敗者はさっきは言った通りの要望を聞く。それで良いんだな?』


『えぇ、構わないわ』


 カオスヘッドは慢心と自惚れており、『双炎の魔王軍』が仲間内でランクを調整しているのは有名な話だ。 

 そんな連中にアキは負ける気はせず、笑みを浮かべているカオスヘッドを尻目に自身に満ちていた。


『確かに聞いたからな?……じゃあ始めるぞEYE04!』


『りょ~かい』


 カオスヘッドに呼ばれたEYEはアキのと少し違い、どこか抜けた様子だ。

 だがサポートAIのEYEは実は設定ができ、気にった感じの性格に出来たりする。

 ハッキリ言ってこれが売り上げを左右している時期もあったらしいが、アキは最初期からあり一番人気にEYEに設定している。


『こっちもやるわよEYE!』


『かしこまりました』


 向こうと違ってお淑やかなEYEに指示を出し、アキは紅葉をカタパルトに出すと目の前のモニターが紅葉のカメラとリンクして景色が変わった。


『P名:アキ! 紅葉――いきます!』


『P名:カオスヘッド! ヘルイフリート――蹂躙する!』


 両者共に名乗りを上げると同時にEAが発進。

 その戦いの舞台へと君臨した頃、外のモニターでは戦いの映像と共にプレイヤー名とランク、そして大きな功績が表示される。


『P名:アキ ランク『銀の騎士』――公式大会参加回数24:上位入賞回数16:優勝回数12――全国EAWインターハイ個人戦優勝』


『P名:カオスヘッド ランク『銀の騎士』 公式大会参加回数36:上位入賞回数24:優勝回数3』


 表示された両者のデータに会場からは驚きの声が上がり、春夜もそれ見ていた。


「大会に結構出てるし、インターハイも本当に優勝してるんだね」


「はい! アキちゃんは頑張りやさんですから~」


「そうっす! 自分達の誇りっす! ただ向こうも上位入賞回数は多いんで油断は出来ないっす」


 時雨はそう言って心配そうにモニターを見ると、春夜もモニターを見ながら頷いた。

 優勝回数は少ないが、少なくとも上位常連程の力がある事も脅威だ。


「……さてどうなるかな」


 春夜の表情は少し険しいが、動じずに冷静に試合を見守っている。


♦♦♦♦


 岩陰ぐらいしかないシンプルなフィールド『荒野』

 そこに立つ互いのEA――刀を二本下げ、背後に薙刀と火縄銃型の武器を持つデュアルアイの『紅葉』

 黒く、左右の腕だけが赤と青に染めている三つ目の『ヘルイフリート』

 そのデータや装備は確認したければ可能であり、アキとカオスヘッドは相手のEAの詳細をルーティンの様に確認し始めた。


『ヘルイフリート……ベース機体は『イフリート』の最新型『イフリート・オメガ』ね。武装も『炎帝シリーズ』の火属性レアパーツばっかり』


 アキはモニターに映るヘルイフリートの詳細に頷く。

 頭部に三つのカメラアイを装着し、センサーも増設して索敵を強化。

 更に火属性を主軸としている事で高機動・高火力を軸としている。


『どうりで優勝回数が少ない筈よ……性能でゴリ押しても、決勝で敗北しているパターンね』


 アキは慢心ではなく純粋に勝ちを確信した。

 技術とかはなくゴリ押しに負ける程、軟な試合をしてはいない。

 だから深呼吸した頃には、その顔は自信で溢れていた。


『試合開始』


 そしてブザーと共に試合開始の音声が発し、それと同時にヘルイフリートが動いた。


『蜂の巣だッ!!』


 ヘルイフリートの背部から二丁の大型マシンガンが現れ、サブアームで構えると同時に両腕のトンファーライフルの引き金を一斉に引いた。

 その瞬間、赤い光の弾幕が紅葉へ向かってきた。


『やっぱりそう来たわね……!』


 しかしアキは読んでいた。

 火力ゴリ押しの大半は初っ端からぶっ放す事も多く、レバーを強く引いてブースターを起動し、紅葉は高速で回避した。


『速い……! だがな!』


 ヘルイフリートの頭部カメラは三つ。

 センサーも多くあり紅葉の場所は完全に捉え、そこへ向けて弾幕のシャワーを放ってくる。


『オラオラオラァァァ!!』


『甘いのよ……!』

 

 だがそれぐらいアキに何の問題でもなかった。

 紅葉は背後から火銃『リンドウ』を取りだし、移動しながらヘルイフリートへ向けて一発だけ放った。

 その弾は火属性特有の赤い弾だが、大きく、そして高速でヘルイフリートの右肩のマシンガンを撃ち抜き爆散させた。


『なっ、なんだ!? 何が起こった!?』


 モニターに映るダメージ、武装LOSTの通知にカオスヘッドは動揺している。

 あんな高速移動中に正確な射撃なんて出来ると筈がないと思っていないのだろう。

 その時点で腕が知れているし、僅かに弾幕も止んだ事でアキは一気に仕掛けた。


『行くよ紅葉!』


 背部の薙刀『不知火』を取り、一気にヘルイフリートへと接近して振り下ろすと、それはヘルイフリートの青い左腕を完全に捉え、そのまま左腕は宙を待った。


『ぐおっ!? く、くそがッ!!』


 咆哮と共にヘルイフリートは右腕の収納武器『デュアルイフリーナ』を展開し、反撃しようとする。

 だが背部サブアームに薙刀を持たせ、紅葉は空いた両手で腰の刀を抜刀して受け止めた。

 

『なんだこいつ!? 持ち替えも対処も早すぎるぞ!?』


『場数の差よ! 一気に押し通る!!』


 ブースターを放出して紅葉は片腕で受けていたヘルイフリートごと突き進み、そのまま岩へと叩き付けた。


『ぐあぁ!? まだだ! こんな……こんな筈じゃ!』


 ヘルイフリートは紅葉を蹴り飛ばして間合いを作ると、背部ポッドからミサイルを複数発射。

 すると、そのミサイルは火の精霊へと姿を変え、不思議な動きで紅葉へと迫けた。


『どうだ! 自動でロックオンするレアパーツ『スピリットミサイル』の動きは! 避け様と下手に動いても直撃させるぜ!』


『だから何よ?……EYE! 収納スペースのもう一本の薙刀を出して!』


『かしこまりました』


 EYEは返事をし紅葉も更にサブアームを出すと、その手に粒子が集まり薙刀が握られた。

 そして両サブアームの薙刀を高速回転させ、やがて発火して炎輪となってスピリットミサイルを撃ち消す。 

 その姿はまるで四腕の荒武者であり、カオスヘッドもコックピットで絶句している。


『バ、バカな……俺様は『銀の騎士』だぞ! なのに、なんでこんな試合に――!?』


 信じられないと動揺するカオスヘッドだったが、それは会場で見ている者達も同じだった。


「おい、本当に同じ『銀』同士なんだよな? 凄い一方的だぞ!?」


「カオスヘッドも弱くはない筈だが、それ以上にアキって子が強すぎるんだ」


 周囲は完全にアキの強さに気付き、画面に見入ってしまう中、ムラサキと時雨もアキの圧勝に喜んでいた。


「強いわアキちゃん~」


「流石は先輩っす! もう勝ったも同然っす! 季城さんもそう思うっすよね!」


「……う~ん、そう思いたいんだけどさ」


 時雨達の言葉に頷きたかった春夜だったが、表情を少し険しくしながら周囲を見渡していた。

 そして会場の()()()()()()


「そう言えば……『双炎の魔王軍』のメンバーいなくなってるね?」


 先程までバトルエリアをウロチョロしていたメンバーが一斉に姿を消し、春夜の言葉でムラサキ達も気付いた。


「本当ですね……どこに行かれたのでしょうか?」


「リーダーがあの様っすから逃げたんすよ! そういう連中らしいっすからね!」


 時雨はそう言ってモニターに視線を戻してしまうが、春夜は険しい表情を崩さなかった。

 だが周囲が騒ぎ出したのでモニターに視線を戻すと、紅葉がヘルイフリートを追い詰めてトドメを刺そうとしていた。


『これで決着ね……』


 固有スキルを使うまでもなかった。

 口だけでしかなく、これならインターハイの方が手強かったとアキは思う。

 しかし、それでもカオスヘッドは強気の態度を崩さないのが気になる。


『……ハッ! 本当にそう思ってんのか?』


 やけに強気な態度だとアキは思ったが、ヘルイフリートの至る所が放電し装甲も抉れている事から逆転の芽はない。

 つまりは負け惜しみ。

 自分の負けを言い訳で誤魔化す人種だと思い、そのまま腕を振り上げた時だった。


――不意に青い閃光が紅葉のサブアームを射抜き、薙刀が落下する。


『どうしたの!?』


 コックピットに広がるアラーム音とサブアームの破損報告。

 あり得ない状況にアキも困惑していると、EYEが報告する。


『遠距離からの狙撃です。熱源反応も()()確認。岩陰に隠れる事をオススメします』


『なんですって!?』


 アキはすぐにカメラを拡大させた。

 すると、その場所には水属性のスナイパーライフルを持ったEAが構えており、それを捉えた瞬間にアラームが更に増えた。


『上空から更に多数の敵反応。回避してください』


『ッ!』


 一気に後退すると同時に下りて来るたAの集団はヘルイフリートを守る様に布陣すると、カオスヘッドが怒鳴りの檄を飛ばす。


『テメェ等クソ遅いんだよ! なにチンタラしてんだ!!』


『リーダーが何かあるまで動くなって言ったんでしょ? 責任転換じゃない?』


『うっせぇ! 良いから直せ!』


 仲間を怒鳴り散らしながら命令すると、ヘルイフリートの周りに支援型EAが現れてヘルイフリートの修理を始めていた。

 その間に他のEAは武器を紅葉へと向けてきて、その光景にアキは自分が嵌められて事に気付いた。


『あんた……最初から騙してたのね! 仲間を待機させてるなんて卑怯な奴!』


「そうっす! 反則っす!」


 アキの叫びと現状はモニターで映されており、時雨がそう叫ぶと周囲も「そうだーそうだー」と流石にブーイングをするが、カオスヘッドは逆に怒鳴り散らす。


『うっせぇぞ外野が!! それに最初に言った筈だぞ俺は?……()()()()で良いのかってな?』


『設定?……EYE! この対戦の設定はどうなってるの?』


 嫌な予感を感じ、アキはEYEにすぐに問い掛けるとモニターに設定が表示された。


『現在の設定は集団対戦――『総力戦』となっております』


『そんな……!』


 完全に自分の確認ミスであり、顔から血の気が引くのをアキは感じた。

 そして周囲もザワつく中、春夜はムラサキ達に聞いていた。


「ごめん……総力戦ってなに? 確かイベント以外だとEAWって基本は一対一だよね?」


「そうなんですが総力戦は違うのです」


「最近はチームも増えたから、それに対応して集団対戦できる様になったっす! だからあいつ等はそれを悪用してるっす! 許せないっす!」


 設定を見ていなかったとはいえ、流石にそんな事をする奴は基本的にいない。

 不注意で片付けるには悪質であり、中断する気もない事も知っているムラサキと時雨はEAを持つ。


「すいません行ってきます!」


「先輩をたすけるっす!」


 二人はアキの左右のコックピットに立ち、参戦する為に自分のプレイヤーカードを読み込ませる。

 だが何故かエラー音と共に拒否されてしまう。


「どうして!?」


「どういう事っすか!」


『現在、アキチームの参加条件は『銀の騎士』以上となっております。ですから『銅の騎士』以下のプレイヤーの参加は認められません』


 EYEの言葉に時雨達は言葉を失い、見ていられなかった周囲のプレイヤーも思わずEAボックスを下ろしていた。

 基本的に『銀の騎士』でも上級者と呼べるランクの中で、それ以下の参戦を封じられればどうする事も出来ないのだ。


「反則っす! 反則っす! そっちの連中の大半は『銅の騎士』どころか『金の兵士』クラスの筈っす!」


『ハッハッハッ!! だからどうした? そういう条件にしてるだけだぜ? つまりはルールに従ってんだよ俺等はな!』


 あくまでも()()()()()()()()は守っており、外野が何を言おうが関係ない。

 だがアキは許せなかった。平然と卑怯な真似をするカオスヘッド達が。


『さ~て始めっか!――やれやお前等!!』


 だが修理を終えたヘルイフリートは立ち上がり、腕を上げて一斉に攻撃を開始させる。


『よっしゃ! レアパーツは頂き!』


『数で押せば『銀の騎士』だろうが!!』


 ブレードやアックス、バズーカや銃器を持って一斉に突撃を開始する『双炎の魔王軍』のEA達。

 その大半はモノアイで図体がでかい、荒野の様な場所に強い地属性EA『ゲノーモス』だった。

 それだけでフィールドがランダムというのも嘘が確定するが、アキは迎え撃つつもりだった。


『舐めんじゃないわよ!』


 刀を収めて高威力の銃を敵へと放ち、敵EAの頭部や腕を貫いて行動を停止させると高速で接近し、薙刀で広範囲を斬り裂いた。

 一気に4機を潰した紅葉だが、今度は5機編成の正体が4隊も接近してくる。


『後方部隊……一斉攻撃!! 水属性の武器を存分に使え!!』


 カオスヘッドの一声で一斉に別方向から放たれる青い弾・レーザー・ミサイルの雨が紅葉に降り注ぎ、モニターが揺れて紅葉の甲冑にもダメージが蓄積する。


『紅葉――ダメージ40%に到達しました』


『それでも諦めないわよ!』


 紅葉は銃弾の雨を避けようと動くが、そこには突撃部隊が現れて交戦し、撃破する直前に再び銃弾の雨を浴びる事になり、もはや嬲り殺し状態。

 だがアキは諦めず、紅葉も()()()()()()()を身に纏い、逆に出力を上げていく。


「更に出力が上がる?――ん?」


 その不思議な光景を見ていた春夜だったが、不意に自身が持つEAボックスが僅かに揺れている事に気付く。


「……まさか」


 何かに気付いた様に急いでボックスを開け、中にある自身のEAを見て我が目を疑う。


「偶然か……()()E()A()()そうなのか?」


 そう呟く春夜の手には()()()()を纏うEAが握られており、押されているアキの姿を見て何かを()()した様にEAボックスを持った。


『ダメージ、更に増加』


 だがその間にも紅葉のダメージは増え、これには他のプレイヤーも見捨てる訳にはいかず、マックスやティアも動いた。


「見てられん! 行くぞランロ!」


「仰せのままに……団長」


「行くわよセバス」


「畏まりました。お嬢様……」


 2階と3階にそれぞれのエレベーターへと急ごうとするが、その瞬間、1階のバトルエリアの観客の内の一人の声をあげた。


「おい! ()()()()()!?」


 この状況下で一人、EAボックスを持った一人の青年がフィールドに近付く。

 マスクをし、餅のイラストのTシャツとジャケットを着た変わった青年を見て、何故かマックスとティアは足を止めてしまう。


「ちょっと失礼するよ時雨ちゃん」


「き、季城さん?」


 悔しく、そして悲しそうな表情をする時雨とムラサキ。

 その時雨のいた場所のコックピットに来ると、春夜はプレイヤーカードを読み込ませる。


『……『銀の騎士』()()のランクを確認いたしました。参戦を許可します』


「えっと……あの?」


 時雨が気になって不安そうにする中、春夜は形成されるコアの中へと入って行くが、その最中に見せた表情は真剣なものだった。


 そしてフィールドでは未だに激戦は終わらず、アキはずっと奮戦する。


『まだまだッ!!』


 左腕を持ってかれ、頭部も半分は破損した。

 だが残った右腕と右のサブアーム、両足に仕込んだ小太刀で更に敵EAを撃破し『双炎の魔王軍』の者達も流石に気迫で下がる者が出始めた。


『な、なんて奴だ……!』


『リーダーどうする! あのEA様子が変だぜ!?』


『チッ――特殊なスキルかも知れねぇ。こうなったら()()()()()を使え! 鹵獲して判定勝利に持ち込むぞ!』

  

 カオスヘッドの言葉に4機のEAが紅葉に高速接近する。

 その手には青い蛇の様な鞭が握られており、一定の間合いに入った瞬間に放ち、紅葉の右腕・腹部・両足に巻き付いた。

 その直後、電撃が紅葉を襲う。そしてアキのモニターには『STAN』のマークが表示された。


『しまった! 水属性のスタン武器!?』


『これで勝負ありだ……綺麗にバラして俺等の勝利と行くか!』


 スタンされて膝を付く紅葉。それに近寄ってくる敵EA達。

 パーツをバラされ、適当に勝負を決めて全てを奪われてしまう。


『こんな……こんな負け方なんて……!』


 くやしい。大事に作った紅葉まで、こんな理不尽な勝負で負けてしまう事が。

 そして悔やまれる。こんな連中でも勝負では反則できないと思っていた事が。


『そんじゃあ……レアパーツ奪えやぁ!!』


『了解!』


 後方にいるカオスヘッドの指示に1機のゲアーノスが紅葉の傍に立ち、その両手持ちの巨大アックスを振り上げた。

 それをモニターで見ていたアキの目から、思わず悔し涙が流れる。 


『くそ……くそぉ……! 負けたくないよ……こんなのでぇ……!』


 人前で泣く事はしたくない。

 コアの中という事だけが救いだったが、それもまた情けなくて辛い。

 せめてもの現実逃避として目を閉じた。でも音だけでも分かるし、大切なEAが壊されることが最も心を痛ませる。


『こんな事になるなら……EAWなんて最初からやらなかったのに……』


 それが最後の言葉とし、アキは肩の力を抜いた。

 ただせめてもの反抗でレバーを掴みながら震えている手を意地でも放さないと決意し、顔をゆっくると下へと向けた。


――その時だった。

 

『……皆のEAWなのに、それで誰かを悲しませるのは駄目だよね?』


『……えっ?』


 聞き覚えのある声にアキは顔を上げた瞬間、空から橙色の閃光が降り注ぎ、紅葉を囲んでいたEA全てを的確に撃ち抜いた。

 そしてEAは爆散し、レーダーに友軍機LOSTのマークを見たカオスヘッドの表情が変わる。


『なんだ!? 何が起こったか報告しやがれ!』


『空からの射撃だ! 女のEAを囲んでいた連中が全員やられた!』


『空だと……!?』


 部下の言葉に困惑するカオスヘッドは咄嗟に上空を向くと、空から()()()E()A()がフィールドダイブしてくるのが見えた。

 そのEAは降りてくると紅葉の前に着地し、アキもモニター越しで見て驚いた。


『侍……いや、武将?』

 

 武将を連想させる甲冑・所々に見える着物の様なデザイン。

 そして腰と両腕の左右に計4本の太刀。背後に大型スラスターと十文字槍があり、その手に紅葉のと類似する火縄銃型の銃が握られていた。


『このEA……どこかで』


 一目見ただけで分かる完成度。

 細かい部分までに手を入れているEAにアキは驚きながらも、どこか親近感を抱いた時だ。


『遅くなってゴメンよアキちゃん……』


 通信で呼びかけられる声――それは春夜の声だった。


『えっ……春夜さん!? このEAって春夜さんのなんですか!?』


『あぁそうだよ……俺の愛機『戦護村正(せんごむらまさ)』――言いやすく『村正』って呼んであげてくれ』


『せ、戦護……村正……?』


 モニター越しに村正を見渡すアキだったが、それを構成しているパーツの大半は見た事が無いものだ。

 けれど、それでも村正が強力なEAなのは直感的に分かり、その異質な存在感は周囲の意識を集めていた。  


『ア、アイツ……さっきの復帰勢か?』


 カオスヘッドも直感的に見て村正に何かを感じたのか、すぐに相手の機体データを確認した。


『機体名『戦護村正』――ベース機『初代ムラマサ』 主な武装パーツ『乱世・四季シリーズ』』


『なっ……ムラマサの初期版か!?――ハ、ハハハッ……ハッーハッハッハッ!! 最高のレアじゃねえか!!』


 初代ムラマサと言われるムラマサの初期生産型。

 それは扱いの難しさもあって出回った数が少なく、けれど最初の覇王が使った機体でもあって今ではプレミア価格が付いていた。


『すげぇぜ……だが『四季シリーズ』っての聞いたことがねぇな』


 カオスヘッドは聞き覚えのないシリーズに疑問を持つが、すぐに頭を切り替えた。

 初代ムラマサなら普通に売っても数十万単位。

 マニアに売れば数百万以上は確実であり、カオスヘッド達の興味は村正へと完全に移っていたからだ。


『鴨が葱どころか金の延べ棒担いで来やがった! テメェ等!! 予定変更だ! まずはあっちの――』


 カオスヘッドが部下に指示を出そうとした、まさにその時。

 EYEが突然、その言葉を遮って割り込んだ。


『高ランクのプレイヤーが参戦致しました。これによりこの試合は『超昇格戦』となります』


『これは強制だよぉ~』


『……ハァ? 昇格戦だと?』 


『……それってつまり――』


 EYEからの突然の宣言にカオスヘッドとアキも困惑するが、それは会場の者達も一緒だった。

 昇格戦が告げられると会場のプレイヤー達も一斉に騒ぎ出し、ムラサキと時雨も互いに顔を見合わせた。


「確か『銀』の昇格戦って……対戦相手よりも()()()()()のプレイヤーと戦う時に発生するはずよね?」


「そうっす……普通は大会とか戦績で昇格するのが普通っすけど、格上相手の昇格戦に勝てば一気にランクを上げられるチャンスっす。――っていうか、それってつまり……」


 会場のプレイヤー全ての視線が春夜のコアへと向けられる。

 カオスヘッドの『銀の騎士』よりも2ランク上は『白金の騎士』であり、つまり春夜のランクは――


『『白金の騎士』だとぉぉぉぉ!!!?』


 会場中が爆発する様に叫んだ。

 世界規模のEAWでプロでも殆どいない『白金の騎士』が目の前にいる事実は衝撃であり、しかも名も知らぬ復帰勢のプレイヤーならば尚の事。

 

『……でも『()()()()』ってなんすか?」


 ザワつく周囲の中、時雨も聞いた事がない昇格戦に首を傾げた。

 周囲の困惑、その一番の問題はそれだった。

 明らかに普通の昇格戦ではないが聞き覚えもなく、周囲は話し合うが答えが出ない。


――だが、()()()()()()()を知っている者もいた。


「超昇格戦だと……!」


「……ま、まさか」


 マックスとティアの二人だけは驚愕の表情を浮かべ、この試合を目に焼き付け様と身を乗り出す勢いでフィールドに視線を固定した。

 そのトップランカー二名の姿が更に周囲を困惑させた時だった。


「……超昇格戦ってのは昇格戦よりも更に上の戦いだ」

  

 困惑の声ばかりの中、一人冷静な声が周囲の耳によく届いた。

 そして、声の主であるその男に視線が集まる。


「し、士郎さん……?」


「よっ……やっぱり騒ぎが起きたか」


 たこ焼き片手に呑気に歩いて来る士郎にムラサキが気付くが、時雨はそれよりもその続きが気になった。


「あの! 昇格戦よりも上ってどういうことっすか!?」


「そのまんまの意味だ……2ランク上の相手に発生する昇格戦よりも上。つまり『白金の騎士』クラス()()()()の奴が出て来た時に発生する昇格戦の事だ」


「えっ……『白金の騎士』よりも上? ですがそれって――」


 士郎の言葉にムラサキは察した様に両手で口を塞ぐが、察したのは彼女だけじゃない。

 会場全ての者も察し、周囲の音が死んだ頃、春夜はコアの中でEYEに挨拶をしていた。


『やぁEYE……久しぶりだね』


『ご無沙汰しております……()()()()()のログインとなりますが、チュートリアルを行いますか?』


『チュートリアルは大事だよ……けど、今はそんな暇がないんだ。――だからサポートを頼む』


 口調とは裏腹に真剣な表情で話す春夜へ、EYEも承認する。


『かしこまりました。ではこれより対戦表示を更新いたします』


 EYEがそう言うとアキの、カオスヘッドの、そして外のモニターに新たなプレイヤーの名が表示された。

 それは会場中を息を呑んで釘付けにする中、士郎だけは余裕の表情で見ていた。


「さぁ見せてくれよ……()()()()()()()()()を」


『P名:季節餅 ランク『覇王』――公式大会参加回数58:上位入賞回数58:優勝回数58――第一回EAW世界大会予選1位通過及び、世界大会優勝』


――それが表示された瞬間、会場が揺れた。

 

 ある者はただ叫び、ある者は感極まって涙を流し、ある者は逆に言葉を失う。

 アキも息をするのを忘れてしまい、カオスヘッドの表情は真っ青に染まる。

 だが全員が視線をモニターからは外さない。


――今、目の前で伝説が蘇ったのだ。 


 そんな歓声に気付いているかどうかは分からないが、レバーを握った春夜の表情は楽しそうな笑みを浮かべ、そして――。


『P名:季節餅 ――戦護村正、出陣する!――さぁ廻ろうか』


 その言葉と共に()()()()()()はレバーを力強く引いた


――覇王再臨の時。


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