第11話:朔望月
冬が来る……段々と秋が短くなって寂しいな(´;ω;`)
アキは目の前の光景に言葉を失った。
大学で偽物と会い、記者達に呑まれていた所を助けてもらった女性――それが探していた覇王、季城 春夜(男)だったからだ。
――な、なんで女装?
初対面の時も変わった服装だと思っていたが、まさかこっちが素なのか。
アキは他人の趣味に口を挟む事もないし、個人それぞれだからと個人的には寛大だとも思っている。
だが憧れの人の姿ではショックを感じ、ムラサキの言う通り、自分にとって春夜は特別だったのだと自覚した。
「さぁて、そろそろ脱ぐかなぁ……」
しかし、そんなアキの想いとは裏腹に春夜は服を脱ぎ、それを茶髪ポニーテールの女子大生へ渡しながら何やら話をしている。
「いやぁ……それにしてもどうだった? こんな感じで良かったか?」
「大体はそんな感じかなぁ~? 次の演劇の主役――女装に目覚めた男の子が清楚系とギャル系、どっちにするかの葛藤。う~ん、もしかしたらまた協力してもらうかも?」
「春夜殿は化粧すれば逸材ですからな、我々のカメラも唸りますぞぉ!」
「俺のキャラじゃないし、男として喜べないってそれ……」
やや肉付きのカメラを構えた青年の言葉に、春夜は複雑な表情をしているのを見て、アキは別に女装が趣味ではないとは理解出来た。
――けど、ならこの人達は何の?
アキが見る限り、男女と共に100人、またそれ以上の大人数。
だが別々の集まりなのか、一部の服装や装備は統一しているが春夜と関わり合いがある以上、もしかしてEAWの凄腕プレイヤーのチームなのかもしれない。
「え、えっと春夜さん、この人達は……?」
「あぁ、紹介まだだったね。まず、こっちの人達が演劇サークルの部長と、そのメンバー達――」
「はぁい! 四臣大学・演劇サークル『絵本の指揮者』部長の<染森 なじみ>でぇ~す! 趣味特技は変装・演技、男女問わずにできま~す!」
『以下部員60名でぇ~す!』
染森と呼ばれた女子学生が元気一杯に自己紹介し、その後ろにいた男女達も同じく元気に自己紹介。
その無邪気な統一感に、アキは思わず「学生か!」と叫びそうになったが、普通に彼女達も大学生なのを思い出す。
だからアキは圧倒されてしまい、ただ小さく呆気になりながらも返答するので精一杯。
「……ど、どうも」
「凄い団結力っす……!」
「演劇なんて素敵ねぇ~」
時雨とムラサキには好感触らしいが、アキは今日までの事もあって個性の濃さで胸焼け気味だ。
「それでこっちは隠密情報サークルの部長とメンバー達――」
「ご紹介に預りましたぞ! 拙者はサークル名『アルバトロス』部長<鳥杉 マジオ>ですぞぉ! 趣味はハッキングからの情報収集は勿論、下手な書類などの贋作やらも作れますぞぉ! ウヒヒッ!」
『以下部員32名! ヨロでござる、ウヒヒッ!』
カメラを構えた一昔前のオタクの格好をする集団。
その先頭に立つ鳥杉と呼ばれた男はわざとらしく不気味な笑みを浮かべ、後ろの部員達も事前に練習した様に同じいタイミングで笑っている。
――うわぁ……濃いなぁ。
そう思うアキだったが、助けてもらった以上は返すのが礼儀だ。
「ど、どうも、えっと私達は――」
「存じておりますぞ、秋道高校のEAW部の紅葉院氏と、そのお友達でありましょう?」
「えっ……どうしてそれを?」
「普通に怖いっす」
「……まぁ~」
アキ達はその言葉に普通に不信感を抱いたが、鳥杉は侵害だと言わんばかりに叫んだ。
「不審者やストーカーを見る目で拙者を見るなぁぁ!! 拙者はリアルで18才以下はお断りなんだよぉ!!」
「まぁまぁマジオも落ち着けって……アキちゃん達も驚かせて悪いけど、マジオは見た目よりも無害だからよろしく」
「……えぇ」
友人の紹介の割には中々に失礼な春夜に、アキは言葉が込み上げる事すら止めてしまう。
今思えば、春夜も中々に濃かった筈。変なTシャツを着ていたし、慣れだ慣れだ適応だとアキは自分を納得させていると、鳥杉もようやく落ち着きを取り戻していた。
「ふぅ……失礼いたしました。拙者とした事が紳士に似つかわしくない態度を。――ですが、それでも言わせて貰いますと紅葉院氏は少し、自分の置かれた立場を理解していないのかと?」
鳥杉の雰囲気が変わり、素で心配している様な言葉遣いにアキも流石に気になった。
「どういうことですか?」
「ハッキリ言いますと、インターハイ優勝しているのも確かに凄いですが、同時に『銀』にもなってEODも取得済みのプレイヤー。そんな紅葉院氏はまさに逸材ですから、ネットでも歴代のインターハイ優勝者よりも有望視されておりますぞ?――なにより……」
鳥杉はそこまで言うと、何か言いたげな表情で春夜に視線を向け、それに気付いた春夜も困った笑みで頭を弄っていた。
「あはは……やっぱり俺も原因だよなぁ?」
「ハァ……なにを当たり前な事を言ってんだか。当然でしょうに、なんせ始まりの覇王と組んだんだからよぉ」
春夜の後に続いて来た聞きなれない声の方を向くと、ボサボサの金髪ヘアーの青年が春夜の後ろに立っていた。
見た目や雰囲気からもやる気のなさそうな青年だが、聞き捨てならない言葉を言っていた。
「ちょっ!? 始まりの覇王って――っていうか誰!?」
「あぁ紹介し忘れてた……こいつはね、俺の親友の一人で和菓子探究会の副部長と仲間達――」
「やれやれ……<時折 奔樹>だ、まぁ宜しくしてくれ嬢ちゃん方」
『同じく和菓子探究会56名! 好きな時間はおやつタイム』
「あっ、どうも……じゃなくて! いま、普通に季城さんの事を始まりの覇王って!?」
聞き捨てならないのはその言葉だ。
春夜は始まりの覇王である事をオープンにしている訳でもなく、しかもこんな大勢の前で言う事にアキは驚き、春夜の前に飛び出した。
「春夜さんが覇王ってことは内緒じゃないんですか!?」
「う~ん……でもまぁ、復帰宣言しちゃったしねぇ」
「実際問題、私達にも復帰宣言の翌日にカミングアウトしてくれたけどさぁ……」
「まぁ普通に拙者達は何となく分かっておりましたし、そこまで驚きはしなかったですな。寧ろ、グラサン掛けた方が分からないんじゃね的な?」
染森や鳥杉は平然とそう言って頷き、周囲も驚きはあったが確信や予感もあったらしく、普通に受け入れている様な雰囲気だ。
けれどそれは異常な反応だ。一般的なアキ達からすれば、7年近くも消息不明の覇王と知れば冷静でいられる筈がないと思っている。
「そんな反応って……始まりの覇王なんですよ?!」
「まぁ、嬢ちゃんの気持ちも分かるが……実際、春夜は変だったからなぁ。――入学と同時に『和菓子探究会』って作った癖に、EAWには詳しいわ、めっちゃ強いわで何となく皆も察してたが、何だかんだで春夜には恩があるから皆黙ってんだ」
「えっ!? わ、和菓子探究会作ったって……じゃあ部長って?」
「自己紹介したろうに……オレは副部長で、部長が――」
「宜しくアキちゃん、時雨ちゃん、ムラサキちゃん。和菓子探究会の部長の季城 春夜さ」
「何でよ!?」
アキは思わず叫んだ。
普通に考えれば違うだろうと、それじゃなくもっと別のサークルがある筈だろうと。
「普通に考えたらEAWサークルでしょ!? なんで和菓子探究会なんて――」
『――私は四臣大学・EAWサークル部長『義盟 翔』です! 忙しい身なので、質問ならば急いでください』
「あれ……EAWサークルって、さっきの偽物のサークル?」
不意に思い出す、愚劣な偽物を名乗った男の言葉を。
自身の記憶が正しければ、確かに偽物は名乗っていたとアキは確信する。
「あぁ……やっぱり気付くよねアキちゃん達は」
アキの言葉に、春夜もどこか悩んでいる様な複雑な表情を浮かべている。
よくよく見れば、周囲の者にもそんな表情をする者も多く、アキは時雨とムラサキ達を顔を見合わせながら困惑してると、口を開いたのは時折だった。
「まぁ、まずは落ち着きなって……偽物の件もそうだけど、和菓子探究会はEAWに全く無関係って訳じゃないしな。そもそも、こんな所で話してるから変な感じになんだ。そうだろ部長?」
「!……あぁそうか、もうおやつ時間か。丁度良いし、続きはそっちで話そうか、じゃあ皆移動しよう!」
「えっ!? あの……」
「あらぁ~皆さん、動き始めましたわねぇ~?」
何やら動き始めた各サークル目の者達。
まるでヌーの大移動――それは言い過ぎだが、それでも大勢の学生が一斉移動するのは迫力があり、アキ達が突っ立ていると、春夜を始めとしたサークルの長達が近づいて来た。
「と、いう訳で移動しながらでも色々と説明するからさ……アキちゃん達も一緒に来ないかい?」
「探究会のおやつ時間は最高よ?」
「糖を取らねば脳がストライキを起こしますからな、余計な事を考えず、まずは行こうではありませんか!」
「どの道、量だけはあるし……おたく等が来てくれると助かんだわ」
――周囲は歓迎的、でも、そもそもおやつ時間って何?
知らない事ばかり、というよりも常識が通用していない気がする。
だが話もしてくれると言う事で、アキは取り敢えずムラサキ達の意見を求める様に顔を向けると、二人も頷いていて好意的。
ならば行くか、そんな思いで結局は付いて行くことにする。
♦♦♦♦
それなりに広い敷地内。やや校舎から離れた場所をアキ達は、春夜達と話をしながら歩いている。
そして約束通り、春夜達は色々と話してもくれた。
『和菓子探究会・演劇サークル・隠密情報サークル』
この規模の大きい三つのサークルを、通称:四臣大学・三大サークルと呼ばれている事を。
繋がりは強く、互いに何か困れば相談したり交流をしたりなど、深い繋がりがあり、今回も春夜が女装していたのもそれが理由らしい。
「次の演劇の題目らしくて、手伝いで仕方ないから女装してたんだけどねぇ……そんな時にマスコミが大量に来るわ、偽物が出て煽るわで、この際だから新入部員のエキストラ練習も兼ねてたんだ。ついでに偽物の顔も確認する為にね」
「自分の偽物はついでなんですか……」
「ハハ……アキちゃんは正義感強いから複雑そうだけど、俺達からすれば想像はできてたしね」
アキは偽物に興味薄く、自分の心配をする春夜に苦笑するが、逆にそこまで言われる偽物って何者なのか気になった。
「言動から気付いてましたけど、そんなに有名なんですか?」
「まぁ悪い意味で有名だわな、父親が医者の典型的な腐ったボンボン……しかも医学部に受験失敗して、この大学に入学ときた」
時折はやや面倒そうに説明してくれたが、その態度はまるで面倒な隣人を相手をしている様子。
あの偽物と何か因縁があるのに気付くのは難しくなかったアキだが、同時に疑問は増える。
――そもそも、この大学って医学部ないわよね?
事前に調べたが、あっても介護系がやっとで本格的な医療の学科はない。
自分の記憶が正しければと思うアキだったが、少なくとも医者の跡継ぎが来る大学じゃないと確信は持てる。
「そんな人が何でこの大学に……しかもEAWサークルで覇王の偽物してるし」
「EAWで世の中は変わりましたし、十中八九……EAWに逃げてきた口でしょうな」
「今は地震や台風も制御できる時代だし、その装置もEAでメンテナンスしてるもんねぇ~? 実力さえあれば立派な職に付けるもんねプレイヤーも」
――そういえばニュースで言ってたわね。
鳥杉と染森の話を聞いてアキは思い出す。
――地震等の自然災害制御システム『ノア』
そのメンテナンスにEAが使われるようになった事を。
確かにそう思えばバトル以外でも立派な技術として活かせ、医療系の発展にもEAWが関わっているので無関係ではないと納得する。
けれど、その話を聞いていた隣を歩く春夜の表情は曇っていた。
「でもさぁ……逃げる為にEAWをやっても楽しくはないさ。逃げで来ると、何をしても仕方ないで済ませそうだし、だから偽物くんも内心、EAWは好きじゃないんだろうね」
「しかも未だに自分を特別と思ったまま、そんなプライドだけ高い自称エリート様だ。傲慢、口だけ、挙句にはレアパーツも授業料として奪おうとするから、EAWサークルは今じゃ偽物含めた4人だけで、残りは駆け込み寺の俺等の所に来るわけよ」
「えっ……EAWの駆け込み寺? 和菓子探究会とかが?」
「とうとうEAで和菓子も作れるんすかね!」
いやそれはない、春夜がやりそうだが今は違う。
時雨の言葉を内心でツッコミするが、時折のいう『駆け込み寺』とはどういう意味か分からず、春夜の顔を見た。
「うん?……まぁそれは、来てからのお楽しみかな?」
「来てからって……でも、どこに向かっているんですか?」
「もう目の間にあれだよ、結構広いし重宝してるよ」
春夜の指差す前方を見ると、アキ達の目に映ったのは大きな建物だった。
多分、箱型の様な構造だが、外観だけでも広い建物だと分かる。
「体育館っすかね?」
「あらぁ~? 体育館よりも広いから、何かのホールじゃないかしらぁ~?」
「いや、そう言う事じゃなくて――」
「はいはい、百聞は一見に如かずって事だよアキちゃん」
「押すなぁ~!?」
グイグイと春夜に押されながら、アキ達は建物の中へと入ってしまった。
♦♦♦♦
春夜に押されて建物に入ったアキ達だが、視界に映ったの綺麗で広い出入口。
ムラサキの言う通り、何かの会場を改築した物かもしれない。
「こっからは土足厳禁。お客様のアキちゃん達には、はいスリッパ」
「あ、ありがとうございます……」
どこにでも売っている様なスリッパを履き、アキ達は春夜達の後ろを付いて、光が漏れる窓が並ぶ通路を歩いて行く。
それは言って悪いが、平凡な大学と同じ敷地内にあるとは思えない光景であり、一体ここは何なのかアキは気になって仕方なかった。
「あの、ここって何なんですか?」
「ここは俺達、三つのサークルの部室の建物なんだよ」
「部室の……建物!?」
「あらぁ~この建物全部がですかぁ~?」
アキとムラサキは驚いた声を出すが無理もない。
そこらの建物よりも立派であり、それが三つのサークルの為だけにとは思えない待遇だからだ。
「まぁ驚くのも無理はないわな……けど、これも春夜への恩でもあるんだよ」
「普通に『覇王特権』様様ですからなぁ」
――覇王特権って、あの覇王クラスだけの特別待遇の事でしょ? それと何の関係があるの?
アキが知る限り、覇王特権はクラス毎にある待遇、その中で覇王だけの許された更なる特別待遇の事だ。
天童コーポレーションが関わっている会社や店、それを大株主、またそれ以上の待遇があると噂はあったが、この建物がそれならば噂は正しいとなる。
「あっ、もう着くよぉ?」
「おっと、やっぱり先に始めてるな?」
奥の扉に近付くにつれて聞こえる、まるでパーティの様な賑やかさ。
それが扉の奥から聞こえており、春夜が扉を開くと目に入ったのは巨大なホールと、テーブル等の上に置かれた大量の和菓子。
それを先に来ていた者達が、普通にバイキングの様に立食しており、アキ達が入って来ると全員が食べる手を止める。
「あっ! 部長! 先に食べてますよ」
「この新作! 最高ですねぇ~!」
「別に良いし、新作の感想も嬉しいよ。ちゃんと叔父さん達に伝えておくからさ」
アキ達は目の前の光景に呆気になるが、春夜は慣れた様子で手を振っている。
「えっ……あのこれは?」
「ふむ、見ての通り……おやつ時間ですぞ。しかも今日は月に数回だけの超おやつ時間です。まるでバイキングの如く食べて構いませぬぞ?」
「そうじゃなくて! EAW関連とか、そう言うのは――」
「あぁ、そう言う話だったね……じゃあ先に見せちゃおうか? 俺と奔樹で準備するから、皆はアキちゃん達に和菓子とお茶渡してから下がってねぇ」
春夜はそう言って時折と少し離れ、壁に設置された端末を弄り始め、その間にアキ達は他の部員達から和菓子やお茶を渡されていた。
「えっ!? いや、あの私達は――」
『はいはい遠慮なく~』
「そうじゃなくてぇ~!?」
数は力。悪意無き、優しさの波に呑まれたアキ達は、取り敢えず受け取った桜餅とお茶を受け取り、仕方ないので食べてみた。
「あっ……美味しい」
普通に美味しかった。葉も悪くなく、周囲の餅や中身の餡子の甘さも絶妙。
お茶の緑茶も邪魔をせず、寧ろ推進剤の如く、桜餅の魅力を後押ししていた。
――けど、どうしたんだろこの和菓子? かなり多いし良い物に見えるけど?
和菓子の量や質に疑問を持ったアキは、渡された小皿などを見ていたが何も分からず、不意にテーブルに置かれた箱が目に止まった。
『季城和菓子店』
そう書かれた箱を見た途端、アキは春夜の顔が過るが、ここまで来れば逆に驚きはしない。
忘れる様に、心を落ち着かせるように桜餅を口に運び続けていると、周囲から何やら起動音がし、ホールの床が次々と開いた。
「えっ……今度はなに?」
いきなりの事にアキ達は驚きっぱなしだが、周りは慣れた感じに見守っており、アキも複数の開いた床を見ていると、現れたのは見慣れたものだった。
それは小型と中型のドーム状の装置、そうそれは――
「もしかしてEAWのフィールド!?」
「えぇ!? この数っすか! まるでプロチームの設備っす!?」
「あらあらまぁ~!?」
それは圧巻な光景だ、特殊な施設でも訳ではないのにフィールドが幾つも設置されている。
アキは戻って来た春夜を見付け、それについて問い掛けた。
「春夜さん! これってなんですか!?」
「あぁ……これに関しては俺よりも、こっちの三人に聞いた方が良いかな?」
「あ~あ、面倒な事ばかり押し付けやがって、うちらの覇王様はよ。――でも、詳しいのは俺等の方だな」
みたらし団子を食べている時折だったが、串を置いてアキ達の前に来ようとすると、それよりも先に染森がアキ達の前に飛び出した。
「ハァ~イ! ここでクイズです! 私達、演劇サークル『絵本の指揮者』――その頭文字の『え』はローマ字で現すと頭文字は?」
「……E」
「はい正解!!」
嬉しそうに言うと染森が下がり、今度は鳥杉が現れた。
「じゃあ次は我がサークル『アルバトロス』ですが、そのイニシャルはなんでしょうかな?」
「……A」
「正解ですぞ!」
そう叫んで鳥杉も下がると、最後に面倒そうな様子で時折が出て来た。
「はぁ……じゃあ和菓子探究会の『わ』はローマ字の頭文字を言うと?」
「……W」
「はい正解」
――なんか馬鹿にされてる気がするんだけど!?
アキは内心で怒り、簡単すぎて答えている自分が何か恥ずかしかった。
しかし三人にからかっている様な感じはなく、三人のクイズが終わると春夜がアキの目に立った。
「じゃあ、その文字を合わせると?」
「えっと……EAW」
――ん?
「はい正解!――つまりはそう言う事さ」
アキが何かに気付いたが、それよりも先に春夜が答え、そして周囲の者達もどこからか一つの箱を取り出し始める。
それを見てアキはようやく気付いた。
「全部……EAボックス」
「また正解……これがEAWの駆け込み寺とも呼ばれる理由であり、この三つのサークルのもう一つの顔」
春夜はそう言うと背を向けながら振り返り、満面の笑みでアキを見ていた。
「ようこそ、裏EAWサークル『朔望月』へ……ここには強いプレイヤーは多いよ?」
――勿論、アキちゃん達よりもね?
アキはこの大学に来て、初めて胸の高鳴りを感じた。