プロローグ
現代風のも書きたかったので投稿します
【ELEMENT・ARMORS・WAR】
――略してE.A.W、またはEA。
世界中で大人気且つ、多大な影響を与えている日本発祥のロボットオンラインゲーム。
プレイヤーは『火』『水』『風』『地』『雷』『無』の六つの属性のパーツを使いEAと呼ばれるプラモデル程の大きさのロボットをカスタマイズ。
そして、それを専用の機器に設置し、て実際に操縦して戦うというゲーム。
属性相性は勿論、フレームから武装まで幅広く細かいカスタマイズが売りでもある。
同じ機体でもカスタマイズ次第で全く別の機体にもなるので男女問わず、子供から大人まで幅広い年齢層のプレイヤーがいる。
更にはプレイヤーによる“ランク付け”も人気の要因の一つ。
最初は皆『NAMELESS』から始まり、その上の『銅の兵士』から順に――
『銀の兵士』
『金の兵士』
『銅の騎士』
『銀の騎士』
『金の騎士』
『白銀の騎士』
――そして最高クラス『覇王』
これらのランクは戦績・大会出場記録・E.A.Wへの貢献等の実績により昇格してゆくが、現在『白銀の騎士』まで辿り着いたプレイヤーは少なく、プロですら数える程度しかいない。
しかし更に上の最高クラス『覇王』は世界大会の優勝者にだけ与えられる特別ランクであり、歴代を含めてその人数は僅か7名。
――故にプレイヤー達は彼等をこう呼ぶ『頂きの7人』と。
そんな彼等の人気を合わさり、世界各国でスポンサーも付きプロとして戦う者。
プロにする為のEAの学校まで設立される程であり、彼等は己を磨き続けている。
『頂きの7人』と呼ばれる者達も例外ではない。
プロ入りを果たす者・会社を継ぎEAの発展に助力する者。EAの学校を創立し若き才を育てる者。
それぞれの道を進む覇王達だったが、一人だけ例外が存在していた。
――始まりの覇王
プレイヤー達は彼をそう呼んだ。
EAWの初めての世界大会の覇者であり、最初に『覇王』の称号を得た伝説にして原点のプレイヤー。
けれど彼は世界大会以降、公式から完全に姿を消してしまう。
数多くのプレイヤー達も行方を探したが見つからず、そのまま伝説と共に月日が流れて行った。
――だが最初の世界大会から7年後の現在。EAプレイヤーの間である噂が流れ始める。
『――今年、日本でオープンする最大のEAW施設【EAWスタジアム】に始まりの覇王が現れる』
この噂を聞いたある者はチームに招集を掛けて日本へ向かい、またある者は覇王の首を取る為に歓喜する。
そして歴代の覇王達も、始まりにして勝ち逃げした覇王の首を取る為に日本へと集結しようとしていた。
これにより日本全国。そして世界各国のEAプレイヤーがEAWスタジアムに集結する。
――その中心は始まりの覇王。EAWはまさに群雄割拠を迎えていた。
♦♦♦♦
『さぁ三日前にオープンしたばかりのEAWスタジアムですが見てください! この人工島の上に作れたこの場所には、国内外から訪れているEAプレイヤーによって凄い混雑でございます!』
「……凄い数だねぇ」
EAW専門ショップ『アポロ』と書かれた看板の店。
その店内で中年の男性改め、店主――<紅葉院士郎>はボサボサの髪と無精ヒゲを交互に弄りながらカウンターに膝を付き、怠そうにテレビに映るスタジアムを眺めていた。
「普通は国内だけで、来たとしても外人さんは少数でしょうに。羨ましいねぇ……これも覇王効果ってやつか」
最初の世界大会制覇後、一切表に出てこなくなった始まりの覇王。
それが数日前、ネット上にEAWスタジアムに現れると噂が流れた事で一変し、オープン初日から大混乱になって警備員だけではなく警察まで駆り出される始末。
「……まぁ、あれから七年だし見ただけじゃ分からねぇだろうな」
士郎はレジ横に置いてあるサボり様のパソコンで、一つの動画を流し始める。
『さぁ世界大会決勝もいよいよ終盤だ! おおっと! ここでP名『季節餅』選手が仕掛けたぞ!』
「ひでぇ名前だな……」
それは七年前の世界大会の動画で、そこにはまさに元凶の姿が映っていた。
当時のP名である『季節餅』以外の名前は分からず、当時はまだ少年でありマスクもしていて、これでは成長したら今じゃ顔も分からない。
「全くマスクまでしやがって、決勝で既に有名人気取りかっつうの……」
『ブックシ!!……あぁ花粉症つらいし滅べば良いのに』
「なんだ花粉症か……つうかなんだこのクシャミ?」
動画に流れる独特なクシャミをして花粉症に恨みを吐く当時の覇王に、士郎は呆れながらも、このクシャミが特定の鍵になるなとふざけていた時だ。
「あぁやっちゃった!? 寝坊しちゃったじゃない!!」
二階からドタドタと店の天井鳴らしまくり、同時に響き渡る若い女子の叫び声。
それを聞いた士郎は面倒そうに溜息を吐き、ポケットから電子タバコを取り出して一息吸った時だ。
騒がしく階段を下りる音が聞こえ、カウンターの隣にある扉が勢い良く開けられると、一人の少女が飛び出し、そのまま士郎を睨みつける。
「おう……おはよう、お寝坊さん」
「何が……おはよう……よ……!」
肩で息をしながら士郎を睨む17歳の少女。
紅葉の様に綺麗な赤い髪をショートカットにし、顔もキリッとして美人だがその眼光が鋭すぎて寧ろ怖い。
しかしそれでも士郎にとっては姪の――<紅葉院 アキ>であり、親の仇の様な眼光も華麗に流した。
「おぉおぉ……叔父さんの家に居候してんのに何て目で睨んでんだ? 俺は親の仇じゃねぇし、兄貴も義姉さんもピンピンしてんだろ?」
「そこまで言ってないでしょ!? なんで起こしてくれなかったの! 今日はEA部の仲間とEAWスタジアムに行くって言ってたじゃない!」
小洒落れたTシャツにショートパンツ。明らかに外出する服装だったが、士郎は寝坊の原因が自分じゃなくアキにある事を分かっていた。
「叔父さん起こしたよ~? そうしたら後一時間は大丈夫って言ったのは目の前で睨んでる酷い姪っ子じゃなかったけか?」
「――うっ!……た、確かにそんなことを言った記憶もあるようでないけど……!」
「結局ねぇのか。――だが、まぁ良いじゃねえか。EAWスタジアムは家から歩いて15分程度だろ? そのおかげで叔父さんもお零れ貰えて万々歳だ」
実はこの店『アポロ』からEAWスタジアムは歩いて15分程度であり、自転車を使えば更に早い。
その事もあって途中や帰りに寄るお客もおり、士郎にとっては元々規模が違い過ぎる事もあって潰し合いにすらならず、逆にお零れで儲けていた。
「そういうことを言ってんじゃないの私は! 私は部長なの! それに私がいないと皆が特別入場出来ないから、遅刻するなんて私の中の責任感が許してくれないのよ!」
「責任感がある人は後一時間なんて言いません」
「うぅ……美人な姪っ子いじめて楽しいの!?」
「そんな事言っている暇あるなら早く準備しろって……」
いつまでも漫才に付き合ってくれる優しい姪に呆れながらそう言うと、アキもハッとなって時計を見ると既に10時40分。
――因みに待ち合わせ時刻は11時。
結構ギリギリな時刻であり、アキは慌てて自分のEAを探し始める。
「あれ? あれ!? 叔父さん! 私の『EAボックス』知らない!?」
「ここにある……全く、店に置いとくなって言ってんだろ?」
そう言いながら士郎はカウンターの下に手を入れ、工具箱程の大きさをしたEAボックスを取り出した。
この中に整備工具・パーツ・EA本体が入っておりこれはEAWプレイヤーにとって必需品だ。
「それそれ! 中身は大丈夫だったかな!?」
「昨日の内に準備しとけって……」
責任感を感じる割にルーズな姪の将来を心配する士郎だったが、EAを取り出して目を輝かせながら確認している姿を見て思わず笑みが漏れてしまう。
「やれやれだな……それで? どうなんだ『紅葉』の調子は?」
「えっ?……うん! 勿論、絶好調よ! 多分、今までで最高の性能になってると思う」
アキの手には一体の人型EA『紅葉』が握られていた。
名前の通り紅葉の様に赤く、何処か姫武将を彷彿させる様な力強さと美しさを兼ね備え、刀や薙刀を始めとした和風武器も多数装備。
「ほう……この刀はインターハイ個人戦優勝のレアパーツ『加具土命』だったか? 確か自分の火属性パーツの性能を上げるって言ってたな。――なる程、それで火属性パーツを増やし、代わりに地属性パーツを減らしたんだな?」
「うん! 地属性パーツは耐久力はあるけど移動力や運動性が下がっちゃうから、フレームの関節部とか甲冑の部分だけにしてみたのよ。そして外した箇所には火と風のパーツを付けて火力と機動性を上げたの」
「確かにそれならお前のスタイルにも合うだろう。だが気を付けろ、風のパーツは軽い分耐久力が紙装甲だ。カウンターを喰らわれたら危険だぞ? 紅葉には飛行能力も付けてないんだろ?」
士郎は心配して脆弱な部分を指摘してしまうが、特殊なカスタマイズをしなければ殆どのEAに飛行能力はない。
けれど短時間ならば空中にいられるので、アキはそこまで不安視はしていなかった。
「大丈夫よ? 紅葉の事は私が一番知ってんだからね!」
「ハハ……そうだったな。――あっ」
「えっ?――あっ!」
士郎が不意に時計を見て呟き、アキも釣られて時計を見ると時刻は10時46分を迎えていた。
「あぁ!! 本当にまずいって!? ごめんもう行くから!――行ってきま~す!!」
「おう、行ってら――ってもう行っちまったか。全く時間にルーズなのは義姉さんに似か。確かこう言う時に限って忘れ物するって兄貴が――」
士郎はそこまで言った時、自分の視界の端に写る一枚のカードを捉えた。
嫌な予感は当たるというが、免許証よりも一回り大きいそのカードを手に取って見ると顔が真っ青になる。
『EAWプレイヤー証明カード。プレイヤー名:アキ。ランク:銀の騎士』
そう書かれているこのカードはEAW内の身分証明書と呼ぶ代物であり、これが無ければアキはプレイしても記録に残らず、それどころか会場への特別入場もまずできない。
「あぁ……こりゃあ届けないとヤバいよなぁ?――ヤバいな」
自問自答した士郎は一旦店を閉める事を決断。
本当ならのんびりしながら店番する気だったが、そこは可愛い姪の為と思い我慢する。
士郎はエプロンを脱ぎ、すぐに戸締りの準備をしようとした時だった。
カラ~ン!――と、店の扉に付けていた鐘が音を鳴らし、それと同時に一人の青年が入店してきた。
――マジか。嫌な事は続くな。
士郎は思わず出そうになった溜息を呑み込んだ。
お客にこんな事は言いたくないが、今は姪の一大事。
買い物客じゃなく、長く居座る気ならば帰ってもらおうと考えた。
「はい、いらっしゃい。なんかパーツでも探し物ですかい?」
士郎はそう言って青年の姿を捉えた。
青年は黒髪にマスクを付けて『わらび』と書かれた変なTシャツとジャケットが個性的。
しかしリュックとEAボックスを持っているのでプレイヤーなのは分かった。
「……あぁ、すいません。実は道を聞きたかったんです」
否定する様に手を振って青年は答える。
「道ねぇ……それならさ、せめて何か買ってから聞くもんじゃないか?」
士郎はそう言った瞬間、しまったと思った。
とっとと道を教えれば良かったのだが、遂いつもの調子で言ってしまった。
「何かねぇ……じゃあ――」
青年はそう言うと一目散に店に設置された自販機へと向かい、缶コーヒーを一本だけ購入してカウンターへと戻る。
そして、それをカウンターへと置いた事で士郎は察した。
「いやそうじゃなくてな……せめてパーツを買ってくれよ? なに、おじさんそんなに安く見えちゃった? 缶コーヒー一本、しかもワンコインのタイプで買収出来る程に?」
「あぁパーツか……そうならそうと言ってくれれば良いのに」
そう言って青年はカウンターの隣に置かれている『パーツコーナー』へ移動すると、流し見しながらやがて一つの箱を手に持った。
「ん?……『ウェポン専用のカスタムパーツ』ってなに?」
「なんだプレイヤーなのに知らねぇのか? 4年前に実装された文字通りのパーツで、追加弾倉・ジェネレータ・冷却装置を始めとしたものがあるんだ。勿論、古参ファンの為に古い武装にもカスタム出来るから人気もある」
「へぇ……最近のはこういうのも出してたのか」
まるで知らなかった物言いの青年を見て、士郎はある予感を抱く。
「もしかして兄ちゃん……復帰勢か?」
EAボックスを持っているのに最近のパーツを知らない理由はそれしかなく、士郎の言葉に青年は少し考え込みながら頷く。
「……まぁ、そんな感じなのかな?」
「って事は、行きたい場所はEAWスタジアムしかねぇな。お前も始まりの覇王効果で復帰した口か?」
「……不本意ながら。じゃあ、これ等を貰いますか」
青年はそう言ってカウンターにパーツ一式の3箱置き、それを見た士郎の目つきが変わる。
――ほう、初心者や復帰勢は取り敢えず最新パーツを買う奴が多いが、こいつはちゃんと旧式でも性能やメンテナンス性の高いパーツを選んでやがるな。なる程、現役時代はまぁまぁやってたタイプか。
取り敢えず最新パーツを買えば良い。そんな考えも間違いではないが、旧式のパーツの方が安定したり高性能な物も多い。
目の前の青年は最新パーツではなく、熟練のプレイヤーも選ぶ信頼性のある旧式ばかり選んでいる事から、ただの格好付けではないと判断した。
そして青年がカードで支払いを終えると、士郎も道を教えない訳にはいかくなる。
「まいどあり……さて約束の道の事だが――この際だ、俺が車で送ってやるよ」
どの道、目的地は同じだ。
それならアキにプレイヤーカードを届けるついでに送ってやっても良い。
けれど、士郎がそう言った瞬間、青年の目が疑わしい者を見るようなものに変わる。
「おじさん……根端はなに?」
「ねぇよんなんもん!? 姪っ子のプレイヤーカードを届けるから丁度いいだけだ!」
「なんだ……誘拐だと思った。――ズズッ」
ふざけているのか本気なのか、マスクをしている事で表情が読めないが鼻をススっている事から鼻炎なのだろう。
「なんだ風邪なのか?」
「あぁ……いえ、ただの花粉症です。すいません、ちょっと水貰います」
青年はそう言ってウォーターサーバーの水を貰い、ポケットから取り出した薬を流し込んだ。
恐らく鼻炎の薬。それを確認した事で士郎も戸締りの準備を行い始める。
「先に外に出ていてくれ。俺は戸締りをしてから行くからよ」
「分かりました……」
士郎の言葉に青年も頷き、戸締りや防犯のシステムを士起動し始め、レジの鍵を閉めようとした時だった。
扉から外に出ようとした青年がくしゃみをする。
「ブックシ!!……あぁ花粉症つらいし滅べば良いのに」
「……はっ?」
士郎はデジャブの様な不思議な感覚を覚えた。
何処かで一言一句同じ言葉を聞いたような気がする。しかもついさっきの事な気がした。
――まさか?
士郎は不意に、アキとの会話で停止させていた動画へ視線を移した。
そこには青年と似た様に花粉症に恨みをぶつける覇王の姿があり、士郎は静かに顔をあげる。
「……なぁ兄ちゃん。一つ聞きたいんだが、あんた名前は?」
「うん?……季城 春夜だよ、よろしく」
聞いた事がない名前。だが当然でもある、本名は運営だけ知っていて、世界大会でもプレイヤー名でしか呼ばれていない。
だからこそ士郎は聞くしかなかった。
「――じゃあプレイヤー名はなんだ?」
「う~ん……P名かぁ。――まぁ良いか、言うのはタダだし」
何かあるのか、一瞬だけ言い淀む春夜だったが気にした様子はなくなり、振り向きながら言った。
「俺のP名は――」
――後に士郎は語る。
『あいつとの腐れ縁。そして今日までの事も、全ての始まりはあの時の出会い』
――だったと。