7 始まりの街へ
「イニシヤ! どうしたの? ぼーっとして!」
「あ、ごめん。毎月一日は虚無感が半端なくてさ……ついぼーっとね」
「そうだよね……変な事聞いてごめんねイニシヤ……」
「いやいや、気にすんなよ! とりあえずさっさと食って、今日は寝ようぜ!」
「うんっ!」
思い出にふけるのはもう終わりだ。とにかく12時を回っている。育ち盛りの俺達は早く寝なければならない!
・・・
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――翌朝
「おはよーー! イニシヤ! 早く行こう!」
ノティアが朝から元気だな……寝るのが遅いこの日は特に眠いよいつも。
「ああ……飯食ってからな」
そういってノティアがすでに用意してくれていた朝食を食べ、出かける準備を行った。
「よいしょっと……更に重いな……」
「徐々に強い所へ行けるおかげだね!」
俺達は毎月初めに、ダンジョンで取った素材を大きなリュックに詰めて、ここから徒歩2時間ほどにある大きな町、[始まりの町]に行って売り捌いている。
俺達が拾ってくる魔物の素材や鉱石は結構いい値段で売れる為、全部売り払ってお金にし、からっぽになったリュックいっぱいに食材を買って帰るのだ。
「んじゃあ、いつも通り道中の護衛は任せたぞ?」
「うん! このナイト様に任せなさいっ!」
ここから始まりの街への道中はとても平和で、精々魔物が出るとしても大きなネズミやウサギ程度だ。
その為、今回もレベル1の俺が居ながらも順調に進む事が出来るのだ!
何故あえてレベル1になってしまう一日に行くのかと言うと理由はある。
・・・
この世界では毎月30日、街付近に大量の魔物が出現し、襲来してくるのだ。通称[ブラッドゾーン襲来]と言われている現象だ。
毎月、冒険者ギルドや騎士団から多くの勇士を集い、街を守ってくれる。
襲来してくる理由はよく分かっていない。ただ、人が集まる大きな町などに出現する為、一説には人が集まる場所の近くで出現する等言われている。
とにかく、その襲来のおかげで騎士団や冒険者はかなり消耗してしまう。壊れた武具の代わりが必要になるって訳だ。
武具の需要が増えるのは月初で、月末に近くなると事前準備でポーションなどの消耗品の需要が増えるようだ。
俺達が拾うのは武具の素材ばかり……やはり街に行くなら月初……このタイミングなのだッ!
・・・
・・
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「ついたー!」
「今回も平和だったな」
「うん……つまんなかった!」
「あはは。でも何も無いに越した事ねーよ。危険なのはダンジョンに行ってるときだけでいいっての」
「うん! そうだねっ」
そんな風に会話をしている俺達を、全身鎧姿の騎士がじっと見つめていたのが少し気になりながらもいつもの雑貨屋へと向かった。
「よっと……さて、いくらになるか楽しみだな」
「そうだね! お店もまた進化してるかなぁ!」
雑貨屋は俺達が初めて来た時は木の小屋で出来た小さな雑貨店だった。だが毎月の様に店は改築されていて、今日は大理石の豪華なお店へと変貌していた。
「ああ! イニシヤ君いらっしゃい! 今日も持ってきてくれたんだねえ!」
「おう! 高く買ってくれよな!」
「ひっひ! 任せなさい! 早速見せたまえ!」
そういって眼鏡をかけたやせ型のおっちゃんは俺達の持ってきた素材を鑑定し始めた。
「イニシヤ君! 査定が終わったよ!」
「おお! いくらだっ!」
「全部で55万Gだが……いつも来てくれているから60万Gで買い取ってあげよう!」
「本当かおっちゃん! ありがとうな!」
「んじゃーまたここにサインを……」
そういって俺達はいつもの様に売却後返却等は行わないという誓約書にサインをしようとした。
その時だった……。
――ザクッ!
「いっ?! なんだ!」
突然サインしようとした誓約書に一本のナイフが飛んできて突き刺さった。
「やはり……この店が近年大きくなっていく理由がわかりました」
「こここここ! これは騎士団のミーナ隊長殿! 一体こんなお店になんの御用で……」
あたふたするおっちゃんを無視し、俺が集めた素材をつかみじっくりと見始めた。
「君……こんな素材を一体どこで手に入れたのですか?」
「あ……えっと……父さんが冒険者をしててさ。それを俺達が代わりに売りに来てるんだ。てかいきなりなんだよ! さっさと売って食材を買いに行くんだ!」
「そうですか……どちらにせよ! この素材……[マグマゴーレムのコア]はこれだけで150万Gはします!」
「ええ?!」
「このくそ騎士団め……いらぬ事を……!」
「何か言いましたか? 詐欺師のオーナーさん?」
「あ、あはは! いえいえ何も言っておりませんよ!」
「君! ここで売るのはもう辞めなさい。冒険者ギルドなら適正価格で買い取ってくれます!」
「おい! イニシヤ君! そんな事を信じるのか? 君が売りに来なくなったらこの店は!」
おいおいおい。このミーナって人が言う事が本当なら今までめちゃくちゃ詐欺られてたんじゃねーのか!?
こんなベタな展開に巻き込まれているとは……しっかりと調べようとしなかった俺らも悪いが……。むしろ、別に40万以上あれば生活できるからそれ以上は何でもいいんだがな……。
まぁでもちゃんとした相場は知っておきたいから冒険者ギルドって奴に行ってみるか。
「うーん……とりあえず冒険者ギルドに行くよ☆」
「そんな……イニシヤ君!」
「おじさんバイバーイ! 来月またお店がおっきくなってるの楽しみにしてるねっ!」
俺は持ってきた素材を全部背負いなおし、誓約書をその場で破ってミーナと一緒に店を出た。