35 侵入!
「たしかこの辺のはず……」
ステイシーは一見何もない場所で手をバタバタしている。
「ありましたわ」
「ありましたって何が……?」
右手で何かを掴んでいるような手をしているが、俺には何も見えない……。
「ほら、イニシヤ、私の手の先に触れて見なさい」
手を誘導され、ステイシーの手先のに触れてみた。
「あれ……? なんか感触があるな」
「これを下に引くと……」
――バサッ
「井戸が……!」
「王族専用の脱出隠し井戸ですわ!」
「凄い……でも何でこんな場所を君が……」
「実は王族でしたって事は残念ながら無いですわよ」
「あ、そうなんだね……!」
「昔、城でパーティが会った時に、何者かが強襲してきて……その時の脱出の際に使ったんですわ」
「大変な目に会ってたんだね……とにかく! すげえ助かった! 有難うなステイシー!」
「……お礼何ていいから、さっさと行きますわよ!」
少し照れたステイシーは先にそこへ入って行ってしまった。
・・・
・・
・
井戸の中へ入り一番下まで来た。目の間には大きな横穴が真っ直ぐに伸びている。
妙にじめじめした空気、湿度が高くて息がしずらい場所である。
「暗いな……」
――クイックファイヤボール
イニシヤは小さめの火球を掌に出した。
そして、その球をランタンの様な物に押し込め、灯火となった。
「便利な魔法ね」
「球状になっているおかげで色々活用できるよ」
「わたくしは放射状に広がる炎の魔法に憧れていましたわ。でも今はそっちの方がいいなって思いますの」
「あはは。まぁそれはそれで強そうで気になるけどね……!」
そんな会話をしながら一本道の横穴を進んでいく。
「ちなみに、ここを抜けて王の間に出た時、石碑は近くにあるのか?」
「ええ、王座のある部屋の横に書斎の様な部屋があるのですが、そこに出ますわ。石碑は王座の後ろの台座にドンと設置させていますわ」
「なるほど、誰も居なければ簡単そうだな」
「そうですわね。こんな遅い時間に誰も居ないとは思いますが……」
「とにかく、行ってみるしかないな」
「あれですわ! あの梯子を登ればゴールですわ」
「おお、結構歩いたな……ここからは静かに行くぞ……明かりも消すから気をつけてな……」
「ええ……」
イニシヤが先に梯子に手をかけ、ステイシーはその後ろを登っていく。
・・・
・・
・
――ズズズ……
登った先には、取っ手のついた岩板があり、道が防がれていた。
かなり重いものだったがゆっくりとずらしていくと出口が見えた。
「ゲホ……」
その場所はほとんど使われていないのだろう。埃と蜘蛛の巣で溢れている。
「ここから何処へ行けば……」
乱雑に棚と本棚が置かれている。本当に誰も入っていない場所の様だ。
周囲を見渡すと、王座に続くような道は見えない。
「ここから出る場所が無いぞ……?」
「まぁ焦らずに待ちなさい」
ステイシーは本棚に触れたりしながら何かを探している。
「あ、ここですわ。この棚」
ステイシーは一つの棚を指した。乱雑に置かれている中、それだけは壁にピタッと張り付いており、少し違和感を感じる。
「ここを引くと王座に出ますわ」
「成程……念入りに隠されているんだね」
イニシヤはその棚に触れ、ゆっくりと押した。
すると、人が一人通れるほどの横穴が現れた。
・・・




