21 同居
「大変だったんだねぇ……!」
ノティアはその話をうるうるしながら大きく頷き聞いていた。
「それから気がつけば1年以上経ったわ」
「大変だったんだな……1年以上もどうやってあんな所で生活を……」
「……貴方達が入っていたダンジョン、こっそりいつもついて行ってたのよ……それで、拾わなかった素材を拝借して街で売っていたわ」
「そうだったのか……全然気がつかなかったな……」
「そんな事せずに、一緒にパーティ組めば早かったのに!」
(ノティアの言う事はもっともだ。何故そんな残飯漁りの様な事を……)
するとステイシーは少し顔を赤らめぼそっと呟いた。
「わたくし、男性とはお父様としか話した事が無く……話しかけられませんでしたの……」
「お……俺のせいだったのか……!」
「イニシヤ! 女の子になって!」
「は? 無茶言うなっての! それに今は結構話せてるじゃないか」
(相変わらず視線は合わしてくれないけど……)
「後ろでずっとついて行くうちにちょっとだけ慣れてきましたわ……」
「とにかく、一人であんなダンジョンを動くなんて危険だ。次からは俺達と行こう」
イニシヤがそう言うと、ステイシーはキョトンとした目で沈黙した。
「え……えっと、つまりわたくしもパーティを組んでも……?」
「ああ。君の力は俺にとって最高だ。むしろこちらからお願いしたい!」
「そうだよ! イニシヤはINT値が重要だし、相性ばっちりだよっ!」
「はわわ……そんな相性だなんて破廉恥ですわ……」
「はれんち?」
(いや相性って単語だけで何を想像しているんだこの子……)
「とりあえず、もう少し君のエンチャントの効果について知りたいな」
「ええ、そうですわね……わたくしの認識では、INTを上昇させる。対象のINT値が多い程上昇率が上がるって所ですわね……」
「成程……継続時間は?」
「それも結構ランダムで、寝るまで消えない事もあれば気がついたらすぐに消えている事もありますわ」
「ふむ……」
(俺のINT値は……丁度1000か)
「ステイシー! ちょっと俺にバフしてみてよ!」
「ええ、分かったわ!」
「あと、ノティアにも掛けてくれ」
――エンチャント・マジック!
(……1300か)
「ノティア、INT値いくつになった?」
「え? えーっと104だね!」
「成程……じゃぁ元のINT値は80だな?」
「……正解だよ!」
「成程、ステイシーのエンチャントは……割合で上昇するタイプだ」
「割合で上昇……?」
「ああ、割合はわかるだろ?」
「ええ、もちろんですわ。買い物をする時に3割引き以上値引きしないと買いませんし……」
「ステイシーのバフはINTを30%上昇させる。だから、ステータス10のかかしは絶対に13にしかならなかったんだ」
「割合で上昇するバフですか! 聞いた事無いですよそんなスキル……」
ミーナは大層驚いていた。
「多分だが……エント家は、あまり才能がない子をお見合いさせ、結婚させるんだよな……? かかしでしか試さないせいで、割合上昇を持つエンチャンターが表舞台に出てこないんじゃないかな……」
「ありえますね……」
「でも結局数値100の人に掛けても30上昇……固定で100程上昇させる方の足元にも及びませんわ……」
「しかし! トップランカーの魔法使い様等であれば物凄く重宝しますね! 売り込んでみるのはどうでしょうか!」
「え……でも」
「そう言った人のサポートが出来るなんて立派な冒険者と言えますよ!」
ミーナはステイシーに道が見えてかなり喜んでいるようだ。
「ミーナ、確かにそれもいいと思うよ」
イニシヤがそう言うとステイシー顔は少し沈んだ。
「でも、ステイシーは俺の(メンバー)だ! 俺のスキルとめちゃくちゃ相性が良いんだ! 手放したくない」
「あああ……貴方は何をおっしゃって……」
「ふふ、言ってみただけですよ。ステイシー様は君達と居る方が心地よさそうですし」
「ミーナ……図りましたわね」
「いえいえ、イニシヤがハッキリと必要だ言わないから背中を押しただけですよ」
「あはは、言葉で言わなくなって、必要なのは間違いないよ」
「にしてもまだ上昇したままだな……ちょっと色々試してみようか」
そうしてその日はステイシーのバフ効果を入念に調べる事にした。
・・・
エンチャント・マジック
INTの数値を30%UPする(重複不可)一度スペルを使用した後、すぐにINT値は元に戻る。
「効果は間違いなくこれだな!」
「一回スキルを使うと戻るなんて我ながら不便ですわ……」
「INTが関係ない攻撃スキルを使っても消えちゃったよ!」
「何を言っているんだ。その都度かけてもらえばいい! ステイシー、大変だけど頼んだ!」
「ええ! お任せくださいですわっ!」
「ステイシー様は元気になられて本当に良かったです。では、私はそろそろ戻りますね。もうすぐ[ブラッドゾーン]が現れる時期ですから準備をしなければなりません」
「もうそんな時期か……」
「ええ、ではこれで」
そういってミーナは街へと帰っていった。




