20 絶望的
――1年後 エント家 訓練場
「では、最後のチャンスだ。少しでも数値が上がっていれば縁談の件は無しとしよう」
「分かりましたわお父様……」
(あれからミーナにも付き合ってもらって何度も練習したわ……少しずつだけど上昇値も上がっていた……今ならきっと……!)
ステイシーは大きく深呼吸をした後、目の前の訓練用かかしに向かってスキルと唱えた。
――エンチャント・マジック!
「どうだ?」
父親はメイドに数値を確認させた。
「旦那様……えっと……」
「どうした? 早く言わないか」
「13……3だけ上昇してます……」
「!? そんな……嘘ですわッ!」
ステイシーは訓練用かかしに駆け寄り、自身の目で数値を確かめた。
「嘘……なんで……も、もう一度!」
――エンチャント・マジック!
――エンチャント・マジック!
――エンチャント・マジック!
・・・
・・
・
「気は済んだか? ステイシーよ」
「うそ……何で……」
ステイシーはINT13から一切変わらないかかしの前で大粒の涙を流し、膝から崩れ落ちた。
「明日、相手方の男性に来てもらう」
そう言い残し、父親はその場を去っていった。
・・・
――その夜
「……」
大きなリュックを背負い、街の入り口から静かに出ていく少女の姿があった。
「ステイシー様ですよね?」
「……ミーナ」
門番をしていたミーナにステイシーは見つかってしまった。
「こんな夜中に危険です。何処へ行くのですか?」
「……家出よ」
「家出!? 一体何故……まさか今日の試験……」
「……ダメでしたわ。結局3しか上昇しなかった……前代未聞の落ちこぼれと罵られたわ」
「ステイシー様……」
「訳の分からない男と結婚するくらいなら、私は家を捨てて立派な冒険者になって家族を見返してやるわ」
「待ってください! もう一度私にバフをかけてもらえませんか?」
「……いまさら何が分かるってのよ……」
ステイシーはさっさとその場から退散する為にさっとミーナにバフを掛けた。
「じゃぁね、ミーナ」
「……ステイシー様! 私のINT値、150が195になりました。45も上昇していますよ!」
「え……?」
「もしかして、ステイシー様のバフは特殊で、大きなINT値が大きい人に程、大きな数値を付与できるのではないですか?」
「成程……なら納得がいきますわね……」
「私も一緒に行きます。だからもう一度御父上を説得しましょう!」
「……」
ステイシーは少し考えこんだ後、笑顔でミーナに答えた。
「有難う、ミーナ。でももうその選択肢はありませんわ」
「そんな……」
「もう、決心はついたのです。ミーナ、絶対にこの事は他言無用ですわ」
「……分かりました。本当に気をつけて下さい……」
「ええ。貴方も元気でね」
そうしてステイシーは街を去った……。
・・・
・・
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