(2) レン太
「お前には2つの選択肢がある。この食事を、明日以降も食べ続けたいかどうか、だ」
この豪勢な食事を味わって3日目、夕食のデザートを食べ終わったと同時に重々しい扉が開き、入ってきた男が言った。
男はゆっくりとぼくの横まで進み、ニヤリと笑った。勝ち誇っているかのような、いやな笑い顔だった。
しかし顔そのものは端正だ。そのあまいマスクを、ぼくは知っていた。男は、見ず知らずの人間というわけではなかった。いや、むしろ、よく知った人間といってよかった。ぼくの、小、中、高の12年間の同級生だったからだ。
しかも、12年間のうち6年は同じクラスだった。ぼくの24年の人生において、これほど長く付き合った人間は親を除いて他にいない。人生の半分、同じ学校に通い、人生の4分の1、同じ教室にいたのだ。
「レン太……」
「ほう」
男が片方の眉を上げる。
「覚えていてくれたのか。それはとても、ありがとう」
学校でこれほど長く顔を合わせていたのに、どうすれば忘れたと思うのだろう。本当に忘れたのかもと思っていたとしたら、ぼくのことをバカにしすぎている。
「忘れてはいない。明確に覚えている」
ぼくは睨みつけながら言った。彼のことを覚えているのは、一緒にいたのが長かったという理由だけではない。もう一つ、レン太には誰もが忘れないような大きな特徴があったからだ。
「田中君、覚えていてくれて光栄だ」
「忘れるわけがない。総城レン太」
「そうだろう。まぁ忘れていないということは想像がついていた。でも君は、覚えていても忘れたと言いそうな人間だからな」
レン太がぼくの心の内を覗き込むかのように、腰を折ってグッと顔を寄せる。
「言いそう、な、人間?」
「あぁ。作家さんは心の内と反対のことを言うなんて日常茶飯事だろうからな、田中君。いや、青海川悠人さん」
レン太は再び顔を離し、ぼくを見おろして言った。