34ページ 災禍
「わかる? この腐った学校を作った校長の……娘なの、私」
「……。」
生き残った航平、輝、稜、篤志、佳典、荘一郎。愛菜、あさひ、綾子、沙耶、冴子、雅恵。12人は息を呑んで紗弓の話を聞き続ける。
「この高校があるおかげで……圭人くんも、真奈ちゃんも不幸になった。違う?」
「……。」
誰も答えられない。
「こんな学校……存在するだけで人に害を与えるの……」
紗弓がニッコリ笑って前へ出た。航平たちは警戒して一歩後ずさる。
「どう?」
紗弓が言った。
「賭けをしてみない?」
「賭け……だと?」
「そう。賭け」
紗弓がニッコリ笑うのが、航平には狂ったように見える。いや、実際コイツは狂っている。航平は確信した。
「ロシアンルーレットみたいなものよ。助かるか死ぬかは、あなたたち次第」
「……もっと具体的に言えよ」
「わかってるくせに」
紗弓は意地悪く笑った。そう。もう罪が暴かれた紗弓、真奈、圭人たちに残された道は少ない。警察が外で待ち構えている。もしも警察が突入してきたり、投降せざるをえないような状況になれば、必然的に紗弓たちは拘束されるのである。
「もしも私たちが警察に捕まったりすれば……これまでの計画が水の泡よ。ねぇ? 浜野さん」
「……。」
真奈は無表情で銃を向けたままだ。
「そういうわけで……あなたたちには強制的にこのゲームに最期まで付き合ってもらうから」
「……。」
ガチャッ、と機械が航平たちの前に置かれた。
「……?」
「これ、何だ?っていう顔をしてるわね。教えてあげる」
血の臭いが充満してきていた。既に事切れた慶介と負傷して意識が混濁してきている圭人、軽傷で済んだ冴子、重傷を負いつつも懸命に立ち上がる航平の4人の血の臭いが部屋に充満しているのだ。
真奈が無表情でスイッチを押した。
「!?」
その瞬間、体育館のあたりが明るくなったかと思うと轟音が響いた。窓ガラスが一部、亀裂を走らせ校舎がグラグラと揺れ動く。
「あっ!」
輝が声を上げた。航平も痛む体を荘一郎に支えてもらいながら外を見ると、体育館が炎上していた。
「ウソ……」
「ウソなんかじゃないの」
真奈がようやく口を開いた。
「このボタンのどれかで……体育館のように、この教室が吹き飛ぶようになってるのよ」
「……!」
全員の顔が青くなる。
「10個のボタンの中には2つ、爆弾と連動してるボタンがある」
「……2つも」
あさひが震える声で呟いた。
「ひとつはこの部屋。そしてもう一つは……私たちが今から移動する、隣の部屋よ」
「なんだと?」
「……。」
真奈の顔がようやくいつもの優しげな表情に戻った。
「聞いてくれる? 大西くん」
「……なんだ?」
「私ね……。本当はこのクラス、大好きだった」
「……。」
「何言ってんの、今さらって思うかもしれないけど……本当に好きだったよ?」
その目には、涙が浮かんでいた。
「でも……自分の中の憎悪がどんどん、どんどん大きくなっていったの。抑えきれない。爆発しそうになっていく。毎日、毎日。どうして私だけ、こんな目に合うんだろう。それがただ、爆発したの」
「……。」
「そうなるともう抑え切れなかった。どうやってコイツらを殺してやろうか。自分の思う存分、痛めつけてやる。そう思ったらもう、止まらなかった。伊藤さんと、こんな腐った学校……潰してやるって誓ったの」
「それで……なんでクラスメイトを平気な顔して殺せるんだ!」
「……。」
スッと真奈の手が上がった。銃口が航平たちに向けられる。
「やめて! 真奈!」
「下がって!」
「!?」
紗弓が走り出していた。放り投げられた機械を持ち上げ、構える。
「何……する気だ!?」
「もう……後戻りなんてできないの」
「……。」
冴子が力なく立ち上がって呟いた。
「そんなことないよ……。真奈。今からでも反省すれば……」
「そうだね。サエちゃん。でもね、私が殺した人たちはもう……戻ってこない」
「それはそうかもしれないけど! でも……」
ガシャアアァン!と何かが割れる音が響いた。
「あっ……! 警察が来た!」
荘一郎が嬉しそうな声を上げた。同時に、紗弓と真奈は顔を合わせる。
「は、浜野……!」
「ありがと……大西くん」
銃を構えたまま、真奈と紗弓はジリジリと後ろへ下がる。
「浜野!」
「寄らないで! 離れて……」
「待てよ……。もう少し、もう少し話を」
「時間がないの」
「ないことねぇ!」
真奈の目から涙がこぼれた。
「ありがと……。でも、もう……私はダメになっちゃった」
スイッチに、真奈のか細い指が触れる。
「やっ……やめろおおおぉぉぉ〜っ!」
航平の悲鳴が教室に響き渡る。
次の瞬間、全員の目の前で閃光が起きた。