32ページ 偽装
「……!」
「真奈……」
誰もが目を疑った。死んだと聞かされていた浜野 真奈がいま、目の前で煙を吐いている銃を構えているのだ。
「ど……ういうつもりなの、真奈」
撃たれた左腕を右手で押さえながら、真奈に聞く。
「どういうつもりって?」
「なんで……なんでこんなことするの!?」
「別に」
「え?」
「あなたに言う必要なんてないじゃない?」
「どういうことよ、ねぇ!」
沙耶が震えながら聞いた。
「浜野さん……こ、殺されたんじゃあ……!?」
「ダメね〜、野口さん」
真奈はスッと銃を向けた。
「勝手に人を殺しちゃ……」
「やめろ」
慶介が立ちはだかった。
「何?」
「女の子に銃なんか向けるな」
「へぇ〜……。何よ、偽善者ぶって。だいたい、わかってる? アナタも今回の事件の原因の一人なのに」
「……そんなこと、百も承知だ」
慶介はグッと唇を噛み締める。
「じゃあ」
慶介に銃口を向ける真奈。
「待てよ」
それを慶介が制止した。
「俺が死ぬ前に……真奈に見せかけて死んだ子、誰だったか教えてくれない?」
「知ってどうするのよ」
「ただ……知りたいんだ」
「……いいわよ。教えてあげる」
航平と冴子は彼女を目撃していた。だからこそ、真奈を疑うことになったのだ。グッと唇を噛み締める航平。ズキズキと右腕が痛むが、この時ばかりはその痛みも忘れるほどだった。
「清家さんに決まってるじゃない」
「……!」
慶介の顔があからさまに歪んだ。
「私に体型も髪型もソーックリだったから、夜の闇に紛れた状態ならわからないと思ってね」
「いつ……? いつのタイミングで清家さんを?」
「彼女もフェロモンの作用でちょーっとテンション上がっちゃってね。その時に私とバトルしたんだけど、その時に殺っちゃった」
それからあさひの方を見て「ね? あさひ」と真奈は同意を求めた。あさひはその一部始終を見ていただけに、恐怖感が人一倍大きい。
「まぁ、冴子と大西くんにはアーッサリバレちゃったわけだけど」
引き金を引く。
「慶介!」
「旗本くん!」
クラスメイトが叫ぶが、慶介は身じろぎ一つしない。
「もう……こんな状況になっちゃったから関係ないよね……」
「それはどうだろうな……」
それが慶介の最期の言葉だった。
乾いた音がして、慶介の大柄な体が吹き飛んだ。沙耶も巻き添えを食らう形で慶介の下敷きになった。ただ違うのは、慶介にもはや生気は感じられないというところだけだろう。すなわち、即死だった。
「いやあああああああああああああああ!」
沙耶が狂ったように叫ぶ。
「旗本くん! 旗本くん!」
「……!」
航平は顔色を青くしながらも立ち上がり、突然真奈の襟をつかんだ。あまりに急な動きだったので、紗弓も圭人も予想だにできない行動だったのだ。
「なんでだ!」
「……!?」
「理由を言え……理由を!」
「はぁ?」
「なんで……なんで慶介や悠斗を殺したんだ!? 圭人の理由は聞いた。もういい。お前はなんなんだよ!?」
「……!」
「言えよ!」
「……いいわ。言ってあげる」
真奈はニッと笑って航平の手を振り払った。よろめいた航平を輝が支える。
「けど、聞いて後悔とかしないようにね?」
真奈は淡々と言い放ち、ゆっくりと語り始めた。
【死亡者】
男子9番:旗本 慶介……浜野 真奈(女子9番)に銃殺される。
女子6番:清家 彩乃……浜野 真奈(女子9番)に殺害される。