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「あら……何を言い出すのかしらね、この子は」
沙弓は不敵な笑みを浮かべた。しかし、航平も怯まない。
「俺がおかしいと思ったのは、浜野が死んだ時点だ」
クラスメイトも不安げに沙弓と航平の競り合いを見つめている。
「ふぅん? どのあたりが妙だったのかしら」
「いま、死んだのは14人。生き残っているのも、清家が無事だと仮定して14人。ちょうど半分だ」
航平はあさひの方を向いた。
「小林」
「な、なに?」
「お前、近宮が死んだのを……見たよな?」
「え、えぇ……」
あさひは絢子の頭部が幸雄によって持ち上げられるのを思い出し、身震いした。航平は複雑そうな表情を浮かべた後、今度は沙耶の方を見た。
「そして、その幸雄は音駆を殺害。その後……野口によって銃殺された」
沙耶が俯いたまま、肩を震わせ始めた。航平は慌てて駆け寄る。
「ゴメンな、野口。責めてるわけじゃないんだ」
「……真相を、つかむために、必要なんだよね?」
沙耶は涙を堪えながら航平に聞いた。
「あぁ」
「わかってる」
航平は沙耶の方を見て笑い、今度は沙弓を見つめ返した。
「そして、浜野と七瀬は俺と冴子がこの目で……亡くなったのを確認した」
「それがどうかしたの?」
「江藤は、小林たちが死亡したのを確認してる」
「それで?」
「飯島は……誰か見た?」
「俺が……」
佳典が小さく手を挙げた。
「同時に、飯島が船津を……手にかけたのも見てる」
佳典は言い終えてから唇を噛み締めた。航平も辛いのだが、続けるしかないと思い再開した。
「……北山は、音駆が殺害した。安本も、悠斗が言うには……谷沢が殺害したんだ」
「……悠斗」
慶介は悠斗が亡くなったのを思い出したようで、涙をボロボロとこぼし始めた。
「谷沢は、悠斗、安本、音駆の3人を殺害してる」
「それがどうしたっていうの?」
沙弓は蔑むような笑みで航平に詰め寄る。
「まだわかんない?」
「えぇ。なぁんにも」
「じゃあ教えてやるよ」
航平は沙弓の正面に立った。
「話は、説明会のときに戻る」
「そんな前に?」
あさひが目を丸くした。
「あぁ。あの時をしっかりと思い出してくれ」
全員が顔を見合わせる。
「わかんないか?」
「な、何も……」
冴子が首を振る。
「じゃあ、蘇我」
「な、なに?」
「お前……ここへ来る途中、何か見なかったか?」
「え?」
「何でもいい。思い出してくれ」
「えっと……あ!」
篤志は思い出したような表情になり、すぐに震え始めた。
「わ、綿岡が……」
「綿岡さん?」
「……死んでた」
「なっ……!」
慶介と荘一郎が思わず声を上げた。
「綿岡さんも……!?」
雅恵が信じられないというように目を丸めている。航平がニッと笑った。
「これで駒は揃った」
「どういうこと?」
「後は、説明会のときを思い出してくれればいい」
沙弓の表情が固まった。どうやら、焦っているようだ。
「説明会の時には……誰が亡くなった?」
「湯前くん双子組みが……え……?」
沙耶が手で口を覆った。
「野口は気づいたのかな?」
「で、でも!」
「そうだよな。そんなことはありえないハズなんだ」
「ちょっと! もったいぶらないでよ」
あさひが堪えきれなくなり、立ち上がって航平に詰め寄った。
「いいか? 不自然な点が多すぎるんだ。二人の死には」
「不自然な点?」
「まず、なぜ二人の遺体はすぐに回収されたか、だ」
「……。」
沙弓がいよいよ喋らなくなってきた。航平は形勢逆転だ、とニンマリ笑う。
「説明会の邪魔になるからじゃ……」
「だったら、なんで浜野と七瀬の遺体を回収しない? 外部には警察関係者がウヨウヨいるんだぜ? 俺たちの監視はできても、あれだけの数がいる警察が浜野と七瀬の死亡確認をしに来ないと言い切れるか?」
「それは……わかんないけど」
雅恵が答える。
「だろう? それに、ウイルス感染した江藤の遺体を放置するってことは、自分たちにもウイルス感染が起きる可能性があるというにも関わらず……彼女の遺体は回収されていない」
「あたしたちはウイルス抗生剤を持って服用しているからね」
「そのウイルスってのも不自然だ」
「どういうこと?」
愛菜が驚いた様子で珍しく声を大きくして航平に聞いた。
「ウイルス発症による死者が、江藤以降誰も出ていない」
「あっ……!」
綾子が声を上げた。
「パンデミックの実験とか言っといて、アイツ以降誰もウイルス発症なんて起こしてないんだ」
「それじゃあ……」
雅恵が引き取る。
「やっぱり、これは実験なんかじゃないってこと?」
「そういうことになるな」
「そんなことって……」
冴子が震える。
「話を戻すぜ。説明会のときだ」
沙弓が震え始めた。しかし核心を突くまで、航平は話をやめるつもりなどなかった。
「説明会の時点で……二人死んだ」
ここまで来て、航平の心臓も高鳴る。自分が考えている予想は、本当にそうであるかは確信がまだ持てない部分があるためだ。
「けど、双子のうち片方は……直接俺たちが死を確認した」
心臓が高鳴る。
「他の犠牲者も同様だ」
「ちょ、待てよ」
慶介が遮る」
「それじゃ……まさか」
「そうだ……。直接俺たちが死んだ瞬間を目撃していない人物がこの事件の首謀者――」
「ご名答〜」
背後から聞き覚えのある声がしたので、全員が振り向いた。
「まさか……君みたいな運動バカにバレるなんて思ってもなかったよ」
ニヤッと笑う少年。しかし、目は笑っていなかった。
「やっぱり、あの時ちゃんと殺しとくべきだったかな」
そこに立っていたのは、湯前 圭人(男子12番)だった。