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27ページ 告発

 朝食の時間が迫ってきた。すなわちそれは、沙弓と顔を合わせなければならない瞬間がやってきたということである。

「私たち……大丈夫だよね?」

 沙耶が震えている。

「心配するなよ。確かに、これはテロ事件っていう可能性がほぼ確実だけど、それがわかったからって俺たちが殺される心配なんてないよ」

 慶介が震える女子を励ましている。そんな中、航平は自分の中に生まれる疑心暗鬼の気持ちに不快感を覚えていた。

「……!」

 教室を前にして、慶介がその動きを止めた。

「どした?」

 航平が気づいて声をかける。

「いや……ちょっと緊張して」

「俺が……開けるよ」

 航平が前に立ち、一気にドアを開けた。

「……。」

「おはようございます」

 沙弓がゾクッとするほど不気味な笑みで挨拶をする。

「あなたたちで全員よ」

 航平はそれを聞いて愕然とした。なぜなら、航平たち以外に着席しているのは安藤 輝(男子1番)、佐々木 稜(男子5番)、蘇我 篤志(男子6番)、日暮 佳典(男子10番)のみだったからだ。

「わかってるとは思うけど、真相がわかりつつあるわね」

「……あぁ」

「よく考えなさい。誰のせいで、こんなことになってるのかを!」

 その言葉を聞いて明らかに表情が変わったのは慶介、荘一郎、あさひ、愛菜、綾子、雅恵の6人だった。それを航平は見逃さなかった。さらに、教室内にいた輝、稜、篤志、佳典も顔色を変えた。

(何があったんだ……)

 沙耶、冴子と顔を見合わせる。彩乃が行方不明になり、智章が亡くなった以上、皆が知っているであろうその事実を知らないのは3人だけである。

「座りなさい」

 指示されて、航平たちは着席する。

「さて……。何も包み隠す必要がなくなったから言うけど、あなたたちはいま人質よ」

「……!」

「あぁ、そうねぇ……。なんでかっていう理由が欲しい?」

 誰も答えない。しかし、表情がそういう風になっているのを沙弓は読み取ったようだった。

「わかってる人はわかってるんでしょう? ねぇ……旗本くん?」

 ギクッと慶介が体を震わせた。

「この……楼桜高等学校は中学校から上がってくる人が少なくないそうね」

 沙弓はゆっくりと室内を歩きながら言う。

「この2年B組では、中学校が楼桜中学校でなかったのは大西くん、小村くん、七瀬くん、湯前圭人くん、湯前速人くん、清家さん、野口さん、桃地さんだけ……」

 慶介の心臓が高鳴る。航平には慶介の顔色が悪くなるのが見て取れた。

「知ってた? 吉田さん」

「え?」

「楼桜高校に進学するとき……中学在籍の者は無試験で上がれるのよね」

「そうですね……」

 雅恵は沙弓と目を合わさずに答える。

「中学はどうなのかしら?」

 その言葉に沙耶、航平、冴子以外の全員が体を震わせた。

「試験は……受けた?」

「……。」

 誰も答えない。

「答えられないわよね。だって……このクラスにいる人たちは……」

 沙弓の言葉に航平は前進に衝撃が走った。

「全員、コネで入ったんですもの」

「それとこの事件に何の関係があるんだよ!?」

 我慢できない様子で慶介が立ち上がった。

「まだわからないの?」

「わかるわけねぇだろ!」

「じゃあ教えてあげる!」

 沙弓が大声で言った。

「アンタたちがコネで入ったせいで、どれだけの人が苦しんでるかわかる!?」

「……!?」

 全員の目が見開かれた。

「本来、試験で合格した人たちがアンタたちみたいなヤツらのせいで、落ちてるの!」

「そんなバカな……」

 航平が信じられないという様子で呟く。

「わかる!? 日本の教育なんてそんな風に腐ってるの。狂ってるの!」

「……。」

 誰もが言葉を失った。

「先生」

「何?」

 航平が手を挙げて、冷静に言った。

「先生も、その落ちた側ってことでしょ?」

「……よくわかったわね」

 沙弓が不気味な笑みを浮かべる。

「私のときもそうだった。私、1回は合格したの。でもすぐ後に不合格になった。それでどう!? 落ちたハズの友達……もうあんなの、友達って呼ぶだけで吐き気がするけど、ソイツが補欠で合格(うか)ってるの! 許せない……真面目に頑張ってる人を犠牲にして、のうのうと学生生活を(おう)()するヤツらが許せないの!」

 そして沙弓は慶介たちを睨んだ。ビクッと全員が体を震わせる。

「だからね……私は言ったの。彼に」

「彼……?」

「復讐しない?って」

「な……!」

他人(ひと)の人生を潰すような人は……人生潰されたって、文句言えないでしょう?」

「……。」

 誰も答えられない。

「潰されたんだから、潰しかえさなきゃ……。そうしたら彼はすぐに納得したわ。それと同時に、いろんな計画をしてくれたの。やっぱり、元から頭はいいものね。彼を味方に付けることで、この計画はこんな風にほぼ完璧に遂行できたのよ」

 そう言い切ってから、沙弓は銃を取り出した。

「な、何を……!?」

 冴子が身を乗り出した。

「決まってるじゃない。この事実を知った以上、アンタたちは全員……生かしておくことはできないわ」

「だからって……アンタだって無事じゃ済まないだろ!?」

「承知の上よ。私だって生きて帰れない……。じゃあ、アンタたちも巻き添えにしてやるわ」

(狂ってる……!)

 冴子と沙耶はただ、震えるしかなかった。他のクラスメイトも自分の行いがここまでの事態を引き起こしたことに、ただ恐怖しか感じ取れずにいた。

「その前に」

 航平が手を挙げた。

「俺が……その()が誰なのかを教えてやろうか?」

 沙弓の顔が引きつった。

「どうよ?」

「おもしろいじゃない。やってみなさいよ」

「お安い御用」

 航平はニッと笑って前へ向かう。

「航平……」

 慶介が心配そうに声をかける。

「大丈夫だ」

 そして、言った。

「犯人は28人の中にいる。どうだ?」





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