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25ページ 断罪

「やっぱり浜野さんは気づいちゃったか……。君、要注意人物だとは思ってたけどね」

 彼はスッと智章の横に立ち、突然智章の首を締め付けた。

「グゥッ!」

「やめて!」

 真奈が悲鳴に近い声を上げた。しかし、彼はその手の力を緩めようとしない。

「何が目的なの……?」

「断罪だよ」

「断罪?」

「そうさ。このクラスの大半(・・)は、罪を裁かれるべきなんだ」

「……それは、私も入ってる。どう?」

「自分のことはやっぱり一番よくわかってるんだね」

 彼はニッと妖しげな笑みを浮かべた。智章は普段の顔からは想像できないその不気味な笑みに、鳥肌を浮かばせた。

「心配しなくていいぜ、七瀬。君は断罪されるべき人間じゃないからね」

 そうは言われても、智章は恐ろしくて動くこともできない。そもそも、このような状況下でその言葉を信用しろと言われても無理な話である。

「それで? 断罪されないのは誰か教えてくれたりする?」

「いいよ。教えてあげる」

 彼はニコッと笑う。しかし、その瞳は復讐に燃える目のように智章には映った。

「断罪されないのは大西航平、七瀬智章、清家彩乃、野口沙耶、桃地冴子のみだ。予定外だったけど、死んだヤツもいる。小村悠斗とかね」

「なるほど……。わかったわ、共通点があるじゃない」

「さすが浜野さん……。鋭いね」

 そういうや否や、彼は銃を腰から取り出した。

「……それで私を殺そうっていうの?」

「ご名答」

「……信じられない。あなた、そんな人だったのね」

「人を見かけで判断しちゃダメだよ?」

「これから気をつけるようにするわ」

「これからが……あれば良かったのにね」

 スッと彼は銃を真奈へ向けた。しかし、真奈は身じろぎ一つせず、強い眼差しで彼を見つめている。

「サヨナラ」

「……。」

 不意に、智章を締め付ける手の力が弱まった。智章はその瞬間を逃さず、立ち上がり真奈の前に立ちはだかった。一瞬、目の前が明るくなった気がした。同時に彼の顔が驚愕の表情に包まれるのを智章は最後に目にした。

「七瀬くん!」

 真奈が悲鳴に近い声を上げた。銃を構えた彼も、いま自分がした行為が信じられないようで、煙を吐いている銃口をしばらく見つめたままだった。

「だ……だいじょう……ぶ?」

「なんで!? あなた、断罪されないって言われたじゃない!」

「だ……断罪……。浜野さんたちが何をしたのか……俺、わかんないけど……。もしいま、浜野さんがここで殺されるのを見てるだけ……だったらゲボッゲホゴホゴホッ!」

 智章が血を吐いた。真奈の制服が真っ赤に染まる。

「やめて! 喋らないで……ジッとしてて」

「もう……ダメだよ。俺さ……このま……ま、浜野さんを見殺し……にしてた……ら、それこそ……断罪ものじゃん?」

「七瀬くん……」

 智章の目が、焦点が合わないようになってきた。

「七瀬くん! お願い……しっかりして!」

「浜野……さん」

「何?」

「最期の……お願いがあるんだ」

「何? 最期なんて言わないで……。お願い!」

「抱いて……て、ほしい」

 真奈はそれですべてを悟った。つまり、智章は真奈のことを好いていたのだろう。

「抱くだけでいいの?」

「……うん」

「……わかった」

 焦点が合わなくなっている以上、智章には真奈の姿も見えていないのだろう。真奈はそう思い、抱く仕草をしながらそっと、智章の唇に自らの唇を重ね合わせた。

「……抱くだけで良かったのに」

 その言葉を最期に、智章の体が力なく崩れ落ちた。

「……復讐って、言ったわね?」

 真奈の冷たい声が彼に届く。

「いいじゃない。()りなさいよ」

「ウッ……ワアアアアアァァァァァッ!」

 彼が銃に手をかけると同時に真奈が振り返った。

「ただし、私も容赦しない!」

 隠し持っていたカッターナイフを取り出し、真奈が一気に彼のほうへと向かう。

「アアアアアアアアアッ!」

 パァン!と乾いた音がして、真奈の胸に赤い穴が開いた。続いてバァン!とまた音がして真奈のおなかに穴が開いた。そのまま真奈は智章の体に重なるようにして倒れ、もう、動かなくなっていた。

「……仕方がないんだ。目標達成のためには、多少の犠牲は仕方がない」

 彼は倒れた智章に後ろ髪を引かれる思いを抱えながら、その場を立ち去った。真奈の耳に、彼が走り去る音が聞こえる。


 ――どうなんだろう。


 あの時、私が彼を助けられていたら、七瀬くんは死ななかったのかな。


 私も、死ななかったのかな?


 ……。


 ねぇ、教えてよ。


 誰か……。


 あぁ……意識が遠のく。


 最期に……伝えなきゃ……。


 真奈は携帯電話を取り出し、最期に発信をした。


「……!」

 死んだはずの浜野真奈からの着信。彼は一瞬驚きで身を震わせたが、すぐに切った。

「もう……あと少しなんだ」

 智章の名前と、真奈の名前を消す。

「大丈夫……慎重にやれば、大丈夫……」

 なぜか涙が流れてくる。自分は、なぜこんなことをしているのかわからなくなりそうだったが、すぐに頭を振って執務室となっている部屋へと足を速めた。



【死亡者】

男子8番:七瀬 智章……何者かに銃殺される。

女子9番:浜野 真奈……何者かに銃殺される。



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