24ページ 逃走
「ん……」
七瀬 智章(男子8番)がふと目を覚ますと、体育館の裏側にある草原のようなスペースで横にならされていた。
「あ、目ぇ覚めた?」
その声は浜野 真奈(女子9番)だった。
「浜野さん……」
「大丈夫?」
「う、うん。浜野さんは?」
「私も平気」
「そっか。よかった」
沈黙が続く。
「あのさ……」
「何?」
「いま、何時?」
「今は……もうすぐ夜が明けると思うけど、午前4時20分」
「4時ぃ!?」
「シッ! 声大きい」
「ゴメン……」
智章と真奈はしばらく黙り込んでしまった。
「清家は?」
「わかんない……」
「……。」
智章はショックで言葉も出なかった。
「し」
その言葉を出すのが怖くて仕方がなかったが、智章は勇気を振り絞って聞いた。
「死んだのか?」
「わからない」
まだ、次の放送が掛かるまでは2時間ほどある。それまでは誰が亡くなったかは全然わからないというのが現状なのだ。
「調べる手立ては……」
「なくもないわ」
「本当か!?」
真奈は外を指差した。
「あそこ、見える? 赤い灯」
「あぁ……」
「走って。あそこ目指して」
「なんで?」
「逃げるわ」
「無理だよ!」
「無理でも、やってみるしかないの!」
真奈が勝手に走り出した。智章も後を追うしかない。
(やっぱり……誰かいる)
真奈は智章以外の第三者がいる気配を感じていた。智章はまだ気づいていないようだ。それも無理はないだろう。不気味なほど、智章の足音と合わせて走ってきているのだから。
「うわっと!」
急に真奈が止まったので智章はぶつかりそうになった。
「ど、どしたの浜野さん?」
「……。」
「浜野さん?」
「誰?」
「え?」
「あなた、誰?」
真奈はつとめて冷静な声で聞く。
「お、俺?」
「違う」
智章はまったく意味が読めずにいた。真奈が振り返る。
「七瀬くんの後ろにいる、あなた」
智章はそっと振り返り、その人物の姿に目を疑った。
「なぁ」
慶介が不安げな声を上げた。
「蘇我、遅くない?」
「確かに……何かあったのかな?」
綾子も外の様子を不安そうに見つめる。
「ケータイは……無理か」
航平が悔しそうに呟いた。
「多分圏外よ」
沙耶が言う。
「なんで地理研究会のとこだけが通じるのかはわからないけどね」
焦りばかりが募る。しかし、航平にはそれ以外に不安なところがずっと頭を掠めていた。
湯前 圭人。
湯前 速人。
江藤 麻衣。
安本 百花。
小村 悠斗。
谷沢 幸雄。
飯島 芳史。
北山こよみ。
綿岡 景子。
近宮 絢子。
渡部 音駆。
船津 仁美。
亡くなったのは12人。
大西 航平。
旗本 慶介。
南 荘一郎。
桃地 冴子。
吉田 雅恵。
宇井 愛菜。
野口 沙耶。
須藤 綾子。
小林あさひ。
ここにいるのは9人。
蘇我 篤志。
確実に場所が把握できているのは1人。
佐々木 稜。
安藤 輝。
清家 彩乃。
日暮 佳典。
浜野 真奈。
七瀬 智章。
消息不明が6人。航平が察するところ、怪しい人物が2人いる。航平はそっとその人物のほうへ目を向けた。
「どうした、航平」
慶介がヒョイッと顔を覗かせた。
「いや……なんでもねぇよ」
「ホントか? お前、隠し事うまいからな〜」
確証が持てない。しかし、このまま言わなければどうなるだろうかという不安がやはり頭をよぎる。航平は思い切って現段階で最も信頼できる人物に声を掛けた。
「桃地」
冴子はボーッとしていたようで、声を掛けられてもしばらく呆然としていた。
「ちょっと来て」
「あ……うん」
航平に呼ばれるがまま、冴子は航平のほうへ歩み寄った。