23ページ 通話
「蘇我……? 篤志か!?」
慶介は思わず声を大きくしてしまった。
「もう少しトーン落として。そうだよ。いま、ケータイから電話してる」
「なんで……電波ないんじゃ?」
「なんでかわからないけど、地理研究部の部室に来たらケータイが通じた。それだけじゃなくて、ネットも通じる」
「なんて言ってるの?」
横から沙耶が興味深そうに聞いた。
「蘇我。ちょっと待ってくれる?」
「誰かいるのか?」
「おう。いっぱいいるぜ。男子は俺だろ、航平に南。女子は吉田、桃地、小林、宇井、野口、須藤」
「ハーレムだね」
「バカ! ちょっと説明するな。待っててくれ」
慶介は受話器から口を外し、全員に説明した。
「蘇我くん、なんて?」
あさひがソワソワした様子で聞いた。
「ケータイが通じるらしい」
「うそ!?」
綾子も思わず声を上げる。
「それどころか、ネットも通じるらしい」
「マジかよ……」
荘一郎は予想外の展開に口が開いたままだ。
「なんで……?」
「わからねぇ。蘇我にこのあたり、もう少し聞いてみる。もしもし、蘇我?」
「はいはい」
「ネットは通じるんだな?」
「そうなんだ」
「そこから何か情報は掴めたか?」
「それなんだけど……ニュースを見たら、ウチの高校で人質事件だの、テロ事件だのっていうニュースばっかり流れてる」
「なんだそれ……。マジかよ」
慶介は篤志の言葉がにわかに信じがたい状態であった。航平が青くなる慶介の顔を心配して横から声を掛けた。
「蘇我、なんだって?」
「この実験……実験じゃないかもしれない」
「どういうこと?」
沙耶も慶介の言葉を解せないでいた。
「ひょっとしたら、俺たちの知らない何かがあるのかも」
「旗本?」
篤志が慶介を電話越しに呼んだ。
「あいよ?」
「そこから外、見える?」
「外か……? あぁ、見えるぞ」
慶介たちが今いるのは第二音楽室だ。慶介はそっと外を覗いてみた。
「なんだ……?」
「赤い灯が見えるだろ?」
「あぁ」
「パトカーだよ」
「え……?」
「つまり、何かしらの事件が楼桜高校で起こってるってことさ」
慶介はあまりの急展開に開いた口が塞がらなかった。
「旗本」
「ん?」
「とりあえず、俺そっちへ行くわ」
「お、OK……。気をつけろよ」
「おう。じゃ、また後でな」
そういうと篤志は電話を切った。慶介はまだ篤志の推測が信じられず、呆然としていた。
「どうした、慶介?」
「蘇我が……これ、実験じゃないかもって」
「どういうこと、それ」
愛菜もいよいよ不安になってきたのか、詰め寄るように慶介にやや強めの口調で言った。
「わからない……。とりあえず、蘇我が来るまで待とう」
「……わかった」
全員が不安そうな表情で体育座りをする。航平は次の瞬間、凍てつくような視線が自分たちに向かってくるのを感じた。それも、かなり近い距離だ。思わず振り返り、慶介のほうをみた。
「どしたよ、航平」
「……いや、なんでもない」
航平は慶介に言おうか迷ったのだが、嫌な考えが頭をよぎり、その考えが言葉が出るのを遮った。
この中の誰かが本当は何か知っている――?
(まさか……! ここにいるのはほとんど知ったヤツらばかりだ)
航平は首を振ってその考えを打ち消した。慶介、冴子、あさひ。彼らとはいつも一緒にいたし、沙耶や愛菜とはこの数時間でずいぶん打ち解けた。真実を知っている者がいるとすれば、口にしてくれると信じているのだからと航平は思い、その考えを必死で打ち消そうとした。
しょうがない……。蘇我が来るまではひとまず行動を慎むか。
大西は何かに気づいてるかもしれない。さっきは思わず普段の目をしてしまったけれども、バレずに済んだようだ。意外と鋭いヤツだ。
それに、頃合いを見て5人は処分しなければいけないな。どうせ遅かれ早かれ死ぬんだ。事実を知ったからには……もう早々に退場してもらうしかないな。
早々にね……。