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18ページ 目撃

 グラッとゆっくり幸雄の大きな体が倒れ、音駆に重なるようにして倒れ、それからピクリとも動かなかった。ドクドクと幸雄の左こめかみから流れ出た血は、廊下を真っ赤に染めてやがて音駆の制服をも赤く染めていった。

「野口……」

「……あ、あの」

 沙耶は震えたまま後ろへ下がった。

「私……私……」

 沙耶の顔が青ざめていく。

「私……人を殺しちゃった!」

「野口!」

 航平がギュッと沙耶を抱きしめた。

「私……」

「もういいから……落ち着け」

「……。」

 ポロッと沙耶の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。

「おい、渡部! 渡部!」

 慶介が音駆の名前を呼んで、必死に止血をしようとしている。

「だ……れ?」

「俺だよ、旗本だ!」

「け、けーちゃんかぁ……」

「そうだよ……けーちゃんだよ」

 音駆と慶介は幼なじみだと航平は聞いたことがあった。しかし、慶介曰く中学校に進んだ頃からいつの間にか疎遠になり、高校に入ってからは一緒に過ごすこともなくなったという。

「けーちゃん……どこ?」

「何言ってんだよ。ここだよ! お前の目の前にいるだろ!?」

「見えない……んだ」

「そんな……」

 慶介は愕然とした。目の前にいるのに、その顔すら見えないというのか。

「ネク……」

 慶介がギュウッと音駆を抱きしめた。

「痛いよ……」

「ネク……」

 航平たちはただ、見ていることしかできなかった。いや、見ているべきであったのだろう。いま、二人の間に入ることなど許されないだろう。限られた時間の中で、最高の絆で繋がった、彼らの邪魔をすることは許されない。

「俺さ……北山を殺した……んだよな?」

「記憶がないのか?」

「うん……」

 虫の息で音駆がなんとか答える。

「覚えてないんじゃなくて、やってねぇんだろそれは」

 慶介が笑顔で言った。

「え……?」

「やったなら、記憶に残るはずだ」

「でも……」

「考えてみろよ。人を殺したのに覚えてないバカがどこにいる?」

 沙耶にも訴えているかのような内容だ。慶介は冷静に続ける。

「そう……だよな」

「あぁ。そうだよ」

「へへ……サ、ンキューな、けーちゃん」

「ユァウェルカム」

 フゥッと急に音駆の目から色が失われた。そのまま腕が力なく落ち、床にパタンと音を立ててぶつかった。

「ウウッ……ウアアアア〜……アアアアア〜」

 そこでようやく、慶介が声を上げて泣き始めた。航平たちはただ、見守ることしかできないのが悔しくて仕方がなかった。


「なんだろう……」

 綿岡 景子(女子14番)は突然聞こえてきた悲鳴に近い声に驚いて動きを止めた。彼女が今いるのは職員室だ。そこには小村 悠斗(男子4番)と安本 百花(女子12番)の遺体が安置されていた。一瞬驚いたが、どうやら好意的な置き方であったこと、既に誰もいなくなっているなどといったことから、景子はそこでしばらく滞在することにした。

 あれは一瞬だった。いま思い出してもドキッとする。谷沢 幸雄(男子7番)が悪友である近宮 絢子(女子7番)を一瞬にして殺害したのだ。あの時の幸雄の狂ったような目は、今でも焼きついている。曽我 篤志(男子6番)とはパニックになったせいで離れ離れになってしまった。景子は誰かと合流したい一心で、職員室へと来たのだ。しかし、今はもう動かなくなった悠斗と百花しかそこにはいなかった。

「やだな……一人は怖いや」

 景子は誰かと一緒にいたい思いだけで今は動いていた。この職員室で誰かが動いたような気がしたので、すがる思いで来たのが正直なところだ。

「誰かいませんか〜……」

 声を掛けてみるが、まったく応答はない。やはりあれは気のせいだったのだろうか。景子はため息を漏らした。

「……。」

 亡くなった人を目の前にして失礼だが、やはり怖い。悠斗とも百花ともあまり関わりがなかったが、それでも死んだのだと思うと信じられない。

 死。

 その言葉は景子を震え上がらせるには十分すぎるものだった。景子は職員室に誰もいないと知ると、足早に部屋を出ようとした。しかし――。

「……!?」

 何か音がした。職員室の隣には応接室があるのだが、そこから音がしたのだ。

「誰かいるの?」

 景子は期待を寄せて静かに歩み寄ってみた。間違いなく、人影がある。景子は嬉しくなって走り寄ったが、寸前のところで足を止めた。

「う……そ……!」

 景子の目の前には、いるはずのない人物が立っていたのだ。

「まさか……お化け?」

 景子は恐怖のあまり、静かにその場を立ち去ろうとした。けれども、気配を感じたらしいその人物は景子を見つけるとすぐさま襲い掛かってきたのだ。

「いやぁ!」

 景子はなんとか逃げようとするが、力では圧倒的な差がある。

「やめて……やめてぇ! お願い、私はアナタを見たことなんて言わないから!」

「……。」

 しかし、その人物は無言のまま持っていた(なた)を振り上げた。

「やめて……やめてぇ! いやあああああぁぁぁ……!」

 

「なぁ、なんか物音しなかったか?」

 航平はピクッと体を反応させた。

「気のせいじゃないの?」

 綾子は気づかなかったようだ。航平も気のせいと思い、泣く慶介を再びなだめ始めた。




【死亡者】

男子7番:谷沢 幸雄……野口 沙耶(女子9番)に銃殺される。

女子14番:綿岡 景子……何者かに鉈で殺害される。



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