16ページ 阻止
「悪魔の味方をするお前こそ悪魔だぁ!」
狂ったように叫びながら、彩乃が鉈を振り上げて真奈に走ってくる。丸腰の真奈に抵抗する手段はないが、なんとかしてこの場から全員を逃がす必要があった。
「小林!? な、なんだよ、どうしたんだよ!?」
「いいから! 走って!」
あさひは強引に音駆を引っ張って教室を飛び出した。
「待て! 悪魔め、逃げる気だな!?」
「待ちなさいよ!」
彩乃の行く手を真奈は阻む。
「邪魔だ! どいて!」
「ダメ」
「悪魔は今すぐ排除しないと、皆がひどい目に遭う!」
「排除って……どうする気?」
「そんなの……決まってるじゃない!」
空気を掻き切る音がして、鉈が真奈のすぐ横を通り過ぎた。床にドォン!と音を立てて鉈が突き刺さる。真奈は素早くよけて、なんとか智章の前に立つことができた。
「七瀬くん! 七瀬くん!」
「う……」
意識は戻ったようだ。しかし、とても動ける状況でないだろう。
「いい? 今ね、彩乃ちゃんが普通じゃないの」
「……だと思った」
「なんとかあなたを連れて……絶対に助けてあげるから、待ってて」
「ゴメン……男なのに、頼んなくて」
「気にしなくていいよ。いい? とにかく、動かないで……!」
ズダァン!
彩乃が鉈を智章の目の前に振り落とした。
(ここにいたら……七瀬くんが危ない!)
真奈は咄嗟に判断して、すぐに智章から離れた。
「チッ! ウロチョロウロチョロと!」
真奈が舌打ちをする。その表情が次第に乱れていく。
「いったい何だっていうの……!」
真奈はその豹変した彩乃を見て、さすがに身の毛がよだつのを気にしないではいられなくなった。
「小林!」
音駆が叫ぶ。
「浜野は!? 浜野はいいのかよ!?」
「後、追ってきてない!?」
「全然そんな気配ねぇよ!」
「ウソ!?」
あさひが振り返ると、足音は聞こえないし暗闇が延々と続く廊下しか見えなかった。
「真奈〜!」
あさひが叫んでも、彼女の声が空しく響くだけであった。
「ウソでしょ……真奈ぁ!」
「おい、戻ろうぜ!」
音駆が急いで戻ろうとする。しかし、あさひがそれを止めた。
「何すんだよ!?」
「ダメ! 今ね、彩乃ちゃんがとても普通とは思えない状態なの。逃げるために、真奈がおとりになってくれたの。あたしたち、それでなんとか逃げてきたのよ?」
「だからって、見捨てるのか?」
「見捨てるんじゃないの!」
あさひは大きく首を横に振った。
「職員室で合流する。そう決めたの」
「職員室?」
「うん」
あさひは力強くうなずいた。
「……わかった。職員室に……」
ようやく納得しかけた音駆の視線が、あさひの頭上へ向いた。そして次の瞬間、音駆があさひの手を引いて走り出した。
「ちょ、渡部!?」
ドン!
「な!?」
あさひのいた場所に、何かが突き刺さってコンクリートがえぐれた。
「なに!?」
それは間違いなく斧だった。
「ど、どこからそんなの……っていうか、誰!?」
あさひの声に反応するようにユラッと暗闇から姿を現したのは、谷沢 幸雄だった。
「た、ターニーじゃん……」
音駆は思わず親しげな声を出した。しかし、幸雄の姿を見て足を止めた。制服という制服すべてに、血がベットリとついていたのだ。
「いやああああ―っ!」
あさひが悲鳴をあげた。左手に、首がぶら下がっていたのだ。
「見るな!」
音駆があさひの前に立つ。
「ターニー! お前……」
「あぁ……これ?」
幸雄はニヤッと笑いながら首を掲げた。ピッと血が飛んで音駆の頬にへばりつく。
「俺がさ、歩いてたらさ、綿岡とさ、近宮がさ、いてさ、二人さ、俺をさ、見るなり、逃げるんだ」
「……それで?」
音駆は息を呑みながら話を続ける。
「近宮がさ、綿岡をさ、突き飛ばしてさ、逃げてさ。あぁ、友達ってこんなもんなのかって思ったらさ、近宮がさ、憎くてさ」
ニィッと笑う幸雄の表情はもはや、常人のものではなかった。
「それで?」
幸雄は首を乱暴に投げた。それは、近宮 絢子(女子7番)のものであった。
「殺しちゃった」
「いやああああああああー!」
「お前らもさ……浜野と七瀬、ほったらかして来たんだろぉ?」
二人は思わず後ずさる。しかし、理性を失った幸雄に歯止めなど利くはずもなかった。
「処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑!」
「逃げるぞ!」
今度は音駆があさひを引いて職員室のほうへ走り始めた。真奈と智章、音駆とあさひ。二組のカップルの逃避行が始まった。
【死亡者】
女子7番:近宮 絢子……谷沢 幸雄(男子7番)に鋭利な刃物で刺され死亡。その後、首を 切断される。
4月1日より就職し、社会人となりました。そのため、更新速度が低下し更新も不定期となります。
この『28分の1の狂気』は土曜日に更新をしたいと思います☆ 平日にも余裕がありましたら更新を頑張りたいです♪
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