14ページ 認知
「もう2日目なのね……」
小林あさひ(女子4番)が窓の外で妖しげに輝く青い月を見上げて呟いた。
「……真奈?」
浜野 真奈(女子9番)が震えながら座っているので、あさひは心配になって隣に座った。七瀬 智彰(男子8番)が外で見張りをしていて、清家 彩乃(女子6番)がスヤスヤと眠っている。あさひは眠れずにいたのだが、それは真奈も同様だった。
「私……隠してたことがある」
「どういうこと?」
真奈の言葉にあさひは背筋がヒヤリとした。
「私……見たの、1週間前に」
「何を?」
「あの……伊藤っていう人を」
「それ、本当なの!?」
あさひにはとても信じられる話ではない。しかし、真奈の目は真剣だった。ウソを言っているようには思えないし、そもそも真奈はウソを言えるほど器用な性格ではなかった。
「どこで?」
「職員室の前の廊下を突き当たったところにある、西階段の前……」
そこは事務室、司書員休憩室などが並ぶので、普段生徒が近づくことは滅多にない場所だった。そんなところで、いったい伊藤は何の用があったというのだろうか。
「真奈。そのとき、伊藤は誰かと一緒にいた?」
「そ……それが……」
真奈がその人物の名前を言おうとしたとき、智彰が勢いよくドアを開けて教室に入ってきた。
「逃げるぞ!」
「へ?」
「襲撃だ! 俺たちの居場所がバレた!」
「誰に!?」
「いいから、早く清家を起こせ! ヤバい!」
「わ、わかった!」
寝ぼける彩乃を起こして急いで荷物をまとめようとしたが、智彰がそれを止めた。
「そんなもんいい! 早くしろ!」
「何で!? 荷物はけっこう大事な……きゃあああああああ!?」
あさひの悲鳴に智彰が素早く異変を察知し、その場から転がるように移動した。
ズドン!と音を立てて、鉈が勢いよく真奈の荷物を引き裂いた。
「あ……わ……」
震える彩乃とあさひの前に立っているのは、頬を血まみれにした渡部 音駆(男子14番)だった。
「……。」
音駆は表情一つ変えずに、ジリジリとあさひと彩乃のところへ近寄る。
「こっ、来ないで!」
あさひがそばに転がってきたシャーペンを投げつけるが、鉈の刃がキィン!と音を立ててシャーペンを弾き飛ばした。音駆はそのまま鉈を振り上げ、あさひの頭に向かって振り下ろそうとした。
「いやああああああああ!」
「やめて!」
飛び出したのは、真奈だった。ビクッと音駆の体が動きを止める。
「なんで……なんでこんなことするの!?」
「……。」
「渡部くん……なんで?」
「……。」
真奈は血まみれになった携帯電話を取り出した。虚ろな目をしたまま、音駆はそのディスプレイを見つめる。
「わかる? これ、渡部くんだよ?」
「……お、れ……?」
「そう。これね、麻衣の携帯なの」
「え、と、う、の?」
たどたどしい言葉で、音駆はゆっくりと喋り始めた。
「麻衣ね……ウイルスが発症して……もう、いないの」
「し、ん、だ、の?」
「……そう」
「……マジかよ」
不意に音駆の言葉がハッキリしたかと思った瞬間、鉈をドッ、と床に落として音駆が倒れこんだ。
「渡部くん?」
真奈がそっと近寄ってみると、音駆はスゥスゥと寝息を立てて眠っていた。
「いったい何だっていうんだ……?」
智彰が不思議そうに音駆に近寄る。どうやら、本当に眠っているようだ。
「わかんない。とにかく、渡部くんに付いてる血を落としてあげよう」
「わかった。あたし、水汲んでくるね」
あさひがそう言って廊下に飛び出した。
「清家さん。大丈夫?」
「あ、ありがとう。ちょっとビックリしたけど大丈夫。七瀬くんは?」
「俺も平気。浜野さんは?」
「私も大丈夫。みんな、怪我がなくてよかった」
そう言ってから、真奈は音駆の額に溢れた汗をハンカチで優しく拭った。




