そこにいる三匹
早朝6時。
ペダルを踏み込み銀輪回し、華のお江戸を後にして。下町千寿の大橋を渡って、草加越谷と東武伊勢崎線沿いに進みます。
国民的な人気を誇る園児が住まうのかもしれない春日部に入った頃にはお昼。私鉄の駅に入場して立ち食いラーメンをすすり、また北上を開始。
左手に東武動物公園はこちらという看板が流れるのを見つつ、宮代町と杉戸町の間を流れる大落古江戸川を渡ります。
幸手、栗橋と過ぎるころには、15時くらいでしょうか。その先には埼玉県とも群馬県とも栃木県とも勘違いする人がいるであろう茨城県は古河市をスラっと抜けると藤岡町。そういやここには篠山貝塚というものがあったなと思いつつ、時間がないのでスルー。
先へ進んで、整備の進んできた小山駅のすぐそばの綺麗な大学のキャンパス。それを見る頃には日が傾いてくる頃かもしれませんが、今日はもう少し頑張ります。
宇都宮についた時間は、もう21時。老舗のホテルに自転車を預けて、閉店間際の餃子屋に飛び込み、疲れたカラダに麦酒と餃子をぶち込みます。宇都宮の夜はとても早く終わるものですねぇ。
朝6時30分、〇に治と書く300年の伝統を誇る老舗のホテルの朝食は、和食の方をオススメします。食後のコーヒーを済ませて、7時に出立。
日光道中を進み、徳次郎から日光の手前へ来る頃には、昨日の疲れが出てきて、速度はグッと落ち、12時ころにようやく日光市に到着。
さて、昼食はどうしようかとひとしきり考えます。やはり日光に来たら湯葉だよな! チョイト奢ったランチを取ることにしました。
湯葉しゅうまい、湯葉こん、揚げた湯葉を煮たもの、栃木県は壬生町の漬物、よせ豆腐が口の中で弾けて、幸福が溢れます。そして、湯葉料理と一緒に食べる栃木のコメの美味しいこと、美味しいこと。
滋味あふれる豆腐料理を楽しんだあとは、一路目的地へ。
山門に到着すると、眼福としか言いようのない美麗な彫刻を鑑賞する事ができます。回廊には、当代の名人の手による猫が眠っていて、裏では雀が囀る、そんな神の宮。
境内に進み、神の馬が控える厩舎の姿。そこには馬を守るとされる3匹の神獣が将棋盤を囲んでいます。
パチリパチリと将棋のコマが踊って、盤面は後半戦。時間は無制限なので、要所ではのんびりと長考したり、会話しながら進んでいます。
「△5五歩だと?! それは悪手じゃないかなァ」
「いやいや、盤面は見えちゃいないがこれは妙手だぞ――おっと、おまいさんには聞こえんか」
「ありゃ、王の逃げ道ができている? お前さん目を瞑ってるのによくわかるなァ、心眼とでもいうのか。エエイままよ、5三飛打!」
両手で耳を塞いだ一匹は、右の後ろ足でヒョイとコマを掴んで、盤面を動かしました。
「5三飛車打ち? あらら、これは『詰めろ』か、どうするかね」
次の一手で相手の玉を詰めないと負けてしまう状況。両の前足で目じりを抑えた一匹は、後ろ足で顎をポリポリと撫でながら長考に入りました。
耳を抑えた一匹は「サァ早く投了せいや~」と言葉を投げかけます。
打つ手無しでしょうか、盤面は大詰めに入ったようです。
そこで、二匹の横で観戦していた両手で口を抑えた一匹の頭の上に、ピコーンと閃きマークが浮かびます。
フゴフゴと息を吐いて何か言いた気です。だけど彼に課せられてた制約のせいで何も話すことができません。
「ふむん、お前さん、何か言いたいのかい?」
口をふさいだ一匹は、ウンウンと頷き、自由になる目を使ってアイコンタクト。その手は無理筋だったよとばかりにしかめっ面をします。
耳を両手で抑えた一匹は、その意味を探るように盤面を見てウッと言葉を漏らし、ムンクの「叫び」のようなポーズをして押し黙ります。
目を覆っている一匹にはその風景は見えていません。しかし、ようやくのことで起死回生の一手を見つけた彼は、赤ら顔の口元に白い歯を覗かせています。
いつも手に隠されて見ることのできない彼の眼は、間違いなく笑みを見せていたことでしょう。
見ざる言わざる聞かざる。
サルが歯を見せる時は、威嚇しているときかもしれませんが。
神の獣なのでオッケー!
そこはもっと掘り下げるべきところなのかもしらん……
ちと思うところあってペンネームを変えています。