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八枚の翼と大王の旅  作者: 豊福しげき丸
5/31

お騒がせコンビの決着。そして王道とは如何に

お待たせしました。

レイチェルとパランタンの物語、やっと決着です。

そして前のあとがきでも書きましたが、今回の真の主役はバンデル王とゲラード王です。

前回の活躍に気を良くし、修行に励んで少年ジャ〇プ的なチート成長を果たしたスーパー戦士にレベルアップして、まさに〇国無双で八面六臂な大活躍!

なんてこの作者のこの作品でするわけもなく、

彼らはある意味彼らのままなのですが、

彼らは主役に生まれ変わります。

あとは本文をお読みください。




 八枚の翼と大王の旅

 

 ―第5話―

 

 -1-


「じょ、冗談を言うなと言うなら、一体何を言えばいいでーすか?」

 奇妙な身振り手振りまで起こして狼狽えまくるパランタン。

「だから、本気で、本音で、ホントの事だけ言え! おかしな動きも無し!!」

「は、はひっ!」

 パランタン、直立不動。

「何で本気にならないんだよ? 何で本気でやらないんだよ? お前が人に妬まれたって、お前を守ってやれない程、あたしたちが友達甲斐の無い奴だと思ってんのかよ!?」

 レイチェルはボロボロと涙をこぼす。

「そ、そんな事、思って無いでーす!」

「なら本気になれよ! 本音で言葉言えよ! 人がどれだけ不安だかわかるか! お前はどれだけ人の気持ち踏みにじってると思ってんだ!?」

「……はー、やれやれ、少なくとも、ミーは今回、限界一杯までやりましたよ」

「なら何で負けたんだよ? お前もっと強いはずじゃ――」

「いえ……、競技ではあれが精いっぱいでーす。実戦とでは技も、剣の重さとしなりも違いまーす。何より、咄嗟に魔法に頼ろうとする癖が抜けませーん。一矢殿が『また反則負けする』と言った気持ちが良くわかりまーす。ぎりぎりの一線では、素質と努力が同じなら、それぞれその道に身を捧げるが故に及ばぬモノがあるのでーす」

 レイチェルは息を呑んだ。

「ご、ゴメン……」

 更にボロボロと涙をこぼす。

「それに、ミーはいつだって本気で、本音で、全力で、生きたいようにやりたいように生きてまーすよ。お姫様を守る騎士として、お姫様の可愛さを引き立てる愉快な道化として、子供の頃自分の願った通りに生きてまーす」

「あー、まあ。そうだね。シエラ様は守らなくちゃね」

「はー、やれやれ。分かって無いでーす」

「ほえ?」

「確かにシエラ様は姫様でーす。でもどちらかと言うと友達で上司でーす。ミーが本当に守りたい可愛い『お姫様』はリリたんで、いつもミーはリリたんの可愛さを引き立ててるんでーすよ」

「は………?」

 レイチエルの涙は止まり……、そして事態を呑み込むと、溶岩の如く赤面した。

「何じゃそりゃぁ―――――!?」

 叫びは体育館中にこだまし、人々は何事かと振り返った。

 

 パランタンとレイチェルは手を繋いで戻って来た。

 皆は我が事の様に、

「よかったな」

「おめでとう」

 と、喜び、二人を温かく迎えた。

「こ、これは気の迷いかもしんないからな! 調子に乗るなよ!」

「では、その時は、また口説き直しまーす」

「はいはい、ごちそうさま~」

「言ったろう、大丈夫だって」

 エリスロとカロが揶揄する。

「良かったな、なあ一矢―――」

 シエラは今度こそ喜びを一矢と共にしようと思った。

 友達ならそれくらいは許されるはずだ。

 なのに―――

 傍らに彼の姿はもう無かった。

 

 二人の幸せを願った。

 それに嘘は無い。

 でも、レイチェルとパランタンもエリスロとカロも、そしてシエラも例の彼と幸せなのに―――

 自分だけ幸せじゃないのが、皆の足を引くようで、

 いつか自分の不幸の醜さで彼等を傷付けるような気がして、

 ―――ただ、一矢は一人黙って立ち去る事を選んだ。

 

 -2-

 

 バンデル王とゲラード王は今日も日課の荷運びを終え、座り込み、水筒に口を付けて茶を流し込んだ。

「おっ、王様!」

「スゲー戦いぶりだったってな?」

「大した生き残りっぷりだ!」

「意外とそれって難しーんだぜ!」

「流石王様だ!」

「見直したぜ!」

「今日もお勤めご苦労様です!」

 道行く戦士や騎士たちは皆笑って彼らに声をかける。

「のう、ゲラード」

「何だ、バンデル」

「玉座に居った頃の事を覚えておるか」

「……何か恐ろしく遠い日の事のように感じる」

「最初はなぜこのような目に遭わされるのかと己が身の不幸を嘆いておったが」

「余もそうである」

「だが、何であろう、今の方が何と言うか」

「そう、今の方が」

「「何と言うかその……」」

「馬鹿にされておるのに、玉座に居るより馬鹿にされておらぬような気がする」

「不遇なのに、玉座に居るより不遇で無いような気がする」

「「そう、不思議と清々しい」」

「何故であろう」

「何であろうのう」

「それは己の足で立ち、己の手で勝ち取ったが故よ」

 二人の背後からヴァーリ大王が声をかけた。

「こ、これは大王」

「ははーっ」

「良い良い、其の方らも王ゆえ、畏まらずとも良い」

 ヴァーリはそう言ったが、二人は不思議と心から畏まる気持ちになっていた。

「今日まで荷運びの役目、ご苦労であった。これからは新しい仕事に就いてもらう故、付いてまいれ」

「「ははーっ」」

 従容として付いて行く。これも以前の彼等なら考えられなかった事だ。

 しばしして辿り着いた先は厨房であった。

「余は料理など作れませぬが」

「余も同じです」

「まあ、まずはそこの鍋の中身を食してみよ」

 二人はそれぞれ匙ですくい口に運んだ。

 顔を酷く歪める。

「不味い! なんだ、これは!? 作り直せ!」

「このような不味いもの、どうしたらよいのだ!?」

 たちまち癇癪を起こした。

「フム。その方らの配下より聞き及んだ通りであるな」

 二人はその声を聞いて消え入るように恥じ入る。

「お恥ずかしい……」

「己が生まれ変わったような気がしておりましたが、錯覚でございました」

「「如何様にもお叱り下さい」」

「恥を知る心は良し、だが気にするな。お主らは確かに生まれ変わった。しかしそれでも地金と言うものは変えられぬ。金は金、鉄は鉄よ」

「……兵はこんな飯にも不平を漏らさぬと言うのに」

「余共こそ卑しゅうございました」

「余共の地金こそ、ただの卑しき鉛でございましょう」

「薄々気付いておりました」

「国が傾いた時にも何も成せず」

「ただただ不平不満をこぼすだけ」

「我が身が情けない……」

「「う、ううううう」」

 遂には泣き始めた。

「阿呆か、お主ら!」

 ヴァーリは怒鳴った。

「そも貴様ら!! 王道を何と心得る!?」

「それは勿論(書によく記してあるような絵空事、以下略)」

「そして即ち(以下同上、略)」

「「詰まる所は国を富ませ、兵を強くする、まこと、大王やクレア女王のよくなさる処にございます!」」

「0点」

「「え―――――――?」」

 顎かっくんであった。

「王道とはな」

 二人はヴァーリの言葉に唾呑み、耳を澄ます。

「偽り無き我が儘よ」


 バンデルは厨房の責任者にされた。

 とは言っても料理が作れる訳でもない。

 その代り少しでも安くてうまい食材や調味料を食べ歩いて探してくる事。

 そして不味いと思えばいつもの台詞をいつものように言う事。

「不味い! 作り直せ!」

 それに加えて一台詞。

「これでは余も兵も納得せぬぞ!」

 それがヴァーリより命じられた事であった。

 

 ゲラードは相談所の責任者にされた。

 とは言っても何の相談に乗ってやれる訳でも無い。

 その代り言ってる事がわからなくても、いい解決方が思い浮かばなくても、ひたすらに悩む事。

 そしていつもの台詞をいつものように言う事。

「どうしたらよいのだ」

 それに加えて一台詞。

「まことにすまぬ。余にはよい考えが浮かばぬ。だが、この者に尋ねてはどうだ?」

 最後にはヴァーリの作った人事表への丸投げではある。だが、とりあえず悩む事。

 それがヴァーリより命じられた事であった。

 

 バンデルが厨房の指揮を執るようになって、兵の食事は目に見えて良くなった。

 バンデルは兵の食事の為にあんなにも怒ってくれる。

 ゲラードが相談所に来てから、兵は問題事があっても良く安心するようになった。

 ゲラードは兵の事であんなにも悩んでくれる。

 二人の評判は上がり、敬意と親しみを込めてそれぞれ『美食王』『真面目王』と呼ばれるようになった。

「何でも自分の国じゃあ悪く言う奴もいるらしいが、二人とも大した御方じゃねえか」

「流石は一国の王であらせられる」

「大したもんだ」

 バンデルは自ら包丁も握るようになった。

 ゲラードは自らより細かく相談に乗れるよう、新たな人脈を開拓し始めた。

 

 キーパはヴァーリをじっとりと睨んだ。

「陛下。今回の兵の不満、バンデル王とゲラード王に任せなくても、陛下御自身でもどうにかできましたよね。やっぱりわざとですか?」

「アホ抜かせ。余は余で忙しかった故よ」

「怠けてるようにしか見えませんでしたが?」

「余の脳味噌はフル回転しておった故、身体は怠けるのに忙しかったのよ。まあ、その状況は利用した故、わざとと言えなくとも無いがな」

「陛下の得意技は状況でも何でも自分の武器にしてしまう事ですな」

 グスタフは茶を啜る。

「まさに喧嘩の達人でさあ」

 ジッタがうんうんと頷く。

 

 ある日の晩、バンデルとゲラードはヴァーリの宿舎を訪れた。

「来たか」

 ヴァーリは酒甕から柄杓で三つの盃に手ずから酒を注ぐ。

「そろそろ来る頃と思うておった。まあ、まずは呑め」

「「恐れ入ります」」

 二人はそれぞれ盃を受け取り、ヴァーリが口を付けるのを待ってから、自らも飲み干した。

「して、王道が何かは分かったか?」

 大王は酒精の吐息とともに言葉を紡ぐ。

「……余共は知りませんでした」

「……余共の卑しいと思い込んでおった地金が、偽り無き我が儘が、かようにも人の役に立つとは」

「「まことに不明にございました!」」

「……王とはの、望めば如何様にも我が儘を通せる者の事よ」

 二人は黙って聞き入った。

「だが同時に、人を幸せにできねば非難を一身に受ける者でもある」

「まことに」

「その王の孤独に何度歯噛みした事か」

「しかし、よく広く深く世を観よ。王とは何も余共だけではないのだ。よだけに」

「「……」」

 二人は最後のとこだけ聞かなかったふりをした。

「例えば鍛冶屋の王。広くその名その腕を世に知らしめ、気に入った者に気に入った値でしか売らぬ、我が儘を通せる者はまさにその道の王と言えよう。だがしかし、自らが鍛えた剣が使い手の腕に応える事無く折れる事が無かろうか、と、怯え、深い孤独に歯噛みする者でもあるのだ。まさしく王者と呼べよう。他にも数多、百姓、漁師、その道その職の王はおる。皆、それぞれの王道を歩む者よ」

「では、王者とは、王道とは」

「余りにも当たり前に、己の我が儘のままに人を幸せにできる者、出来る道でございますか?」

「偽り無き我が儘、地金、本性、天分、才能、素質、業。如何様にも人は呼ぶが、人には変えようのない魂の鋳型とでもいうものがある。それは暑いから涼が欲しいとか寒いから暖を得たいと云う心の我が儘と違い、天地や人に己を合わせる為に姿を変える様なものでは無い。他に代えられぬ、変えられぬ、そうせずにはおれぬ希求であろう。それ程までに深い業故に王たり得ると言っても良い。そしてその道は時に、細く険しくも見えよう」

「……はい」

「険しく思い、挫けておりました」

「だが、虚仮の一念でそれを繰り返しておれば、やがて視野は広がり道は広くなる。人が喜ぶ事ならどう己が楽しもうと自由であり、己が楽しめるなら人をどう喜ばせようと自由。己も人も幸せにする道は意外と広き大道であり、また、望めば一番己も人も幸せにするただ一つの道ともなる。偽り無き我が儘でそれを成すのだから、まことの王威の徳と言えよう」

「ははーっ」

「精進致します」

「まー、格好つけて言うたが、簡単に言えば己を在るがままに知り認め、苦しみながらも気楽に楽しんでやれ、喜びを良く見よ、それだけよ。堅苦しく考え過ぎるな」


 意のまま思いのままに悩み迷い揺らげども、意のまま思いのまま一筋の王道より動かず。

 達磨不動の悟りである。

 

「一つ伺いたき事がございます」

「大王の偽り無き我が儘、魂の鋳型とは如何様なものですか?」

「何故、世界を征されようと?」

「そこまでの止まれぬ業とは何でございますか?」

「フム」

 ヴァーリはボリボリと頭を掻いた。

「余は子供の頃よりうつけと呼ばれておった。人とは少しモノの見え方が違っておったからな。それ故に放っておけば悪い方に転がると思った事に腹を立て、喧嘩を売り買い、余計にうつけと呼ばれておった。それを今も繰り返しておるだけよ」

「それだけですか?」

「まあ、それだけでは無い。余の妃は占いがちとよく当たり過ぎる。世の不幸を余りにも前もって解り過ぎる。まるで世界の管理者を宿命付けられた天使の様ではないか? それこそ不幸と言うものであろう。故に余が妃の不幸を拭う勇者にならねばならぬのよ」

「おおぉ」

「お妃はさぞお喜びになったでしょう」

 二人は感動の涙を流した。

「いや。それがな、『おんどりゃー! 余がそれをなんとも出来ぬとでも思ーとるんか? それは余に喧嘩を売っていると見做す! その喧嘩買ったらー!!』と言った調子で、喧嘩して館をおん出て来た」

 バンデルとゲラードはあんまりのオチに倒れ伏した。


 キーパは別の天幕で愚痴りながら酒を飲んでいた。

「そりゃねー。エセルリーシャが僕を監視役に付ける訳だよねー」

 グスタフとジッタは黙ってキーパの肩を叩いた。


 -3-

 

 マリエル達一向はとりあえずの目的の街に辿り着いた。

 目当ての酒場に入ると、クロブが顔に刀傷のある愛想の無い主人に挨拶に行く。

「旅の楽士一座でございます。ここで興行を打たせてもらえませんでしょうか?」

 主人はグラスを磨きながら肯く。

「暫くこの町で稼ぎたいので、顔役の方にも挨拶を入れたいと思います。バロウズさんに、ハーミットのクロドが参ったとお伝え頂けませんでしょうか? 本来なら当方が出向く所ですが、生憎バロウズさんの御住居を知らないもので」

 口調は丁寧だが、その響きには滲み出る凄味がある。

 主人は片眉を上げた。

「……遣いをやる。少し待て。ハーミットのクロドでいいんだな?」

「左様です」


「あんた、なんていうか、堂に入ったワルに見えるねえ」

 イシュヴァーナは目を丸くした。

「堂に入ったワルでしたから」

「流石です! 先生!」

 ルーフェスも目を輝かす。

「頼もしいです。クロ……ドさん、カッコいいです」

 マリエルも子犬か何かのように喜ぶ。

「おいおい、俺だって堂に入ったワルでしたからね。こっちだって頼りにしてくださいよ」

 グレガンが必死にアピールする。

「いけません。必要も無いのにワルにならないでください。御自分を損ねてはいけませんよ」

「もちろんです! 麗しの君!!」

(ここは子犬の保育所か何かか?)

 一同の尻に幻覚のフリフリのしっぽが見えそうだ。

 ブランドーは現実逃避して変な悟りを開きそうな気分になって来た。

「ハイハイ。おしゃべりはそこまで。演奏のお時間ですよ」

 保母、もとい、オフィーリアはいつもの様に手を叩いて促した。

 

 演奏を終えた一行は、奥の片隅のテーブルに陣取り、じっと待ち続けた。

 やがて入口のドアを開けて、油断ならぬ目つきをした小男が、脇に屈強な二人の男を従え入って来た。

「主人、例の男とは誰だ?」

 小男、バロウズは尊大に髭をしごいた。

 

 ―第六話に続く―

次回もバンデル王とゲラード王が主役です(マジ)。


「よく見よ。あれこそ真の王が誕生する、その瞬間ぞ」


今回活躍の意少なかったマリエルたちもやっと任務に取り掛かり、憧れの大冒険に突入します。

頑張れ(ちょっと可哀そうな)ブランドー!

一方前作の主人公である一矢達の出番はしばらくお休みです。

あっても暗ーい一矢かシエラの悩む姿ぐらいでしょう(ヒデエ)。

はっ、堂島は?

拾われない伏線もたまにあるよねー(おいおい)。

ではまた第六話をお楽しみに。



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