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八枚の翼と大王の旅  作者: 豊福しげき丸
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大王空より来る

マリエルとブランドーの旅に新たに加わる者たち。

人間模様はさらに混迷する?

そしてヴァーリ大王は―――

アホであった。



 八枚の翼と大王の旅


第四話


 -1-

 

 海賊達と船乗りとはジュデッカ大陸の玄関口であるナファト港で別れた。

 彼らは大層マリエルとブランドーに感謝し、涙まで流していつまでも名残惜しく手を振り、一行を見送った。

 三人を除いては。

 グレガンと言う名の褐色の肌の色男は、マリエルを『麗しの君』と呼んで世話を焼き、傍目にも分かり易くコナをかけてくる。

 マリエルは分かっているのか分かっていないのか、

「まあ、親切な方ですね」

 と、笑って受け流していた。

 イシュヴァーナと言う名のアダっぽい美女は、ブランドーを『旦那』と呼び、これまた世話を焼き色目を流してくる。

 ブランドーは憮然としてそれなりにあしらっていた。

 それを見てクロブは、

「はあ」

 と、ため息をつく。

「先生、どうしたんですか?」

 問いかけた少年は名をルーフェスと言う。先の二人と同じく元海賊である。とは言ってもまだ人を殺めた事の無い下働きだった。

 ルーフェスは先の戦いに感動を受け、ブランドーを『剣の師匠』、クロブを『魔法の先生』と呼び、強引に弟子入りした。

 グレガンとイシュヴァーナは人殺しなどロクなものではないと思い知っていたので、思い止まらせようとしたが、ルーフェスの意志は堅く、そして良師に学ぶのならば道を誤る事も無かろうと判断し、結局は折れた。

 旅は七人の大所帯となった。

「いえ、大人の世界は複雑な事情で一杯なのですよ。君も今にわかります」

「はい、先生」

「ま、なるようにしかなりませんわ」

 オフィーリアは遠くを見て軽く首を振る。

「そうです、先生と師匠ならばどんな敵でもなるようになりますよ!」

「いえ、問題はそこでは………。はあ」

 クロブの溜め息は更に深くなる。

「とえりあえずの問題は路銀です。ほら、ここが広場のようですから、さっさと準備しますよ」

 オフィーリアは手を打って皆を促す。

 グレガンは小器用でリズム感が良く、太鼓を任せられた。イシュヴァーナは踊りが上手く、ルーフェスは鈴を鳴らす。

 太鼓を譲ったオフィーリアは代わりに四弦リュートを爪弾く。

 幸いにも増えた食い扶持を養い賄うに足りる盛況となった。

 興業を終えた後、ブランドーは四日ぶりにマリエルに声をかける。

「すまぬ」

 四人は目を剥き固唾を呑んで二人を凝視した。ルーフェスだけがきょとんとしている。

「大人気なかった」

「いえ、別に謝っていただく事では――」

「先の事、別に俺がお前に負けた訳では無い。お前に知恵を授けたクロースリア中興の王ライリック殿と大賢者京香殿に負けたのみ。剣で負けた訳でも無し、別段恥じる程の事でも無かった。故に俺は気にせぬ。お前も気にするな」

「……はい」


「わかっちゃいねえ!」

 酒場でグレガンは吠えた。

「知恵だの王だの賢者だのどうでもいいんだよ! 大事なのは麗しの君の心意気だろ! 違うか、クロブさんよぉ?」

 クロブは答えず炙ったイカのゲソを齧ってちびちびと杯を啜った。

「負け惜しみにも程がある! そうまでして恰好が付けたいのかよ?」

「貴方みたいな全身これ格好付けな色男が言っても説得力に乏しいですね」

「いや、そうじゃなくって、スカしてやがるって事だよぉ!」

「否定はしません。でも、問題なのは何故、そして誰に恰好を付けたかったのかですけどねえ」

 こればっかりは本人に気付いてもらうしかなく、本人にしか決められない事なのだ。

「にしても、乗り越えるハードルをライリック殿と京香殿にするとは、流石剣豪と言うか、マゾですか? あの人」

 そしてクロブは今日三度目の一番深い深い溜め息をつくのであった。

「はあ……」

 だがふと気付く。

 他人の事を案ずるなど、昔の自分からは考えられぬ贅沢ではないか。

 仮面の下の唇を、皮肉と愉悦の笑みに歪めた。


「旦那は間違っちゃいない!」

 これまた別の酒場でイシュヴァーナは吠えた。

「結局身を張って苦労したのは旦那ですよ! あの女はその身銭の上前を跳ねて我が儘を言っただけ! 旦那があの女に負けたなんて思う必要はこれっぽっちもありゃしません! そりゃそのお蔭でこっちの命は助かりましたけど、それとこれとは話が別です!」

「お前の言う通りだろう」

 ブランドーは火酒を呷った。

「そうですよ!」

 イシュヴァーナは次々とブランドーを褒めちぎる言葉を出した。追従では無く本気で言っているらしい。

 だが何故か、火酒を呷るごとに、褒められるごとに、酔いの火照りが冷めて行く。

「大したものだ」

「そうです。旦那は大したお人です」

 腕をブランドーのそれに絡めようとする。

「我が儘とは言え、それを言うくそ度胸だけは大したものだ。故にあの女、そうけなしたものでもない」

 するりと身を躱し立ち上がり、少し多めの銀貨をテーブルに置く。

「俺は先に宿に帰る。奢るゆえ、お前はもう少し飲んでから帰るがよい」


 宿でマリエルはぼぅっとしていた。

 ルーフェスが気遣って綾取りをしようと言いだしたが、やはり綾取りをしながらぼぉっとしていた。

 時折溜め息までついた。

 それを見てオフィーリアは頭が痛かった。

 酒場にイシュヴァーナは付いて行ったのに、マリエルはまた付いて行く事を許されなかった。

「やっぱり足手纏いなんですね、私」

 マリエルの呟きに応えようとしたオフィーリアの言葉は喉に詰まった。

(見方を変えれば、他の男に口説かれてもいい女を酒場に連れて行って、とられては困る女を宿に隠したと言えなくもないですけどねえ。あの方古風ですし)

 言ってしまえば余計に話がややこしくなるだろうと予想し、ますます頭が痛くなる。

 あのスカした子供のような剣豪は困った事に、これまたスカした子供のようなマリエルの大好きな妹君によく似ているのだ。

 なるようにしかならないとはいえ、頭痛が頭が割れるように痛い(言語崩壊している)。

 その時、ふとマリエルが耳を立てた。

 重い、おそらく大きな男の足音。一人分。隣の部屋のドアが開き、閉まる。

 マリエルは頬を緩め、綾取りの手を止め、少しの間を置いてから夜想曲を歌い始めた。

 

 ブランドーは酒瓶をゆっくりと呷りながら、窓枠と旋律に身をゆったりとゆだねた。

「くそ度胸だけでなく、歌も大したものだったな」

 酔いは今度こそ心地好く身を火照らせた。

 

 -2-

 

 ヴァーリ大王の手勢の活躍は社会現象となろうとしていた。

 このまま大王の名声が高まれば、本軍がジュデッカに押し寄せた時、民衆がこぞって大王になびきかねない。

 ジュデッカの王侯貴族にとっては悩ましい問題であり、正規軍を偽大王部隊に仕立て上げ、略奪をさせる事はヴァーリの予想の範疇であった。

 問題は略奪した物資をどうしたかであったのだが―――

「谷底にでも捨てればこちらも骨が折れる所であったが、欲をかき自らの居城に運び込みおった。墓穴と言うものよ」

 間者によりこれを知ったヴァーリは一千八百の手勢を集結させ(すでにある程度は予め呼び揃えていた)、また、民衆の間に間者と手勢の一部を回し、これを扇動した。

『偽部隊はハルンシア侯爵の正規部隊であり、盗まれた物資は侯爵の居城にある。大王の部隊はこれを奪回する。見物に行かねば損というもの』

『むしろ俺達も居城に押し掛け、思い知らすべきだ』

『ただ城を囲むだけで侯爵は震えあがる』

『見物するだけで領主面した盗人を懲らしめられる。楽な話だ』


 ハルンシアの城を五千五百はあろう人間が囲んだ。

「ええい! 矢を射かけよ、魔法を放て!さすれば蜘蛛の子を散らすように逃げて行くわ!」

 侯爵は震えあがり悲鳴のような声で命令した。

「お言葉ですが、もし逃げ出さず、暴徒と化せば、城はひとたまりもありませぬ」

「ヴァーリの手勢も混ざっております、その者らはこれ幸いと襲い掛かりましょう。その時民衆の少なくない数がこれに続くかと」

「な、ならば籠城だ! 王都から八千の援軍が来れば怖れるに足らぬわ!」

「それが賢明かと」

 将と官僚は汗を拭った。

 だがその目論みは甘かった。

 

 空から巨大な鉄の箱が飛んできた。

 その数、十。

「な、なんだ、あれは?」

「ええい、射落とせ、魔法を放て!」

 しかし分厚い鉄塊はそれらをものともしない。さながらヴァキュラの如く(古い)。

 念動魔法で浮かべられたそれが城壁の上に着地し、一面が開き、滑り止めと電撃を防ぐ為に敷かれた革張りを蹴って、そこから一枚に付き十の兵士が躍り出た。

 攻城戦の歴史が変わった瞬間である(一矢のパクリであったが工夫を凝らした)。

 自らも乗り込んだヴァーリが王威の剣を抜き、宣する。

「皆の者、殺さぬ限り好きにせよ! ぶちのめせ!」

 百の手勢は暴風と化し蹂躙した。

「ひいいぃっ!」

「た、助けて、助けて!」

 敵兵士が混乱する中、

「く、来るな!」

「あ、あっち行け!」

 無理やり連れて来られたバンデル王とゲラード王は敵兵に負けず錯乱して、とにかく近寄らせまいと剣をしゃにむに振り回した。

 更に城のあちこちから火の手が上がる。間者の仕込である。

 さらなる混乱の中、ジッタ達が城門の開閉器に辿り着き、これを押さえる。

「よっしゃ! 開門だぜ!」

 かくて門扉は開き、残りの手勢と民衆が城内に雪崩れ込んだ。

 城壁の戦いは終わり、敵がいなくなり、バンデルとゲラードは安堵にへたり込んだ。

「……た、助かったのか」

「……い、生きてる。余は生きておるぞ」

「うむ。見事な初陣。よき武者振りであった。昔のお主らなら途中で疲れ果て剣を振れなくなり死んでおったであろうが、日々の荷運びの鍛錬が実を結んだ証拠よ。誠、よく生き残った」

 ヴァーリは呵々大笑した。

「これでお主らも一人前よ!」

 

「この首飾りはその方の家宝で間違いないな」

「さ、左様でございます」

「この腕輪は」

「あ、あっしの家内のです!」

「糧食は流石に見分けがつかぬゆえ、飢える者が無い様分けよ。富める者は欲張るな」

「「「「「ははーっ」」」」」

「さて、後はこ奴らの処遇よな」

 蔵の前に蓑虫となって転がされた侯爵と重臣たちは蒼白となった。

「財産を奪われ、中には家族の命を奪われた者もおろう。何も無しと言う訳には行くまい」

「「殺せ」」「「「ぶち殺せ」」」

 湧き上がる怨嗟の声。

「鎮まれい!」

 ヴァーリの一喝に場は静まった。

「命を奪われるとは、大事な娘、姉妹、恋人、妻、女が奪われるも同じよ。故に余はこの場において一つの復讐を許す。グスタフ、ジッタ、モップを持てい!」

「「ははっ!」」

「身内を殺されし者よ! 犯されし者よ! 二度とこ奴らが他人の命と大事なものを奪ったり犯したりせぬように、モップの柄でいぼ○になるまでケ●の穴をF○ckして、奪われ犯された者の痛みを思い知らすが良い! う●この度に悔悟の涙を流す程に、徹底的に気が晴れるまで! 但し殺さぬようにな!」

「「「は、ははーっ!」」」

「……うそーん」

 キーパはムンクの叫びと化した。

「そして言うておく! それでもまだ懲りぬようなら、今度は余自らこれにて思い知らすぞ!!」

 その手に掲げる鈍く輝く生活雑貨を観て、その場の全員が恐怖し戦慄し、畏み平伏した。

 ヴァーリ、恐ろしい子!

「きょ、恐怖の大王、空から降りてきちゃった……、ひ、酷い、そんなオチ!? ありかーっ!?」

 キーパは更にムンクの叫びと化して、のたうった。

「余こそ戦いをおさめし者、バトルマスターよ」

 ヴァーリは泰然とうそぶいた。

 

 -3-


「思えばあれにやられちゃったのよねー」

 クロースリア城でエセルリーシャは、はふう、と息をついた。

 

 -4-


 シエラは唇を噛んだ。

 自分も一矢と声を重ね、パランタンを励ましたかった。

 でも躊躇した。

 何も言えなかった。

 自分はちっとも姉マリエルのように強く優しくなれない。

 ただのスカした子供だ。

 

 パランタンはやっとレイチェルに追いつき、その腕を掴んだ。

「……リ、リリたん」

 レイチェルはやっと止まった。

 だが顔は向けなかった。

「話を聞いてくださーい」

「うるさい! お前の冗談なんか、金輪際聞きたくない!」


 -第五話に続く―


迷走するキャラが多い中、大王陛下だけは微塵もぶれません。

彼はどんな障害があろうとも、このまま(アホのまま)ゴールまで突っ走る事でしょう。

にしてもネタが古すぎるんじゃい!(セルフ逆切れ)

どうもすみません。

パランタンファンのあなた、レイチェルや一矢やシエラを応援してる方々、ごめんなさい。もう少し引っ張ります。

見捨てないでプリーズ。

次こそはレイチェルとパランタンに決着がつきます。

え? 一矢とシエラは?

ふう、空が青いぜ(逃避)。

次回の主役はバンデル王とゲラード王です(マジ)。

こうご期待。


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