最終決戦 -その5-
彼等は歌を唄いながら戦った。
そろそろ寒さも忍び寄る霜月11月となりました。また皆様とお会いできまして感謝感激の豊福しげき丸でございます。
物語はクライマックス中のクライマックス。
最早四の五の申しませぬ。
本編をどうぞ。
八枚の翼と大王の旅 ―第30話―
-1-
ラ・フォーロ・ファ・ジーナ、ジュデッカ大陸、大王の陣。
「もう一度言う、士気とは死期ぞ」
ヴァーリは厳かに続ける。
「すべからく戦場に引き寄せられる者を戦士と言う。『士』とは即ち『死』であり、既にしてもう、精神が、心が死んで居る者の事ぞ。
死んだ者がアインヘリアルでは無い、この世に他に何処にも行き場無き者、死を覚悟せねばもう何を得る事が出来ぬと思う者、皆、アインヘリアルよ」
大王は、そのアインヘリアル達を慈父の眼差しで観やる。
「例えばそこのお前ぞ。
ガタイもでかく力持ちであろう? 誰かに戯れで殴られ、同じ力で殴り返したつもりが、相手ばかりが大怪我よ。
不良、粗暴者、人殺しと罵られ、不公平に憤れば憤る程敵は増え、言葉の暴力でいつか心が死ぬ。
もう生きて居たくない、もう真っ平だ。
剣を握り戦場に行けば、誰かこの体さえも殺してくれるかもしれぬ。
そう思うて見ても、いざ戦場で死の恐怖にさらされれば、手足が勝手に動いて人を殺し、浅ましく生き残る。
生き残った晩だけは酒を飲んで騒ぎ、俺は生き残ったんだ、きっと戦場で殺した誰かは自分よりもクズでロクデナシの悪党で、それで俺は生き残る事を許されたんだ、良い事をしたと己を慰める。
だが、生き延び続ければ気付く。
俺達は皆罪人で、共食いの殺し合いをさせられているだけだと。
一度心が死んだ者は亡者としてしか生きられぬ。
それがオーディンの定めた戦士の沈黙の掟、アインヘリアルの刑法よ。
力強き者だけではない。知恵に長ける者も同じぞ。
ホレそこの頭でっかち魔道士、お主も似た様な者であろう?
心が何も感じぬほど死ぬまで、魔法ヲタクだの、頭良過ぎて気持ち悪いだの、散々言われなんだか?
せめて自分は正義の味方でいようとしても、実際に放った言葉の暴力や魔法の矢で死ぬのは、やはり『当たり前の人間』ぞ。
悪党と人間の境目なぞ有って無きモノ。
気付けば罪人の仲間、亡者の仲間入りよ。
他の者も似たようなものよ。
故郷で罪を犯した者、居場所を無くした者、追放されし者、逃げ出した者、愛する者と引き裂かれた者。
もう生きて居たくないと思いながらも、もしもう一度やり直せるのならばと戦場に博打を打ちに来た者どもよ。
もうここにしか居場所が無く、居場所を守るためには武器を握らざるを得なんだ、哀れなどん詰まりの者どもよ。
だが、余は、そんなお主らが大好きであるぞ」
そして剣の切っ先を怪物に向ける。
「見よ、あの者どもを!
元は人霊ながら、取り付いた先は土くれの人形、ゴーレムに過ぎぬ!!
美味き酒も飯も味わうこと適わず、男女の愛の営みも出来ぬ!
人の霊魂は人の肉体にこそ宿るべきぞ!
土くれには土くれの、人形には人形の心しか宿ってはならぬ!
何故なら、それは幸せを失くし奪われている事だからぞ!
この哀れな霊を輪廻の輪に戻すは全き正義、功徳と余は宣言する!
敢えて言う。
ゴーレムと言う地獄に閉じ込められた魂を! この世と言う幸福の地、ヴァルハラへと解き放て!
遠慮は無用!好き放題やれ!
この戦の罪はただ一つ、余に断りなく死ぬ事ぞ!
死した者どもを、今こそ羨ましがらせ笑わせよ!!」
隠れ里で斬馬刀『斬徹』を揮い、ブランドーが吠える。
「現実に負けて、偽りの永遠に逃げて切り捨てるしか能が無い負け犬どもに負けるものかよ!!」
マリエルも、暗黒の谷でシエラも、姉妹声を揃えて叫ぶ。
「「悪あがきでも、前に進めると気付いたから、もう止まりはしないっ!!」
一矢は十字槍『斬徹』を揮い、唱え奉る。
「南無八幡大菩薩。
荒御魂よ願わくば菩薩行の功徳を積み、八幡の和御魂、英霊へと生まれ変わり給え!
それは俺達みんな全てであり、怪物達よっ、お前達全てもだあぁっ!!!
赤子の様に、愛し愛される事から始めるのが、全ての道の始まりだと知れよっ!!!!」
「さあ、今こそ、真の戦士の誉れ、勲し時ぞ!
天にうぬを惚れさせよ!美味しい処を頂きまくれー!!」
ヴァーリの合図とともに、戦士達は解き放たれた。
ジュデッカで、アフリカで、人々は全ての重荷から解き放たれ、前に進んだ。
戦ごっこに顔を輝かす子供の様に。
翼の生えた天使の様に。
「ごめんよ、ごめんよう」
バルクとルードが泣きじゃくる。
「お前等の事、ヤンキーだのヲタクだの言って馬鹿にしてゴメンよお」
「絶対生き残れよ、一緒にナンパ手伝ってやるよ」
「彼女作るの手伝うぜ!」
「だから死ぬなー!」
「絶対生き残れー!」
エレッセとサトラも叫ぶ。
「頑張れー!」
「負けるなー!」
「生き残ったらいっぱいしたげるよ」
「だから死ぬんじゃないよ!死んだら大損だよ!」
「「みんな負けるなー!!」」
「みんないいやつだよなあ」
「こりゃあ、負けられねえぜ!」
「「うおおおおおおお!!」」
彼等は歌を唄いながら戦った。
あまり上品な歌では無かったが。
大王の陣から始まったそれは、不思議にすぐ、隠れ里でも暗黒の谷でも、人々が口ずさみ唄う様になった。
楽市楽座で数寄放題! 好き放題に幸せに!
やって飽きない事こそが、まことに好きな商いよ。
商い栄えりゃ人増えて、税を取らねど芋(コメ、麦)よく売れる。
楽市楽座で数寄放題! 好き放題に幸せに!
戦ごっこもたまにせよ、美味しい処がようわかる。
飯を食うなら腹八分目、自分の仕事も八分目。
残りの二分で人助け、美味しい処を頂こう。
残りの二分で楽しもう、人の繋がり楽しもう。
残りの二分で楽しもう、この世は意外といい所。
楽市楽座で数寄放題、好き放題に幸せに。
(一休宗純、織田信長の説話を元に脚色)
強兵は強兵のままに突き進み、弱兵は弱兵と無理せず逃げる事も己の『8点』と役割と信じ突き進む。
弱兵が退いた穴から敵が逆襲を図れば、弱兵までが強兵の真似をして挟み打つ。
最早どの兵が囮でどの兵が罠か、怪物には判別がつかぬ。
強兵ですら押すばかりでなく『残り2点』の楽しむ余裕を持っておどけて引いて見せる。
誰もが『残り2点』のその場のノリで好き放題やっているのだから、判別の付け様も無い。
それなのに、『残り2点』の友を信じ合い、助け合う楽しみで繋がるが故に、まるですべての用兵家が夢想して止まぬ、神技の連携を繰り広げる、理想の軍隊だった。
「誰もが『8点』とは、こういう意味にございましたか……」
セントゥリウスは感極まって鼻を啜る。
「まあ、そんなトコロよな。
手練れには8割8分までは行けるとは言うておる。ただし、人には波、揺らぎが有る故、8割5分までに止め、時に8割8分に揺らぐぐらいで丁度良いと言うておるがな。
細工も絵画も音楽も、芸事は総じてそのようなモノよ。10割の物など、完璧すぎて飽いたり、油断が出来る物故な」
「兵を恒久と思えば即ち敗れるですな」
「恒久と言うものがもしあらば、それは人の手が添えられ続けられるが故に恒久たりえるのだろうよ。
それよりも、敵の動きが変わったぞ?」
「最善の兵を残して、怪物が後ろで何か所にか集まっております」
「何をする気ぞ?」
-2-
『もはや通常の戦術で挽回は不可能に近い』
『より強力な個体を制作し、個対個の性能で圧倒を推奨』
『他に良案無く、止む無く了承』
『承認』
『承認』
『では合体個体の製作に入る』
怪物達は6体ずつ寄り集まると、次々と合体を始める。
もともと土くれの集まりの身体が、黒い粘液に近い粘土に戻り、再び造形され直して行く。
75㎏×6=450㎏。
3mの巨体。
所謂巨人の身体となったのである。
確かに強力な個ではあるが、個体数を6分の1にする、危険な策でもあった。
-3-
「なんだありゃ?」
「終末の巨人だあ!!」
「馬鹿、ただのゴーレムだって」
各地で戦線はパニックになりかかる。
暗黒の谷でパランタンは一度瞑目し、眼を見開く。
「大風が来て家の屋根ごと布団が吹っ飛びました! ふう、とんだ目に遭った」
久々の氷河期が訪れた。
お蔭で一矢達の頭も冷える。
「落ち着け、あの巨体だから動きは遅いはずだ! 遠巻きに牽制を繰り返せば、魔法のいい的だ!」
これにはまた魔法で聞き及んだジュデッカのヴァーリも舌を巻く。
「一矢め、余の台詞を先に言いおった! だがその通りぞ!! 魔法を打ちまくれい!」
-4-
暗黒の谷。
巨人となったゴーレムは、指揮官と見た一矢に殺到する。
一矢の左右をカロとパランタンが固める。
カロが大太刀の一振りで左のゴーレムの腕を切り飛ばし、
パランタンが右のゴーレムの腕を二刀でハサミのように断ち切る。
そして一矢は十字槍を下から上に振り上げて正面のゴーレムの腕を斬り、
背骨の重みを乗せた返す槍で、巨大な頭を断ち割ったのである。
「人間無骨の太刀改、『斬徹』!!」
-5-
隠れ里。
元より巨漢であるブランドーは、巨人と対等、いやそれ以上に戦った。
腕どころか丸太の様な足すらも、浮いていれば一刃で斬り飛ばす。
まさしく竜巻が荒れ狂う様にして、鬼神であった。
「お、おっかねえ」
「ブランドーさん、怖いよ」
「ブランドーさんは、泣いてるんですよ」
マリエルが呟く。
「好きな人達を守りたい、みんな死なないでって、泣いてる顔なんです。シエラちゃんと同じ。
泣きながら剣を振るう。
とても暖かくて健気で優しいんですよ。
本人は否定するでしょうけど、だから大好きなんです」
グレガンやルーフェス達は顔を見合わせる。
「俺達だって!」
「負けられません!!」
「やれやれ、命は大事にしてやってくださいよ」
子守の覚悟を決めるザッパだった。
-6-
大王の陣でも近衛や魔法騎士が巨人相手に奮闘する。
『右逃げろっ!』
『左だっ!』
『今だっそこっ!』
彼等にはなぜか常に的確な指示が飛んでいた。
それは大王やセントゥリウスの声だけでは無く、ドラゴンの見た映像を受信するネット民達の声援も混じっている。
「中立と言いながら、随分我等に肩入れされますな?」
『何の事やらだ。我は只見たいものを観、聴きたい声を聞いているだけで、うっかりそれが漏れ出ているに過ぎんよ』
別の話だが、何故かこの後も、誰かが困った時、誰かの声援やアドヴァイスが聴こえる空耳が、人々に増えたと言う。
-7-
暗黒の谷。
巨人たちは巨剣やこん棒を次々に一矢に振り下ろすが、捉えられない。
「風巻光水流歩法奥義、『風巻』」
仕組みは簡単、槍を敵の剣に向け、膝車をわずかに身を捻り武器と逆に向け、腰車で巨人に向け前に進む。
後は鎬斬りで敵の剣に押し退けられるままに膝車が回り、横にヒラリ。
一矢の槍のみ巨人の頭を割る。
それは中国武術、八卦掌の運足と、ほぼ原理を同じくする技であった。
言葉では簡単だが、実際に行うは難しを可ならしめたのは、やはりシエラと結ばれたのと、大王の宣言に背を押された心と身体の軽さゆえか。
「頑張れ、一矢あっ! そのまま行けぇぇっ!!」
魔法とともに声援を送るシエラ。
「おおぅっ!!」
一矢は咆哮し応えた。
―最終話に続く―
そうして八枚の翼はここに集い
以上、次回予告でした。
いよいよ次回で『六枚の翼』から続くこの物語も完結いたします。
皆様、あともう一話、もう一話だけお付き合いください。
それではまた来月、最終話でお会いしましょう。




