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八枚の翼と大王の旅  作者: 豊福しげき丸
19/31

それは愛しい日々に忍び寄る

「で、どうですか? 具合は?」

「大変な結果です」

「「「―――――っ」」」


「ひ、ひいっ!」

「お許しください、なにとぞ、なにとぞ!」


「……狡い」


「―――っ、必ずや!」


 御久しぶりです。

 今月も予定通りうプできて、皆様にまた会う事が出来、感謝感激の豊福です。

 さて、本編ではファイナルへ向けて、今までにばらまきまくった伏線を回収しまくっております。

 

 ――人生と言う、ただ一本の道(流れ)に向き合う事、それ即ち(その人にとり)ただ一つの武である――

 

 さて、登場人物たちが向き合う彼等の人生、一本の道、明王の悟りとは、何だったのでしょうか?

 答は本編でご覧ください。

 

 八枚の翼と大王の旅 ―第十九話―

 

 -1-

 

 ジュデッカ大陸、隠れ里。

 車椅子の医者が、マリエルを診察する。

 腕と肩の石化の具合を、目診と触診で何度も確かめ、カルテに書き込み、それをクロースリアの典医が書いたカルテと突き合わせ眺め、しかめっ面で呻る。

 付添いのブランドーとオフィーリアは医者よりも険しい顔だ。

「ふむ」

「で、どうですか? 具合は?」

 オフィーリアはまるで母親の様な真剣さで医者に詰め寄る。

「大変な結果です」

「「「―――――っ」」」

「病気は、ここに書かれた時から欠片も進行しておりません。素晴らしい!」

 医者の答えに三人の顔が輝く。

 ブランドーはふと自分に気付くと、厳めしく咳をして誤魔化す。

「石化病は、楽しい思いをしてよく笑うと、進行が遅くなったり止まる事がわかっています」

 そう言って医者も、初めて相好を崩す。

「ここに来るまでの旅は、余程楽しい事ばかりだったようですな」

「―――はいっ!!」

 マリエルはひまわりの様に笑った。

 ブランドーは厳めしい顔のまま赤くなる。

 

 祝いも兼ね酒場に集まった旅の仲間たちは、久しぶりに歌と踊りを披露する。

 グレガンが陽気かつ軽妙に太鼓を叩き、少し遅れてクロブとブランドーの幽玄ともいえる華麗な旋律が乗る。

 客がそれにため息を漏らすと、オフィーリアとルーフェスの伴奏が乗りテンポが上がる。

 そして真打の、イシュヴァーナの舞いとマリエルの歌が、世界を開く。

 

 繰り返す繰り返す、愛しき日々を。

 繰り返す繰り返す、愛する道を。

 繰り返し歩み続けよう、愛しい人達と。

 転がる石に苔はむさない。

 愛する事を繰り返すから、人は気付ける。

 昨日聴こえなかった愛しきものの声に、

 昨日気付けなかった愛しきものの新たな輝きに。

 平凡に見える日々もきっと毎日が冒険。

 愛する程に、心磨き目を開き耳澄まし傾ける度、

 ワクワクする発見の日々。

 辛い事も有るけれど、

 それはまだ愛を注げる事、幸せになれる事の証。

 転がる石に苔はむさない。

 磨かれ輝き続ける。

 繰り返そう、繰り返そう。

 毎日新たな、愛しい日々を。

 

 彼らが作ったその歌は、禅で云う般若阿弥陀(観世阿弥)「一心に、慈悲の愛を以って一行を繰り返すが故に、心魂磨かれ常に若く蜜多し」の悟りを謳うものであったが、それは誰も与り知らぬ事である。

 

 夢の様に幸せな日々。

 だが、その隠れ里を目指す、金属とも液体ともプラスチックともつかぬ、一体の黒い怪物が居た。

 それは只の斥候に過ぎない。

 だが、その怪物は飲食も呼吸も不要であり、砂漠の灼熱と極寒も意に介さなかった。

 それには、時間さえ掛ければ死の山ベルゼウスの登頂すら容易いものである事を、誰も知らなかった。

 その怪物にとって、賢者の石持つ彼らが、増殖の為の極上のエサである事も。

 

 -2-

 

 怪物たちの主力はザーダーン王国の王都を目指して進軍する。

 彼等自体には休息は不要だったが、従軍させられている人間はそうはいかず、行軍の速度自体は常識的なものであった。

 人間、その楽士の一団は、王侯の服や宝石で着飾った黒い怪物たちの前で演奏を強いられる。

 演奏が終わると、黒い怪物たちは通礼として拍手をする。

「い、いかがでしたか?」

『不満』

『同意』

『ボルネバイン公の人格データ内の記録とは、かけ離れています』

『では正確な演奏の為の再調教を指示する』

『了解』

 服を着ていない戦闘用の怪物個体が楽士たちの腕を掴む。

「ひ、ひいっ!」

「お許しください、なにとぞ、なにとぞ!」

 そこには音を奏でる楽しみも喜びも無い。


 -3-

 

 大王陣開拓地。

「距離時間的に、今から騎馬だけ赴かせても、ザーダーン王国を救うには間に合わぬかと」

「分かっておる。だが騎馬は回せ。敗残兵や避難民を追撃から救わねばなるまい」

 セントゥリウスやヴァーリを始め、軍幹部が地図を広げたテーブルの前で角突き合わせる。

「それは了承しますが、いい加減お聞かせ願いますか。何故ここに居る民を全て兵と仰られます? アレとは一体何なのですか?」

「ああ、それか」

「それです」

「余の口から言うのも面映ゆい。グスタフ、ジジイなら昔話は得意であろう? 任せた」

「お言葉ですが、私と大王の歳はさほど離れておりませぬぞ」

「いいから」


 ヴァーリが王に即位してまだ間もなき頃。

 隠棲していた先王は病死し、国自体もまだ小国でしか無かった。

 隣接する二つの国は先王の死を好機ととらえ、いたずら者のうつけと言われる若王与し易しと、同盟を結んで侵攻した。

 領土と絶世の美姫と言われたエセルリーシャ目当てである。

 だが、欲に駆られた両王の目論見に反し、ヴァーリは善戦した。

 しかし、このまま城壁にこもって籠城しても、援軍が無ければジリ貧である。

 そこでヴァーリは苦渋の決断を下し策を弄す。

 ある日侵攻軍の糧秣に火がかけられた。

 侵攻軍は不足した食料を補うため、農村から略奪を決行する事となる。

 襲われた農民はほとんど逃げたが、一部の農民は激しく抵抗し、惨殺された。

 その日から、農民が侵攻軍の斥候を襲って殺害すると言う事件が多発。

 侵攻軍は、街道を保持する部隊を除き、包囲している城の前に閉じ込められる格好となったのである。

 そして、ある日、侵攻軍は驚愕の光景を目撃した。

 侵攻軍の何倍もの数の、農具を持った農民が、彼等を城ごと取り囲んでいる事に。

「降伏せよ」

 ヴァーリは城壁に立ち、そう宣言した。

 ヴァーリ軍の強さは身に染みてわかっていた。この上挟み撃ちにされれば勝ち目がないと判断した二人の王は、止む無く矛を引いた。

 種を明かせば、惨殺された農民も、その後斥候を襲った農民も、全て変装したヴァーリの手の者であった。

 侵攻軍が、散々農民の怒りを買ったと怖れている所に、ヴァーリはすべての領民に、密偵と通信まじない師を使って密かに触れを出した。

『手に農具を持ち、城を見物せよ。黙って見ているだけで、憎き敵軍がヴァーリに降伏する姿が見れる』

 ヴァーリの悪戯好きは民に広く知れ渡っていたので、民は面白い物見たさ半分、敵憎さ半分で出てきたのだ。

 ヴァーリはその後、国を挙げて、農民を装い殺された戦士を弔った。

「この者たちは余が殺した。

 この者たちは、真の戦士であった。

 戦士よ、領民よ、善く生きよ。誇り高く生きよ。さもなくばあの世でこの者らに笑われようぞ」

 

 セントゥリウスはハンカチで鼻をかんだ。

「ううっ、いいお話です」

「なーにがいいものか」

 ヴァーリは不貞腐れる。

「だからこの話は嫌だったのよ」

「そ、それはそうと、その話と此度では状況が違うのでは? 怪物が領民を見ただけで怖れるとは思えませぬ」

「それは当り前であろう」

「で、では?」

「他ならぬお主自身が言っておったではないか、もう忘れたか? 『盾をしっかり構えて身を隠し動かねば良い。さすればすべてうまくゆく』とな」

「あ、ああ!」

「幸い、この街には、店だの家だの、建物を作るために集まった念動魔術師が山と居る」

「ああ―――!!」

「すでに盾はありったけの資材で作るよう手配済みよ」


 -4-

 

 風巻本道場。

 一切の気負い力みなく。

 まるで寄り添うように倒し、相手が逆らい我を出せば、その我にさえ寄り添いて倒す。

 カロは一刀をまるで師ヒエンやブルハンの如く、柔らかく吸い寄せ巻き込む流水と使いこなし、パランタンは二刀で受けるや、すり抜ける風の如き体捌きでいなして、流れる小太刀で打ち、一矢は無刀で木刀を持った相手を掌握して倒した。

 勿論女性陣も上達著しい。

「ほほう」

 英明が目を細める。

「お主ら、一皮むける何かが有ったな」

 ギクッ

 六人は仲良く固まる。

「勉学に障らぬよう、ほどほどにな~」

 そして、赤面する。

 察した他の弟子たちは苦笑した。

 

 道場からの帰路。

 六人は何と言う事も無く、二人ずつ三組に、距離を置いて歩いていた。


「なあ」

 シエラが一矢に訊ねる。

「やっぱり、行くつもりか?」

「うん」

「どうしてだ?」

「えーとさ、俺が堂島と試合ってる時、シエラさん、弱い者いじめをする俺は嫌だって思わなかった?」

「――っ!」

「俺もそんな俺は嫌だ。そんで、弱い者いじめを、俺がどうにかできそうなのに見過ごすのも俺らしくねーって思わないかな?」

「……狡い」


「お前も行くのかよ?」

 レイチェルもパランタンに。

「ハーイ。ミーの使命はリリたんと一緒に世界中の人に愛と笑いを届ける事でーす。あそこに、笑うに笑えなくなった人がいて、それをミーたちがどうにかできるなら、ミーが行かない訳にはいかないざーんす」

「はあ……」

「おう、リリたんどーしまーした?」

「お前、馬鹿の癖にたまに格好いいのが狡い」


「貴方も行くの?」

 そして、エリスロはカロに。

「貴方は真面目な人、優しい人でしょう? 本当は人を傷付ける事なんて向いてないっ! 人を傷付けたり殺したりすれば、どんなに惨めで苦しい事になるかなんて、子供の頃暗殺者だった私が、一番よく知ってるよ~。もう、貴方がそんな目にに会う必要なんて、無いんだよ~」

「確かにそうかもしれない」

「そうでしょ、ならっ」

「でも、あそこに居るのは、故郷を干ばつや戦争で理不尽に追い出されれて、居場所を失くした人たちなんだ。かつての俺や君と同じ様に。そして、逃げて集まったその場所すら、奪われようとしている。もちろん、俺はこの地球の事だってよく学んだ。本当は、それをするのは銃を持った軍人の仕事で、俺達の出る幕じゃない事なんて承知している。でも、あそこに居る奴らに銃は通じない。剣と魔法しか通じないんだ。

 もし、俺がここで剣を振るえなかったら、俺は俺の剣を、自分を見失うだろう。

 だから、行くよ」

「狡いよ~」


 義を見てせざるは勇無きなり。昔の人はそう言った。

 義とは、余分を取り払い、衣一つ飾り一つの粋がり一つ(禅)に磨かれた、美しき我が儘と書く。


「「「わかった」」」

「「「それじゃあ」」」

「「「ただし、私も連れて行く事!」」」

「「「…………ハイ」」」


 忠孝悌(家族、上司、先生、友達、仲間、先輩、後輩、恋人に尽くす事)を小人の三徳と言う。若い内は、自分の心に偽り無く好きな人に心を尽くす。それでいい。

 だが、自分と一見関わりない人、例えば道ですれ違う人にも「そで擦り合うも多生の縁」と、仏縁武縁を感じ、笑顔で礼をし、困っていれば心を尽くす。即ち仁義礼智信の五徳を、大人の徳、五常、武徳と言う。

 三徳を養い、五徳を得、また家族の三徳に帰り、また新たに人に出会い五徳を得る。その繰り返し。

 大事なのは、自分の心を偽らず磨く事。真心の勇を得る事。

 それを五徳明王の悟りと言う。

 

 -5-

 

 クロースリア、王都駅。

 京香と宰相ラスゴー達は、出征する精鋭と、リリエンタール副学長を見送りに来ていた。

「副学長、それに皆様、不肖の曾孫たちを宜しくお願いします」

「無論です。私の不肖の孫も含まれていますのでね」

 副学長の他愛ない冗談に魔法使いたちが若干御愛想気味に笑う。


 クレアと京香の働きかけにより、ジュデッカとアフリカに魔法使い中心の兵を送る事が決定した。

 蒸気機関車と蒸気船、手配したありったけの馬を使っても間に合うかどうかは五分五分だ。

 無理な派兵故に数も限られる。

 中でもアフリカへの援軍は、国命では無く、京香個人からの御願いにより、『地球から得た知識に恩義を感じて下さる有志』五十余名でしかない。

 だが、其の五十余名は、学術所卒業生きっての精鋭中の精鋭であった。


「ご安心を、このカーツ、見事皆を率いてお孫さんたちと副学長、そして地球の民を守り抜いて見せましょう」

「カーツ隊長調子乗り過ぎー」

「いつでも隊長を代わってあげてよ。異世界の破滅を救うヒロインなんて美味し過ぎですもの」

「ロレンス、メイシア、うるさい!」

「剣も、『斬徹』十五振りと秘密兵器だっけ、無事届けますよ」

「向こうの飛行機って、刃物を運べないなんて不便よねえ」

「ですが、ジュデッカには私の祖先たちをアフリカから召喚するために使った、転移の道が残されています。なんら不都合は有りません」

 副学長たちは、勇敢さに溢れた眼差しで京香を見つめる。

「………宜しくお願いします。そして、カイネル魔法騎士団長。怪我から回復したばかりの方に酷な事を言うとは分かっていますが、どうか戦火がマリエルに降りかからぬよう、お願いします」

「何を仰る。私の命こそ、シエラ様と一矢殿に救われたもの。それも本来は私が彼等を守らなければならなかったのにです。むしろどうか、『命に代えても』と、お命じ下さい」

「いけません」

「なぜ?」

「貴方も生き残って下さい。それくらいの気概が無いと、私の曾孫はお任せできません」

「―――っ、必ずや!」


 やがて汽笛が鳴る。

 人々は汽車に乗り込み、残る者は手を振って見送った。

 

 ―第二十話に続く―


「ようこそアフリカへ!」


「これまでか………」


「やはり駄目だ」 


『コウフクセヨ』


 以上、次回予告でした。

 今回もお読みいただきお疲れ様でした。

 次回からいよいよ主人公達による人類の反撃が始まります。

 でも本当に勝てるんでしょうかね?(おい)

 まあ、答えは追々(おいおい)に。これが本当の追いという事で(おい)。

 まだまだ回収しなくちゃならない伏線いっぱいあるしね。

 まあ、書いてる自分自身もそれが楽しみではあるんですが。

 思えば六枚の翼を書き始めてから長かったもんです。

 最初の頃思いついたシーンが、やっと今書けたか。と、感慨深し。

 でも、十里の道を行くものは九里を持って半ばとすると言う言葉が有るように、ここからを今迄全てに匹敵する内容で描かなきゃならないんですよね(汗)。

 ラストスパート、お付き合いください。

 それはそうと、『機動戦士ガンダムSS』の方は難航しております。

 版権がな~(TT)。

 御返事いただけないんですよね~。

 イラストレーターの方も~。

 このままでは『なろう』どころか、同人誌でも出せないかも?

 はあ、やれやれ。

 原稿は第二話まで書いたんですけどね。まあでも残り十話あるか。

 身内にだけ配布で終わるかもね(涙)。

 『十三個目のピーピングジャック』の方は、番外短編、インターミッション(1)をうプしました。

 本編お休みは相変わらずです。

 ですが、『八枚』毎月連載も相変わらずの予定です。最後までこのペースで迎えたいものです。

 それでは、来月もお会いできる事を願って。

 

 まったね~。

 

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