彼方より湧きいづる悪霊
それは同時に起こった。
地球で。ラ・フォーロ・ファ・ジーナで。
アフリカ大陸で。ジュデッカ大陸で。
そのお伽話は今まさに実体を持って現れようとしていた。
と言う訳で、今月もまた皆様に予定通り御目にかかれて感謝感激の豊福です。
いよいよ始まりました最終章、ラストスパートです。
最後最大の敵も現れて、ファイナルバトルへ向けてまっしぐら。
毎月連載ノンストップでお届けしたいと思っております。
そんな訳で先ずは本編をどうぞ。
八枚の翼と大王の旅 ―第十八話―
-1-
二年前。ローンガルト大陸、大王の館。
「行くの?」
エセルリーシャはヴァーリの背に声をかけた。
「無論よ」
「いくら貴方でも変えられないわよ。『不死の王、世界を永遠に支配する』。天使は、ドラゴンは決して手を貸してはくれない。人間は何度も世界を壊しかけたもの。不死の王の方が世界の管理者として相応しいのなら、私達では無く彼らの味方にさえなるかもしれない。勝ち目なんて無いわ」
「やかましい」
「はあ?」
「お前という奴は、相も変わらず潔いのう。男前と言えば聞こえはいいが、狡くも卑怯でも生き汚くも無い。『信じてるわ』とか、『有難う』とか卑怯な言葉の一つも出ん。諦めのいい浅ましいお嬢様ぞ」
「ななんだとぉ!」
「よもや、信頼や感謝を忘れない善良なみんなを特別な私が守ってあげたいの。などと考えているのではあるまいな? そいつは思い上がりよ」
「それが何が悪いのよ! 彼等はあたしとは違うわ! 信じようが、感謝しようが未来は決まってるって、見えてしまうあたしとは違うのよ!」
「ほれ、そこが浅ましい」
「何がよ? みんなよりずっとずっと先まで見えるあたしが浅ましいなんて、どうして言えるのよ!」
「この際先の事などうでも良い。それ以前に、今はどうして今まで繋がって来たと思う?」
「それは、それこそ浅ましい貴族の陰で善良な民や一握りの貴族たちが頑張ってきたお蔭で」
「ではお主も浅ましい貴族よな」
「なっ!?」
「お前らの様な信頼や感謝など、『信じたのに裏切られた僕ちゃん可哀想』とか、『礼儀を払ってもらえないあたし可哀想』程度の、浅ましい自己憐憫よ。
そして善良さ、徳とはな、人生と歴史と云う戦場で鍛えられた、紛う事無き剣、武器ぞ。
真の人とはな、例え相手が失敗すると分かっていても、裏切られると分かっていても、それでも信頼するし、礼を尽くすのよ。たとえ、自分がそれで命を落とすと分かっていても、相手の心に取り返しのつかない後悔の爪痕を刻む為に。後悔した人に、自分の子や孫や家族や仲間を託す為、託すに足る人間に鍛え上げる為にの。
それこそが力無き者の真の力、強かさ。
これを狡くて卑怯で生き汚いと言わずして何と言う?
それ故に、人は、命は繋がって来た。
善良さと呼ぶそれが美しく輝いて見えるのは、野の獣がいつも命懸けで生きるが故に美しいのと同じ事よ。
自分だけが特別で守るとは思い上がり。守る者はいつも既に守られておる。
余はただ守るために征くのではない。その狡くて卑怯で生き汚い、生き抜く輝く力を束ね合わせるために征く」
-2-
現代。
それは同時に起こった。
地球で。ラ・フォーロ・ファ・ジーナで。
アフリカ大陸で。ジュデッカ大陸で。
目に見える形ではアフリカの方が早かった。
ある六つの山や丘陵に於いて、奇妙な光と唸りが起きたのである。
その六つの地点を繋ぎ合わせると、ほぼ円を描いている。
魔術を使う者がこれを知れば、それが大規模な魔方陣と見抜いただろう。
その魔方陣の中では、自動車やエンジンのある機械がやたらに停止するという現象が起き始める。
マナが魔法陣の中に充満し始めたのだ。
そして、魔法陣の中心から、それは湧き出てきた。
地球の今の形の宗教が生まれるよりも前、神話しか無い昔よりもまだ昔、今でも原始的な生活をする民族に世界中で共通する、原型、アーキタイプとでも呼ぶべきお伽話が在る。
――悪霊たちが山(海)からやってくる――
――皆で力を合わせて悪霊を追い返せ――
――そうして集落は平和になった――
民俗学者や考古学者によれば、それは小集団社会を束ねる必然性から生まれたものだと云う。
罪を犯した者に罰を与えながらも寛容に接する為に。
悪霊に憑りつかれる心の隙が在ったのは悪いが、罪を犯したのは悪霊の所為だから許す。
悪霊と言う共通の敵を持つ事で、結束を強固にする。
強固な権力構造の無い小社会では、重い刑罰を与えるイコール集落の分裂になりかねないからだと。
しかし、今、そのお伽話は今まさに実体を持って現れようとしていた。
-3-
八月初旬の日本。
海水浴に久しぶりに皆が揃った。
ビーチに並ぶ水着姿の美女達。と、おまけの一矢達。
「おい、景山」
「何だ、吉田」
「あれ、あからさまにはいちゃついてはないが……」
「そうだな。多分くっついたな、あいつら」
「「はあ……」」
視線の先には一矢とシエラ、パランタンとレイチェル。ついでに元からくっついてるカロとエリスロ。
「そうねー。あんたたちも頑張らないと、一生ガ○プラが彼女で終わるよ。理系男子の格好悪い末路よね」
斉藤の厳しすぎるツッコミ。
「「ぐはっ」」
「そ、そう言う斉藤はどうなんだ?」
「そうだそうだ」
「あら、聞いてなかった? 最近、ロケット愛好家サイトで格好いい人と知り合っちゃって。お盆休みにはグループでだけどデートっぽい事もするのよ」
「「ぐはっ」」
「その人ったらワイルドで、落ち着きがあって、正義感も強くて」
「何だその完璧超人?」
「実在すんのか?」
「スカイプで喋ったわよ。リアル人物!」
「詐欺師かもしれんぞ?」
「騙されんなよ」
「わっはっはっは。羨ましかったら君達も頑張んなさい」
(ま、ワイルドなとこは吉田に似てて、落ち着きのあるとこは影山に似てて、正義感のあるとこは風巻に似てるんだけどね。だから二人も頑張ればいい人見つかると思うんだけどな)
そこは口にしない方が花と思う斉藤。
何せ逆を言えば三人ともいまいち物足りなかったと同義だからである(爆)。
「ほら、幸いビーチには女の子いっぱいいるわよ。ナンパすれば?」
凍りつく吉田と景山。
理系男子が友達以外の女の子に声をかけるのは(以下略)。
「おーい、飯食いに行こうぜ」
水辺から戻って来た一矢達の声。
「お、そうか昼飯か。なら海の家だな」
「ならしょうがない。ナンパは今度だな」
やや棒読みの台詞。
「……駄目だこりゃ」
次行ってみよう。
海の家では、狭い空間故に余計に、はにかんだり照れたり恥ずかしがったり、遠慮がちに見つめ合ったりがうざかった。
リア充三組、爆破痛死炉と、吉田と景山のみならず、周りの客も思ったとか思わないとか。
そんな時、店の角に置かれたテレビから流れるニュース。
『アフリカの一部地域において、謎のエンジン停止現象が発生。その頻度は日増しに高くなっているとの報告が相次いでいます。火力発電所も不調気味で、このままでは生活インフラ停止の可能性も………』
顔を見合す一同。
「「「これじゃあまるで―――」」」
マナが地球上に溢れている?
-4-
とあるアフリカのありふれた光景。
くたびれたオフロード車の集団が集落を囲む。
AKライフルを構えた男達が村人に向かってお決まりの台詞。
「この村は解放戦線の制圧下に入った。皆大人しく出て来い!」
この後の手順は決まっている。
見せしめに数人を殺す。
親を殺されショックを受けた子供に銃を渡しこう囁く。
「怖いだろう。こうなりたくはないだろう。なら、お前もこっち側になるんだ。殺される側で無く、銃を持って殺す側の人間に」
粗野で単純で効果的な洗脳。
殺せない子供が居れば、別の子供にその子を撃たせる。
後は雪崩の様に子供たちは軍隊に加わる。
往々に学校でいじめっ子の方がいじめられっ子よりも仲間が増えるのと同じ原理。
人間は処理しきれない恐怖に直面すれば、恐怖の対象に模倣、同化しようとする。
それは、本来威嚇や攻撃を受けた時、こちらも真似た激しい威嚇で返して危機を逃れる為の本能であり、安全な対岸から責める事は容易くとも、解決する事は難しい。
解放戦線の部隊長は、号令の手を挙げる。
「いつも通りだ。後で楽しみたかったら女はなるべく殺すな」
兵士達が銃を構える。
村人たちはある者は凍り付き、ある者は這って逃げようとする。
だがある村人は、兵士たちの後を指して叫ぶ。
「悪霊だ!」
兵士の数人が振り返ると、岩山の切れ目から湧き出る、液体ともプラスチックともつかぬ質感の、真っ黒な人型の影。
何十体も、何百体も、後から後から。
「「「ひぃぃぃぃ!」」」
村人たちは逃げ出した。
兵士達は凍り付いていたが、部隊長の一喝で我に返る。
「何をしてる? 撃て撃て撃て!」
兵士達は引き金を引く。
だが、弾が出ない。
虚しくカチカチと言う引き金の音が耳障りに響く。
「く、車に乗れ!」
だが、いくらキーを回しても、エンジンは動かない。
虚しくギュルギュルとスタートモーターの回る音が耳障りに響く。
兵士達は村人とは違い、文明の利器に頼った分、逃げ遅れた。
仕方なく、ある者は銃剣で、ある者はナイフで立ち向かう。
だが、どこに切り付けようと刺そうと応えた様子は無く、あまつさえその傷も、次第に塞がって行く。
『○×△□%』
「な、何だ、言葉か?」
「一体何語だ?」
多勢に無勢、兵士たちは次々に組み伏せられていく。
抵抗の激しかった者は、黒い人形の腕から飛び出した刃に喉を斬られて死んだ。
残りの者が大人しくなる。
「こいつら一体何者なんだ?」
「まさか本当に悪霊?」
「もう駄目だぁあ!」
『言葉が通じません』
『言語が劣化している様です』
『劣化言語の習得まで、捕獲個体は飼育』
『了承』
『了承』
『非攻撃的個体を捕獲次第、攻撃的個体の廃棄を推奨』
『了承』
『了承』
-5-
ジュデッカのとある地方領。
そこにも彼等は襲いかかった。
兵士達は槍で応戦するも、不死身とも思える怪物の群れの前に屈する。
実際には不死身でなく、倒された個体もいた。
怪物には頭と胸にコアがあり、運よくそこを破壊するか、剣に持ち替えて首を撥ねた場合のみ、怪物を倒し得たのだ。それ故に槍は怪物と対するに相性の悪い武器と言える。
だが、もっと恐ろしい問題が起こる。。
怪物は一般市民のほとんどに危害を加えなかったが、石化病の人間にだけは別だった。
怪物達は彼らを集めると、その体に黒い結晶を埋め込む。
結晶を埋め込まれた者は黒い液体ともプラスチックともつかぬ物質へ、怪物と同じ物質へと変質していき、一度形を失い、液体の様に地面に薄く広がる。
―――そして、その地面から、無数の怪物が湧き出た―――
彼等は賢者の石によって増殖するのである。
地方領を抱えるサーダーン王国の王は、魔法通信によってこの事態を知る。
王は直ちに迎撃軍編成を命じた。
-6-
ヴァーリも密偵の報告からこれを知る。
「まあ、多少意表は突かれたが、おおむね予想通りよな」
「大王、いかに?」
「ど、どーすんの?」
グスタフとキーパが詰め寄る。
「焦っても始まらん。とりあえず手勢が手元に戻るまではいつも通りにしておけ」
「や、やはり正義の味方ごっこをして兵力分散している場合では無かったのでは?」
セントゥリウスが焦る。
「アホを申せ。兵と武具を揃えるのに金を使い過ぎたから、馬まで手が回らんと言うておるのと同じぞ。まずは戦いは兵の数。贅沢を言うな」
「ですから、その兵の数が!」
「いるではないか、ここに兵が。おまけにこれからどんどん増えるぞ」
「はあ?」
「「ああ、あれをなさるおつもりで?」」
ハモるグスタフとジッタであった。
-7-
『ご、ご覧下さい、怪物の群れです!』
アフリカの小国の軍事駐屯地。
そのイギリスのTVレポーターは、本来この国の内戦の取材に来ていた。
だが、運がいいのか悪いのか、更に恐ろしい特ダネにぶち当たったのである。
『現在、この基地への電気供給はストップしています。発電機も動きません! バッテリーももうすぐ尽きるそうです! 迎撃すべき兵器軍は、全て沈黙しています!』
蟻兵戦術(味方の兵の身体を梯子に壁を乗り越える戦術)によってバリケードを乗り越える怪物たち。
鉄条網の棘は、彼等に何の痛痒も与えない。
ナイフやスパナレンチやバールやスコップで悲壮に抵抗する兵士たち。
だが数の前に蹂躙される。
『か、怪物がこの見張り塔にも! 逃げたいですが、自動車が動かないので、逃げれません! どうか、この放送を見ている方々! この駐屯地の背後には難民キャンプがあります! どの国の御方でも構いません! もし心あるのならば、どうか彼等に救いの手を! 我々もこれまでのようです! みなさんさようなら!さようなら!』
―第十九話に続く―
夢の様に幸せな日々。
だが、その隠れ里を目指す、金属とも液体ともプラスチックともつかぬ、一体の黒い怪物が居た。
それは只の斥候に過ぎない。
だが、その怪物は飲食も呼吸も不要であり、砂漠の灼熱と極寒も意に介さなかった。
それには、時間さえ掛ければ死の山ベルゼウスの登頂すら容易いものである事を、誰も知らなかった。
その怪物にとって、賢者の石持つ彼らが、増殖の為の極上のエサである事も。
酷い、マリエルとブランドー達がやっと幸せになれたのにこの仕打ち。作者は鬼か悪魔か? うんそう。
作品世界に於いては鬼も悪魔も神すらも作者の役割ですがな。はー、やれやれ。
もっと酷い事を言うと、隠れ里と言うジュデッカ最大の賢者の石の集積地が墜ちれば、ン十万の怪物が湧き出、世界終了と言うデスゲーム。
伊達に彼等が本作のメイン主人公ではありませんよ。責任重大。
と、言うほどにはまだ彼等に話の焦点は当たらず、次回も一矢達と大王が戦いに備えて頑張ります。
加えて懐かしいキャラも新キャラも出ますよ。
てな感じで次回予告はここまで。続けてお知らせです。
『十三個目のピーピングジャック』、ケース2完結しました。
こっちの作品は近々、短編のインターミッションを載せる予定ですが、ケース3の構成に時間をかけるため、本編自体は1年ほどお休みします。
と言うか、一年より結構長くなりそうになりました。御免なさい。
それと言うのも版権が~。
いえ、その一年の間、別の作品を書くのですが、モノがガンダムなんです(爆)。版権申請しなければいけないんです。確実に版権を取るために事前にこれからちょっとコネを頼るのに時間がかかるとです(なぜか九州弁)。
もうガンダム第一話は書き上がっていると言うのに、うっかりさんですね~(涙)。
あ、もちろん八枚の翼は毎月連載のままですのでご安心を。
そんな訳で来月、また本作と、出来得ればその内、新作『機動戦士ガンダムSS』でお会いしましょう。
まったね~。




