続く明日に望むもの
「男の子はな、大抵喧嘩が大好きなのよ」
早速始まったレスリング興業。
バルクは興行主としても選手としても張り切る。
だが一方、マリエルたちに襲い掛かるのは、三百もの国軍。
喧嘩ではなく、戦争にすらならぬ一方的で陰惨な殺戮が始まろうとしていた。
果たしてマリエルたちに打つ手はあるのか?
お久しぶり、というほど間が空きませんでしたね。豊福です。
二月中に二回アップできましたよ。
その代わりという訳ではないのですが、三月は一回お休みの予定です(ごめんなさい)。
四月まで見捨てないでくださいねm(TT)m
それでは本編をどうぞ。
八枚の翼と大王の旅 ―第12話―
-1-
開拓地に野次と歓声が鳴り響く。
「行けっ、そこだ!」
「やっちまえ、ジッタ!」
「負けんな、バルクのおっさん!」
「オラア!!、今週分の小遣いお前に全部突っ込んだんだぞ! 勝ちやがれ!」
「俺なんか二週間分だ!」
「オメ、どうやって次の給料日まで過ごすつもりだ?」
急ごしらえの競技場で、上半身裸のジッタとバルクが取っ組み合う。
見切り発車のレスリング興行。
賭けに欲の皮を突っ張らせた大人達だけでなく、子供達もキラキラと目を輝かす。
「がんばれー!」
「どっちも負けるなー!」
「任せとけ!」
ジッタが子供に目線を送る。
「隙有り!」
バルクが片足を取る。
「な、おま、ちょっと待てキタネエ」
「フッ、隙を見せる方が悪いのですよ」
ジッタが踏ん張りバルクも渾身の力を出す。
「……いいなあ」
興業主席でルードがこぼす。
「まあ、そう羨むな。サッカーの方が練習もグラウンドも準備に手間がかかるからな。後回しになるのは仕方が無い」
「……分かってます。いい試合を見せるには時間を掛けない事には」
ゲラードの慰めに苦笑で返す。
兵士の訓練の中にはレスリングもあるので、興業に必要な選手を大王軍から募る事は比較的容易だったが、サッカーの選手を募り、興業レベルまで鍛え直すのは容易ではない。
だが、目の前の光景そのものが、ルードの心を燃え立たせた。
いずれは開拓地と近隣の領全ての間で対抗戦の興行を開くつもりなのだから。
「「おおっ!」」
強引に足を捻って投げようとしたバルクを、何と片足でジッタが強引に投げ返す。
二人はもつれ合って土の上をゴロゴロと転がり―――
―――最後に上になったのはバルクだった。
審判のグスタフがカウントを入れ、手を取り上げる。
「勝者、バルク!」
レスリング十番勝負の興業は盛況の内に無事終わり、宴席が開かれた。
「さあ、特に選手は遠慮せず食え!」
バンデルが太鼓腹を叩いて御馳走を振る舞う。
闘った男達も、客達も、陽気に呑み笑い食う。
ヴァーリ大王は二十人のレスラー達を、勝った者も負けた者も分け隔てなく酒で労う。
「この世の酒で何が美味いと言うて」
ビールを呷り、笑みを浮かべる。
「喧嘩の後の仲直りの酒ほど美味いものは無い」
「いやそれは」
「喧嘩とレスリングは違いましょう」
「同じよ同じ」
ヴァーリは唐揚げをつまみながら嘯く。
「男の子はな、大抵喧嘩が大好きなのよ。それがレスリングになろうと、サッカーになろうと、将棋になろうと、鬼ごっこだろうと戦争ごっこだろうと、勝った負けたをせねば気が済まん生き物よ。だからこそ」
「だからこそ?」
「また喧嘩がしたいからこそ、『明日もやろう』と、いつまでも共に楽しく喧嘩をするためにより仲良うなる。女の子はもっと仲良くなろうと我が儘を言って喧嘩して仲良うなる。それは犬猫の子供であろうと、人間だろうと、何も変わらぬ。たとえ見た目競い争わぬようになっても、自分の生き様仕事ぶりを見せると言う喧嘩を、人と密かに競い、そして誇り認め合い、互いに美味い酒を飲む。いくつになっても何も変わらぬ」
「あら、そういう意味の喧嘩なら、女だって負けてはいませんよ」
「まったくですわ」
エレッセとサトラも負けじと言い放つ。
「善き哉良きかな。して、バルクよ?」
「何でしょうか?」
「次回は余の試合も有るのであろうな?」
「いい加減にしなさい!」
エセルリーシャの代わりに大王のどたまにハリセンかますキーパ君であった。
-2-
マリエル一行。
ズーは二日の旅を共に過ごしたが、押し黙り、一向に打ち解ける気配が無かった。
「ズーさん?」
「……………」
ズーは食事が終わると、スキットル(軍に支給された金属の酒入れ)を片手に一人端っこへと行く。
「………ズーさん」
マリエルがしょげる。
「見た事か」
ブランドーが意地悪く言う。
「仕方あるまい。お前一人では。だがお前が頭を下げると言うなら―――」
「ここは私が行きましょう」
クロブの申し出にブランドーは機先を挫かれた。
「勿論、御二人が力を合わせるのならば、時間はかかっても上手く行くでしょうが、ここは私が行くのが一番話が早そうです」
「その酒は美味いですかな?」
クロブはズーの隣に腰を下ろした。
「………お前らの安酒とはモノが違う」
「それだけでは無いでしょう。私相手に取り繕っても仕方ありませんよ」
「何が言いたい?」
「石化病の人間を食い物にして得た酒です。かつてはこの上ない美酒だったでしょう。文字通り甘い血の味ですよね」
「!!」
「何故甘かったかご存知ですか?」
「………」
「忠実な家族と家名の奴隷、忠実な軍の奴隷。したくも無い大変な責務をこなしているのだから、高い金を貰って何が悪い? でもそれはまるで自分が金の奴隷の様。だから高い金を払って人を言いなりにして、高い品物を手に入れて、人を、羨む奴隷にできて、その時だけ世界一可哀想な奴隷の自分の孤独が癒える。軍の命令で石化病の人を狩れば、その刹那だけ自分よりも可哀想な存在を作る事が出来る。強烈な孤独が癒されるこの上無い甘美な瞬間。その高い酒は孤独を癒すまさに血の味。美味しくない訳がありませんよね」
「や、やめろ」
ズーはスキットルを落とした。
最高級のブランデーが地面に流れ零れ落ちる。
「でも、一夜の酔いが冷めれば、また今度は自分が奴隷の番。また人に羨ましがられるのに世界一不幸な毎日の繰り返し」
「やめろぉー!」
「貴方がやめなければ終わりませんよ。悪夢は」
「う、ぐ、うううぅぅっ」
胸を押さえ蹲る。
「私もね、昔はそうだったんです。でも、今にして思えば、そんな悪夢を終わらせるのは簡単な事だったんです。やりたくも無い仕事なんてほっぽり出して、宿屋の下働きでもして、ただ店主に夕飯時にだけ食堂でリュートを弾くのを許してもらう。それだけでよかったんですよ。大劇場のリュート弾きに成ろうが、宿屋で一生を終えようが、自分が主である人生は送れたんです。貴方もこの旅を終えたならば、是非、そうなさい」
それから丸一日経って、ズーは歩きながら口を開いた。
「もう二日もすれば、軍の三百人からなる部隊が追い付いてくる」
皆がその言葉と内容に驚く。
「ズーさん」
「……まじかよ」
「本物の大軍、数の暴力だ。お前らの個人の武勇がいくら優れていようが、今度こそどうしようもない」
「……なぜ黙っていた?」
ブランドーが詰め寄る。
だがマリエルが身を以って割って入った。
「何故、今伝えて下さったのか、それは」
皆が息を呑む。
「どうにかする術があるからですね?」
「―――悪あがき程度だがな」
「良かった」
「礼を言われる筋合いでは」
「ズーさんが、したくない事を止めてくれて本当に良かった。本当にしたい事をしてくれて良かったです」
「………あ、あああ、ああぁぁぁ」
ズーは涙と鼻水を流し、膝を降りマリエルに縋り泣いた。
山の崖に築かれた古砦。
国境の変遷に伴い戦略的価値を失い、永らく放置されたそれに、マリエル達一行は立て籠もる事となった。
「古来、籠城戦が有利なのは」
ズーが人々に指示を下しながら説明する。
「高さと言う地の利が、非戦闘員を戦闘員に変えるからだ」
二人が並ぶのがせいぜいの細い山道。そのルート以外を選べば、断崖絶壁を登るしかない。
国軍指揮官ゼーベは、砦の門の前、山道に立ち塞がる二人の偉丈夫を見て嘆息した。
たったの二人で砦を守り切る気か?
「オッゴ、バンザ」
二人の巨漢が呼ばれて前に出る。
「兵を失うのも面倒だ。お前らが相手せよ」
国軍でも五本の指に入る精兵の中の精兵だ。
よもや傭兵風情に後れを取る事も有るまい。
ズズウゥゥゥンン
決着は瞬く間に着いた。
巨漢二人の敗北を以って。
「くっ、おのれ、皆でかかれ!」
軍勢が山道に殺到する。
ブランドーとザッパは素早く門の内に引く。
代わりに門から大岩が転がり出る。
「「う、うわあああ」」
少なくない数の国兵が岩に轢かれる。
それでも前に進まんとした兵に城壁の上から石弾が浴びせられる。
病人の投げる石とて、投げ紐と高さの利があれば相当の威力となる。
「ちっ、傭兵め、攻城戦の経験があるな!」
ゼーベは歯噛みした。
「魔道士!」
国軍には部隊百人に一人の割合で魔道士が付く。たかが三人だがこの場合は―――
「威力が弱くても構わん! 適当に呪文で城壁の上から追い払え!」
果たしてその通りとなる。
非戦闘員など殺さずとも十分なのだ。
三百の兵は前進した。山道に拘らず城に貼り付き、梯子をかけ、落ちるのは時間の問題となった。
だが―――
ゴゴオオオォォォ!
「炎の壁だとお!?」
最悪のタイミングの敵の呪文。
城壁に貼り付いていた大量の兵が次々と火達磨になり転げ落ちる。
再び城壁の上に投擲兵が現れ石弾を撃つ。
女子供まで壁に貼り付いた兵に岩を落とす。
城壁の縁に手を掛けた兵は先程の偉丈夫二人と、俊敏な若者三人に手や腕を切られやはり転がり落ちる。
「撃て、撃て撃てえ!」
城壁の上に呪文を放つよう再度号令。
しかし―――
「ま、このくらいの遣い手の呪文なら、三対一もいいハンデですね」
炎の壁をオフィーリアに任せたクロブが三人の攻撃を独り障壁で防ぎ切る。
「……無念」
ゼーベは兵達の士気が崩れるのを見て取り、撤退を指示した。
-3-
城壁の上からは、軍勢が遠巻きに野営する様子が見て取れた。
「明日も攻めてくるな」
ブランドーが呟く。
「ああ、明日はこうは上手く行くまい」
ズーが淡々と応える。
「そんなあ」
グレガンが頭を抱える。
「言ったであろう。悪あがきだと」
その時。
「はい、こちらオフィ-リア」
突如虚空に向かって受け答え。
「本当ですか!?」
翌朝、二百と数を減じたが、それでも大軍が、砦に迫った。
ゼーベが大音声を上げる。
「降伏せよ!」
それを見た城壁の上の勇士たちは、なんと笑い声を上げる。
「お前等こそ後ろを観よ!」
それは、地煙を上げて荒野を駆け参じ迫る、五百の騎馬武者たちであった。
大王の命により開拓地警護の為、追加でジュデッカ大陸に召集され上陸した二千の兵。その内の騎馬五百を、誰あろうセントゥリウス元帥が自ら率いて来たのだ。
ゼーベたちは降伏した。
「良くやって下さった。ズー殿」
セントゥリウスはズーの両手を己の両手で包み、最大の労いと謝辞を表した。
側近に勲章を用意させると、自らの手でズーの胸に飾った。
勲章はオフィーリアを除く仲間皆に渡されたが、それでもズーの物が一番大きかった。
「どうだ、お主さえ良ければ、我が国の大隊長格で迎える準備があるが」
「………、残念ですが。私は所詮人殺しです。ならばせめて、これからは己の主として生きたい。もう人は殺したくはない。もしそれが必要だとしても、人や国の奴隷となって戦うのではなく、己の心を以ってそれを選びたい」
「……そうか」
ズーはセントゥリウスに背を向ける。
「さあ、行こう。旅の終わりまで私を連れて行ってくれるのだろう?」
そうして彼は彼を待つ者達の元に飛び込んで行った。
ズーは本当の意味で、旅の仲間となったのだ。
―第十三話に続く―
「一体いつまで続くんだ? この砂漠は」
「おい見ろよ、あれは―――」
ついに訪れるマリエルたちの旅の終わり。
果たして隠れ里は彼らにとっての何になるのだろうか?
てな訳で、次回、やっとマリエルたちの旅は終着点です。
でも、物語はまだ続くんですけどね。
次回こそ一矢君たちも少しは書きたいものですが、どうなる事やら。
それではまた、次回もお会いできることを願って。




