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八枚の翼と大王の旅  作者: 豊福しげき丸
11/31

生まれ変われるものならば

三十過ぎという年は、世間的には若造で、見る人から見れば、あまりにもにも軽いのに―――

それなのに、何かをやり直すには、

生まれ変わるには、あまりにも重く長かった。


だが―――

『お前が剣から逃げても、剣はお前から逃げずにずっと待っているぞ』

―――剣匠ヒエンの遺した言葉。


マリエルたちに襲い掛かる国軍の兵士たち。

だが、頼りにすべきブランドーの剣は、焦り、迷い、鈍り―――


人は生まれ変わる。


そう望めば何度でも。


ってな訳でお久しぶりです。お読み頂き感謝の豊福です。

今年は今のところ月一回のペースを保っているので、何とかこのまま最後まで行きたいものです。

(TT)

活動報告ではまたネトゲ番長やってます(笑)。

それでは本編をどうぞ。


八枚の翼と大王の旅 ―第十一話―


-1-


 大王陣開拓地。

 人々が開墾に精を出し、出来立ての街並みに活気が溢れ、道行く子供の笑顔が輝く。

 そんな中、黄昏る男達がいた。

 エレッセとサトラに妾になるよう求めた貴族二人である。

「えーと、お茶入りましたよ。ルードさん、バルクさん」

 世話を焼いているのは最近影の薄いキーパ君である。

「あ、ああ」

「すまない」

「いいんすか、キーパさん。こんな所で油ならぬ茶なんかタダで売って。大王の監視が仕事じゃなかったんすか?」

 ジッタのツッコミ。

「……あの人、直に見てると心臓に悪いんです」

 思わず胸を押さえる。

「やだなあ、あの人、喧嘩好きだけどああ見えて道理は弁えてますよ。心配し過ぎっすよ」

「そうだけど、そうじゃなくって!」

 違いの分かる男、キーパ君の気苦労は絶えない。

 だが、そんな彼だからこそ、得てしてそういう損な役回りが巡って来るものである。

 合掌。

「それはそうと、ルードさんにバルクさんでしたっけ? 何で帰らないんすか?」

 ジッタの素朴な疑問。

「…………」

「帰りたくないのだ」

「気付いてしまったからな」

「いや、前から薄々気づいていたのに見て見ぬふりをしていた」

「何をです?」

「自業自得だという事にな」

「大王に見抜かれた通りだ」

「ああ、頭でっかち魔法ジャンキーぐふふキモオタだの、品の無い脳筋ヒャッハー不良ヤンキーだの発言っすか?」

「――そこまで言ってないでしょ!」

 今度はジッタにキーパの裏手ツッコミ。

「人前でそうやって誰かをこき下ろして自分達の引き立て役にすると、女達にモテはやされたんだ」

「自分達を正義の味方だと思う者さえいた。恥ずかしながら、自分自身さえ、半ばそう思っていた」

「そう言う奴らに比べて格好いいハンサムと、ある種の女は群がってくる」

「そしてこんな奴のこんな所格好悪いと、そこに居ない奴の悪口で大盛り上がりだ」

「いや、居たとしても、陰に隠れてこそこそ逃げて行く彼等を見て、卑屈な奴と笑い飛ばしていたな」

「だが、それを繰り返しているとな」

「結局は、人にケチをつける事ばかり好きな奴の集まりになっていく」

「デートの最中でも、ベッドの中でも、付き合う女がふとこぼした悪口が、自分が陰に隠れてしている行いや趣味だったりで気が休まらない」

「その事がばれると、そんな人だとは思わなかった。騙された。と、犬猫を捨てるように去って行く」

「当然こっちも少しでも気に喰わなければこっちから捨ててやるとぐれる」

「それでもまだ寄ってくる女はいたし、破局の数だけ恋愛経験豊富と虚勢を張っていた」

「大王達の言う通りだ」

「いつしか他人に褒められる事ばかりつまみ食いで選んで、まともに人とも自分とも向き合えなくなっていた」

「恥をかきそうな事は避けて、いや、逃げ出していた」

「自分は安全な場所に居て人を見下す側」

「まともに叱ったり叱られたりの喧嘩も出来ない」

「そんなので、自分を都合よく見放さず愛し続けてくれる誰かを求めるなんて、間違っていた事にな」

 重苦しい沈黙。

「……重い」

 ジッタがやれやれと呆れ首を振る。

「アンタら重く考え過ぎだぜ。おっと失礼。人間だもの、自分の事たまに棚に上げてモノ言う事も有りまさあ。んな事より、昔っから言われてる、大事な一つってのがあるんすよ」

「「??」」

「大王が言ってたっしょ。好きな事をやれって。うちの親父御袋も言ってたっすよ。『惚れ抜く男になれ』って。趣味でも仕事でも生き様でも女でも、嫌な事や辛い事や苦しい事があっても、丸ごと一つを惚れ抜ける男になれって。俺とカロはそうやって剣一つを丸ごと惚れ抜いて生きてきたっす。結局はそんな男が女を一生惚れ抜けるし、女からも惚れ抜いてもらえる。カロはそんな女と出会えたっすよ」

「…ジッタは?」

 キーパのジト横目に汗を流すジッタ。

「そ、その内っすよ、その内!」

「……馬鹿を言うな」

「そちらの方が余程重い」

「一つの趣味や仕事を選んで、もし向いてなかったらどうする? 振られたらどうするのだ!?」

「とことん重いっすねえ。そんな言い訳で自分の真心から逃げてどうするんすか? 昔俺も、剣でどうしても年上に勝てなくってやめようとした事があるっすよ。二、三日何もせずにブラブラしてた時、ヒエン師匠が俺の家のほったらかしの木剣を指してこう言ったっす。『お前が剣から逃げても、剣はいつまでもお前から逃げず待っているぞ』ってね」

「う……」

「う、ううぅっ、ううっ……」

「「うわあああん」」

「レスリングは、まだ俺を待っていてくれるのかなあ?」

「サッカーは、まだ俺を待っていてくれてるのかなあ?」

 彼等は美男子が台無しになるくらい泣きじゃくる。

 しばらくすると、エレッセ達やバンデル達がやって来た。

「こりゃ一体何の騒ぎだい?」

 彼らが泣きやみ、事情を語ると、バンデル達は優しく笑う。

「そうか、ならば手を貸そう」

「他ならぬ大王からそう頼まれてるしね」

「……いや、だが、私たちはもう三十過ぎだ」

「今から努力しても大した選手にはなれない」

「それならそれでもいいではないか」

「それでもこの街のほとんどの者よりはうまかろう」

「是非子供や若者たちに教えてやってくれ」

「お主らもその年まで貴族の仕事をこなしてきたなら、興業を自ら取り仕切る事も出来よう」

「自らも選手を務め、選手の気持ちもわかる興行主になれば良い」

「お主らの人生を十全に活かせば、それでいいのだよ」

「挫けそうな時はいつでも慰めてやるよ」

「まあ、叱ったりもするけどね」

 ルードとバルクはまた泣き出す。

 今度は嬉し泣きだ。

 自由とは無法無秩序では無く、色々と試し遊んで味わって、一つの『自』らの命の理『由』を探す事。

 昔の人は、そう記していた。


 -2-

 

 マリエル達の旅路は難所に差し掛かっていた。

 ガンドワ渓谷。

 巨大な台地の切り立った断崖に挟まれた、一筋のこの道を抜けねばならない。

 大人たちは子供や足の不自由な者の手を引き、時に背負い、少しずつ歩を進めて行く。

「休憩しましょう」

 ザッパの声に人々は安堵のため息を漏らし、それぞれ腰を落ち着ける。

 ビスケット(とはいえ砂糖が少なく堅く、乾パンに近い代物だったが)を取り出して齧ると、特に子供達から笑顔がこぼれる。

 だが、一人ブランドーが目を細める。

 彼にしかわからぬほんのわずかな物音と気配。

「クロブ」

 目配せを送る。

「……来ましたか」

「予定通りだな」

「やれやれ。ではこちらも予定通りにするとしましょうか」

 クロブは立ち上がると呪文の詠唱を始めた。

 ―――ゴオォォォ―――

 燃え盛る分厚く巨大な炎の壁が、行く手の道を塞ぐ。

 人々は息を呑み、震える。

「大人しくしていろ」

 ブランドーも立ち上がり虎の一瞥を人々に送る。

 皆凍りつく。

「ザッパ、出迎えに行くぞ」

 ザッパもやれやれと頭を振りながら続く。

 やがて他の者にもはっきりと分かる軍靴の音が響き、兵士の一団が現れた。

 人々がさらに震える。。

「良くやってくれました」

 ズーロス・バレッジ伯爵が手を広げ喜色をあらわにした。

「護衛の傭兵まで抱き込むとはやるではないですか」

 ズーロスの蔑んだ目がザッパを舐める。

「安心しなさい。もちろん金払いはこちらの方がいいですよ」

「……」

 ザッパの表情は巌の如く動かない。

「これでもう、貴方達に逃げ場は有りません。観念しなさい」

「―――お前たちがな」

 ―――ゴゴオォォォッ―――

 更に二枚の炎の壁が立ち上がる。

 一枚はオフィーリアが人々と兵士たちの間に、そしてもう一枚は、兵士達の退路を塞ぐ形でクロブが。

 クロブは二枚の壁を同時に維持していた。

「すみませんねえ、皆さん。一応、向こうからも敵が来たら厄介なもので、こっちも消す訳に行かないんですよ」

 難度の高い魔術をこなしながら飄々と嘯く。

「頼りの旦那とザッパさんは向こうに行っちゃいましたし」


 ズーロスと兵士たちは狼狽えたが、目の前の、炎の壁のこちら側に取り残されたブランドーとザッパを見ると、今度はヒステリックに笑いだした。

「ヒャ、ヒャハハア。馬鹿か、お前ら。逃げ遅れたのか? たった二人、取り残されて?」

「取り残されたのではない」

「??」

「これからねじ伏せるのだ。お前らを。この二人で」

「旦那が七、あっしは三ですぜ」

「仕方あるまい」

 皆が呆気にとられたが、それは前にもまして激しい哄笑に代わる。

「「フ、フウハハアアア、アーハッハハハ」」

 笑いはやがて怒りに代わる。

「嬲り殺せ!」

 ズーロスの号令に兵士たちが躍り出る。

 だがしかし――――

 ブランドーの剣が閃く度、兵士たちの剣が盾が槍が、断ち斬られる。

 ザッパは能のように軽やかに兵士たちの間を縫って舞う。

 肘を畳み顎の前に逆手に構えたザッパの剣が、次々と『滲み月(突き)』で正確に兵士の利き手の鎖骨と僧帽筋を穿ち断ち斬る。

「命までは獲りませんが、こればっかりは勘弁しておくんなせえ」

 磨き抜かれた太刀筋。

 だが一方――――

 見る者が見ればブランドーの剣にはいつもの冴えが無かった。

(俺は何をやっている?)

 兵士の武器を壊し、多数を相手取りながらも、まるで近寄らせまいと無様に剣を振り、刃の圏に入った者を仕方なく殴り伏せる。

(手加減をしている場合ではない、殺せばいいと分かっているのに、俺は何をやっている?)

 ふと視界に入ったザッパの迷い無く見える剣に、彼は歯ぎしりした。

(何が違う? 俺と奴とで何が違う!?)

 ザッパの眼にもブランドーの姿が映る。

(見込み違いでしたか。これでは五:五をこっちが引き受けねばなりやせんね)

 その時――――

「ブランドーさん! 殺さないでください!!」

 炎の壁の向こうからの、いつも通りの無茶な要求。

「貴方とその剣ならできるはずです!」

 ――――ぷっつん。

「この、我が儘大馬鹿脳足りん姫がああ!」

 ブランドーは吠えた。

 あまりの怒りに剣速が増す。

 その神速の剣は次々と寸分の狂いなく、兵士の鎖骨と僧帽筋を正確に断ち割る。肋骨、肺、重要な血管には毛先の傷も付けない。

(このクソ世間知らずが! そんな無茶な我が儘、俺以外誰も叶えられなどせぬぞ! いつか絶対泣かす!)

 彼自身は認めないだろうが、その剣からは、迷いも嫉妬も消えていた。

 

 -3-

 

「で? どうするつもりだ、この我が儘大馬鹿脳足りんめ」

 手足を縛られ止血され、転がるズーロスはじめ兵士たちを見下ろしながら、ブランドーはマリエルに険を飛ばす。

「はい。もう今後こんな事をしないよう、説得したいと思います」

「どうやって?」

「……どうしましょう?」

 ブランドーは顔を覆う。

「……そんな事だろうと思ってはいたが……」

「まま、旦那、みんなで考えようぜ」

 アホ菌に感染しているグレガンが能天気にとりなす。

「そうですよ」

 アホ(以下同上)ルーフェスも相槌を打つ。

「アンタら、旦那の苦労を考えなよ」

 イシュヴァーナは柳眉を逆立てる。

「国の兵士ですしねえ、上に命令されたらまた来ますよ。この人達」

 クロブも知恵を出しかねる。

「すると、国の兵士もやめたくなるぐらいの御仕置が必要って事ですか」

「そんなものがあるとでも―――」

 ザッパにブランドーが(八つ当たりで)食って掛かろうとしたその時―――

「モップ」

 小さな子供が口にした言葉に、ズーロス達が凍りつく。

「あのね、大王様のモップは、悪い人を懲らしめるの」

「「「「―――い―――」」」」

「「「「嫌だああああああああああああああああああ!!!!!」」」」

「公衆の面前でケ×にモップでフ◎ッ▲だとお!」

「そんなことされたら、二度と男として生きて行けねえ!」

「死んだ方がましだあ!」

「いっそ殺せ!、いや、お願いだから殺してえええ!」


 兵士達は兵を辞し、遠い外国へと旅立つ事を誓った。

 ただ一人、ズーロスが残る。

「くっ、殺せ」

「あー、心中、お察しします」

 思わず同情してしまうクロブ。

「私は責任者で伯爵家を預かるものだ。逃げようがモップの刑を受けようが、一族郎党まで不名誉を被る。殺せ」

「困りました」

 マリエルは頭を抱える。

「流石に殺した方が慈悲と言うものだ」

 ブランドーは口の端を微妙に引きつらせながら常識を説く。

「そうだ!」

 マリエルが何か思いつく。ブランドーがげんなりする。

 そして―――

「出来ましたよ」

 出来上がったのは綺麗に髪の毛を剃られ、つるっぱげになったズーロスであった。

「ぷっ」

「「「アハハハ」」」

 剃刀をあてたオフィーリアはじめ全員が笑いだす。

「これに何の意味があると言うのだ?」

 ブランドーを除いて。

「曾御婆様に聞きました。事情があって、俗世を捨て、死んだ人、『仏』になりたい人は、こうやってハゲになる事で自分を一度死んだ事にするそうです。これでズーロスさんは死んで、ただのズーさんとして生まれ変わりました。だから」

 ズーロスは呆気にとられてマリエルを見つめる。

「ズーさんも一緒に旅をしましょう」

「……フ、フハハハハ」

 ズーは笑った。力無く。

「馬鹿では無いのか? いつ裏切るとも逃げ出すともしれぬのだぞ……」

「大丈夫です。ズーさんは本当はそんな事したくないって知ってます」

「何故そう言い切れる?」

 鼻をすする音が響く。

「私は知っているからです。それに」

「それに?」

「もし貴方が心にもない悪い事をしないといけないって気の迷いで思ったとしても、ブランドーさんが目を配って気付いて注意してくれるので、大丈夫です」

 違いの分かる男、ブランドーの気苦労は絶えない。

 だが、そんな彼だからこそ、得てして損な役回りは巡って来るものである。

 ――――ぷっつん。

「この○×□△☆●◎$%#くそ姫があああああああっ!!!!!!」

 ブランドーの雄叫びがガンドワ渓谷に木霊した。

 そりゃもう盛大に、みんなの耳がキーンとなるくらいに。


 合掌。


 ―第十二話に続く―


 次回予告。


「そう遠くないうちに来るぞ。国軍の本部隊が」

「お前らがいくら強かろうが、本物の軍隊の数の力の前ではどうしようもならん」

 ズーロスからの死刑ともいえる非常な宣告。

「さすがはズーさんですね」

 わかっているのかいないのか、マリエルの能天気な称賛。

「でも、だからこそ―――」


 生まれ変わった者への試練が訪れる。


 さて、今回と前回の本編では前々回の予告通り、本編に出てこない大王(のやらかした事)が大活躍しました。

 ヴァーリ、恐ろしい子。

 ってなガ〇スの仮面の鉄板ネタはさておき、次回も大王効果が波及します。

 果たして次回こそはマリエルたちは隠れ里にたどり着けるのでしょうか?

 一矢達はどうなってるの?


 それではまた、次回でお会いしましょう。

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