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第一章 一話 『異世界でRPGでムリゲー』

 スマホの時計には『00:00』と表記されている。

 『太陽』が真上からじりじりと照り付けた。真夏に近い陽気だ。


「はぁ…… 」


 時間と共に落ち着きを取り戻していく少年。

 ひとまず噴水の縁に座り込んで考え込む。

 そして、今までの状況を顧みて彼は一つの仮説を立てた。


「俺は異世界に召喚されたのでは?」


 ――確証は全くといってないが!


 彼――月野風馬は普通の高校二年生ひきこもりゲームオタクである。

 黒のジャージに右手には買い物袋。黒髪短髪に、特徴のないのが特徴の顔立ち。

 背は同年代の平均そのもので、特別高くも低くもない。

 高校で馴染めずにゲームに走ること一年、彼はかなりのゲーマーになった。

 得意ゲームは最新のRPGやアクションゲーム、最新ハードなら何でも知り尽くしている。


 そんな彼が『異世界転移』と突拍子もないことを言うのも無理はない。信じられない出来事の連続だったからだ。


 その出来事を知るには、数時間ほど遡る必要がある。



 ―――――――――――――――――――――――――――



「ん……」


 風馬は目を覚ました。意識の海から漸く抜け出せたようだ。

 目を覚ましたといっても横になっていたのではなく、直立不動、立っている状態だった。


「ここは……?」


 辺りを見回すと、煉瓦造りの建物と道路が見えた。さらに奥には噴水が見える。

 『暗い住宅街』から一変した世界はどことなく懐かしい。

 先程までの現代的な装いとは程遠い、歴史の教科書で見るようなものばかりだ。


「あれ? 腕は!? 体は!?」


 自分が世界から居なくなる感覚を思い出すと身の毛がよだつ。

 すぐに体中を確認し、『心』と『体』が確かにここ(・・)にあると安心した。


 ――てか、どこだよここ? 早く家に帰らないと……。


 状況を整理しようとして、気づく。

 何故、周りの異変を視認できたのか。



 明るい――。



 上空には雲一つない青空が続いており、時に暖かい風が頬を撫でた。


「真昼間?」


 時間と場所が違いすぎるだろ。


 異常事態だ、何かが起こったに違いないとスマートホンを取り出す。

 文明の利器『スマホ』に頼り、ネットから情報を得るのが最善策だろう。電源を起動し、ブラウザを開こうとするも、


『インターネットに接続してください』


 の文字。


 よく見ると『圏外』のようだ。


「ったく、どうなってるんだ?」


 ――そういえば……


 スマホでメールを確認する。妹からメールがきていたことを思い出したからだ。

 『どうせ帰りを急かす』メールだろう、と思っていたが、こう書いてあった。


 『帰りが遅いよ。もしかして何かあったの? 心配だから何かあったら連絡ください!

  P.S. 色々渡すものがあるから急ぐこと』


「こんなもの送られたら、帰らない訳にはいかねえじゃねえか……!

 しかし『P.S.』ってなんだよ」

 

 このまま立ち止まっていても埒が明かない。スマホをポケットに入れた。

 人を探して話を聞こう、そうすれば何かわかるはずだ、と風馬は不安を抱えながらも進むことにした。

 彼には、帰る理由と急ぐ訳がある。


 歩き始めて五分――見つけた。

 果実の積まれた荷車があったのだ。

 看板らしきものにはよく分からない文字か絵のようなものが描かれていた。

 裏には人影が見える。


「おーい!」


 人がいたことの喜びから、駆け寄ってみると驚いた。

 すると同時に、手に持つ買い物袋を落としてしまった。黄色い粉塵が巻き起こる。




「ファミの村へようこそ!」


 その人物は話し掛けてきた。


 話が通じると分かり安心はしたが、風馬は声を出せなかった。

 彼は引きこもりだがコミュ症ではない。コミュ症だとしても、話さない方ではなく話しすぎてしまう方のコミュ症である。

 空気を読めずにずかずかと思ったことを喋ってしまうのが、彼の短所で長所だ。妹にも『人のことを考えて発言してよ!』とよく怒られたものだった。


 話を戻そう。


 声の主は、褐色の肌に紫色の髪を持つ青年だった。明らかに『日本人』ではない。

 その服装も布でできたものを動物の皮で括りつけたもので、少し汚れていた。


「見かけない顔だな。勇者になるために来たのかい?」


 青年は続けて話す。


「それなら城へ行って国王に会うんだ!」


 ――村? 勇者? 城? 国王? 何が何だか……


 この数分で頭の中を何度も異質な情報で埋められた彼。

 その中でも一つだけ強烈に浮かび上がってきた言葉があった。

 『異世界』――アニメや漫画で知ったそれに目の前の光景は酷似していた。


 ――久々の外出でどうにかなっちまったか。


 中世ヨーロッパ風の風景、さらには日本ではすこしファンシーな人しか染めないであろう色――紫髪の青年。


 状況はそれなりに飲み込めたが、理解はできない。

 それならば、今目の前に存在する『人』に話しかけるほかあるまい。だが、話しかけたところで何か分かる保証がある訳でもないのだが。


 ――まいったな、こりゃ。


 しかし、彼は帰って早くゲームがしたかった。ゲームは一日のエネルギー源だ。

 妹のお願いもこのままでは無下にしてしまう。妹は怒ると怖い。約束は守らなくては。

 まがりなりにも兄なのだ。

 風馬は意を決して放つ。



「ここはどこですか?家に帰りたいんですが……」


 これで少しは現状を打開できるだろう。


「ファミの村へようこそ!

 見かけない顔だな。もしかして勇者になるために来たのかい?

 それなら城へ向かって国王と会うんだ!」


 と思ったのも束の間、

 健闘虚しく青年からその言葉以外、何一つ返ってくることはなかったのである。



 ―――――――――――――――――――――――――――


 時は戻り……


「異世界召喚つってもなぁ……」


 スマホで妹に連絡を試みるが、やはり圏外だ。そのほかの機能は作動するようで故障の類でもないらしい。『お兄ちゃんは今異世界だから帰れなくなっちゃった(はあと)』などふざけた文面も送れない。

 

 さて、仮説を立てたのはいいものの、情報が少なすぎる。

 周りの景色、人物、繋がらないスマホ。突如世界が変わったと言うしか説明がつかない。


「こういう異世界転移モノなら、大きなイベントがあってもいいだろうが」


 ――テンプレ的な展開なら、ヒロインとばったり出くわすとか、超強大な力に目覚めるとかあるだろ?


 風馬は顎に手を当て、更に思考を進める。


 ――まだまだ謎はある。


 それはあの青年の言動であった。


「何故、同じことしか喋らないんだ……?」


 紫髪の青年は、この場所がファミという名の『村』ということ、風馬のことを『勇者?』を目指している者だと勘違いしていること、『勇者?』になるなら『城』に行って国王に会う必要があることを話した。それも一言一句違わずに。


 逆にいうなれば、それ以外の情報は得られなかった。オウムが覚えたての言葉を繰り返し喋るように、青年はその言葉だけを話していた。

 ただし、むやみやたらに延々と話しているわけではなく、風馬が話しかけるとそれに応じて先程の言葉を投げかけるくるのだった。


「まるでゲームのNPCだな、ありゃ。ゲームなんだか異世界だかはっきりして欲しいってもんだぜ」


 NPCとは『ノンプレイヤーキャラクター』の略で、ゲームにおいて物語を円滑に進めるための存在だ。ゲームの進行やゲームバランスを調整する役割を持っている。


「それにもう一つ気になるとこがあるとすれば……」


 ――時間だ。


 風馬の手持ちにある時間が確認できるアイテムは二つ。スマホと腕時計だ。

 時刻は未だ『00:00』である。腕時計の短針、長針は動く素振りはない。

 時が『凝結』されたが如く。


「時が動かない町とNPCみたいに同じことしか呟かない村人…… ムリゲーすぎるだろ……」


 チュートリアルか説明の一つや二つあるのが、ゲームの定石。だが、頭上にはHPもMPも表示されていない。やはりそこは『異世界』か。そして現実だ。

 それはいつだって理不尽で不平等だ。一人の男を引きこもりにさせるレベルで難易度が高く、一度のミスが取り返しのつかない結果を引き起こす。


 ――もう二度と、あんなことになってたまるかよ……!


「クソゲーだって、ムリゲーだって、クリアすればゲーム終了だ。

 勇者…… 城…… 国王…… 魔王を倒せばエンディングだろうな!」


 ――ひとまず、向かうべき場所は決まった……!


 月野風馬は、家に帰るため、ゲームをするため、兄として妹のお願いを聞くため、この理不尽な異世界(ゲーム)をクリアすると心に決めたのだった。



 



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