五人の女子中学生
【X.000000】
雲一つない澄みきった青空の下、志穂は会社近くの公衆電話で電話をしていた。
「ぴっぴっぴっ、ポーン。午前7時15分をお知らせします。
もしもし、莉音、すみれ、聞こえるかしら」
「ぴっぴっぴっ、ポーン。午前7時15分をお知らせします。
聞こえるよ、志穂ちゃん」
「ぴっぴっぴっ、ポーン。午前7時15分をお知らせします。
私も、聞こえるよ」
志穂、莉音、すみれの三人は公衆電話で通話していた。
昔の電話回線はアナログ形式であった。今はデジタル形式でできないのだがこのときは、まだアナログ形式が多かった。
アナログ形式だと、三人以上の同時通話が可能になる。ただし、条件として時報を同時に電話する必要があった。7時に時報をやろうねと事前に言っておけば、電話機の前で時間を気にしながら、時刻が来たら時報の番号をダイヤルする。すると、三人同時通話ができる。
これは漏話と呼ばれる現象で、出会い系にも使われた。当時の雑誌にこの漏話が掲載されるとハガキ投書のコーナーで暗号が使われたりもした。オカルト雑誌は午前2時にやると冥界と繋ぐ電話ができるなんて煽ってたりもしていた。その漏話に成功できた男女が実際に会おうと約束を取り付け性行もできた。午後4時44分に漏話に成功できると、がやがやと小中学生がうるさかった。あいつらは成功できたことに喜んでうるさかった。誰かが出会おうと約束を取り付けようとするところを、ギャーギャー騒いで邪魔してくる。うぜぇよ。今回は莉音と志穂とすみれがこの漏話を行う。
「それで、志穂ちゃん、何なの?」
「あぁ、それでね二人に提案なんだけど……」
「うん、うん」
「……住み込みで働いてみない?」
「…………ふぇ? ぴっぴっぴっ、ポーン。莉音は午前7時16分をお知らせします」
「…………住み込み? ぴっぴっぴっ、ポーン。すみれは午前7時16分をお知らせします」
「まぁ、社員寮なんだけどね。それでその……人手が必要で…………あなたたちが必要なの」
「ぴっぴっぴっ、ポーン。莉音は午前7時17分をお知らせします。
働くって一体何を? 中学生でも働けるの? 新聞配達ぐらいしか思い付かないんだけど」
「ぴっぴっぴっ、ポーン。すみれは午前7時17分をお知らせします。
それって、大丈夫なの? 歳を誤魔化さないといけないやつではないよね ロリコン親父を相手にするようなことじゃないよね?」
「大丈夫よ。変な仕事はさせない。ただ、あなた達と仕事をしたいの。いつか起業をするために資金を集めたいの」
「そう言えば、志穂ちゃんの会社は景気が良いよね。たしか、不動産会社があったはずよね」
「たしかに、不動産会社はとても景気がいいわ。でも、土地転がしての成金よ。地上げ屋なんて言われて悪い印象だし。私は良くて、5年ぐらいしかもたないと思うわ。チューリップバブルを調べればわかるけど、この好景気はいつか弾かれてしまう。銀行は貸ししぶったりして、会社が倒産や合併したりするだろうし、安全神話のある銀行だってつぶれるかもしれないし、大手が吸収合併するかもしれない。そんなときにお金が必要なの。銀行に頼らないお金が」
「ぴっぴっぴっ、ポーン。すみれは午前7時18分をお知らせします。
それで、どんなことをしようと考えてるの?」
「今は、どんぶり勘定で投資してくれるわ。それでITを開拓したい。マイコンを持ち運べるような物やカメラや電話や手紙や……そんなことをできる、手のひらサイズの機械に全て詰め込みたいわ」
「……そんなこと、可能なの? 志穂ちゃん」
「ふふ、わからないから、やる意味があるのよ」
志穂はそう言って未来を据えていた。このバブル景気のうちに金を稼ぎに稼ぐのだ。未来の話だが90年代にインターネットは急成長をする。2000年になればITバブルが起こる。途中リーマンショックで景気が悪くなるが、ボタン式の携帯端末からスマートな携帯端末に変わる。それらを率先する会社になるだろう。志穂の立ち上げる会社は。
「ぴっぴっぴっ、ポーン。すみれは午前7時20分をお知らせします。
私はいいと思う。ってか、やりたい! だって面白そうだもん! どうせ転ぶなら面白い方向に!」
「ぴっぴっぴっ、ポーン。莉音は午前7時20分をお知らせします。
私もだよ! あっそれの機能に音楽もつけてほしい。みはるんの歌がいつでもどこでも聞けたりするってのはどう?」
「ふーむ、それだとカセットテープを入れる場所を作らなければならないわね。どうしょうかしら?」
「うーん、できるかどうかわからないけど、カセットテープじゃなくて、こう……目には見えない空気みたいなのにその機械に入れるってのはどう?」
「空気ねぇ。まぁ空気は目には見えないけど、あれって原子や分子っていうデータが入っているのよ」
「だったら、データを入れるみたいなのは? 私は世界中を旅をしたんだけど、某国は超能力を国家が開発してるところがあって、なにやら頭のなかに大量の情報を入れる、インプットという技術? というか超能力? を開発してたんだけど」
「すみれ、それいいわね。音楽をデータ化する。カセットテープでいっぱいに持ち運ぶより、音楽データを持ち運ぶ。それはきっとカセットテープより、断然にかさばらない」
「いいね、志穂ちゃん! それいい! 私カセットテープを持ってみはるんの曲を聞いていたんだけど、一つじゃ物足りなくていっぱい持ちたいけどできなくて……ねぇ、まずは曲をいっぱい持ち運べる音楽プレイヤーを作らない?」
「……うーん、私の会社の情報(いわゆる産業スパイ)だと、あの大手がウォー○マンという開発名でそんなの作るっていう情報があるわね。大手と商標などで戦うことになるわね」
「それって、どんなの?」
「すみれはファミコンを知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「そのファミコンのコントローラーに小さな画面とかつけて、カセットテープを入れ、ボタンで再生や停止などを操作するみたいなもの」
「じゃあ、差別化としてボタンを取っ払ったら?」
「え?」
「カチカチボタンを押すのもうるさくない?」
「どうやって、操作するのよ」
「なんかこう、画面を擦るような感じで操作できればなぁって思わない?」
「その発想はなかったわ」
「そういう感じの方向でいいんじゃないかな。志穂ちゃん」
「そうね、じゃあ整理するわよ。
この好景気に乗り、ITを開発する。
できれば、90年代にITをマスターする。
来る2000年代にボタンのない音楽プレイヤーを作る。
この会社を2010年代に世界トップクラスの会社に成功させる。
どうかしら?」
「いいね!」
「ハラショー!」
「よしっ! やろう! 私たちの未来は明るいぞー」
「「おおーー!」」
のちに、志穂はIT系の会社を立ち上げる。今までは親から受け継がれた会社を経営したが、志穂は初めて自分が裸一貫になり、会社を経営する。
10年後、志穂の会社は時代が追い付き急成長する。
20年後、志穂の会社はついにボタンのない音楽プレイヤーを作る。同じくボタンのない携帯端末を作る。
30年後、志穂の会社はついに世界トップクラスの会社に成長する。
この時、志穂は最年少で経団連の会長になる。
その事を80年代の今、知っているのは未来人の衣咲だけである。
だけど、志穂達は衣咲のことは知らない。世界がオーバーライドするとき、記憶の継承に失敗したのだ。同じくして、マキャファートからもらったスマホを使ってた記憶も忘れる。
しかし、それでも志穂達はスマートフォンを作ることになる。魔法少女としての道具ではなく、人々との生活の支えとなる多機能機器として。
「今日は、ここレストラン風見鶏さんにやって来ました。さっそく、食べてみましょう」
「はいっ、オッケーです」
美春はテレビ番組の食レポとしてここ、レストラン風見鶏にやって来た。
「どうですか? ちよちよ」
「あぁ、えい感じよ」
「えへへ(*^-^*)」
「……美春もえらい成長したなぁ」
「うふふ。そうですか?」
「ああ、頂10で1位をとったやないか」
「あっ、見てくれましたぁ」
「もちろん、美春が出ちゅう番組やったら」
「えへへ(*^-^*) えい、ちよちよ」
「うゎ、美春。スタッフさんたちが見ちゅうで」
「えへへ( ̄∇ ̄*)ゞ」
「もぅ、あんまり人前で抱きつくなや。恥ずかしいろう」
「えへへ、でも大丈夫です。土吉さんも公認です」
「美春のマネージャーは何を公認しゆうで」
「えへへ( ̄∇ ̄*)ゞ」
「ほら、次のカットがあるき、はよう戻り」
「はーい。(* ̄∇ ̄*)」
美春は千代子にそう言って、仕事に戻った。
「ふふ、まったく。美春は本当にかわいいねゃ」
この当時、80年代はアイドル黄金期だった。会いに行けるアイドルではなく、本当に歌の上手い娘がアイドルだった。美春はグループを結成することはなかったが、伝説のアイドルとなった。
アイドルといえば、歌を歌って踊ってという風に芸能界では住み分けられていた。のちに、あの男性グループのアイドルがバラエティー番組をやり、ドラマをやり、マルチタレント化をする。まぁそれもこれも20数年後には解散することになるのだが。
美春は歌も歌うし、高視聴率を出すことになるドラマにも出た。今もあのアイドルが食レポのロケにっ!? というテレビ番組の煽りで視聴率を取りに来たディレクターによってこうして歌とは関係ない番組も出る。この選択がのちのち、事務所ごとを大きく成長させることになる。
美春は学校の友達はさほど多くはない。しかし狭く広くの付き合いをすることになる。その一人が千代子である。そのことをマネージャーや事務所は知っている。千代子の容姿はもうスケバンそのものだが、美春が話すことは全てキラキラしていて、事務所も千代子は本当はいい娘だと知ることになる。
テレビも今、乗りに乗っているアイドルの美春を番組に呼んで視聴率を上げたい。高視聴率とったプロデューサーは肩で風を切って廊下を歩ける。そんな人間になりたいから何とかして美春を番組に呼ぼうとする。それにはどうしても所属事務所の協力が必要である。事務所は美春が嬉しくて楽しく仕事が出来るように、親友の千代子のレストランでの食レポを提案してみた。美春は快くオッケーしたし、番組プロデューサーもみはるんが出てくれるならオーケーを出した。
テレビからしたらスポンサーでもない、流行りの店でもない、レストラン風見鶏を取材するのはいささか足を踏むところであるが、それでもゴーサインを出した。だってみはるんが出てくれるならなんでもする! って本気で思ってるから。もはやそれほどまでに美春は成長した。
「なんと、ここは高知県須崎市の名物の鍋焼きラーメンが出てくるです。ちなみにですね、〆にご飯を入れるんです。すごいですよね」
美春はレストラン風見鶏で、大食いの客ぐらいしか頼まない鍋焼きラーメンを頼んだ。アイドルなのに。体型も気にしないといけないのに。でも、それでもやる。テレビの仕事は、タレントのこれからの道を邪魔するときがある。それを乗り越えられるかどうかが問題だ。出来なければ、週刊誌に食い潰されてしまう。芸能界はヤバイ世界でもある。はやく異世界転移したいなぁと思うだろう。
「んーー♡ 美味しいです。ボリュームもあってお腹いっぱいになります」
美春はまだ、ストレートの麺がスープと絡まって美味しいだの、このチャーシューが冷凍ではなく温められてるからジューシーだの、まだそのレベルには達してはいない。まぁ、これから上手くなるのだ。
「……本日はごちそうさまでした。以上、高知のグルメハンターでした」
「はいっ、オッケーです」
「ありがとうございました」
美春はまず、店の人に頭を下げ、次に番組スタッフさんたちに頭を下げた。
「本当、美春はえい娘や」
千代子はそう呟いた。
美春はのちのち、80年代90年代を代表するアイドルになる。浮き沈みが激しい芸能界ではすごいことだ。
同じく、千代子も80年代90年代はものすごく繁盛する。浮き沈みが激しい飲食界ではすごいことだ。
全てはこのテレビ番組のおかげだ。テレビでレストラン風見鶏が紹介され、店に人たちがいっぱいやってくる。おかげで繁盛し儲ける。ちなみに美春のサインがレストラン風見鶏に飾られる。
レストラン風見鶏は大繁盛し、そのあと飲食界の荒波に揉まれ、残念ながら廃業することとなる。千原町の駅前商店街はバブル崩壊後シャッター商店街となり、街の再開発区画となり、残っていたとしても立ち退きをされる。
レストラン風見鶏は商店街から消え去るが新たに復活をすることになる。急成長をした志穂の会社から支援をしてもらいビジネス街の一等地に構えることになる。料亭風見鶏として天月町に降誕し、のちに政財界の偉い人たちが何やら会談をする場所になる。政財界人から気に入ってもらえれば、もう一生安泰だ。もう廃業することはなくなった。
「ごきげんよう、みなさん」
「エリシア、そこはこんにちはでいいのよ」
スターダストコーヒーのV.I.P.席に、エリシアと志穂と莉音と美春と千代子とすみれの六人が座っていた。
「それと、美春さん。スポンサーにも、プロデューサーにも、ディレクターにも話が通ったわ」
「本当ですか! 嬉しいです( ≧∀≦)」
「美春、あなたエリシアに何を言ったの?」
「ニューヨークに行ったときに頼んでもらったんです」
「何を?」
「ハリウッド映画です」
「「「なっ、何だってーーー!!!」」」
事情を知ってる、エリシア、千代子以外の莉音と志穂とすみれは大声を上げ驚いた。
その声はV.I.P.席を越え、一般席にも届く。
その驚いた声に反応した、キャラメルマキアートを飲んでいた謎の何かが、V.I.P.席へと近づき盗み聞きをする。
「それでですね、私たち六人で映画に出てみませんかって」
「「「「なっ、何だってーーー!!!」」」」
「あれっ? なんでエリシアも驚いてるのよ」
「いえ、初耳でしたわ。私も出るの?」
「はい、エリィも出た方が楽しいじゃないですか」
「エリシア、あなたエリィって美春から呼ばれているの」
「根負けしましたわ」
「みんな、美春に負けるのよね」
「エリィは女司令官ってどうですか?」
「いや、私はスポンサーの一人として……」
「えええ、エリィも出ましょうよ。ねぇ。ねぇ」
「う、うう」
「エリシア、あなた一度美春に負けたのでしょ。無理よ」
「わ、……わかりましたわ。……私も出ます」
「やったー(*≧∀≦*)」
「……それで、エリシア、美春、何の映画を撮るの?」
「えへへ、それはですねぇ…………」
「……そうか、もう彼女達は女子中学生になってしまったのか」
謎の何かはスタダを出る。
「もう、僕の役目はもうない。80年代に用はない。じゃあね。五人の元魔法少女たち」
謎の何かはふっと消えた。どこかにタイムリープをしたのだろうか。
「それはですね、戦隊の魔法少女ものです」
「「「なっ、何だってーーー!!!」」」
「私たちでやりましょう! かわいい魔法少女たちを!!」
「役割を演じましょう!!」
〈完〉
ご愛読ありがとうございました。
これにて、レベル255の魔法少女は終わりです。
一クールの間、本当にご通読ありがとうございました。




