ロンドン会談 後編
「じゃあ、お互い本物だとわかったところで、ちゃんと話をしようか」
マキャファートは参謀本部長に動議を出した。
「……どういうことだ? 上級金貨との交換のはずでは?」
「上級金貨だけ貰っても困るんだ。志穂にはスーパーカレンシーライセンスがない。そのライセンスが欲しいんだ」
志穂ではなく、莉音がスーパーカレンシーライセンスを持っているが違法のライセンスである。
正規のスーパーカレンシーライセンスは誰も持っていない。特に上級金貨を使おうものなら上級金貨が本物かどうか鑑定をさせられるし、スーパーカレンシーライセンスの方も調べられる。
マキャファートは上級金貨マニアではなくいつまでも手元に置いときたいわけではない。金ってやつは使わなきゃ意味がないと思ってる。
マキャファートは上級金貨を使って、何かを買うつもりだ。
しかし、マキャファートにはスーパーカレンシーライセンスを取得できない。超越通貨も与えられない。許されない。
マキャファートは志穂と莉音に頼るしかなかったのだ。
「ズヴェズダーにライセンスは持っておると聞いたのだが」
志穂は参謀本部長の言う聞き慣れない単語に反応し訊いてみる。
「あの、ズヴェズダーって何ですか」
「貴様はズヴェズダーも知らずに、そのネズミといるのか!?」
「はっ!? えっ、どういうことなの?」
「……どうやら、その反応は本当に知らぬようだな」
「だから、何なのよ!」
「ネズミの国の名だ」
「っ!?」
志穂はその事に驚愕しマキャファートの方を見る。
「そうなの!? マキャファート!」
「………………」
「ネズミから何と聞かれておった」
マキャファートが何も答えぬ、存じぬを通していると、参謀本部長が志穂に訊く。
「僕の国とか、まぁマキャファートの国として認識しているわ。何やらあなたたちの国が侵略を起こしたって」
「そんなことはしておらぬ」
「えっ!?」
志穂は参謀本部長の断言に驚く。信用をしづらいといってもマキャファートの国が何かと危機に瀕するものだと思ってた。
「ズヴェズダーが侵攻を起こしたのだ。その措置として我々が同盟国のために戦っておるのだ」
「な、何故」
「そのことは、そこにいるネズミに訊くか、ズヴェズダーの上層部に訊くかだろう。我々としてはファシズムの台頭ということでの認識としている」
「ファッ!? ファシズム!?」
「貴様はファシストだと思っていたのだが……」
「冗談じゃないわ!! 私にはエリシアという友人がいる。その友人は新自由主義の急先鋒よ。私はそれを支持している」
ちなみに80年代の総理大臣の中に中曽根総理大臣がいる。その中曽根総理は新自由主義者であり、国鉄をJRにし、専売公社をJTにし、電電公社をNTTにし、新自由主義の小さな政府を目指した。ちなみに小泉純一郎も新自由主義者で、郵政民営化を行った。
「そうか、連中は狂信的な新自由主義者だ。究極の自由こそ人類の行き着く先なのだと信じている。あんなところはミサイルでも撃ち込んだ方が人類のためだろう」
「なっ、何ですって!!」
志穂はテーブルを強く叩く。
規制のない自由競争こそが正義であるとする思想。志穂はエリシアが小さな時から一緒でその思想を支持している。
「私には、エリシアのことがわかる。それもきっと正しい答え」
「違うな。自由を突き詰めたその先には、支配と搾取、支配者と奴隷しか残らない。人間が完全な自由のなかに放り込まれれば、必ず強い者が勝ち残り、弱い者は隷属化するだけだ。どこまでも自由を追求すれば、法律もいらないし、道徳だっていらない。人殺しが最高の自由だ。自由なんて口当たりがいいだけのまやかし。社会的弱者を見殺しにするような主張だ!」
「支配と搾取、支配者と奴隷。私はそれすらひとつの答えだと思う。エリシアも私も日々考えている」
「…………おそるべきリアリズムの極地だな」
「あなたは、そういう世界だってちゃんと認識できているからよ。どうせほとんどの人は認識できていないんだから問題ない。そういう世界を創り上げようとするエリシアの理想を、私は真っ向から否定できない」
「………………なるほど、貴様はそうなのか」
急に参謀本部長はさっきまでの熱が冷め、冷静になる。
「な、何よ」
「いや、すまぬ。話が脱線した」
参謀本部長は、はぁーと息を吐きながら小さく「よかった」と言った。誰にも聞こえない小さな声で。
「これが、日本限定のスーパーカレンシーライセンスだ。受け取れ」
「参謀本部長ッ!!」
参謀本部長が志穂にスーパーカレンシーライセンスを差し出そうとすると、他の幹部から轟っと大声を上げる。
「よろしいのですか! ネズミに渡ると我が国は……」
「私を信じてください」
幹部たちは参謀本部長がそう言うと黙ってしまった。参謀本部長を信じられないとは言えない。
「いいか! ネズミにではなく、貴様にスーパーカレンシーライセンスを差し出すというのだ。大切に使えよ」
「えっ、ええ。使わせてもらうわ」
志穂は参謀本部長から日本限定のスーパーカレンシーライセンスを受け取った。
すると、一人の幹部が参謀本部長の耳元に近づいた。
「本当によろしいのですか? アイラ様を……した相手ですよ」
「ああ。彼女ならかまわん。たしかに、許しがたいことをしたが……それでも……それでもだ」
「……そうですか」
「よし、志穂帰るよ」
「う、うん」
マキャファートは頃合いを見て志穂に帰宅を促した。日本限定ながらも正規のスーパーカレンシーライセンスを受け取り、本物の上級金貨を手にいれた。
これで、マキャファートは揃ったと確信した。
「じゃ、じゃあこれで」
志穂はそう言うとペコリと頭を下げ、スーパーカレンシーライセンスと上級金貨を持って宮殿を出る。
「参謀本部長ッ!!」
「いいんだ。彼女はズヴェズダーとは違う」
参謀本部長は談話室の窓から空を見上げる。
腹を割って話せてよかった。
とにかく、彼女はズヴェズダーのようなファシズムに染まってはいない。
あの時わざと挑発的な言葉を言い彼女をけしかけたのだが……よかった。
ネズミと同じような思想であれば、絶対に渡すことはない。
いわゆる反対勢力が必要だ。
会長が赤ければ、副会長は青ければいい。
与党が強すぎないように野党が強くないといけない。
暴君になれど、独裁者になってはいけない。
ライバルが敵がいないと物語は始まらない。
「彼女があのネズミに、ズヴェズダーにならないことを信用する」
志穂とマキャファートは宮殿を出て莉音たちの宮殿に向かう。
「志穂、日本に戻ったらインターネットに行くよ」
「マキャファートも行くの?」
「そうだよ」
「………………」
志穂はマキャファートには内緒でこっそりと蘇生魔法を買うつもりなのだが、マキャファート来られるといろいろとめんどくさい。
「マキャファート、ズヴェズダーって何?」
「………………夜になると赤い星が見える」
「はっ!?」
マキャファートはいきなり何を言うんだと志穂は上ずった声を上げた。
「それは衛星。ズヴェズダーの。衛星国ではなくて衛星」
「何? マキャファートは異星人なの?」
「似たようなものかな。でも、80年代にはなくて星として機能してるんだ」
「異星動物が80年代の地球に何の用なのよ」
「半年前にも言っただろ。僕は逃げてきたんだ」
「どうやって、逃げてきたのよ」
「詳しくは話せない。法的拘束力によって箝口令が機能してる」
「何それ、魔法?」
「いや、仕様だ。僕は機械だからね」
「……じゃあ、異星鼠のマキャファートはなぜ私と莉音を魔法少女にしたの?」
「…………それはまたいつか」
「じゃあ、ズヴェズダー星人のマキャファートはなぜ、美春と千代子とすみれを魔法少女にしたの?」
「美春は成り行き。千代子はチームのために。すみれはこの先の戦略的なことでどうしても必要だった」
「それじゃあ、まるで美春と千代子は魔法少女になる必要がなかったって言い方じゃないの」
「それはどうだろうね」
「……………………」
マキャファートが断言せず、言葉を濁した。志穂はさらにマキャファートに不信感を抱いた。
「まぁ、とりあえずいまのところの目標は、『勝つ』。勝つことだ。勝利を目指そう。ヤツラが撤退するその日まで」




