アメリカンスーパーマーケット 前編
10月某日、莉音たちは日本を旅立ちアメリカへと向かう飛行機の中にいた。
窓から外へ視線を向けると一面の雲。
はるか上空から眺める雲の絨毯は、太陽光が反射してキラキラ輝いている。
莉音たちは日付変更線を越え、アメリカへ向かっていた。
千代子の隣の座席に座る美春は、千代子の肩に頭をあずけている。眠っているだろうから、起こさないようにしなくてはならない。
千代子の前には莉音と志穂が座り、盛んに会話をしていた。
莉音が志穂の耳元でささやく。美春を起こさないためにだ。
「えーー、私たちは別行動!?」
「そうよ、私はスーパードルを持ってるけど、スーパーカーレンシーライセンスを持ってるのは莉音なんだから」
「みはるんと観光したかった」
「あのねぇ、私たちは仕事で行くのよ」
「じゃあ、なんでみはるんたちも連れてきたのさ」
「あなたが言ったからよ。それと二人を日本に残すのもなんだか……仲間外れにしてるみたいで嫌だったし」
「そんな優しさがあるなら少しでも私にわけて欲しかったよ」
「……うるさいわね」
志穂は話を切り上げ、無理やりながら寝た。
ほぼ一日を費やし、莉音たちはダレス空港に到着した。
アメリカの首都ワシントンD.C.の西43キロ、成田から直行便が就航している国際空港である。
ワシントンD.C.は首都と言っても人口は多くない。日本の東京のように、産業や政治、学術の全てが集まった都市ではないのである。ワシントンD.C.は行政機能に特化した都市であり、官僚都市だ。
その代わり、巨大な軍事力と政治力を有するアメリカの中心は、世界政治の中心と言っても過言ではなく、観光に訪れれば見るべきものは数多ある。ホワイトハウスやFBI本部などテレビや映画でもお馴染みのスポット、ナショナルギャラリーなどの美術館や博物館、ナショナル交響楽団やワシントンバレエ、それから日本から贈られたポトマック川の桜並木などだ。
空港のロビーは人でごった返してた。
本日は快晴。突き抜ける空はどこまでも蒼い。燦々と照りつける太陽が痛いくらいの陽気だった。
タクシー乗り場を過ぎ志穂の後を追うと、漆黒のロールスロイスが停車している。
ロールスロイスには、ブロンドの女性が待っていた。髪の毛一本に至るまで、調律されたような美しさを感じ、抜群のスタイルと洗礼された顔立ちは、スクリーンから抜け出したようだ。お嬢様だ。近づきがたい品性を感じさせる。気品と言うのはこういった畏敬を感じさせるオーラのことを言うのかもしれない。
その女性がこちらに向けて手をあげる。
「Hello 志穂」
「Hello エリシア」
気さくに志穂は応じた。
「志穂、『ゼクス』には話を通したわ」
「ありがとう、エリシア」
「それと、ニューヨーク案内をしたい娘ってどなた?」
「あの黄色い髪をした小さい可愛い娘と、あの緑が入った髪をした大きいかっこいい娘の二人ね」
「では、志穂とあのピンク色の髪をした娘がゼクスに行くと」
「そういうこと」
「わかりましたわ」
志穂はくるっと後ろに振り返ると美春と千代子に言う。
「美春、千代子、この人がニューヨークを案内してくれる、エリシアよ」
「エリシアです。どうぞよろしく」
エリシアはペコッと頭を下げた。その姿は日本人のようだ。
「あ、あ、こちらこそよろしくお願いします」
「……よろしく」
美春と千代子はあわてて頭を下げた。その気品たるや恐れおののいてる。二人とは格が違う人間というのが感じてわかるのだろう。
「それでは参りましょう。チャーターを用意してます」
「あ、はい」
美春と千代子はエリシアに連れられてロックフェラーの自家用ジェットに乗る。
「あの、日本語上手なんですね」
「ええ。志穂とは旧知の仲なので、日本語も堪能ですわ」
「……なんか、お嬢様の役割語になっちゃあせんか」
「そうですの?」
「いや、まぁ、ええがやけんど」
「そう言えば、ニューヨーク案内ってどこに行くんですか?」
「まずはワールドトレードセンターはどうでしょうか? 世界一の階数の多いビルですわ」
「いいですね。行きましょう」
「……自家用ジェットに書かれちょったがやけんど、あんた、ロックフェラーなが?」
「……ええ、そうですけど」
「やったら、ロックフェラーセンターに行かんでええがかえ?」
「…………今はそこに日本人を連れて行きたくはありませんので」
「あぁ、ね」
ロックフェラーセンターは三菱地所の買収騒動でジャパンバッシングがひどくなった。ちなみにジャパンバッシングの一つとして何の関係もない人が日本人と勘違いされて撲殺された。その人は中国系の技術者で日本人とは何の関係もない。それほどまでにこの当時のアメリカの対日感情は悪かった。
ワールドトレードセンターはロックフェラー一族が掲げる貿易を通じての世界平和から命名された。今回はそちらの方に美春と千代子は行く。
「それでは、シートベルトを締めて、行きますわ」
美春と千代子とエリシアはダレスを飛び立ち、ジョン・F・ケネディ国際空港に向かう。
「私もみはるんと一緒にニューヨークへ行きたかった。ニューヨークへ行きたいかー! 行きターイ!」
「うるさい、莉音」
「はぁ、行きたかった」
莉音たちはエリシアの用意してくれた純白のロールスロイスに乗り込み三時間かけて『ゼクス』へ向かう。
ワシントンD.C.の整然とした街並みを抜け、そろそろ建物がまばらになっている。
車はただ一本、真っ直ぐに続くハイウェイを疾駆していた。
いつ果てるとも知らないアメリカの大地。
アメリカは国土が広いので真っ直ぐに進む一本道の道路がある。その道路を100キロ以上で車をぶっ飛ばして行く。その際、日本から輸入した80年代当時の日本車は、キンコン、キンコンと警告として、一定のリズムを鳴らす速度警告音はアメリカ人にとって不愉快だった。一定のリズムだと催眠術のように眠たくなってしまうから危険だ。うるさい。のけろ。とジャパンバッシングの一環として難癖をつけてきた。そのアメリカの圧力もあってか日本車は速度警告音はつけなくなった。
それにしても、街中なら絵になるが、荒野のハイウェイを行くロールスロイスというのは不思議な構図だ。
窓から荒野のバーが見える。なんともアメリカらしい景色だ。その景色を見て、莉音は目的地に着くまでふて寝をした。
「莉音、起きて。着いたわよ」
「う、うーん」
莉音は眠い目を擦りながら起きると、その眼下に広がる巨大な検問所が見えた。
「……ハリウッドの大規模な撮影スタジオかな?」
ロールスロイスは徐々に施設に近づいていった。
施設の入り口は、サブマシンガンで武装した二人の警備員……というより軍人(?)が両脇を固めている。
車のナンバーをチェックしたらしい明細服の二人は、陽気に手を挙げて合図した。あっさりと車を中に通してくれる。
検問所を通ると、装甲車が何台も整然と並ぶ。
施設内はどこまでも広い。
ロールスロイスが通りすぎると、明細服の軍人やTシャツの整備員らしき男たちが晴れやかに手を上げてくる。
「ここは、軍事施設なの?」
「………………」
莉音は志穂に問うが答えない。
中央のビルにロールスロイスが横付けされ、志穂は車を降り莉音に向けて顔を突き出してきた。
「降りて、行くわよ」
莉音は志穂の言う通りにし車の外へと出る。
「ここは?」
「民間軍事会社ゼクスよ」
「えっ? どういうことなの? 志穂ちゃん」
「端的に言うと、ハッキングなどされない、厳重なセキュリティのインターネット環境に来たのよ」
「えっ? ちょっと待って。アメリカのインターネットに入るには、アメリカ合衆国内に入らなければならない」
「そうよ」
「アメリカのスーパーマーケットで転移魔法を購入するにはアメリカのインターネットを経由してからじゃないといけない」
「そうよ」
「なぜ、軍事施設?」
「軍事施設じゃなくて、民間軍事会社。まぁ、そこら辺の企業よりインターネットのセキュリティはいいからよ」
「どうして、セキュリティのいいところに来たの?」
「一応、莉音のスーパーカーレンシーライセンスは日本ではブラックリスト入りされてるからアメリカに来たのよ。もしかしたらアメリカにもブラックリストの国際手配されているかもしれない。だから、足跡を見つかりにくくするためしっかりとしたセキュリティのところでやるのよ」
「そうなの。それが、民間軍事会社のインターネットなの」
「そうよ」
「はぁ、わかった。わかったよ」
莉音と志穂はスマホのインターネットをタップしてスーパーマーケットと検索した。
すると、検索エンジンから『スーパーマーケットへ行きますか?』と質問が出たので莉音たちは『はい』を選んだ。
はいを選ぶと莉音たちの目の前にゴゴゴとインターネットと現実を繋ぐ時空の歪みが生じた。
莉音と志穂は真っ白な空間に着いた。
「……これがアメリカンスーパーマーケット?」
志穂は驚嘆した。
「すっごいビルっ! これが摩天楼! えーと英語なんだっけ」
「スカイスクレイパーよ。莉音」
「そうだ。スカイスクレイパーだ」
まさしく、ニューヨークの摩天楼が広がっていた。これがアメリカのスーパーマーケットか。
志穂は執事服を着た店員に転移魔法のことを訊く。
「日本とは違うのね」
「何がどう違うの?」
「株価だわ。日本は入札だったけど」
「株価って、どういう……」
莉音が志穂に株価と今回の購入方法を訊く。
会社の価値は発行株と一株の値段により変わる。時価総額など。今回は会社は転移魔法のことである。
■会社の価値100億円÷発行株数100万株=一株1万円
この価値100億円の会社が、新たに50万株を発行すれば、一株の価値が薄まる。
■会社の価値100億円÷発行株数150万株=一株6667円
仮に発行株数を1500万株で一株4000円なら会社の価値はどうなるか。
■発行株数1500万株×一株4000円=会社の価値600億円
一株2000円の時に会社を買収したら、300億円の増資になり、儲かる。自分の資産がさらに潤う。なんとしても、一株が安いときに買い、株価が上がってもらい、最高値の時に売ると差額分が儲かる。普通の株トレーダーはこういう『順張り』をとる。
会社の価値を上げるのは一株がいくらか上がるによる。
よって、今回の転移魔法の購入は、『一株、いくらで買います』と言って、転移魔法の売り手を喜ばすことだ。
しかし、必ずしも高値での宣言で売り手が応じるわけではない。信用などもかかわる。
今回の転移魔法の購入する際、株の比率は100%としている。
発行株数1500万株で一株4000円は会社の価値は600億円である。この100%は600億円である。では、過半数の51%ならどのくらいか。答は306億円である。つまり、306億円払えば会社の経営権をもらえる。
「つまり、1億9690万スーパードルまでなら一株いくらと言い続けるのね」
「一株、スーパードルで何枚の上級銀貨を積み上げるかよ。参加費として下級金貨一枚が必要なの」
「……安くすめばいいね」
莉音はそう言い、購入までの時間を待つ。
「何、アイラ様が……そうか、わかった」
「参謀本部長、これは……」
「わからん。偽の情報かもしれんが、……本当なら我が国は撤退をせざるおえない」
「参謀本部長……」
「今は、転移魔法の買い付けだ。それに集中する」
「はっ!」
「アイラ様……」




