魔法少女のウォーゲーム⑨
「……殺れ。…………志穂殿よ」
「必殺……『源始の一撃』ィイイイッ!!!!」
志穂は高く振り上げる刀をカチャッと握り直し、息を整え神経を研ぎ澄ます。志穂にとっては初めての介錯をする。
息を吐くと同時に、高く振り上げた刀をアイラの頸椎めがけ振り落とす。
源始の一撃は必殺技。必ず殺す技。首の皮一枚も遺さない。
刃がアイラの首に滑り込む。肉を斬り、骨を断つ感触が手に伝わりながら、一気に刀を振り抜く。
──一閃。
かまいたちの速度の白刃の閃きはアイラの首を胴体から斬り離し、生首が宙を舞う。
頸動脈が破裂して、肉片と骨の欠片が周囲に散らばる。破れた血管がポンプのように血を噴き出す。
「…………」
アイラは前向きに倒れ、体が何度か痙攣した。完全に死亡した。
志穂はアイラを斃した。
「…………ふぅ」
志穂が一息をつくと、ドサッと足下にアイラの首が転がり落ちた。
志穂は刀を横に薙ぎ払い、刀身についた血糊を 振り払う。
「…………」
志穂は足下に転がるアイラの首を冷ややかな目で見る。
これを売り払えば上級金貨を貰えるのだろうか。
志穂はアイラとアイラの教え子たちの血のついた刀を納刀する。
「…………」
ふと、周りを見渡す。学校の運動場は戦場後になっていた。
血の海。肉片と骨の山。
昭和から戦国時代にタイムスリップしたかのようだった。
「……っ」
鼻につく臭いがする。血の臭いだ。
その血の臭いに釣られ、生徒たちが校舎の窓から運動場へと覗く。
その光景に戦慄し、気を失う生徒も出てくる。
「ちっ、めんどくさいな」
マキャファートは厄介なことになったなぁと思い、莉音に指示する。
「莉音、回復魔法だ。それで世界改変をしよう。生徒たちの記憶も改竄できる」
莉音は回復魔法ができても蘇生魔法はできない。死屍累々としたアイラたちは死ぬ前に戻すことはできない。絶命をなかったことにはできない。
「………………」
志穂はそれを冷ややかな目でやる。
やはり、マキャファートを信用はできない。
「…………まぁ、最後となればいいのだけど」
志穂はそう言い、足下にあるアイラの首を拾い上げる。
志穂はアイラの首をゲットした。
「莉音、やっちゃいましょう。このままにしとくにはいけないわ。変に騒がれたら困るし」
「う、うん。そうね。志穂ちゃん」
莉音は両手を天に掲げ、世界改変をも起こす広域の回復魔法を行う。
「はぁああ」
莉音が回復魔法を行うと白い電子的な粒子が舞う。
電磁爆発で焼け焦げた木々が、何もなかったかのように元に戻る。
アースブレイクで割れた地面が、何もなかったかのように元に戻る。
打撃と斬撃と突撃で崩壊した校舎が、何もなかったかのように元に戻る。
アイラの部下たちの血で海となった校庭が、何もなかったかのように元に戻る。
ゆっくりと、無音で、ビデオテープの逆回しのように、壊れる前の姿へと戻っていく。
砕けた敷石がひびを霞ませる。
割れた窓ガラスが張り直される。
落ちた看板が持ち上がる。
折れた校庭のネットが伸びる。
黒い焼け跡や、薄く澱んでいた煙も消えていく。
修復の終わった場所からはピンク色の微光が失せ、光景はどんどん元通りになる。
電磁フィールドに囲われた何もかもが。
やがて、修復が全て終わる。時間にしてほんの十数秒ほど。
莉音がおもむろに告げる。
「これで、終わり」
光と衝撃が沸き起こった。
すると空間が歪んでいく。
「なっ、何!?」
「ご都合だよ」
志穂が問うとマキャファートが答えた。
ゴゴゴと音をたてながら、まるでどこかの時空に落とされるんしゃないかというほど、空間は歪み、ひねり、引きちぎろうとする。
空間を限界まで引っ張り、最後にはプチンと引きちぎり、暗くなり、無になる。
世界はまたしても、オーバーライドした。
【4.001089】
第四版世界
清澄の蒼に厚い黒雲がまばらに散っているという、なんとも不思議な晴天だった。
そんな日の出も近い空の下、莉音と志穂は天月町の駅前のコーヒーカフェにいた。
雨の名残にぬかるんだ地面と、独特の匂いのするアスファルトに向け、深いため息が漏れる。
「ふう……」
かたりと、ブルマンをテーブルに置き、志穂は椅子に深く腰を掛けなおす。
これからやらねばならぬことを思うと、ため息も出ようというものだった。
「大丈夫? 志穂ちゃん?」
莉音が志穂を心配し声をかける。
「ええ、大丈夫よ」
アイラとの戦闘の後、志穂はレベルアップした。
レベル1からレベル0にレベル『アップ』したのだ。
経験値のかけらを六つ手に入れ、経験値がたまりレベルアップした。
志穂はアイラにリベンジを果たした。
負けて這い上がらなければ、経験値は得られない。いやに現実的なシステムだ。
「莉音」
「何?」
「これから、インターネットで魔法を購入する」
「うん」
「購入するのは、転移魔法と蘇生魔法」
「転移魔法って?」
「電脳世界にいるデータ化したすみれを現実世界に転移し直す。下調べとして見たけど、下級金貨レベルだったわ。今ならスーパードルのレートが安いから、ドルを換金するわよ」
「それで、蘇生魔法は?」
「…………大本営に、戦争賠償を払ってもらう」
「……それで、いくらぐらい」
「目標は上級金貨よ。それは絶対に崩さない」
「……で、大本営ってどこなの?」
「それは、僕が話すよ」
「っ!? マキャファート!?」
「……どこからともなく、現れるのね」
「どこにでも、『ネズミ』はいるよ。あぁ、僕はキャラメルマキアートね」
マキャファートは好物のキャラメルマキアートを頼んだ。志穂はこれからマキャファートが話すのだから仕方ないとそれを受け入れた。
「……それで、マキャファート。どこなの?」
「ロンドンだよ」
「えっ、志穂ちゃん。飛行機……」
「わかってるわよ。それで、この時代のなの?」
「……元帥まではそうではないけど、大将はいる」
「じゃあ、その大将は話の聞ける人なの?」
「フフ。『お土産』を持っていけばね」
「………………」
マキャファートが気持ち悪い笑みを浮かべる。
その時、注文したキャラメルマキアートがやって来て、マキャファートは嬉々としてそれを飲む。
「じゃあ、これからのことを整理するわよ」
インターネットへ行き、転移魔法を購入する。
その後、ロンドンに飛び、上級金貨を手に入れる。
再び、インターネットに行き、蘇生魔法を購入する。
蘇生魔法と転移魔法を使い、すみれを現実世界に生き返らす。
「わかった? 莉音」
「うん、わかったよ」
「それで、また元に戻るわ。……あの時に」
志穂はふっと空を見上げる。
何を見ているのだろうか。
「フフ。あの大将の驚く顔が楽しみだ」




