魔法少女のウォーゲーム⑧
「う、うわああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
アイラの悲痛な絶望の叫び声が運動場にこだまする。
かつての部下たちはむごい屍体となっていた。太ももの動脈や、首や、左右の上腕は断ち斬られていた。まるで、交通事故でもあったかのように、身体を強く打って死亡していた。
女性中尉に刺突穴が開いてある。
斬痕の周囲は肉が砕かれて盛り上がっている。
首の斬り傷からこぽこぽと泡がわく。
人間の体にはこれほどたくさんの血がながれているのかと、驚くほど血まみれだった。赤黒い血の海、真っ白になった彼女の肌。
アイラは思い知る。人間は、血と肉と魂でできている。魂が欠けたら、血と肉しか残らない。放置すれば血は乾き、肉は虫に食われる。すみれの遺体を電脳世界に転移させたにもかかわらず、いまさら気づいた。
多くの屍体は赤と黒のビーズが混じりあってまだら模様となっていた。それほどバラバラに刻まれた。ほとんどは首から上が判断がつかない。
ふと、見ると襟元の階級章が血塗られていた。階級は大佐。幹部だ。その階級章近くにバッチが軍服からちぎれて落ちていた。バッチの裏には刻んだ数字がある。AMS-169。アイラのかつての部下を表す数字だ。スタインバーグ学校と言われる、アイラにしごかれた兵卒たちはバッチの裏に数字を刻む。アイラを尊敬してのことだ。
顔もわからないほど身体をバラバラにされた。大佐が大佐だと唯一わかるのは階級章とバッチしか遺されてなかった。
ふと、アイラは昔のことを思い出す。
『私は国家のためならば命を捨てる覚悟がある』
『はっ! 私もそうであります!』
『だが、命を落としてはいけない』
『えっ。アイラ隊長、失礼ですが先程との矛盾をいたしませんか』
『大事なのは、覚悟だ。その覚悟をなければ、敵を殺れない』
『そうでありますか。失礼いたしまた!』
『命を落とせば、一体誰が国家を護るのだ。……だが、それでも命を落とさねばならない時がある』
『えっ。……と、申しますと』
『特攻隊だ』
『はっ! そうでありましょう!』
『出撃しようとする特攻隊員の気持ちは特攻隊員にしかわからない。どんな苦汁を呑み込んでもやり遂げるだろう』
『………………』
『……もう一つ、命を落とさねばならない時がある』
『はっ! それは何でしょう』
『……責任を取るときだ』
「………………」
アイラは現実に戻る。かつて部下に言ったことを思い出した。あの頃はああ言ったもの、実際にこれほどまでの死屍累々とした部下たちの凄惨な光景を見てしまって、果たして失うべきのことだったのだろうか。
「…………」
アイラは顔を伏せ、姿勢を低くした。左の腰元に両腕を硬く据える構えを取る。今から刀を抜き打ちする気だ。
「志穂殿よ」
「な、何?」
「確かに、私はキャリア軍人だ」
「………………」
「私の首を売れば、貴公の望む額の戦争賠償は貰えるだろう」
「………………」
「胎児のキムジョンウンを間引くことは、私もいささか行き過ぎと思うことはある。たが、命令だ。どんなことでも命令は従う。たとえ、ネズミに邪魔されようとも」
「………………」
「約束しろ」
「何を」
「おそらく、志穂殿のやることは何となくわかっておる。それを終えたら…………」
「……終えたら?」
「魔法少女をやめろ」
「………………」
「今の私には遺言を必ず執行させる力はない。だから、志穂殿を信用する」
「何、今際の際みたいなことを言うのよ」
「フッ、私は敗軍の将だからな」
「………………」
「貴公が葬った軍人のなかには、これからの作戦において重要な人物がいた。おそらく、大本営はいずれ撤退の指示をするだろう」
「……終戦ではないのね」
「我が軍は、負けたことがないのでな」
「あ、そう」
「それでだ」
「…………?」
「敗軍の将らしく、『責任』を取る」
「どういうこと?」
「…………こういうこと、だッ!!!」
アイラは足裏に爆発を起こして跳んだ。
「なっ!?」
アイラは志穂の脳天に叩き込もうとするが。
「パルスッ!!!」
美春の電磁爆発によりアイラは爆風を受け、後方へと吹っ飛ばされる。
「ぐぅ」
アイラは宙を舞い、体勢を立て直そうとするが。
「はあああああッ!!!」
千代子が空中を漂うアイラの腹に一発、拳をかました。
「ぐはぁ」
そのままアイラは地面に背中から叩きつけられた。
「はぁはぁ」
アイラは肩で息をしながら太刀を杖にして立ち上がる。
「……悲しいわね」
「……それが上に立つものの務めだ」
それからのアイラはまるで転ぶことを考えずに突っかかる子供のようだった。無鉄砲に飛び込み、次の攻撃をまったく考えてない。
美春は電磁爆発、電撃波、電磁砲、雷撃の限りアイラを攻撃し、身体を麻痺させる。
千代子は高速に突進し、運動能力を上げ、突撃し、加速し、撥ね飛ばし、殴り飛ばし、蹴り飛ばし格闘の限りアイラを攻撃し、身体の骨を砕けさせる。
次第にアイラの体力は減り、ついにはあと一撃で絶命するまでに、瀕死の状態となった。
「はぁ、はぁ」
アイラはもう虫の息だ。ギリギリながら立っている。立たせているのは体力ではなく気力だ。
「私の必殺技の発動条件を教えるわ」
「はぁ……はぁ…………」
「『とどめ』を刺すことよ。あと一撃で死にそうなとき、必ず殺す。仲間が体力を減らしてくれないとダメなんだけど」
「はぁ……はぁ…………いいだろ」
志穂は高く刀を振り上げる。
「動かないで。首をはね飛ばすから」
「フッ…………ギロチンか…………」
「そうね。……一応、言い残すことはない?」
アイラは首を横に振った。すでに言ったのだろう。
「……殺れ。…………志穂殿よ」
「必殺……『源始の一撃』ィイイイッ!!!!」




