魔法少女のウォーゲーム①
天月町のある天月総合病院の霊安室にはすみれの遺体を安置してあった。
通常、死亡してから数日は遺体を安置する。理由として火葬場の混雑や休みなどが関係する。法律上、死亡してから24時間は火葬してはいけない。死亡→通夜→葬儀となり、最短で2日かかる。夏の場合、腐敗が進むのでその用に早く済ませれば良いのだがそうとは限らない。自宅で棺桶の中にドライアイスを置いて2日ほど置いて、そのあと葬儀所の保冷室に一週間ほど置いといても問題はない。しかし葬儀所のスケジュールがまだ続くようであったら、エンバーミングと言われる遺体を消毒、保存処理を行う。
すみれはエンバーミングを行って、約1ヶ月『延命』をした。
「まずい。これ以上、保存が利くとは限らない」
志穂は焦っていた。自分がすみれを生き返すと宣言してから1ヶ月が来ようとしている。
「できれば、肉体はそのままがいいのだけれど」
志穂は蘇生魔法の効果を詳しくは知らない。ただ名前からして生き返らすことはわかるが、死体が腐敗や一部のみの場合だったら蘇生ができるのか謎だった。魂を入れる肉体が無ければダメだと言う宗教的考えもある。
「何としてでも絶対に生き返してみせるから」
志穂はそう自分にも言い聞かせて霊安室の扉を開けた。
「たしか、ここらへんに」
志穂はすみれが安置されている番号の扉を開くと。
「……あれっ!?」
すみれはいなかった。
「いない!?」
志穂は何で、何で、と壊れたテープのように繰り返し繰り返し言った。志穂はくまなく探したその時、一枚の紙が貼ってあった。志穂はその紙を取り、読み上げた。
「すみれ殿は電脳世界へと預けた。遺体をデータ化し、我々の管理下にある」
それを読み上げた瞬間、志穂は怒りが沸々と沸いた。
「やられたッ!!」
ダンッと霊安室の壁を殴る。怒りと屈辱の壁ドンだ。
「すみれを人質にとられたッ!」
志穂はすみれを『盗んでいった』相手がアイラだと直感する。この置き手紙の文体からしてそうだ。そうに違いない。
「……絶対に取り返す」
志穂は莉音たちに宣言したが、まさかどこかに漏れるとは思わなかった。志穂の思惑は、死んだすみれを生き返すことだ。生き返すには蘇生魔法が必要で、蘇生魔法は上級金貨が必要で、上級金貨を手に入れるには戦争賠償で貰って、戦争賠償は戦争しなければならなくて…………。
志穂は戦争をふっかけ上級金貨をカツアゲようとしていたが、それを阻止するようにアイラは志穂の暴走の原動力となっていたすみれを奪った。アイラのとった手は暴走を加速させないことには有効だが、もう戦争の衝突は避けられない。
志穂はもうアイラと全面戦争をするつもりだ。玉砕覚悟の。
秋晴れの気持ちいい朝、莉音と美春は体育館に急いだ。朝礼が始まるのだ。
「莉音さん、早くしてください。先生に怒られますよ」
「わ、わかってるよ。みはるん」
世界改変を起こしてから教師たちが厳しく変わった。
台風の災害が被る前の第一版世界では教師たちは雑でだらけていて放任主義だった。
しかし台風の災害が被って莉音の世界改変を起こしたあとの第二版世界では教師たちは厳しくなった。不良と噂されている千代子には厳しく当り、千代子を何人もの男性教師が押さえつけたりもした。それでも厳しく当るのは、不良生徒だけで一般生徒には基本的に放任をしている。
問題は火事が起きて莉音の世界改変を起こしたあとの第三版世界だ。第三版世界での教師たちは不良だけではなく、一般生徒にも厳しく管理をするようになった。管理社会。校内暴力がやばかった時代の産物だ。
不良と噂されている千代子は朝礼に真面目に出ず、体育館の近くで遠くから朝礼を見ていた。なぜなら美春が心配だからだ。
そこらへんの一般生徒である莉音と違って、美春は優等生だ。品性方向で学業優秀、それにかわいい。こんなかわいい娘を脂ぎった中年の生徒指導の教師にいいようにはさせない。
「美春に手を出したら、殺す」
千代子は遠くから体育館にいる生徒指導の教師に殺気を飛ばした。
「はっはっ、間に合いました」
美春と莉音は朝礼が始まる前になんとか体育館の中に入ることができ、列に並んだ。
今朝、美春たちは談笑をしていた。莉音がカバンを机にひっかけ、同じくカバンを机にひっかけた美春に話しかけたのだ。莉音はついつい美春と話したいがために長話になってしまった。途中、登校してきてカバンを机にひっかけた千代子が、早くしろと言ったがそれでもおしゃべりはとまらない。千代子はあきれて先に体育館へと向かった。それに気づいた美春が千代子を追いかけようと話を切り上げようとするが莉音が譲らずなかなか終わらなかった。結果、美春と莉音は朝礼に遅刻しそうであった。
「おはようございます」
校長が朝礼の挨拶をする。朝礼が始まった。この瞬間から遅刻生徒と分けられる。
遅刻してきた生徒は列に並ぶことを許されず、体育教師や生徒指導の教師によって後ろへと正座される。朝礼が終わるまで正座されるので、朝礼が終わる頃には足は痺れて感覚がなくなる。千代子はこのことを不快に思っていた。もし、アイドルでモデルである美春を正座なんかさたら生徒指導の教師をぶん殴るであろう。正座は足が曲がるしむくみになる。美脚を保つためには正座は避けた方がいい。できれば欧米方式に床に腰を下ろすのではなく椅子に座るのがよい。
「我が校は自由と個性と自主性を重んじ、奉仕活動の発展にも尽力し地域住民の方々にも……」
「…………知力、体力、スポーツにも力を注ぎ、学力向上のため自主室の充実化を…………」
校長のどうでもいい演説はここ、莉音たちの教室まで届く。なぜなら、放送されているのだ。普段はチャイムの放送と昼休みにかかるジムノペディなどのクラシックぐらいなのに、朝礼の時は特別に校長の演説を放送する。
そんな校長の演説を背に生徒指導部の下っ端のフユヒコ先生は『無断』で生徒がいないこの時を狙い、持ち物検査をしていた。学校に不要なものは没収をする。今なら窃盗と言われても仕方がないくらいの横暴だ。
「色気づいて」
フユヒコ先生は女子生徒のカバンからヘアブラシを取り、ぽいっと段ボールの没収箱へと投げ捨てた。その没収箱の中には、手鏡、ハンドクリーム、制汗スプレー、ミュージシャンのカセットテープ、なぞなぞの本、コミックスなどが入れられていた。
「んっ、なんだこれ。ゲームか。ゲームウォッチの新型か」
フユヒコ先生はボタンのない液晶画面だけのゲームウォッチを三人の女子生徒のカバンから没収し、段ボールへと乱暴に投げ捨てた。
千代子は体育館の外から朝礼を見るがとても見にくい。外と言っても地面にいるわけでもなく、垂れ幕など固定したりできる三階のベランダのような小さなスペースにいるだけだ。
「んっ」
千代子が体育館の中を覗いていると、天パの男子生徒が遅れてきた。それに生徒指導の教師が対応する。
「おい、遅刻だろうが」
「すいません」
「うしろで正座」
「はい」
「ちょっと待て」
「はい?」
生徒指導の教師は男子生徒の髪を乱暴につかんだ。
「お前、パーマかけてんなこりゃ」
「違います先生、これは天然なんです」
「こりゃ、カールだ。ちょっと来い」
教師は男子生徒の首に腕を回し、体育館の外の二階のベランダに無理やり引き連れ 出した。
「本当です。本当なんです」
「いらっしゃい」
「やめてくださいって」
男子生徒が声を上げると、教師はそれに負けじと声を荒らげる。
「いらっしゃいったら、いらっしゃい!」
「やめてください、本当に天然なんです!」
「何が天然だぁ!」
「本当なんですよ、先生!」
「来いッ!」
教師は男子生徒の首と髪を強くつかみ、男子生徒の頭を下げさせた。
ベランダの近くにトイレがあり、水道が通ってる。二階のベランダには蛇口が一つついてあり、教師は蛇口をひねり水を出した。
「規則はなぁ、守るんだぁ。このクソがぁ」
ジャバジャバと男子生徒の頭に水をぶっかける。水責めでもしてるのかってくらいに。男子生徒は頭を濡らされながらも、「だから、天然なんですって!」と声を荒らげ、振り絞り出す。抵抗しても教師ががっしりと胴体を押さえてあるので水をかけ続けられる。
「ちっ、ゴミが」
千代子は三階から冷たい眼差しでそのやり取りを見やる。千代子にはわかる。この男子生徒は何も悪くない。本当に天然パーマなのだ。しかしこの教師は聞く耳を持たず、俺は生徒指導の教師だと言わんばかりに男子生徒をしごく。自分は正義だと勘違いして強権を振り回しているのだ。
管理社会の弊害。遅刻しただけで校門に挟み殺されるのだ。あと隠蔽もされる。
朝礼が終わり生徒たちが各々の教室へと戻る。そこには緊張感から解放されたのか、教室と廊下はがやがやと賑わっていた。
「あれー。私のキャプテン翼、誰か持っていった?」
「あっ、俺のテープがない。誰だよ、俺のテープ持っていったのぉ」
その時、フユヒコ先生が教室に入り、日直が号令をかける。
みんながフユヒコ先生に挨拶を済ませ着席をするとフユヒコ先生は思わぬことを口開いた。
「先程、君たちの所持品検査をしていた」
その言葉に皆一同が、えーっと不満の声を上げる。
「じゃあ、私のキャプテン翼は先生が盗ったの!?」
「授業に一切関係ないものを持ってきちゃいかん!」
フユヒコ先生は女子生徒に対し、ぴしゃりと言った。
「校則で決まっていることだろうが、遊びに来てんじゃないんだぞ。学校に」
「無断に所持品検査なんてあんまりじゃないですか!」
男子生徒が反論する。
「そーよ、そーよ」
「プライバシーの侵害よね」
みんながこだまするかのように声を上げるが、フユヒコ先生は日誌をバシンっと教卓に叩きつけ怒鳴った。
「うるさい! 静かにしろ!
違反してるお前らが悪いんだ!」
逆ギレである。
「不要品を取り上げらた者は明日までに反省文を書いてこい。それに、保護者の印鑑も揃えて提出しろ!」
その言葉に男子生徒が反論する。
「人のいない間に勝手に人の物を盗るなんて、泥棒と同じじゃないかよ!」
「何だ、ヤスナガ
もう一度言ってみろッ!!」
「最悪~。スマホ盗られた」
莉音はスマホをフユヒコ先生に盗られたことにショックを受けた。
「ぐすっ。私もスマホを盗られました」
美春はあまりのショックで泣いてしまった。
「あいつ、殺す」
千代子は殺害宣言をした。
三人ともスマホをカバンに入れていたので三とも没収された。莉音は夏休み以降スマホをサイレントマナーモードにしていたがスカートのポケットには入れてなかった。朝礼終わりに体育館で服装検査されては困るからだ。美春も服装検査を回避するためにカバンに避難させていた。千代子は普段からポケットに持ち歩くのは気持ち悪いらしかカバンに常時入れている。
「だめだ。スマホが無いと不安と疲労感で、イライラしてきて。だめだぁ。スマホぉ。スマホが欲しくてたまらないよう。体が苦しいよう」
「莉音さん、完全にスマホ依存症ですね」
「何か、ヤバイもんやっちゃあせんか」
「肉体のデータ化」
ポポン。
志穂はスマホの音声認識機能でネット検索をした。するとすぐさま検索結果が出る。
「メタバースへの転移及び強くてニューゲーム」
メタバース、つまりインターネット上に存在する仮想世界。要約すると、電脳仮想世界に異世界転移できるということ。
「条件としては現実世界での生活が困難とされる人間のみ」
身体障害や精神障害、ニートやひきこもりなど社会的弱者などの人間が第二の人生として、強くてニューゲームができる。それらの人間だけではなく、死者も強くてニューゲームができる。
「いつか、腐り行く肉体より永遠の肉体」
志穂は一縷の望みにかけ、その言葉を口にする。
マキャファートは学校近くの電柱の上にいた。
〈ぱあぱんぱん〉
「すみれのスマホの電源が入った?」
すみれの死後、すみれのスマホはマキャファートが持っていた。返してもらうつもりでもあったのだろう。
マキャファートはすみれのスマホを見る。そこには懐かしい声が聞こえた。
「ドーブロェ ウートラ」




